83話 世界樹
また年が開けてしまいましたね…
本年も引き続きお付き合いいただけますと嬉しいです
カレンが伝えてくれた世界樹からの救援要請。フェーズが変わったってのをひしひしと感じる。
「『緊急ー!急いでー!』だってー」
「了解」
ただ、あんまり緊急事態感がない。でも、これでほんとにへし折れたらこと。行くしかない。
「ガロウ。レイコ。さすがに連れてけない」
「ここでみんなと待っててくれますか?」
悪いが、今の俺らに二人を連れていく余裕がない。対エルモンツィで紙を使いまくった後。守り切れる気がしない。それに、要塞がある。間違いなく、俺らの傍が一番安全ってわけでもない。だから、連れていくって選択は取れない。
悲しそうな顔をするレイコと、「だろうな」って顔をしているガロウ。二人そろって何も言わないのは、正直、自分たちが足手まといだって自覚があるからだろう。……守るって決めた子たちに対して、「足手まとい」なんて言葉を口にせずとも思いたくはないんだがなぁ。
「…わかりました。無事のご帰還をお祈りしています」
「俺もレイコと待ってる。気をつけてな」
「「ありがと」」
言わせたようなもんだが、これで良し。
「ふっふっふー!二人のことは任せてねー!」
ドンと胸をたたいて胸を張る有宮さん。その姿に頼もしさよりも大丈夫か?って思ってしまうのは、きっと俺らの世界にいた時の積み重ねのせい。
「私と弟はついていくぞ」
「ありがたいが、指示役がいなくなるだろ?」
「フミがいる!」
「私もいるぞ」
有宮さんにちょい遅れて主張してきたのは豊穣寺さん。俺、豊穣寺さんのことほぼ知らないんだが。
有宮さんはノリで動くタイプな人。ちゃんと様子は見てはくれるけれども。それでも、ちゃんと豊穣寺さんは有宮さんを制御できるんだろうか。四季、その辺……あ。面識ないっぽいわ。
「咲景嬢なら大丈夫だ。文香嬢と性格的には合うはずだ」
「だな」
なら、豊穣寺さんに任せても平気か。……まぁ、俺らが戦ってるときにその辺はちゃんと話して詰めてるわな。
「アイリ。アイリはどうする?」
「体調的に何もなさそうということですので、来てくれるものだとは思っていますが…」
「あと、そも異論はない?」
「…ん。ないし、行く」
「「ありがとう」」
で、カレンはー、ほぼ間違いなく来てくれるだろうけど、確認しとくか。
「カレンは?」
「ぐもーん。行くよー。そっちのお二人はおーけー?」
うなずく西光寺姉弟。なら、出るか。
安全な裏手に回って、センを誘って駆ける。さすがに6人は乗れない。馬車に乗るのは自殺行為でできない。だから、足で。急いだほうがよかろうが、センに乗って先に突っ走って押し負けても困る。
てか、まだエルフさん達打ち出されてんだけど。
「カレン嬢。エルフが打ち出されているのは何故だ?」
「世界樹が痛くて暴れてるからだよー。とはいえー、前みたいに攻撃としてつかおーとしてないからー、当たりにくくはなってるはずー」
世界樹ェ……。てか、狙いをつけてないってなら、俺らの横のが安全? いや、さすがにそれはないか。正面からならネットがあるし。
「ていうか、カレン。今更だが、走るのは世界樹方面でいいんだよな?」
「他に入り口があるとか、行くべきところがあるとか、そういうオチはないですよね?」
「ないみたいだよー。『幹のところに来てー!』だってー」
よかった。なら、幹へ直行するだけでいいな。エルフさん達も同じように幹のところに直行している。たぶん、ちゃんと中に入れてるっぽい。……さっきまでは入れてなかったはずなのにな。
「世界樹とエルフ達はちゃんと連絡取れてるのな」
「ん-。取れてないっぽいよー?世界樹の声がー、直接届くのはー、ハイエルフだけらしいしー」
「「はい?」」
え。エルフさん達、世界樹とやり取りできてないの!?
「待て。カレン嬢。となると、エルフ達は世界樹に異常が発生してから、理由は何かわからないし、どうすればいいかもわからないが、世界樹に突貫してたことになるんだが?」
「そーみたいだね。まぁ、乗っ取ろうとしていた敵はー、世界樹に近寄らせないよーにしてたみたいだよー?今、開いてる穴も塞がれてたくらいにはねー。そりゃー、何度も転生繰り返していたらー、なんとなーく行くべきところはわかるよねー」
確かにわかるけども。何をすればいいのかが明確にはわからないってなかなかの虚無だぞ。
「なんでそんなことになったんですかね」
「さー?まー、世界樹曰くー『神々が眠りにつく直前に作ったからー、なんもかんも足りなかったんじゃなーい?』だってー」
なるほど? 納得はできないことはないが、やってることのひどさよ。世界樹への奉仕種族としてエルフを作っておいて、両者の間に連絡手段がないってことだからな。終わってる。
無事到着。何にも阻まれなかった。世界樹の幹の部分にぽっかりと穴が開いていて、いかにも入れそう感がある。というか、実際にその穴へエルフさんが消えて行っている。
「『とっとと穴から入ってきて、上ってきてー!』だってー」
了解。エルフさん達が周囲にいたけれど、ちらっとこっちを見るとちょっと横にずれて道を開けてくれる。ハイエルフたるカレンがいるからだろう。そ
そうやってできた隙間を駆け抜けて、世界樹の中へ。エルフしか入れないとかあるかと思ったが、なかったな。
中はでっかい木の中って感じ。ゲームで言ったらオカリナ持ってる緑の勇者の最初のダンジョンが近いか。
ただ、中の空間は外から見たよりもどう考えても広い。そのうえ、上へと続きそうな道が何本もある。明らかに普通の木ってこんな構造してないだろって構造。何のためにこうなってんだか。
「中が複雑なのは『侵入者対策!』らしーよ」
「普通にぶち抜かれてるがな」
「姉ェ」
賢人が思わず言葉を漏らしてるけど、ほんそれ。薫さん。それは言わないお約束。
「侵入者対策なら、迷路っぽくなってるのか?」
「みたいー。でも、案内はしてくれるってー。『くそ痛いけど。くそ痛いけど!』だってー」
「早く来いってか」
「わかっていますが、ナビゲートの精度にもよりますよ」
間違えられたらその分ロスだぞ。それに……、中央から上を見ると、吹き抜けっぽくなっているから上のほうが見える。が、痛すぎるのはわかるが、世界樹は体をよじり過ぎ。真ん中の穴から見える高さが刻一刻と変化してる。これ、移動するときに相当めんどくさいのでは?
「…カレン。ここから見えるなら、ここから飛んでいくことはできないの?」
「無理らしーよ。上が見えてはいるけどー。あれは見えてるだけー。上から落ちてくることはできるけどー。下からならはじかれるんだってー」
なんだそれ。防衛用としてはいいけど、こういう時に駆けあがれないのはめんどくさいな。
「エルフでも通れないのです?」
「んー。むりみたーい。ハイエルフでもダメだってー」
「洗脳対策とかと考えるとまあ、妥当ではあるか」
エルフが何らかの手段で操られて、中枢直撃とか笑えないし。ただまぁ、こういう時でも愚直に仕事すんなよとは言いたくなる。…例外処理を設けることが一番、セキュリティホールの原因になりやすいってのは理解はするが。
「まー、せーかいの道はきーてるから、いこー!」
「了解。道案内は任せた」
「突き抜けていけないからな」
それは言わないお約束(2回目)。
駆けだしたカレンの後ろを俺らがついていく。エルフさん達も俺らの後ろをついてきているが、全員じゃない。
「カレンちゃん。エルフさん達の一部が、ついてきていない理由はわかりますか?」
「んー。見回りじゃないかなー?世界樹自体はー、自分の核が攻撃されてるって思ってるけどー、ほんとにこーげきがそれだけかっていうとー、あやしーでしょ?だから、だと思うよー」
「なるほど。一番、対処しないといけないとこは俺らが行くし」
「大部分のエルフさん達も行く。だから、万全を期すために…。という感じですか」
「たぶんねー」
ある意味で、世界樹が信用されていないわけだが。まぁ、世界樹は今、攻撃されてて「助けてー!」って言ってる。そんな状態で周囲をちゃんと見れてるかっていうと怪しいものな。
「ん?んーーー。あ。おとーさん達!世界樹の中はエルフ以外に攻撃する機構があるみたーい。木の球が転がってくるとか、木の兵士が出てくるとかだけみたいだけど、気を付けてーって、言ってたら来たねー」
でっかい木の球だな。これはまぁ、普通に退避用っぽい隙間があるから、そこに入る。微妙に揺れてるから、踏ん張る必要はあるが…。まぁ、まだ余裕で避けれるな。目の前をすーっと転がっていった。
「…こんな雑で避けれる攻撃なら、止めれないの?」
「無理みたーい。なんか免疫とかそれに類似するやつみたーい」
「…なるほど」
アイリに免疫じゃ通じないだろって思ったけど、普通に通じたな。勇者の知識の浸透率よ。
「…でも、それならなんで回避する場所が」
「エルフ用らしーよ。エルフがいると出てくるんだってー。エルフ以外でも使えるけどー、それは中に入ってるエルフが排除しろー。排除しない奴はたぶん味方だーっていう」
雑な判定だぁ。それでいいのか白血球っぽい木の球よ。
「それなら、さっき言っていた木の兵士……面倒だな。木兵……だと騎兵被るか。木兵はどうなる?エルフがそばにいて、少なくとも私たちはエルフと敵対関係にないが」
「もくへーは、エルフ以外の排除しか考えないらしーよ。『容赦なく破壊してってねー!』だってー」
「ますます白血球じみた動きしているな。木兵。…うん?アイリ嬢。確認しておきたいのだが。木兵と世界樹は一緒か?木兵に悪影響があるなら世界樹にも悪影響があるか?私の攻撃手段だと、枯れ木剤や、水分を一瞬で蒸発させる薬をぶちまける他ないのだが」
「えー。『やーめーてー!』だってー」
うん? てことは。もしかしなくても。
「弟や森野氏達の目が痛い。おおよそ、皆の推測通りだな。私に世界樹に害を及ぼさずに攻撃する手段がない。おとなしくバフでも撒いておくさ」
「そうしてくれ。そして、俺も姉の陰に隠れちゃいるが、割と制限されんだよな」
「賢人?マジで言ってる?」
それだと何しに来たの状態なんだが。
「まぁ、マジだぞ。とはいえ、姉ほどじゃないさ。っと、来たぞ」
木兵だな。見た目は木でできた棒人間。腕の先が剣や槍っぽくなっているやつや、人間の手っぽくなっていて、別途、剣や弓っぽいのを持ってるのがいる。それが30体ほど。
世界樹が揺れているから、それにあわせてぐりんぐりんと揺られてる。世界樹の移動による慣性を無効化はできないのか。なんて思っていたら、カレンが矢を放ち先制攻撃。ただの矢なのに、豪快に弓を持つ木の兵士の胴体をぶち抜き、世界樹にぶっ刺さる前に消失。
「もういっちょー!」
「…はいいけど、まだ動いているよ」
「生きてないからだろうな。そら。『アイデアルバリア』」
上半身だけになっても打ってきた矢は、賢人の魔法にさえぎられてこちらに届かない。その隙に放たれたカレンの逆撃は、弓と腕を粉砕。敵を無力化した。
接近される前に俺も四季もアイリもシャイツァーを投擲。あんま痛そうじゃないが、これでもシャイツァーは世界最硬の物質。敵をぶっ潰そうと思ってぶん投げさえすれば、それなりに打撃は与えられる。
「なるほど。紙を使い切ると悪影響が発生する森野達なら、ここでは節約するために投擲のがいいのか。なら、俺がメイン砲台だな。大きく視界を遮ると、世界樹に激突させかねん。こまごました魔法を使わざるを得ないが……。そら、『エアリアルウインド』」
賢人の目の前から放たれるわざわざ緑に色づけされた大きな刃。万が一の誤射を防ぐためか、速度はゆっくり目。だが、確かに木の兵士を上下真っ二つに切断。仕事を終えた刃は変なとこに行く前に消失する。
揺れてるせいもあって、大部分が崩れ落ちた。だが、健在な木兵もいる。そいつを「球くるよー!」……木兵は捨て駒か。まぁ、命なんてないものな。
俺らが待避所に身を隠すと、好機とばかりに迫ってくる木兵。だが、速度は揺られて壁に激突しているとはいえ、重力任せの木の球のほうが早い。生き残りも真っ二つにされていたやつも、等しくひき潰された。
「こうなればさすがに無力化されたか?」
「んーー。『微小な残留魔力でちょっと動きはする』ってー」
めんどくさすぎるだろそれ。
「待て。ということは、さっきの俺みたいに単に上下の泣き別れじゃ」
「もちろん、再生するよー」
もちろんなのか。その言葉聞いて、センでさえ露骨に嫌そうな顔したぞ。
「どんだけ潰していけば安全に進めるのかわからんな」
「ですね。万一、撤退しないといけないとなったとき。もしくは、足止め食らったとき。そんな時に挟撃される可能性が出ます」
「あー。そこはこーぞくのエルフ達に任せればだいじょーぶ!ちゃんと指示出してれば再生しないようにしてくれるよー。おとーさん達がやるより安全だよー。何せ、粉々にしなくてもいーからね!」
ほっ。超めんどくさいことはしなくていいのか。
「なら進むか。木兵の粉が舞ってるとはいえ、さすがに魔力失せただろ」
「森野氏。確定していないものをそうだと断定して動くのはよくないぞ。とはいえ、だ。対応は私に任せてもらおう」
「対応できるならお願い」
毎回毎回、粉に気を使わないといけないってのも面倒だ。微妙な魔力で俺らを殺せるとは思いたくはないが…、古来より、小さい生き物が体内に入ってジャイアントキリングってのは枚挙にいとまがない。
「任せろ。戦闘での貢献はあんまりできそうにない状態ではある。だが、自己バフに関しては私の十八番だ。というわけで。これを飲め」
飲めと言われて試験管を押し付けられましても。毒を渡してくるとは思わないが、試験管の中ってのが拒絶反応が。
「気持ちはわからんでもないが、魔力生成の試験管だぞ。それ。コンタミを恐れる必要もなし。悪影響が出ないことも保証する。魔法だからな。科学じゃありえない副作用なしの薬や防御の実現ができる。そら、ぐいっと。私もやる」
ほんとに一気にいった。そして、賢人も。なら、俺らもやるか。グイっと四季、アイリが飲む。カレンはハイエルフだから不要。センは一応、俺らが渡して飲んでもらう。
「効果は簡単。体表からの有害な粉塵の吸収の拒絶だ。それ以外はない。口や鼻を含め、あらゆる穴からの有害物質の侵入を拒絶する」
「了解。なら、今度こそ進んでもいいな」
「だな。まぁ、時間かかったせいで第二波来たが」
「弟よ。姉に対して誰も文句は言ってないぞ」
確かにそうだけど、賢人も言うつもりないと思う。まぁ、姉弟のじゃれあい。適当に流そう。次の集団はちょっと増えたような気がしないでもない。けれど、木兵はそんな強くない。軽く蹴散らしてやる。
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