82話 途中リザルト
「アイリ。調子は?」
「…ん。問題なし」
そう言って親指を立ててほほ笑むアイリ。確かに、見てる感じは平気そうではあるね。服がちょっとアレだけど。ざっくり斬られるのはヤバそうだから避けてたけれど、服には当たってたしねぇ。ボロボロだ。
「四季。俺は警戒してるから、アイリの様子を見てあげてくれる?」
「やってますよー」
「さすが。ありがとう」
そっと目を逸らして依頼したが、既に動いてくれてた。さすが四季。まぁ、俺が頼む前からアイリへの視線を切ろうと動こうとしてた雰囲気あったけど。
んな無駄なことに思考を割いていても警戒できる余裕はある。何せやらかしてきそうなのは世界樹くらい。で、その世界樹も敵から攻撃されててアレなだけで、基本は味方なのだから。
その上、今の位置は世界樹からの距離は十分にある。ほぼ当たらないって断言すらできる状況。もっとも、ほぼであって、100%、絶対ではない。警戒はしておかないとね。ここでなんかあったら画竜点睛を欠くってレベルじゃない。
「服の上からだと大丈夫そうですね。回復魔法で変な影響出ても嫌なので使わなくてよさそうなもの嬉しいですし…。必要なら使いますけど、どうです?」
「…ん。大丈夫」
「不要ですか。では、服を着替えるついでにその下も見ますね。セン。皆から見えないように盾になっててください」
「ブルッッ!」
「習君は」
「言われなくてもわかってるよ。四季もね」
「わかっていますよ」
だよね。警戒ってのを考えると四季たち含めて見てる方が絶対的に安全ではあるのだけれど。そこは妥協。四季にも警戒してもらおう。……とはいえ、壁になってくれてるとはいえセンもいる。まぁ、何も起こらないでしょう
「んー。やはり服の上からでも見えた軽い傷だけっぽいですね。変に傷むとかはないって聞いていますし…。とりあえず、『服』っと」
「…ん」
服と言ってはいるけれど、実体はレインコートみたいな手足を突っ込む部分のある布を被せてるだけ。でも、ちゃんと見れるようにはなる。
「もう一回聞くけれど、特に違和感はない?」
「…ん」
「魔法的な何かもなさげですか?」
「…悪い方では、ないと思うよ」
うん? 悪い方? てことはいい方では何かあったの? 何故に今まで言ってくれなかったのか。「調子は?」とか、「大丈夫?」って聞いたからか。いい変化って確信がアイリにはあったんだろうけど……。言って欲しかったなぁ。
「変化は何かあったのですか?」
「…ん。間違いなく良い方向であったよ。…欠けてた魂が満たされたから、これまであった飢餓感がなくなったよ」
確かに悪い内容では全くないけど、影響滅茶苦茶でかそうな内容。しかもほんとにそうなのか判定が出来ないし。現実感が無さ過ぎてほんとに? っていう思いすら出てくる内容ですらある。けど、アイリの言うこと。絶対に嘘じゃない。
「そっか。よかったね」
「ですね」
「…ん」
ポンと彼女の頭に手をやると、俺と同じようにアイリを撫でようとした四季の手とぶつかる。だから、俺も四季も僅かに自分の方に手を引いて、二人で揃ってアイリを撫でる。
「飢餓感」なんてマイナスの言葉で表されているものが無くなったのはいいこと。魂が満たされるってのもいいこと。けど、良し悪しは別としてこれまでのアイリとは決定的に何かが変わったのもまた確か。でも、それらを全部ひっくるめて何があっても受け入れる。そんな気持ちが伝わるように撫でる。
撫でるのが久しぶりだからか、アイリは大人しく撫でられたまま。俺らより頭一個は低い彼女の頭の上で四季と視線を交わし、彼女も同じ思いであることを確認する。たまにぶつかる手から同じ思いなことはなんとなく伝わって来ていたけれど、それでも確認は必要。ここでズレてたら後で困る。
この選択が正解かどうかわからないけれど、というか、対人関係において誰もが思う正解なんて常にあるわけじゃないけれど、この選択なら俺らはきっと後悔しない。
「とりあえず、動けるよね?」
「…もちろん」
ならよし、ならば、
「皆のところに戻ろう」
「ですね。いくら当たらないだろうって位置にいるとはいえ、世界樹の注意を分散させるのはよくないですからね」
「…ん」
「ブルッ」
向こうからの視線を切ってくれていたセンが乗りやすいように位置を変えてくれた。さっとアイリ、四季、俺の順で騎乗して出発。
「何かあったらすぐに言ってね」
「致命傷になってからではあまりにも遅いので」
「…ん。なら一つお願い。飢餓感はなくなったって言ったけれど、いつもくれてる飴はこれまで通りくれると嬉しい」
「何かあったら」の何かは体調的なことで、お願いのことじゃないんだけど。なんて思いが頭をよぎったけれど、そんなのは先頭に座っているアイリがわざわざ俺らの方を向いた顔に浮かべてる「迷惑だと思われないかな」なんていじらしい表情で即座に消え去った。
今更、そんなことで嫌とは言わないのに。
「「もちろん」」
二人そろって返答すると、アイリは嬉しそうに破顔をする。ほんと、可愛いなぁ。
「あ。ですが。言わずもがななことはきっと、理解しているでしょうが…。飢餓感が消えたのでしたら、摂取したエネルギーは体に付くようになると思うのです。食べすぎには気を付けてくださいね?太りますよ」
「…ん。でも多分、大丈夫だと思う」
「根拠は?」
四季の語気がちょっと強い。体系維持は大変だものね。男はあんまし意識しないけどさ。
「…あの飢餓感は魂の欠陥を埋めるためのもの。…で、昔は不思議に思ってなかったけど、勇者だったアリアの知識を得たからちょっと不思議に思ったことがある。…魂を埋めようにも食事それ自体じゃ、魂を埋めることは出来ないよね?」
「まぁ、多分」
「…でも、食べまくる必要はあるけど、ちょっとは満たされる感覚はあったの。お腹以外のところでね。…てことは、わたしは食べたものを魂とかそういう体に作用するもの以外に変えれるはず。…というか、変えられる。なら、魔力源とか、魔力を増やすとかに回せる」
めっちゃキラキラした目で言いきられた。その確信みたいなのはどっから来てるんだろう。まぁ、本人がそうだって言ってるなら、そうなんでしょ。シャイツァーが思いで振る舞いを変えるんだから、魔力とかそういうのも変わってもおかしくないし。
四季にアイリの体調……というか体重は注意してもらっておけば、酷いことにはならないでしょ。
「…ねぇ。お母さん。何でわたしのほっぺをぐにぐにしてるの?」
「いえ。なんとなくしたくなりまして」
「…そう。ぐにぐにするくらいなら撫でて欲しい」
ぐにぐにしながらアイリを撫でだした。四季の背中しか見えないのに、四季が何思ってるかわかるなぁ。色々とツッコみたいことはあるけれど、全部丸っと呑み込んだ。それはそれとして、「言ってることが事実なら羨ましいぞー!」っていうのだね。
割としばらくぐにぐにしていたけど、さすがに可哀想だと思ったのかぐにぐに停止。ちょっと罪悪感があったのか俺にもアイリを撫でるように促し、なでなでしながら皆の元へ。
結局、世界樹が頑張ってくれたのか、こっちへの攻撃は一回もなかったな。
にしても、皆が作ってくれた要塞、なかなか奇抜な見た目をしてるなぁ。カラフルな積み木みたいなもので構築されてて、ところどころに植物の蔓がデーンとある。一番目立つのは土台だけど、多分、この土台は燃えにくい植物になってるか、燃えても上が崩れないように基礎? 的なものがこの土台をぶち抜いてるはず。
見た目は正方形の4隅と中央に塔みたいなのがあるやつで、世界樹側にはネットがあってエルフさんを受け止められるようになってる。裏手側はネットはないけど、省エネ構造というわけはなく、こっちも攻撃に耐えられるようにちゃんとした構造。…門あけっぱだけど。
まぁ、俺ら用だろうね。そっから入って無事に合流。さて、とりあえず休憩させてもらったら現状とか確認しないと。
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軽い休憩で済ませようと思ってたのに、普通にぐっすりすやすやだった件。いやまぁ、世界樹自身も「外部からの応援が来たから、どう敵が出てくるかわかんないけど、この戦争状態は平常運転。休めるなら休んで。休めるならなぁ!」って言ってたし、休まない理由はないよね。うん。そういうことにしとこう。
ご飯も食べて軽―く情報共有をしたし、現状を振り返っていこう。
俺らの宿になってる砦は、一晩経っても無傷。今のところ敵の攻撃手段が非人道ミサイルという名のエルフさん発射しかないからってのもあるだろうが。そして、背後や地下からの攻撃の恐れは今のところなし。
攻撃しようにも世界樹から根っこを伸ばすくらいしかなくて、その根っこは世界樹や有宮さん言わく、この辺にはないってことらしいし。
次。アイリは昨日から変わった様子もなければ、本人的にも変わった感じもないらしくて一安心。とはいえ、魂の欠損が埋まった! って言ってたから、具体的に何が変わったの? ってのを聞いた。当然、変わってるところはあって、シャイツァーも変わってたらしい。
一番でかいところで鎌の名前が変わった。アークライン神聖国の騒動の後、『呪■■■鎌 カ■■■・■■イズ』になっていたけど、一気に伏字になってたとこが外れた。まだ一部に伏字は残っているけれど、今のシャイツァーの名は『呪断■■双鎌 カクトペ・リピイズ』。なんかさらっと前半部分の文字数が一個増えてるけど、それが新しいシャイツァーの名前。
そして、さらっと増えた文字である「双」が意味するように、扱える鎌の数が増えた。前までの鎌はサイズを変えられる一本の鎌でしかなかったけれど、その鎌を二本に分割出来るようになった。二本に増えても一本の時に出来たことはどっちも出来る。両方とも自由にサイズを変えられるし、どっちも浮かせて自在に操ることができる。
片方だけめちゃでか、片方普通サイズとか出来るし、二本とも浮かせて操るのも出来る。単純に選択肢が増えた感じだね。
後は、名前の『呪断』の通り呪い系の攻撃に特攻。呪いって何だよってのは置いといて、切ればなんとかできる……かもしれないと。まぁ、どう切るかわからんけど、出来れば強そうだよね。
アイリはそんな感じ。俺らはまぁ、紙をだいぶ使いまくった以外に言うことなし。補充しないとどうにもならないが、他に選択肢が無かったから致し方なし。ほんと俺らが新しく紙を作らないといけなくなるまでによく終えてくれたよ。
カレンとガロウ、レイコの待機してた子らには変化なし。まぁ、帰還魔法捜索班のリーダーたる薫さんは「レイコが魔法使えない原因がトラウマにあるなら、(魔法で)何とかしようか?」って言ってきたけど。それは遠慮した。二人から庇護を頼まれたのは俺たちなんだ。強硬手段で何とかするのなら、そこは俺らがやるのが筋。そこを人任せにするほど、落ちぶれてない。
ていうか、それをする前に、すべきことがあるな。俺らの紙をレイコに渡して、その紙を使えるかどうか見てみないと。既に何枚かをレイコとガロウに託してはいるけれど、使う場面は無かったからな。
ガロウ曰く、レイコはトラウマのせいで魔法を使えなくなってるって言ってる。けど、それが「自分の」魔法だからだめなのか、そうでなくても駄目なのかはわかんないまま。そこで話は変わってくる可能性がある。
だーいぶ前だけど、アイリは「俺らの魔法はすごく使いやすい」って言ってたけど、どうなるか。予想は多分、使えないんだろうなって思ってる。簡単な身体強化も使ってるのを見たことがないからね。魔力を動かすことからトラウマな可能性が高いって正直、思ってる。
それ以外は変化なし。俺らに耐久用の砦が出来て、世界樹に突撃していたエルモンツィが落ちたって言う変化こそあれど、メイン戦線に動きはない。
エルフさん達は相変わらず世界樹に向かって突撃して、やられて世界樹に生るってのの繰り返し。敵のいる位置は世界樹の中。だから、世界樹の根元まで行って、中に入って登って行って敵を倒さないといけない。…のらしいけどエルフさん達は世界樹の中に入れてないという。
俺らが加わって何とかなるものなのかね。
そして、敵の情報があんまりない。世界樹曰く、やられてることから考えて、「目的は世界樹の乗っ取り」で、「姿形はわかんないけど、霊魂とかそういうの」らしい。長い年月かけて戦ってるはずなのにわかってること少なすぎるでしょ……。
しかも、カレンが「すんごい嘘くさいけど」って言ってんだよね。カレンが嘘くさいって思ったのは何でだ? そして、カレンが言ってるのがガチだとしたら、世界樹側のメリットって何? 世界樹が嘘をつくメリットはないはずだから、意味不明としか言えない。カレンには言わないけれど、カレンの勘違い説もないこともない。
ないけど、カレンと世界樹のやり取りは『こいつ、直接、脳内に……!?』ってタイプ。カレンにしか感じれない何かでそう判断したんだろうし、勘違いで結論付けるのは早すぎる。
そんなんだから、俺らに今、出来ることはあんまりない。今も補充してる魔法を使うための紙。その紙に書く魔法の比率を聖魔法に偏らせるくらいしか出来ない。紙の残量がほぼない今、比重を上げすぎると聖魔法以外が終わるからなぁ……。バランスを考えなければ。四季との相談必須だな。
何せ、今の膠着状態がしばらく続いてくれるのなら、偏っても時間かけて是正できるから別にいい。けど、そうじゃなけりゃ、物理攻撃が少なすぎになってしまう。
「む」
「カレン?どしたの?」
「敵が動き出したみたーい。世界樹が『止めて止めて折れる折れる。助けてー!へーるぷ!』って言ってる」
あ。うん。薄々覚悟していたけれど、体勢を整え直すための時間はくれないか。何で今、動き方を変えたのかはわからないけど、敵の目的が推定「世界樹の乗っ取り」から、「世界樹の破砕」に切り替わった。そう思うには十分すぎる救援要請だ。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字衍字など、もし何かあればお知らせいただけますと嬉しいです。
なお、相変わらず繫忙期継続中です。次月の投稿は無かったら間に合わなかったんだなぁ。と思ってお待ちくださいませ。




