9話 買い物
「全部で大銀貨1枚になります」
「小銀貨しかないので…、小銀貨10枚でいいですか?」
「もちろんです!」
小銀貨で払って外へ。1万円か…。メニューを実際に(少しずつではあるけれど)食べて、量とか値段と照らし合わせてみたんだけど…店の中で四季と話した値段から乖離してる気がする。無理は承知だったけど…、銭単位とかまでいるかもしれない。ま、まぁ。たぶん大丈夫。
ぴったりが一番だけど、過小に見積もるよりは過大であるほうがいい。使いすぎたときのダメージが小さくなる。
「さて、次は袋ですね」
「だね。鎌を適当に放り込んでも破れないようにするためにはある程度丈夫な方が良い。金属がベストだけど…」
金属の袋って使い勝手が悪そう。となれば、
「魔物の皮ですかね」
「かな」
地球でも牛やワニの皮は絹とか綿より頑丈そうなイメージ。魔物の皮となれば頑丈さは折り紙付きになるはず。
「皮を扱うお店は…、聞いた方が早いかな」
「アイリちゃんも…知らなさそうですし、聞いてきます」
俺が何か言う前にさっさと四季は店へ戻り、少し待ったらすぐに出てきた。
「目の前ですね」
「え?」
「目の前です」
おぉう…。うん、見たらわかるね。思いっきり『革製品』みたいなこと書いてあるし。
「…なんて聞いたの?」
「魔物の爪や牙を入れても持ち運べる鞄を売っている店はご存じないですか?です」
一番確実な聞き方をしてくれてる。ありがとう。
「じゃ、入ろうか」
「ですね。ごめんくださーい」
アイリの鎌を隠しつつ店の中へ。
「なん…いえ、何でしょう?」
一瞬、ぶっきらぼうだった男性の対応が丁寧になった。貴族に見えるってことの威力って大きいなぁ。
「魔物の爪や牙をそのまま入れても傷がつかないような袋はありませんか?」
「それなら…、少々お待ちを」
店の中へ引っ込んで、
「少々古くても構いませんか?」
と聞いてくる。
「先の要件を満たしているのであれば問題ありません」
「では、こちらを」
差し出された袋は茶色で、ところどころ色が変色している。けれど、アイリがすっぽり入れそうなサイズで、鎌を入れる分には申し分ない。
「こちらは魔物素材で出来ております。中は…あまり見ない方がよいかと」
え?
「植物系の魔物の肉体を加工したものでして…。前の持ち主の趣味兼実益のために中の見た目はそのままなのです」
ということはぶよぶよしてる?
「性能は良いのです。頑丈という意味では当店一です!ですが…、中の見た目が。このぶよぶよがちょっとした振動を吸収し、素材を動かさない。そして、この魔物が取り込んだ金属のために内側は天然の金属張りのようになっていまして、硬さと柔軟性を両立しているのです!見た目は最悪ですが、素材を入れても、手を入れても、ぬめるなんてことはありません。ですが、見た目が悪いのです」
どんだけ見た目の悪さを強調するんだこの店員さん。
「そこまで言うなら逆に見せていただいても?」
「気分を害した!と言われても当店は責任をおいかねますが?」
…本気でどんな見た目なんだろう。頷いてさっさとみせてもらう。
最悪って言われているけれど、そこまでひどいものではない。強いて言うならひだひだとショッキングピンクの色的に小腸の中に似てる?
「ど、どうですか?」
「耐えられますね。ねぇ?」
だね。むしろ何でここまで忌避感を示しているのかがわからない。
「むしろ何故気持ち悪いと連呼されていたのかがわからないのですが…?」
高すぎて貴族しか買えない!のなら致命的だろう。でも、冒険者が素材袋として使うならこの程度のグロは日常的に見ているはず。謎。
「で、でも、動くのですよ?」
「風か温度変化による収縮でしょう」
もしくは袋から出す際に触らなきゃだめだから、手で動かしてしまってるか。仮に動いたとしても小腸の蠕動だと思えばまぁ、耐えられる。
「高ランクの冒険者なら気にしないのでは?」
「高ランクだからこそ、気持ち悪いモノを持っていると言われたくないのでは?」
一理ありますね。
「では何故売っているのです?」
そこまで罵倒する商品を売る意味が……、あ。
「決まってるでしょう!商人だからです!」
えへんと胸を張る男性。愚問でしたね。商人なら売りますよね。
「では、何故これを仕入れたのです?」
「遺産です。作ったやつが責任を持って引き取るべきである!と主張されましてね…。高いので捨てるわけにもいかず。かといって置いておくと嫁に「キモいので早く処分してください。それまで帰りません」と言われてまして」
置いておけないと。
「いくらです?」
「大金貨1枚です」
100万。袋の値段と考えると高すぎる。が、素材とかを考えるときっと安いんだろう。
「出血大特価です!なんと工賃0!材料費だけのご提供です!」
売れるかも!と思った瞬間、よそよそしさを全力でぺいって放り投げてぐいぐい押してくる。
「材料は元持ち主の提供だったりしません?」
「します!ごめんなさい!嘘つきました。工賃の小金貨3枚以外は儲けですぅぅぅ!なので5枚にします!」
謝りながらも儲け(小金貨二枚)は確保しようとする姿勢。嫌いではない。
「アイリ、どう?」
「…ちょっと可愛いかもしれない」
ごめん。ちょっとその感性はわからない。でも、気に入っているっぽいし、いいか。
「では、これください」
「やったぜ、あ、いえ。ごめんなさい。包装などは?」
「不要です。お金渡すので、そのままください」
小金貨5枚と袋を交換。
「今日は店じまい!嫁を呼んできたいので、出て行ってくださると嬉しいです!」
嬉しいです!と言いながらぐいぐい押す精神。不敬罪とか言ってた時の謙虚さ?はどこにいったのやら。
対応中に不敬罪とか言わない人だ!と察されたか?
押しやられて外へ。アイリを隠せるのに都合の良い場所で鎌を袋へ。
「シルエットを見る限りは大丈夫かな?」
「ですかね?」
袋の上部に口を閉じる紐。そこを持ってしまえば袋はちょっとたれた球みたいな形。鎌本体を持たない限り、大丈夫だろう。
「…重さにも耐えてくれると思う」
「あぁ、待って。一応、俺が持ってみる」
シャイツァーの重さは所有者には最適化されるか0になる。が、それ以外には相応の質量として発現する。アイリは袋を見て、持ってみて判断してくれてるから大丈夫だろうけど、念には念を入れる。
「大丈夫そうだね」
「では、私も」
四季も確認。全員の結論が一致。いけるね。
「…買ってもらうなら最初から袋をもらっておけばよかったかもしれない」
「護衛ってことを重視したんでしょ?その時は俺らの人柄もわからないだろうし、仕方ないよ」
「ですね。気にしちゃだめですよ」
鎌を袋に入れると初動が遅れる。それを嫌がる人だったならば、袋は完全に邪魔だしな。
「さて、次は服かな?」
「ですね。中世世界観ですぐに着れる服なんて中古しかないでしょうから、「…あるよ?新品」…え?」
中世っぽいこの世界ですぐに着られる新品の服なんて売ってるの?
「…ん。主要な大きさの人のだけだけど。…この時期なら品揃えも大丈夫なはず」
この時期…ってのは収穫期のはず。外部から持ってきてるってことか?
「…ん。…フーライナの衣服版に相当する『シメリーノープ』がある。砂漠に近いから乾燥してるけど、地下水が豊富な場所で『シャッペ』ってのを育ててる。…これを守るためなら修羅になる」
服の原料になる動物で、乾燥していても大丈夫。地球で似た動物を探すなら羊かな?
「原料があっても大量に作るには厳しいのでは?」
「…シャッペの毛は刈り取る前に良い感じに魔力を吸わせると色が変わる。染色の手間はない。…刈り取って水にさらしたら汚れが落ちるし、すぐに乾く。…だから下処理がほぼ要らない」
下処理の手間が省けるから平気って?それでもまだ手間が…。
「…後は人海戦術か勇者の残した国宝で織る。そうやって大量生産して、全量まとめて輸送する」
「フーライナみたいに競りをしないの?」
「…ん。さすがに量が足りないみたい。全部国。…フーライナはある程度は国が。後は各人、各国に任せる」
シメリーノープは作った服を国がさばく…ってことね。
「足りない分は諦めろと?」
「…ん。フーライナほどの優位はない。…完全に注文して仕立てる高級品と、中古品の境目くらいの価値。ないなら我慢するか、高級品を買う」
なら立ち位置的には、
「庶民の晴れ着とか、下級貴族の普段着?」
「…になると思う」
さすがアイリ。俺らが着てもおかしくないのから一番良いのを提示してくれたのね。貴族に見えるのに古着はアウト。オーダーメイドはこんなとこで頼みたくない&お金がそんなにない&頼んだら時間かかるという三点で駄目。
「アイリちゃん、場所は知ってますか?」
「…ん。国営だから知ってる」
「じゃあ、案内頼んでも?」
「…わかった。曲がり角のたびに服引っ張って合図するからよろしく」
演技は継続。それでおかしくないように連れて行ってくれるのね。ありがとう。
「ねぇ、シメリーノープは国が責任を持つと言うことは、隊商の護衛も国が出すってことだよね?」
「…ん。乾燥していて穀物が育てにくい。農業人口率が低い分、服生産と護衛に回ってる」
であれば、フーライナへの隊商はシメリーノープの生命線でもあるわけか。
「…さすがに隊商壊滅しただけでシメリーノープが一、二年でひっくり返ることはないけど、概ねその通り。…でも、生命線。護衛は命をかけて守るよ」
フーライナレベルに守るんだろうなぁ…。
「もし、シメリーノープの輸送隊をフーライナで襲ったらどうなるの?」
「…やった馬鹿はいない」
察した。そんだけやばいってことね…。
「推察するにシメリーノープの隊商は言うなれば移動型フーライナですか…」
「…ん。…魔物、魔獣領域は通らないけど、万一遭遇したらしっかり殺す。…盗賊ならねぐらまで行って、壊滅させて品を回収していく。…なんなら通った街のギルドで盗賊始末の依頼を受けて蹂躙しに行く」
護衛の定義が壊れる。
「…盗賊を壊滅させて得られる金銭も収入源の一つ。割合は高くないけど」
もし割合が高かったらそれ、国家として間違ってると思うの。平和になったら壊滅する国とかおか……しくはないか?
儲けのために戦争を望む軍産複合体とかあるし…。それに、企業レベルにまで下げたら、航空機企業が平和になったら死んだみたいなこと聞いたことがあるような。戦時下なら需要あるからライン増やす、終わったら需要激減して投資回収不能で死亡というきれいな流れがあるとか。
「…どしたの?」
「いや、政治経済って面倒くさいなって思って」
「ですね-」
だからといって地歴が楽とは言わないけど。地理は地政学とかあるし、歴史は今も残る遺恨の源流を知るのに使えるからな…。
「…ついたよ。ここ」
ありがと。外観は…通のお店だね。既製品を売る店といっても日本みたいにフルオープンで外に置いてるわけではない。
万引きされても困るし、外に置いとくと塵がかかってしまう。それを防ぐには引っ込めるのが一番ということを考えると普通だね。
「入りますか」
だね。お邪魔しまーす。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは。勝手に見ていっても?」
「どうぞー。ただ、品物を復元不能なほど汚さないでくださいねー。弁償になりますからー」
勝手に見ていっても?って言ったら許可くれた。貴族に見えるからかな?
「…貴族に見えるのもあるけど、汚れてないから。…事故でも汚して黙って出て行くとか、故意に汚そうとするとかした場合…」
吊されるのね。ま、俺らはそんなことする気はないから大丈夫。
「服は俺らの分は各自探して、アイリは一緒に探す……でいい?」
「え、えぇ。大丈夫です。アイリちゃん。行きますよ」
四季の反応が微妙だったな?ま、俺も自分の服を探そう。…タクにディスられまくってるから自信ないけど。適当に探そう。
これと、これとこれと…後、これでいいかな?…うん。いいでしょ。さて、後は四季だけど…、先にアイリのサイズっぽいものを探しておこうか。
アイリ、胸はないから身長だけで選んで大丈夫なはず。ギリギリだと背と胸が育つと買い直しになるから、一つ大きいサイズを。
単位系が俺らになじみ深いものなのはありがたい。でも、単位系が統一されたのは勇者召喚以前だったような気がするのだけど…。まさか、言葉がわかる力が仕事してる?…ありえそう。
「あれ?習君、もう終わったのです?」
「うん。適当に選んだら終わりだし。四季は?」
「私も終わってます」
はやいな!?ありがたいけど…、女性の買い物は長いはずでは…?
「耳を」
?了解。
「異世界であるからか、そもそもの品揃えがあまりないのです」
なるほどね。それで…いや、それでも早いでしょ。
「いいではありませんか。今の時間ですと悩んでると文字通り日が暮れちゃいますよ?」
「それもそうか。アイリの服を選んじゃおう」
上下4着もあればいいでしょ。この服と、ズボンの組み合わせと…、これとこれでよし。
「終わった?」
「ました」
「…いや、早いでしょ」
悩んでも仕方ないしね…。それにアイリに似合うはずだし。
「…わたしの分はいいけど、お母さんの分、本当に合うか確認すべき」
「そうなの?」
「…ん。不安しかない」
そこまで言われるレベルなの?でも試着は出来ないし…、あぁ、別に着なくてもいいか。似合う似合わないを見るだけだし。
「四季の服預かるから、試しに前にかざしてみて?」
「了解です。では、ええっと…これでどうでしょう?」
……コメントに困る。
「察したので率直にどうぞ」
「似合わない」
「…ん」
四季は大人っぽい印象がある綺麗な人。だのに何故子供っぽい可愛らしい服を…。可愛らしいのも合うだろうけど、ワンピース。上下がこれ一枚で完成してしまう。ダメでしょ…。
「では、こちらは…」
……。
「駄目ですね」
上はさっきよりおとなしめの可愛らしいモノ。それだけならいいだろうに、何故下にかっこいい系のズボンを持ってきたの…。
「こっち…察しました」
うん。駄目だね。さっきのが悪化した。アクセサリーをつけてみるのは魅力を上げる手段としていい。のだけど、上、下、アクセサリーが多重事故。互いと四季の雰囲気とが殺し合いしてる。
「で、では、これはどうです!?」
「存在がネタでは?」
「やはりです?」
おおう…。
「わかってたの?」
「なんとなくですが」
大阪のおばちゃんがよく着てるようなヒョウ柄…を異世界風にアレンジしたもの。似合う人が着れば似合うはず。でも、四季は駄目。鮮やかなピンク色と、模様が四季の印象とガチバトルしている。
「…お父さんは?」
「俺?俺も自信はないけど…」
というか、駄目だと思う。
「一瞬で済ますね?」
これとこれ。…駄目そうね。次。…おk。駄目。三番目…は目が死んでる。駄目。最後は出した瞬間に駄目っぽい。
「…お父さん。お母さんと同じ流れで駄目」
一番目、俺の印象に合わない。二番目、組み合わせがおかしい。三番目、ごちゃごちゃしすぎ。四番目、存在がネタ。
うん。知ってた。
「…ちょっと待ってて」
?了解。
……店員さん引き連れて戻ってきた。さすがのアイリも「これはやばい」って察したみたい。…この惨状見れば納得だけど!
「…確認、お願いします。…恥ずかしいので、あまり見ないでいただけると嬉しいです」
人見知り設定は続けるのね。
「わかりました。勇気を出してくださった貴方の心意気に応えましょう!」
設定を続けたせいで「人見知りだけど、そう言っていられないくらいひどいことになりそうだから、勇気を出した子」みたいになってるのね。
いや、それ以前に「何でもいい」ですますはずのアイリが口を出してる時点でやばい。服選びにおいて俺らのセンスへの信頼は地に落ちてる。
「お父様とお母様は服を合わせるのを手伝っていただければ」
了解です。ぱっぱっぱと俺の分二つと、四季が選んだ二つをあわせる。
「大丈夫ですー」
「…ほんと?」
「はい。むしろ最高に似合ってますー」
「…お世辞や比喩ではなく?」
本気で信頼が壊滅してる。
「どこまでひどいのか逆に気になる程度に真剣に聞かれてますがー、大丈夫ですー。私が保証しますー!」
俺らは貴族に見える人のはずなのだけど…、正直に貶されてる。
「…ありがとう」
「いえー、どーいたしましてー」
俺らの陰に隠れてアイリがペコッと頭を下げると、店員さんは笑顔で手を振って去って行く。
「…何で?」
「「さぁ…?」」
聞かれても困る。
「元々、俺は自分で服を選ぶなって言われてるからな…。他人に選ぶのは別だけど」
「同じくです」
「…何で?」
わからない。他人に選べるってことは、知識はあるはず。だのに選べない。自分でも謎。
「…互いに互いの選ぼ?」
「ですね…。習君はそれで構いませんか?」
「うん。構わないよ」
「では、服を返却しましたら各自…って駄目ですね。習君、私のサイズがわかりませんよね?」
…確かに。なら、アイリ…、
「サイズ、教えますのでよろしくお願いしますね?」
「ふぁっ!?」
何で!?アイリに教えればいいじゃん!?何故に俺に教えるの!?え、嘘。マジでやるの?恥ずかしいのか耳元で教えてくれてるけど、俺に教えるほうがやばいでしょ!?
「…です。よろしくお願いしますね?」
困惑してる間に終わった。
「習君は…?」
「2Lクラスなら入る」
「了解です」
何故俺にサイズを教えちゃったの?…女の子ってそういうの知られるの嫌いなイメージがあるんだけど…。
「…自分だけ選んでもらえないのが嫌だったんでしょ。…後、お父さんになら知られても良いって思ってもらえてるか」
3サイズが知られていいって?身長、体重ならともかく、体調管理に一切関係ない数値だと思うけど?
「…一緒にいるなら服が全損してて、お母さんが気絶してるときとかあるかもしれない」
その時に買いに行けと?ずいぶん限定的な状況だね…。
「…つべこべいわずに探しに行く。…信頼されてるって思えばいいでしょ?」
あー、そうだね。うん。選びに行こうか。ちゃんと似合う服を探してあげよう。恥ずかしいだろうに教えてくれたわけだし。




