79話 続エルモンツィ
「さぁ!さぁさぁ!とっとと逝ね!」
はっきり聞こえる声で叫び声をあげて小さい鎌の群れと共に突撃してくるエルモンツィ。ようやっと、俺らを排除する気になったらしい。
黒い蝶か蝙蝠のように見える鎌が先行して俺らの元へ飛来。シャイツァーをぶん投げるだけでは数が多すぎる。魔法を放って応戦する。
やはり、小さい鎌に強度はない。散弾のように散らした小さめの水球に激突するだけで霧散した。これならばある程度、紙の消耗を抑えつつ、戦うことが出来るが……。あいつの小さい鎌の在庫がわからない。
さすがに無限ってことはないだろうが、補充出来ないはずもなし。
世界樹から飛んできた非人道ミサイルが小さい鎌の群れを貫き、小さい鎌を消し飛ばしながらエルモンツィに迫る。が、当然のように彼女は手に持った鎌を大きく振るい、弾を切り裂いて迎撃。
ずちゃっと崩れ落ちるミサイル。後は亡骸を晒すだけ……のはずが、亡骸がほどけるように分解され、その分解された端から無数の小さい鎌が現れる。
OK、めんどくさいことになる前にさっさと『火球』を叩き込む。小さい鎌もろとも、亡骸を焼き尽くす。
「あの大きい鎌で斬り殺すと、小さい鎌の材料に出来そうだよな?」
「ですね。小さい鎌の出現条件は分かりませんが、殺せば確定で出せそうです。出現条件は部位切断でOKですとか、傷をつけるだけでOKといった可能性もありますね」
詳しいエルモンツィの能力の記述とかあんまなかったからなぁ。一回、討伐されたんじゃなかったか?
「…さっきまでやってこなかったのは何で?」
「多分、やってたんじゃない?」
「私達の視線が外れたタイミングででも、鎌へ分解して彼女の中に収めていたのだと思いますよ」
多分、だが。少なくとも、エルモンツィは小さい鎌は自身の体に収納できるのは確実なんだし。
「とりあえず世界樹に文句言っておこう。世界樹ー!援護のつもりででもこっちにエルフ飛ばしてくるなよ!」
「どう考えても利敵にしかなりません!」
ミサイルで消し飛ぶ小さい鎌の数と、あの一瞬で出て来た鎌の量から推測した鎌の生産可能量を比べたら、明らかに前者のが小さいからな!
んー。小さい鎌を生産できる対象って何だ? 動物だったらいいが…、植物まで含められるとこの位置、割と最悪だぞ。なにせ、背後が森だ。
「こっから離れたほうが賢明かな。鎌を増やされないように」
「ですかね?周囲の状況を考えますと、多分、大丈夫だとは思いますが」
周囲? あぁ。周りの木のことか。確かに、鎌を増やせるなら木を切り倒しまくって突撃! とかあいつならやってそうだ。でも、そんなのやってそうな跡はない。
「…鎌の数を考えるとそう。…でも、小さい鎌があちこちから出てこられると対応しきれない」
「間違いないね」
「ですね」
なら、やっぱり行きますか。そんな思いを込めて二人の目を見ると、コクリと深く頷いた。せっかく、ちょっとは外周から離れるって決めたなら、最初は盛大に!
「セン!」
「ブルッ!ブルルルッ!ブルルルン!」
了解! ある程度の防御は、任せろー! と元気よく返事をしたセンが走り出す。俺らを守るように前方に三角錐の障壁を展開すると、ひるむことなく蚊柱のようになっている小さい鎌の群れへと接近していく。
一撃で決まるとは思えないが……、最初からぶっぱして削る!
「「『『岩槍』』」」
「「『『火球』』」」
「「『『風刃』』」」
「「『『岩弾』』」」
四季と二人で立て続けに魔法を叩き込み、その後ろにセンが続く。岩槍が小さい鎌を貫いたが、エルモンツィの鎌で斬られて霧散。即座に飛んできた火球を避けるために滑るように奴が後退すると、火球がその場に着弾。ぼおっと燃え盛るそこへ風が酸素を運び込む。勢いよく燃え盛った炎が逃げ遅れた小さな鎌を焼き尽くしながら、風の刃に運ばれてエルモンツィの元へ。
だが、エルモンツィはたった一閃で刃もろともに火球を打ち消すと、その場でくるりと鎌を回して小さな岩の弾を撃墜。だが、全ては落としきれずに小さい鎌がいくらか犠牲になる。そこへセンもろとも突貫。
「はっ!私と膂力で張り合うつもりか!」
センの障壁に鎌が激突する前に、アイリが振り下ろした鎌とエルモンツィが振り下ろした鎌が交差。甲高い金属音があたりに鳴り響き、互いの鎌が弾かれる。そして、再度、激突……する前にエルモンツィの手が素早く動く。
すっと衝突を回避したエルモンツィは滑らかに手を動かして、小さな鎌との合わせ技でアイリの鎌を巻き取る。それに気づいた俺らの妨害のペンや剣がエルモンツィの肉体に突き刺さるが、奴は一切、頓着しない。
そのままアイリを引きずり降ろそうとしたエルモンツィだったが、アイリが足で小さい鎌を蹴りつけて消滅させると、バランスを取れなくなったのか巻き取りを中止。
半歩下がったエルモンツィは、蹴りつけたせいで宙にいるアイリ目掛けて鎌を振り下ろす。が、さらにエルモンツィ側へ進出したセンの障壁がアイリへの攻撃を阻む。
甲高い金属音が響き、その一瞬で足りないと悟った奴が再度鎌を叩きつける。すぱっと障壁を切り裂いてくれやがった鎌を四季がファイルで受ける。四季が押しつぶされる前に鎌の刃先目掛けて、垂直にペンと剣を叩き込む。
鎌が欠けたのか、激突したにしてはスルッと抜けるペンと剣。その隙を埋めるように四季が空いている手で魔法を発射。肩にぶっ刺さった岩槍がエルモンツィを強制連行。
岩槍は一瞬で切り伏せられたが、距離を取らせるという目的は果たした。だが、奴もただでは転ばず、飛び散った奴の血から形成された小さい鎌と、置いて行かれた小さい鎌のいくつかがこちらへ襲来。さっきのようにシャイツァーをぶん投げていくつか小さい鎌を破砕しつつ、当然のように抜けてくる小さい鎌を魔法で撃墜。密度が下がった小さい鎌の群れをセンが障壁を纏ったまま突進して一掃。
ようやく、一段落ついた。今の攻防にあんま絡んでこなかったな。アイリ。大丈夫なの
「…ごめん。お父さん。お母さん。ちょっと魔力流すね」
「「え?」」
問おうとした途端に言われた言葉。何故? と思う間もなく俺らの背中に置かれたアイリの掌からうっすらと魔力が流れ込んできた。それと同時に『つながった!』というアイリの声に似た、アイリよりも少し低い声が頭に響く。
『聞こえる?聞こえてるわね。簡潔に言うわ!今のアタシを殺すなら、鎌を狙って!肉体は意味ないわ!終わり!』
え? ちょ、一切返事してないのに、自己完結して終わった!? しかももう、声は聞こえてこないし!
「ちっ。あのアマ、余計なことしやがったか」
「アマ?」
「私の魂の一部にして、チヌリトリカになり切らなかった部分ダ。あー。やだやだ。より正確に言おう。かつて、私は勇者だったが、死んだ。その時にごっそり魂が落ちタ。落ちた魂がそこのわたし。チヌリトリカになった……元勇者風に言うならチヌリトリカへ堕ちたのが私。それに続く第三の部分。エルモンツィになった私に残った最後の勇者の欠片。それがワタシ──アリアだ。私がエルモンツィに落ちてなお、染まり切らなかった部分。文字通り、生前の勇者としての私だった部分。それが今、私がアマって言ったワタシだヨ」
何で聞いたら答えてくれるんだ、あいつ。
「…ちなみに、アリアは偽名」
「知ってる」
「…あなたには言ってない」
ギャグか何かか? 何であいつはアイリがエルモンツィに話しかけたと思ってんだか。勇者やってたってことだし、根っこが善人なのかね? あ。違うか。勇者やってるけど、俺らが善人とは思わんし。
「コホン。だが、アリアは落ちタ。もはや私を阻むものは何もなイ。全力でお前を取る」
「…勘違いしてる。アリアは故意に落ちた。わたしに情報を伝えるために。…アリアすら吸収しきれなかったのがお前。…お前にわたしは吸収できない。…お前が倒れろ。世界樹はわたし達が何とかする」
「上等!」
アイリとエルモンツィが地面を蹴り、中間地点で激突。そのまま互いに鎌を何度もぶつけ合う。
アイリってここまで好戦的な子だったか? それは置いておく……のはすっきりしないが、全力でアイリのフォローをしなければ。とりあえず、小さい鎌をゴリゴリ削っていきながら、アイリを切り裂こうとする小さい鎌は的確に潰す。そうすれば、アイリはエルモンツィにだけ集中できる。
ほら、今もこっちにアイリが視線をやってきているし。思いっきり「わたしが終わらせる」って目で語りかけて来てるけど。
エルモンツィに対して妙に好戦的になったなぁ。それに、エルモンツィに対して何の感情も抱いてなかったのに、憐憫を抱いてる。今の境遇の元凶たるエルモンツィに何の感情も持っていなかったのに、今あるのは憐憫。奇妙としか言えない。
となると、アイリの身に何が起きているのかは推測できる。会話から考えるに、アイリはアリアを吸収した──アイリとアリアは元は一つの魂だったったんだから、元に戻ったというべきかもしれない。兎も角、それをきっかけにアイリはアリアが持っていた記憶を得て、エルモンツィに対する感情を抱くようになった。そんなところだろう。
「クソが。たった一人に対して三人と一頭がかりなぞ、卑怯ダトハ思わんのカ!?」
「…別に。…わたしは違うけど、お父さん達は勇者。…勇者は徒党を組んで魔王を打ち倒すってのが、セオリーなんでしょう?」
「私は魔王デハなイ!」
言いながら大きく鎌を真横に振りぬくエルモンツィ。その切っ先はかがんだアイリに届くことなく盛大にスカる。そこへ振り下ろされるアイリの鎌。
再度、振られようとしていたエルモンツィの肘から先を一撃で切り裂き、血が舞う。
「「『『火球』』」」
「ブルッ!」
血がかからないように飛びのくアイリと、俺らが放った火球とセンが放った光弾が血に迫る。が、腕から勢いよく黒いものが噴き出ると、それらがかき消されてしまう。
変な防御……えぇ……。
「…腕を増やしたの」
「手数が足りなイナら。足りるようにするマデ!」
もともと手があった位置に二本。血が当たった場所から生えてきたのか、右わき腹に上下に並ぶように二本。手が合計四本に増えた。明らかバランス悪いんだが。それでいいのか。
心の中でツッコんでる間にもエルモンツィ達は動く。マジでエルモンツィはそのままで行くらしい。もう二本生やせよ。
メインで鎌を動かす腕はいつもの二本。増えた二本は小さい鎌を振るい、投げるために使われている。小さい鎌の強度はないが、盾にすれば軽い一撃なら受けられる。投げ物として投げれば普通に宙を飛ばすよりも速い。
不利を悟ったアイリが俺らの渡していた紙から火球を発射して飛びのく。火球を切り伏せて追うように突っ込んでくるエルモンツィが振るってくる鎌を四季がファイルで受け、俺が鎌の僅かに欠けた部分を狙って突…こうとしたら余ってる腕が割り込んでくる。ッ、無理か。
攻撃をする位置をずらし、小さい鎌とペンをぶつける。スッと鎌が消えると、腕でペンを掴もうとして来る。
掴まれる瞬間、勇者特権でペンを消失させて回収。からぶった腕にアイリが鎌を振り下ろすが、エルモンツィは腕に拘泥せず、アイリの腕を狙ってでかい鎌を振り下ろす。センが足先に魔法を纏わせて、鎌を真横から蹴りつける。鎌を折るアシストは……小さい鎌が多すぎて無理だな。魔法を発射。周囲にやって来ていた小さい鎌を散らせる。
小さい鎌が邪魔だな。激しく動くから、部分部分では巻き添え喰らって消えてるのが多いが、油断したらいつの間にか周囲を囲まれてるってシチュが多すぎる。センは小さい鎌を駆逐しに動いてくれてるのに。
「まだ、足りまセンカ」
ぼそっとつぶやいたエルモンツィは隠し持っていたのか、小さい鎌をブワッと出してめくらまし。センの真横からの突貫でかなり消し飛んだが、エルモンツィはその一瞬で距離を取った。
こちらが距離を詰める前に、奴は小さい鎌で自身のわき腹の腕を切断。先とは逆側に腕をくっつけて6本腕に。そこにアイリの鎌が届くが、エルモンツィは束ねた腕で受ける。肘より少し下という微妙な位置でわき腹の腕が斬れたかと思うと、一拍置いて融合。ひじの逆側から切断された腕が融合して、二股の腕が4本と元の腕が2本とかいう意味わからない姿になった。
「この拡張性。貴様では到底、成しエナイ」
「…ただの欠陥増築。…何で人間が二本腕なのか教えてあげる」
啖呵を切ったアイリが突撃。アイリはエルモンツィに見えない位置でこっそりと一本だけ指を立て、1回だけ交差をすると言っている。どういう意図かはわからないが、了解した。
相変わらず存在する蚊柱のような小さい鎌の群れを魔法で散らして、本体たるエルモンツィと交差。アイリが振りかぶる鎌はいつものように大きい鎌で受けられ……るのがわかっていたのか、アイリは鎌を振るいすらしない。
スッと鎌を小さくして、エルモンツィの真横を走り抜ける。俺らも雑に振るわれる腕の攻撃をいなしながら同様に抜ける。イマイチ、何がしたいのか掴み……あぁ。なるほど。そういうこと。
アイリの手にあったのは小さい鎌。エルモンツィから強奪したらしきその鎌は、いつもの白と黒が混じり切っていない見慣れた汚い色ではなく、漆黒に染まっていた。
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