77話 エルフ
下からも世界樹からもなんかが飛んでる戦場もかくやという風景に世界樹の助けを求める声。明らかに厄介ごと。
厄介ごと過ぎて馬車を曳いているセンも、御者をしてくれているハンドルハッピーな波翔も馬車を止めた。
行きたくない。行きたくないが……行くしかないよなぁ。
「リーダー……習!賢人!四季!薫!このまま突っ込んでいくほうが、防御考えるといいと思うが、どうだ!?」
波翔も同じ判断か。馬車は多少の木の根による凸凹くらいなら破壊していけるし、移動力は明らか馬車のが上。マズいとなった時、撤退するなら明らかにこのまま行くほうがいい。
四季を含む他の級友も同じ結論。御者台のアイリからも似たような答えが来たし、馬車の上のカレンも「ゴーゴー!」って言ってる。ガロウとレイコは「皆が言うならいいんじゃない?」って感じ。雑だが突撃する覚悟はできてる。
後ろの級友からも鉄火場に突撃しなきゃならなさそうなことへの落胆は聞こえこそすれ、徒歩で行こうって声や、ましてや行かないって声はなし。平和であったらまたどうしようなんて考えなくてもよかったのにな。
「行こう!」
「OK!しゃあ!セン!進めや進め!Here we go!」
わざわざ英語にせんでも、進めの時点で言えてる。
爆速で進む馬車。みるみるうちに遠くに見えていたはずの世界樹との距離が詰まる。ちょっとまだ着かないの? とじれったくなって世界樹のでかさに圧倒されたくらいに、開けた場所に出た。
「勇者!見参!同行するハイエルフより受けし世界樹からの救援要請に従い、これより世界樹に助太刀いたす!」
飛び出すなり勢いよく宣誓する波翔。
馬車の中からパッと見た感じ、状況はなかなかに終わってる。エルフっぽい人が世界樹に向けて弓を放ち、黒髪に鎌を持つ明らかにエルフじゃない人? が世界樹に肉薄しようとしている。
それに対して、世界樹はそれを迎撃したいのか何かを飛ばしている。うん?エルフが敵か? いや、世界樹がおかしいという可能性も
「エルフは味方だってさー!中に入って何とかしてくれー!って」
思考を巡らせていたらカレン経由で答えが来た。世界樹側からも味方判定されてんなら間違いない。
「OK!これより、我らエルフに助太刀いたす!」
その宣言と同時に「ならば死ね」と言わんばかりにこちらに向けて発射される何か。それなりに距離があるはずなのに、弾速が早い。
アイリとカレンの迎撃が飛ぶ。しかし、アイリがぶん投げた鎌は見事に役割を果たしたが、カレンが射った矢は質量負けしたのか、変わらずこちらに飛んでくる。
再度の迎撃は間に合わず、着弾。バリアとして使っている翠明のシャイツァーでできた障壁に激突し、ぐちゃっという異常な音を立てて赤いものをまき散らし、赤い液体がツーっと障壁の表面を撫でていく。
あんまりな光景に頭が少し止まる。だが、体は自然と動いてガロウの目を塞いだ。横では四季が同じようにレイコの目を塞いでいる。
「手遅れ過ぎるけどー、世界樹からでんごーん!残酷描写注意!だってさ!」
思考が固まってる間も状況は動く。上から降ってきたカレンの声に少し頭が回り始める。
「…あの弾って」
「そーだよ!おねーちゃん!エルフだよー!世界樹にエルフは直接生るからねー!あ。飛んでくるのは攻撃として使われてるから、遠慮はむよー!だってさ!」
人の心。あ。世界樹だから樹か。そんなものは持ち合わせてないか。
「勿論、わざとじゃないらしーよ。中から攻撃されててー、制御を奪われそーとか?なんとかー」
だから、救援要請か。っと、先に言っとくか。
「後衛組!外は普通にグロいからグロ注意だ!」
「安心しろ。習氏。あいつらも普通に盗賊始末した光景は見ているさ。そこまで神経質になる必要はあるまい」
「だとしても、慣れんだろ」
「だろうな」
何で他人事なんだろうな。…まぁ、俺も慣れてるからあんま、人のこと言えんかもだが。
「気を遣ってくれてることはわかるが、俺も普通にグロいのは見てるから安心してくれ。あの地下でな」
「同じくです」
「「了解」」
そっと手を目から離す。見てるとは言っていたが、ちょっと想像の埒外だったのか障壁に付く赤い液体を見て一瞬、目を丸くする二人。だが、それだけ。
きっと、この二人は大丈夫。
さて、こっからどうするかね。カレンは「遠慮はむよー!」って言ったから、こっちに来そうなやつは積極的に迎撃しに行っている。アイリはちょっと遠慮があるのか、確実に当たりそうなやつだけ、鎌を投げて応戦している。
そんな配慮が出来るだけ、こっちに攻撃があんまこない。やっぱ遠いからか? こっちを狙おうとすると、世界樹の足元がおろそかになる。その上、遠ければ遠いほど、許容誤差は小さくなる。だから、狙えそうなら狙うって感じっぽい。
今もこっちに飛んできたエルフさんがいるが、完全にノーコン。俺らに当たるどころかはるか上をぶっ飛んでいきそう。
「姫ー!」
なんかエルフさんが言ってる。そして、言われたであろうカレンも何とかならない? ってエルフさんの意図を汲み損ねなかった。
エルフさん目掛けて矢を発射。エルフさんは矢を掴む……のではなく、姿勢を調整して自分の足に矢をぶっ刺す。そして、カレンが矢の向きをぐるっと変え、エルフさんをこちらに運ぶ。
「「『『回復』』」」
到着した瞬間、回復。エルフさんはこっちを見てペコっと頭を下げた。
「ありがとうございました。そして、皆様の来訪を歓迎いたします」
「くるしゅーなーい」
「さすが姫。何とかなりません?と呼びかけたらなんとかしてくださいましたね」
雑な態度に落胆するのかと思ったが、そんなそぶりはなく。むしろ、本当にありがとうと思ってる感じだなぁ。
「仕事します」
後ろにいる狩野さんから声が飛んできたと同時、彼女の魔法──幻影が周囲にばらまかれる。森に戻るように走り去る馬車と馬車を覆い隠すテクスチャ。これで攻撃される頻度はかなり減りそうだ。
「そーいえば、何で姫……ハイエルフってわかったのー?」
「我々も見るのは初めてですが、エルフと違うということはわかりますよ。とはいえ、ハイエルフがどのような特性を持っているのかなんてほぼ存じ上げませんが」
「あ。そーなの?」
「そーなのです」
なんか気の抜けるやり取り。でも、今の話的にカレンが最初のハイエルフなのな…。世界樹って2000年くらい前にできたんじゃなかったっけ?
「っと、そんなことはどうでもいいです。現状についてご説明します。我々は数千年前より、今の事態を引き起こしたものと戦い続けてきました」
「『嘘つけー!エルフが戦いに参画しだしたのはここ200年くらいじゃーん!』って、世界樹が言ってるー」
「世界樹が我々に言葉を伝えられないのがよくありませんね。我々の存在意義は動けない世界樹の手足だというのに」
それもはや構造的欠陥じゃん。いやまぁ、人間でもお医者さんにちゃんと自分の体の状態伝えれないとかあるけどさ。
うん? アークラインで出会ったエルフのドーラさん、一切、そんなそぶりなかったよな。200年戦ってんなら、救援要請とかできたはずなのに。存在意義さえ吹っ飛ぶレベルの記憶喪失だったのかね。
「さて、改めて述べますと、敵は世界樹に攻撃を仕掛けています」
「『だから、中に入って来て、助けて欲しい!』って言ってるねー」
さっきも言ってたね。
「敵の目的は?」
「『なんか世界樹を乗っ取って、間接的に世界を滅ぼそうとしてるっぽい!』ってさ」
「世界樹の役目は世界に散っている瘴気の浄化です。浄化出来ねば世界は瘴気で満たされ、滅び去るでしょう」
敵の目的が世界滅亡ねぇ。なーんか、チヌリトリカに通じるもんがある。てことは、敵はまたチヌリトリカの子分足るチヌカ? あー、でも、チヌカの行動開始って結構最近っぽいしなぁ。200年より前から動いてるなら別口?
「で、君らは私らに何をして欲しいんだ。あぁ、私らに火力はあんま求めるなよ。まともに動けるのは姉と賢人、有宮嬢と、清水嬢と森野氏、アイリ嬢にカレン嬢くらいだぞ」
「姉。一人称を唐突に姉にするな。俺と会話してんじゃないんだぞ」
「賢人が傍にいたからミスった。気にするな。それより、用意無しで戦えるのはそれくらいだぞ。それ以外は出来て弾にされているエルフの救助くらいか?」
「あぁ。それには及びませんよ」
え? エルフを助けなくていいの?
「我々、エルフには死の概念は存在しませんから。死んだところで我々の魂は世界樹に戻り、再びエルフとなります。記憶が失われるわけもなし。ただ形が変わるのみ。です」
「死ぬことにデメリットはないんですか?」
「形が変わるのは欠点かもしれませんね。同じ形でないために毎度、適応せねばなりません」
四季の問いになんでもないように答えるエルフさん。本当にそういう生態なんだろう。ほんと、人間とは一線を画している。
形を変えているのは本来、もっと長期的なスパンで復活することを企図してたからなのだろう。人間から見て、死んだはずの人が全く同じ姿でいるっていうのは、受け入れがたいから、せめてそれっぽく……という。
「死ぬ頻度があまりにも高いと思うのだが。それでも、問題ないのか?」
「ありませんね」
「待ってー。『嘘つかない……てか、エルフの感覚がバグってるだけ!魂が摩耗して崩壊することがある。そうなれば、二度と転生は出来ないよ』だって」
クソデカデメリットあるじゃん! 非難する目がエルフさんに一斉に注がれるが、エルフさんはこともなげに言う。
「それに何の問題があるのです?世界樹のために生き。世界樹のために死ぬ。ただそれだけじゃないですか」
マジでそういう生態なんじゃん……。それに加えて、情緒が育つ余地がなかったのもあるか? 見ている感じ、エルフさん達は他の種族との関りがない。こんな精神性なら、精神を育てることなんて出来ない。むしろ、異端なのは世界樹。どうやって、世界樹は人間っぽい精神性を得たんだか。
アークラインで出会ったエルフのドーラさんが人間基準で普通の感情を見せていたのは、人間の感情に触れていたからなんだろう。
「カレン嬢。世界樹に聞いてくれ。魂が摩耗しきったら、補充はされるのか?」
「あーい。『されるよ。一定値を下回らないように世界のどこかから取ってる』ってさー」
「魂の総量は一定なのか?」
「『微視で見ると増えたり減ったり。巨視的に見るとほぼ一定。魂は世界に漂ってる魔力とかから発生する』だってー」
あ。発生するんだ。壊れたら二度と復活しないのかと思ってた。
「『神話のころは魂なんてなかったし、発生する機構は作られてる。一応、本樹も魂の生成や輪廻を担ってるよ!今は出来てないけど』だって」
「それは襲撃されているからか」
「『うん!』だって」
うん! じゃないが。カレンも言いながら「何言ってんだこいつ」みたいな顔してるし。
「姉。話がちょい逸れてる」
「確かに。なら、やはり今、やるべきは世界樹への侵入だよな」
「『そー!入口は世界樹の根元にあるよー!』だってー」
見たまんまだな。世界樹の根元に大きな口がぽっかり空いてる。樹のダンジョンがあるゲームでよく見た侵入経路。
「ならば、侵入組と待機組に分けるか」
「で、いいと思うよ。薫さん」
「ですね。ただ、待機場所はどうします?この広場から出てしまうと魔物の奇襲に対応できなくなるかもしれないですよね?」
四季の言葉に何故か有宮さんが得意そうな顔をして胸を張る。
「有宮。なんか言え」
「くかかっ。こういう時こそ文にお任せ!文は帰還魔法捜索班の拠点を作った一角!その力を見せてあげよー!」
「まぁ、というわけだ。後ろの馬車も作ったしな。他には大宮氏もいる。彼らに任せよう」
本格的に立てこもる設備でも作るのか? いい感じにできるならそれに越したことはないが。
「なら、俺らは護衛かな」
「で、いいだろ」
賢人が同意すると、周囲のみんなも同意……うん? カレンだけ中途半端に止まってる。
「あー世界樹が『ちょっとくらいなら待てるけど、その位置なら何人か暇でしょ!世界樹の根元にいるチヌカを眠らせてやって』だってー」
はい? え。
「待って。今、世界樹に向かって行ってるエルフ以外の人、あれ、チヌカなの?」
「らしーよ」
ほぼ人にしか見えんのだが。あの人。…うん? チヌカ? チヌカなの? あの人。黒髪で得物は鎌のチヌカって……!
「ねぇ。カレン。あのチヌカってエルモンツィ?」
「『だよー!』だってー」
マジかよ。アイリと因縁のあるチヌカが普通に生きていて、ここで戦わなきゃいけないのか。
「『あいつと戦うなら、その鎌持ってる子……あ、アイリちゃんっていうのね。アイリちゃんは行った方がいいよ!アイリちゃんが死ぬとヤバいけど、死なんでしょ』だって」
???
「えーと、理由は? そも、今まで放置してたんじゃ」
「『放置してたんじゃなくて、放置せざるを得なかっただけ。戦力があれば倒したいよ。何されるかちょい心配だもん。アイリちゃんが行くほうがいい理由はある。けど、今、言わない方が多分、いい』だってー」
なんじゃそりゃ。もっと迫るか?
「…いいよ。お父さん。お母さん。世界樹がいいっていうなら、多分、そうなんでしょ。…わたしはわたし。わたしの境遇を作ったあいつに思うところがないとは言わない。…けど、それだけ。…行った方がいいなら、行って倒すよ」
気負う様子もなくアイリが言った。そっか。なら、
「行こうか。一人で行けるだろうけど、ちょっと不安だし。ね、四季」
「ですね。他のみんなはここで迎撃。私達はチヌカたるエルモンツィを討つ。それでいいですか?」
なんか色々聞きたいことあるんだけど! って顔をしている人は何人か(特に有宮さん)いるけど頷いてくれた。
「あ。でも、センだけ借りて行っていい?さすがに機動力がないと……」
世界樹からの攻撃はこの位置だとノーコンに近いが、近づくと密度も精度も上がる。エルモンツィはかなり根元に近いところにいるから、おびき出すにしてもきつい。
「構わん……よな?」
「大丈夫だよ。かおるん!動力源たるセンがいなくなって、はくらんの魔法がうまく機能しないことを恐れてんでしょ?機動力がゴミカスでいいなら、文がどうとでもできる4」
「だそうだ」
「「ありがとう」」
なら、センに乗っていきますか。
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