76話 エルフ領域
馬車の進む音が下から響いてくる。ここまで同行者が増えたというのに、動力源の役割を果たしてくれているセンはこれまでと変わらず、同じ速度で進み続けてくれている。その事実に、わかっていたことではあるが「センも魔獣である」ということをしみじみと再確認させられる。
「ていうか、有宮さんはさっきから何をソワソワしてるのさ。警戒してるのはわかるけど、大人しく座ってて」
「そうは言ってもさぁ。今、主に御者してくれてるのって、アイリちゃんでしょ?そして、外で警戒してくれてるのはれんれん。明らかにフミよりも幼い子にまかせっきりなのって、落ち着かなくてさぁ」
この人、変なところで常識あるなぁ。常識ない時はとことん盛大にはっちゃけるのに。
「ていうか、有宮さんって御者出来るんです?」
「まぁねぇい。といっても、あるのは乗馬経験くらいのビミョーなもんだけどさっ」
「姉達の同行者で今、まともに御者を出来る人はいない。目的地到着時点は同行してくれていたが、彼は「一応、エルツェル王都に行きますね」と言って離れていたからなぁ…」
だから、徒歩だったのか。馬を使おうにもどうしようもなかったから。
「乗馬技術を学ぶ時間とかは作るつもりだったんだがなぁ…。ルキィ様がつけてくださった御者や周囲から雇った人から学んで」
「襲撃されたからおじゃんと」
コクッと頷く薫さん。まぁ、移動時間とか考えるとほんとそこまで時間なかっただろうしねぇ。
「最悪、御者はシャイツァーの力でごり押すつもりだったが」
え。出発前にかるーく自己紹介をしたけど、その中にごり押せる人、いたっけ? その時にとったメモに目を通してみる。えーっと、
リーダー(的立場)
西光寺薫
西光寺姉弟の姉。シャイツァーは『試験管立て』。試験管立ての中に試験管と様々な薬品を生成する。回復も攻撃も出来る。
リーダーの抑え役
西光寺賢人
西光寺姉弟の弟。シャイツァーは『全能の魔導書』。魔導書を介して色々な魔法を使える。俺らみたいに色々できる。
拠点構築に貢献した人その1
有宮文香
魔王討伐班に幼馴染4人がいる。一人だけこっちに来ることになってるけど、性格的に平気そう。シャイツァーは『種袋』。色々な植物の種を魔力で生成出来る。すぐに育つその植物で攻撃や回復、家を建てるなどが出来る。
拠点構築に貢献した人その2
大宮恵弘
宮大工の家系。シャイツァーは『建築設計図一式』。図面を書いて、そこに魔力を流せばその通りのものが出来る。
その他
狩野 絵里
絵を書くことが大好きな女性。シャイツァーは『キャンバス』。書いたものが出てくる。ただし、全て幻であり、実体はない。
鷹尾 智哉
動物観察が趣味の男性。シャイツァーは『双眼鏡』。どこまでも遠くを見渡せるし、やろうと思えば透視も出来る。悪用する気は皆無。
朝日夜 翠明
常に寝てる特級問題児。シャイツァーは『枕』。翠明が寝ることを妨害されないように、周囲に障壁を張る。仲間なら障壁の中に入れる。
久安基秀
絶対音感持ちの男性。シャイツァーは『聴診器』。聴診器を向けた先の音を聞くことが出来る。また、その音のあらゆる情報を把握できる。声なら誰が、誰に、どんな感情で発したものなのか? が分かる。
葉蔵 波翔
ハンドルを握ると性格変わる人。シャイツァーは『帽子』。海軍帽子のような外見。本人が乗っている水上、水中を進める乗り物の性能を向上させる。
暁 治難
鼻炎持ちだったけどこっちに来て治ったらしい。シャイツァーは『マスク』。マスクをしていると本人への毒とかを無効化する。また、マスクに付着した物質について詳しく知ることができる。
羽響 芽衣
音楽が好きな女性。シャイツァーは『譜面台』。譜面台の上で書いた譜面を再現する。音圧で攻撃したり、音に特殊な効果を持たせたりできる。
豊穣寺 咲景
理系科目が得意な女性。シャイツァーは『コンピューター』。魔力で動くコンピューター。本人が見聞きしたものや、して欲しい計算を高速でする。魔法とかは無し。壊れないから鈍器にはなる。
鮫波 将
強面の男性。シャイツァーは『サングラス』。眼鏡の黒部分に視界に入った生き物(視認できるサイズ)の心拍数、発汗量、普段の声とのトーン差など、ありとあらゆる交渉に有利になりそうな情報を読み取ることができる。
陽上 和昭
料理の好きな男性。シャイツァーは『フライパン』。フライパンの大きさは常識の範囲内なら自由自在。火も必要な時に勝手に出てくる。焦げ付きやこびりつきとは無縁。それどころか洗う必要すらない。
赤鉾 諭志
掃除には一家言ある男性。シャイツァーは『箒』。撫でるだけでゴミが消える優れもの。ついでに拭き掃除も出来る。ただし、一定以上のサイズだと消せない。手で取れということらしい。一定以下なら問答無用。
以上か。まとめてた時も思ってたけど、相変わらずシャイツァー間の格差がなかなかだな。で、御者を何とかできそうな人……ねぇ。
「薫さんが魔法で無理やり洗脳なりして言うこと聞かせるとか、羽響さんが魔法で以下略とかしか思いつかない」
「文香ちゃんが植物の種を食べさせて……とかもありますよ」
「二人ともことごとく発想が暴力的だな」
自覚はある。けど、それ以外に何かある?
「まぁ、その通りなんだけどね!」
草。じゃあ何で暴力的とか非難されなきゃいかん……いや、されてないな。あの言い方。感想言っただけだわ。アレ。
「というわけで私らの中に御者は出来る人はいない。すまないが」
「しょーみ、センが賢すぎて「人いる?」感はあるけどね。あの子、人間の倫理とか理解してるでしょ。中に人でも入ってんのかー☆ってなるよね。なった」
それはそう。
「そも、明らかに馬車が足りないからって、フミやえこーで増設したけど、それを曳けてる時点で、力もおかしいし」
「それはそう」
もともと俺らだけで4人……ガロウとレイコが増えたから6人。ざっくり300 kg。そして、級友は15人。男女混合だから雑に平均60 kgとしたら、900 kg。そして、もともとの馬車自体が多分、500 kg。そこに魔法で作った増えた人数乗せる分の馬車。余裕で1トンはあるはず。
合計2.7トン。3トンと考えてもいいかも。そんな大重量を、未整地の道を通って休まず曳き続けてる。普通の馬と比べると明らかおかしい。既に3日目とかになってるはずだけど、継続してそんだけって考えるとヤバい。
「でも、魔獣だしねぇ…」
「それに本人……ていいますか、本馬がいいって言ってますから」
次どうする? の話し合いの最中にセンの確認を取るの忘れてたけど。ほんと、センがパワフルで助かった。無理だったら、自己紹介しあってから「どうしよう」って頭抱える羽目になってた。
「何故に二人はセンの言ってることがわかるのか。コレガワカラナイ」
「顔見てればだいたいわかりますよ。ねぇ?」
「あと声と」
その二つがあれば大まかな内容はわかる。し、「ってことでいい?」って確認を取れば反応返してくれんだから、やりやすいよね。
「それよか、増設馬車のほうがインチキじゃない?」
もとからあった馬車にがっちゃんこする形で引っ張ってるアレ。あのほうがやってることがえぐい。
「大宮君のシャイツァー明らかに建造物にしか適用できなさそう……というか、そんな感じだったのに馬車に転用するって」
「そのほが快適性が上になるっぽかったしねぃ。全部フミがやってもいいけど、所詮植物、火にかなり脆弱すぎる君なんよ」
それは聞いたし納得してる。
「ですねー。でも、今はごり押し度合いの勝負してるんですよ」
「建物として作った衝撃吸収構造付の構造物を根っこから引っこ抜いて、植物のソリにのっけてがっちり固定&馬車と連結して、ほら増設!は議論の余地なくヤバいでしょ」
ちょっと世間知らずっぽいガロウとレイコが驚くどころか、その場にいた全員がポカーンてしてたよ?
「それはそうでござんす。でもでも、ごり押し度合いで言うなら、おっきな声で言えないけど、防御機構に採用してるすいみーとはくらんのがやべーでしょ」
「その一翼を担っているのは間違いなく、有宮嬢だが」
「それは間違いなくTree fairy」
「|It’s book island《本当だぞ》」
「んー。それは受け入れられない」
islandは島だからってか? って、んなことどうでもよくて、
「翠明は兎も角」
「割とあれだけどね。「馬車が事故るとすいみーの睡眠が妨げられる!」って論法で、馬車守ってるし」
かなり拡大解釈よねぇ。馬車自体も翠明自体を守るよりも範囲広がってるのに。
「でも、波翔のシャイツァーがゴリ押しってのは否定できんでしょ。あのシャイツァー、初見、船じゃないと駄目っぽいのにさ」
「発動条件は『水上、水中を進める乗り物を操作している時』だからな…。俺らでさえ、当初はそう思っていたからな」
「逆によく気づいたな。賢人」
ほんとに。俺らのシャイツァーは割と、何でも出来そう感があるけど。だって、紙に書くだけだし。だのに、解釈次第で行けなさそうなもんでもぶち込むってさ。
「有宮のおかげではあるな。植物で建物作るなんて俺や姉では思いつかんし」
「いけんじゃね?って言い出したんもフミなんだぜ!いえーい。ぴーすぴーす」
「一応、落ち着いた時に僅かながらに時間はあったからな。やってみて、やっぱ無理かってなったのもあるがな。狩野嬢とか。狩野嬢のはどこまで行っても幻覚の域を出なかった。リアルではあるのだがな」
あれ。賢人止めなかったんだ。何で試してんだよ! って。薫さんの白髪はその精神の賜物で自爆したせいだから、トラウマになって……って、あぁ。シャイツァーと話した(この表現でいいのかわからないけど)のか。
「聞かないとシャイツァーは出来るかできないか教えてくんないけど、聞いたら教えてくれるのいいよねー。まぁ、そのせいではくらんが乗る前からシャイツァーのバフの対象ないかどうかわかるから、この馬車が見事に対象内ってわかってこっそり草を生え散らかしたわけだけどlol」
lolは海外の笑に相当するスラングだし、二重に草を生やすなってツッコミはしていいんだろうか。どうでもいいけど。
「まぁ、何故か聞く前からOK判定していたものな。葉蔵氏」
「シャイツァーに聞いて、適用範囲から外れるのがめんどかったんだろうさ」
「「動力源は……馬だし、泳げるから水上を進めるから問題ないよね。本体たる馬車も、有宮さんのおかげで浮くし、問題なく水上を進めるよね。そして、僕が運転することも…できる!問題なく、シャイツァー使って性能上げれると思うよ」だったかにゃ」
物まねのうまいことで。乗り物乗ってないとき、波翔は大人しい子。その声色を見事に再現してる。今は一瞬、本人も運転? になってたとはいえ、運転してるからハイになってんのに。まぁ、横に明らか波翔より年少のアイリやカレンがいるからか、ちょっと大人しい模様。少なくとも声は出してないし、動き回ってもない。…傍目、テンション高そうに見えんのに、よく封じ込めてんな。
てか、魔法だとしても馬車自体の強度も上がってるし、動力源たるセンにもバフかかってるし、翠明の張ってる障壁にもバフかかってんでしょ? やばいな。
「その障壁があるおかげで強引に進めてるよね。ちょい、木がかわいそうなことになってるけど」
「道なき道を行かざるを得ないからな。後、翠明のシャイツァーの効果だしな」
揺れて起こすな! らしいからなぁ。進路に思いっきり干渉する木の根とかは容赦なくバリアで押しのけてる。間違いなく、何本かの木は死んじゃうだろうが、マジで道がないのよな。カレンが「こっちから呼ばれてるー」って言ってるから、それを参考に進んでいるけど、それがなければ暗中模索もいいところ。
「ま、文句は言わないさ。フミのシャイツァーが種袋とはいえ、知らない植物に愛着は無し。それよかたまーに出る魔物やら魔獣の攻撃を防げるほがよし。アイリとれんれんの頑張りで、すること皆無だし」
ね。波翔がたまに「無駄無駄ァ!」とか言ってるから、攻撃を弾いてるんだろうけど…。アイリとカレンが速攻で潰してくれてるんだよな。だから、することがない。
「おー!」
「「…え?」」
ん? 何か見え……。あ。でっかい樹だ。
「あれが世界樹だよー!」
「待て待て待て!何であんなでかい樹が、これまでに視界に入らなかったんだ!?」
間の抜けた思いを抱いていたら耳に届くカレンと波翔の声。なるほど。あれが、世界樹か。見えなかったのは…、世界樹の防衛機構とか?
「…ねぇ。あの樹、攻撃されてない?」
うん? あんま見えないけど、アイリが言ってるってことは、多分そう。よーく目を凝らして……あ。うん。何かが飛びまくっているな。それも、地面と樹の双方から。
「助けてー!って、世界樹が言ってるよー」
はい、厄ネタ確定。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字そのほか色々、もし何かありましたらお知らせいただけますと嬉しいです。




