75話 帰還魔法捜索隊
「俺らが門をくぐって戻ってきたら、すぐに門を閉じてください」
『承知しました』
言うべきことは言った。後は下の仲間を助けるだけ。バーンさんの前にある門に四季と一緒に体を滑り込ませ、見えた人の集団に『回復』を発動。怪我も毒やら呪いなんかのあらゆる不調をある程度、ぶっ飛ばす。
「皆!こっちに!」
「あぁ!総員!森野氏に続け!弟!」
「わぁってる!殿だろ!?」
さっすが西光寺姉弟。話が早い。即断即決。カレン達が来て困惑していたのに、すぐに動き始めた。やるべきことを決めたら姉である薫さんが試験管から液体をぶちまけ、弟の賢人が強風を叩きつけて液体を拡散させながら、敵を自分たちから離した。
「カレンとイヴァンさんも戻ってて!」
「あいー」
「承知しました」
俺らが最後じゃないと事故るから、カレンも戻ってもらう。
門の位置は逃げてる皆からかなり近い。だから、俺らが門の左右にはけて火球と岩槍を投げつけたらほぼ全員通過できた。残るは西光寺姉弟もすぐに来た。
「森野氏!その門?はいつ閉じる!?」
「俺らがくぐったらすぐ!」
「了解!」
一瞬の交差だったけど、見逃す余地のないくらいの悪い顔。なんかしでかすな。俺らに関係ないけれど。
通過してった二人を追って門に飛び込む。
「そら、お土産だ」
俺と四季が出て来たのと入れ違いに薫さんが試験管を投げ込む。そして、門が消えて数拍した後。爆音が轟いた。
ここカスボカラス断崖の上なのにあの音量か。一体何を投げたのやら。
「火事になりません?」
「大丈夫だろ。あれは衝撃による破壊が主で、熱はほぼ持ってない。魔法さまさまだな」
「そもそも、あの辺りはこの周辺には珍しく道っぽいものが整備されている。火事にはならんだろうさ」
あぁ、竜騎士を作るためにワイバーンの卵を取りやすくするために開拓された道を通ってきたのか。断崖まで来た瞬間、どこにもつながらなくなるけど…。どうするつもりだったんだ?
「さて、とりあえず全員いるよな?」
「いるぞ。姉。魔法で治しきれてない怪我をしてるやつもいるが、緊急性のあるやつもなし」
「了解。とはいえ、痛々しいのはかなわんな。二人とも、魔法を使ってもらってもいいか?」
「勿論」
とは言ったが、出力どうしよう。上から見てた感じ、そこまでやばそうな怪我をしてる子はいなかったはず。あの魔法で全員、癒しきれると思ってたんだが…。足りんかったんだよな。
俺らがちょっと思い上がったか? それか、見た目でわからん怪我──超遅効性の毒とか受けてたのかね。んな毒、魔物が何に使うんだって話ではある。
「まぁ、出力は同じくらいでいいのでは?」
「いいか」
さっと手を繋いで『回復』っと。んん!? 圧倒的に効きがいいんだけど!? やっぱなんか受けてただろ。それが何かは分からんが。
「助かった。っと、もっと先に言っとくべきだった。助けてくれてありがとう」
「俺からも言わせてくれ、ありがとう」
西光寺姉弟がそう言うと、残る皆も口々に感謝の意を示す。ほんと、育ちがいいんだから。
「大丈夫。それより……どうしよう」
俺らだけならさっさと帰る一択だったんだけど、合流しちゃったしな……。すぐに解決できそうな案件だったら、解決に助力してからじゃないと寝ざめが悪い。
「んー。すぐにシュウ様達が「帰るか!」と言い出さない辺り、何か事情があると見ました!とりあえず、自己紹介しませんか?バーン様も構いませんよね?」
『勿論です。存分にこの辺りをお使いください』
「ではでは、しちゃいますねー」
クリアナさん、優秀な時は優秀なんだよなぁ…。とりあえず、ぐるっと全員で自己紹介。クラス替えした途端の召喚だったから、俺や四季がロクに知らない人もいるし、ちょうどいい。
俺と四季、子供たちが自己紹介した時のみんなのなんとも言えない顔よ。色々あったからね……。
「無事だろうと心配はしていなかったが、色々あったのだな。そちらも」
「ありましたよ。それよりも薫さん。そちらも色々あったの確定ですよね?何故、全員で動いているのです?薫さんなら、攻撃向きのシャイツァーじゃない人は、一か所に固めておいて要塞を作ると思っていたのですけど」
「そうしたかったんだがな……」
遠い目をする薫さん。そして、その横でジトっとした目で姉を見る賢人。まぁ、一回大暴走してやらかしてるもんな。薫さん。……ちゃんとそれで反省してやらかしにくくなってるからセーフ!
「場所が悪かったな。姉達は帰還魔法がエルフ領域にあるのでは?と思ったからこっちに来たんだ。人間領域とエルフ領域を隔てるカスボカラス断崖を越えるため、拠点を最寄りで一番でかい国、エルツェルにしようとしたのが間違いだったな。あいつら、バシェルに対抗心しか持っていない」
「あー。取り込み工作でもされましたか」
「もっと酷い。魔法で操ろうとまでしてきた。幸い、狙われた有宮嬢がたまたま対抗できる魔法を使ってたからよかったんだが…」
「見た目はひっどいことになってたけど、バレにくい背中からそういう魔法を受けても身代わりになる蔓を生やしてたんだぜぃ」
マジで見た目ひどいことになってそう。そして、イベアの二人の顔が怖いことになってる。
「…あそこならやりかねないけど、…そんなに何回もされたの?」
「いや?一回だぞ。挨拶中に拒否って、しつこく勧誘されてうざったいからさっさと出たらそのザマだな」
「まさかここまでエルツェルがめんどいとは」
遠い目をする二人。俺らは関わった人は基本、平和で良かった。
「…ふむ。領主に挨拶したのは何回?」
「一回だけだな。通るだけだし。拠点を作るなら……と思ったのが間違いだったな」
「…名前は?」
「ヤナミトレだったかな?」
「…あー。エルツェルの中でも一番、やりかねないところ。…ヤナミトレは領土が広いんだけど大部分が、カスボカラス断崖の前にある魔物領域、アルルアリ森林。…ヤナミトレはそこを開拓して自領を豊かにしつつ、バシェルを越えよう!って精神が強い」
だからって実際にやるのか。えぇ……。
「ノリはそういう感じだったな」
「処置は実行犯を始末して、そいつのせい!ってことにしてたな」
心証最悪になるやつじゃん、それ。
「納得はしたくなかったが、釘は刺したからな。もうしてこないだろうと思ってたんだが」
まーた二人が遠い目。甘かったんだろうなぁ。認識が。
「襲われたか」
「そ。許可を貰ったところに要塞を作ったんだ。だが、食糧はいずれ尽きる。だから、それなりに余裕があるタイミングで買いに行ったんだよ。領都に」
「そしたら、量が量だったからか、食糧にゴミみたいな魔法をかけられてたんだぜ☆」
一回で反省しろよ。勇者への信仰心はかなり強いはずなのに、またやるって……それもう功名心と劣等感に負けまくってんじゃん。
「アイリちゃん。どう思います?」
「…普通にやると思う」
「ですよねー。ディナン様は?」
「同じく」
「ですよねー。帰ったら管理責任をエルツェルに問うていいです?」
「心底同意するが、無理。バーンさんのシャイツァーを明かさないといけなくなる」
「チッ」
クソでか舌打ち。愛しのディナン様の言葉への対応とは思えない。そんだけ怒ってるって証左だな。
「っと、失礼。割り込みました」
「いえいえー。文も二人に返すZEY」
「何で割り込まれたんだ?まぁ、いい。兎も角、食糧を持って帰ると、そんな魔法が一部にかかっていることが分かったわけだ。だから、姉達は駄目な食糧だけ選り分けて燃やした。それが駄目だったんだろうな。バレたと気づいたやつらが証拠隠滅に騎士団を動かした」
「おいこら騎士ィ!って、あぁ、魔法ですか……」
「だろうな。クリアナ嬢」
勇者に効く魔法を使えるなら、一般兵士にかけるなんて余裕だわな。魔法で強引に従わせた兵士達に皆を襲わせたと。
「さすがに襲われて容赦はしなかった。が、要塞は一部に有宮の魔法が使われている部分があったからな…」
「はっは。植物を要塞に組み込んでたんだぜい☆。勿論、そんなのぱっと見で焼けるのわかっちゃうから、もっと強力な火耐性を持たせる予定だったんだけど…、ちょっと侵攻が早すぎたぜ☆。文字通り焼きだされちった。はっはっは」
笑い事じゃないが。でもまぁ、それが全てなんだろうなぁ。
「街や他のところに繋がる道は火の向こう。だから、カスボカラス断崖に繋がるこの道を通らざるを得なかったと」
「そうなるな」
「浅い層だと普通に木は燃えやがるから、横に逸れるなんてできない。川を渡った先からは延焼の不安はなくとも、この人数でしのぎ切れる環境じゃないことは調査で分かってた。そんなわけで奥にくるしかなかったわけだ。拠点作成に並行して、断崖にある洞に登攀のための簡易拠点も作っていたしな。立て直すにはもってこいだったんだ」
なるほど。…あれ、これ結構なピンチを助けたのでは。
「ったく、ほんとあいつら何考えてたんだか」
「…多分だけど……、エルツェル王都で挨拶してないよね?」
「あぁ。ルートから外れてるからな」
「…だからだろうね。…「あてにされてない!?」って思って焦って、えぇい!ってなったんだろうね。…領主に挨拶したのがヤナミトレってだけで、いくつかの街や村で食糧補給はしたんでしょ?」
「あぁ。アイリ嬢の言う通りだ」
「…うん、推測は間違ってないと思うよ」
「はん!たかが国が勇者様の行動を掣肘しようってのが、まず頭が高いんですよ!これだから劣等感拗らせた阿保は嫌いなんです!ねぇ!ディナン様」
「我王族なんだが?勇者様に聞かれたら問題にしかならねぇんだが?」
「ほら!ディナン様も嫌いって言ってます!」
言ってない。言ってないよ。クリアナさん。本心代弁しただけって言うんだろうけど。
「…コホン。まぁ、エルツェルに同情の余地はないけど」
「だろう?王都も行かなくて正解だったろうさ。まともに挨拶しに行ってもあのザマじゃ、斜め下の対応してくるだろうよ」
怒ってるのか、薫さんの言葉がめっちゃ荒い。
「っと、それはいい。今後についてだ。姉達はエルフ領域に行きたかったんだ。で、現在地はカスボカラス断崖の上と。正直、姉達はこのまま行きたいんだが……」
「戦闘向きじゃないクラスメイトをどうするか、だよな」
『待機していただく場所が必要なら、場所を提供しますが?』
「…と、バーンさんが今、言ってくださりはしたが、食糧はまだしも衣類系が無理なんだよな」
だね。それに食糧も怪しいんだよなぁ。まともなご飯はあるのか? イヴァンさんが元気な時点でそれなりのものはあるんだろうけど、量がなぁ。
「イベアに来てくださるなら積極的に保護しますよ!ですが……」
「バシェルにとどまってねぇのが答えだわな。確実にバシェル本国がうるさくなる。さすがにイベア一国でバシェルとエルツェルの非難には耐えられん。バーン様の魔法を誤魔化さねぇといけねぇし」
トラブル不可避と。となると、もはや手段は全員でエルフ領域に行くことだけ。エルフは人間、獣人、魔人と並んで挙げられる四種族の一角。服とかの心配はいらないはず。とはいえ、
「カレン。エルフ領域にこの人数で行って歓迎される?てか、そもそも全員でエルフ領域に行ける?」
「さすがにわかんないねー。所詮、ハイエルフってだけだしー。国があるのかもわかんないよー!んーーー。あ。気を向けたからかなー?なーんかエルフ領域から呼ばれてる気はするよー。歓迎はしてくれそー」
何でだろう。やったー! って突っ込んで行ったらロクなことにならない気がする。
「ふむ。であれば…、森野氏、清水嬢、アイリ嬢、カレン嬢、ガロウ氏、レイコ嬢。それにセン。悪いが一緒に来てくれないか?そして、馬車を借りていいか?全員は乗れないだろうが、何人かを乗せて欲しい。そうすれば、手ごろなシャイツァーを持ってるって判明したやつがいるんだ。そいつを活用すれば安全性は跳ね上がる」
「俺はさすがにここで見捨てられないから構わないよ」
「同じくです」
特に俺らは寝坊したせいで、帰還魔法捜索隊を西光寺姉弟に任せっきりになっちゃったって負い目もあるしね。
「…二人が行くなら」
「いーよ!」
「俺らは保護されてるからなぁ「もう!ガロウ!聞いてくださっているんですから、答えればいいんですよ!構いませんよ!」あいあい。俺もいいよ」
「ブルルッ」
「いーよー!だって」
子供たちの返答を聞いた薫さんは嬉しそうに頷いて、後背にある森に目を向ける。
「なら、準備するか」
「だね。細々した準備は文とえこーに任せろー!」
「であれば、我らとはここでお別れか」
「そうなりますね」
さすがにエルフ領域行っている間、こんなところに王族を留めたままにすることは出来ない。
「あ。でも、帰りの足はどうします?俺らと来たので、何もないのでは?」
「大丈夫ですよ!近くに街がありますから。そこでお馬さんを借りますよ」
「なるほど」
街からの距離は割とあったような気がしないでもないけど……。平気って言うなら平気か。
「そういうわけだ。我らともここでお別れだな。もし、またうちに来ることがあれば、ぜひ王宮まで来てくれ。今回の礼をまだ渡せてないからな」
「ですね!歓迎しますよー!では、長居するのもなんですし、さっさと行っちゃいまーす!また会いましょー!」
「あ゛。あいつ、マジでさっさと行きやがった!?迷子になられると死ぬから、悪いが行かせてもらう。皆の旅路が良きようになること。そして再会を祈っている。ではな!」
超早口で別れの挨拶を言ったディナン様は、さっさと行ってしまったクリアナさんを追って門をくぐっていった。級友と再会したと思ったら、王族組と爆速でお別れ。なんかドタバタしているけど…。まぁ、あの人ららしいと言えば、らしいか。
次の目的地はエルフ領域。ガロウとレイコのこともある。出来るだけ早く帰還魔法捜索隊を落ち着かせて、北方に戻らないと。




