74話 レイコ
お風呂から出てくるなり四季のことを「お母様」と呼んだレーコ。さっきガロウが言ってた「親というものからの愛に飢えているから、俺らを親と呼ぶかも?」ってのが見事に当たったな。
「どうされました?お父様?」
「あー」
「あぁ。呼び方ですね!お母様から許可はいただいておりますよ!」
だろうね! でも、問題はそこじゃない。いやまぁ、ガロウに予想しといてって言われてたことが、秒速で実現するとは。これがフラグか。存外、ガロウが責任感じまくってる案件、発端はレーコにあるのかもしれない。
「なぁ。レーコはシキさんに俺らのこと話したのか?」
「勿論です。あ。そうでした。ガロウ。私のことはレイコと呼んでくださいませんか?」
「…了解」
ガロウがすんごい何とも言えない顔をしてる。わかるよ、その気持ち。「なんか呼び方変えてる!?」って思うよね。俺も思うもん。
「呼び方を変えた理由は?」
「お父様、お母様とお呼びするのであれば、私も個人名が欲しかったのです!尻尾がない狐人を指すレーコでは、他人行儀ではありませんか」
え? びっくりして目をレイコの方にやると、レイコちゃんと目が合った。
「あ。確認されますか?」
「ちょっ!馬鹿!」
ガロウは慌てた様子でレイコの頭をはたき、レイコが後ろにやっていた手を強引に前に持ってきた。…尻尾を確認するとかの類の行為が獣人的には結婚相手にしかしないとか、そういう感じなのかね。
あぁ。だから言わなかったのかな。神獣って言ってる時点でレイコちゃんがレアキャラなのは確定してるけど、推定獣人にとってめちゃ大事な行為をされる可能性のあることはさせないよ! っていう。
てか、二人の会話から判断するにそうっぽい。「異性でも親ならいい」的な単語は聞こえて来たし。ついさっき「了解」と言ったけど、ほんとの親じゃないんだけどなぁ。
っと、言い合いが激化する前に止めるか。今はこの周辺に人はいないだろうけど、来ないとも限らない。
「レイコ。別に見せてもらわなくても、横向いて口論してるから尻尾ないなぁってのはわかったよ」
「!そうでしたか。お父様はこんな私でも嫌わないでくださいますか?」
「勿論。だから、そんな泣きそうな顔しないで」
ガロウがすんごい顔でこっち見てるから。
「レイコ。嬉しそうな顔するのはいいが、シュウさんに許可はもらってねぇぞ」
「……はっ!確かにそうでした。レイコと呼んでくださいますか?」
許可いることなのかね、それ。まぁいいや。
「レイコがいいならいいよ。それより、尻尾はどこにやったの?」
お風呂に入るまでは確かに存在していたはずだけど。
「!お母様にお預けしたままでした!」
ぱぴゅっ! とレイコは引き返していった。猫まっしぐらって感じ。
「俺がさっきの質問に答えるな。尻尾は付け外し自由なのを付けてただけだな」
「んーー。ちょっと聞きにくいんだけど、聞いていい?」
「勿論。必要なことなんだろ?」
「うん。話的にレイコは神獣って皆知ってたんでしょ?だったら、わざわざ神獣としての証拠たる尻尾がないってことを隠す必要はないよね?バレても「あ。神獣様がいる!」ってなるだけだし。それがうざいってんなら、隠さないと駄目だけど…。話を聞いている感じ、こっそりじゃないと抜け出せないよね?なら、そんなのは不要。じゃあ、誰が擬装用の尻尾なんて用意したの?」
現状を可哀想に思っている人はいたとしても、「抜け出すときの偽装用」にしかならんアイテムを渡せないだろうし、仮に渡せたとしても没収されるだろ。
「俺らの長たるリンヴィ様だな。あ。長つっても、俺ら戌族の長じゃねぇぞ。獣人族の長だ。レイコと同じく神獣で、レイコにかなり心を砕いてくださった」
「なるほど」
じゃあ、没収とかされるわけないか。むしろ、崇拝されている人から渡されたのを推しが付けてる! って感じだろう。
「お待たせしました」
「お帰り。ガロウと話してたから、全然待ってないよ。それより、四季。移動前にちょっと確認しておきたいんだけど、レイコからどの程度聞いた?」
「あぁ。習君もちゃんと聞けたんですね。「ガロウは言わないかもなので…」とレイコちゃんが言っていたので心配していたのですが」
「まぁ、さすがにお世話になるなら……って聞かせてくれたよ」
おそらく、ガロウが持ってる情報は全部。
「なら、共有は要らないですか?」
「いや、一個だけ特別に言わないと駄目なのがある」
「了解です。皆。親間でどうするか相談したいことがあるので、ちょっと遊んでてください。ごめんなさい」
「…ん」
「わかったー!」
何も聞かずに同意してくれるアイリとカレンのありがたさよ。後でちゃんと二人にもこっそり共有しないと。レイコの持ってるトラウマのことを。
「……なるほど。把握しました。ついでに確認しますが、もはやどうにもなりませんが、レイコちゃんのこちらへの呼び方は受け入れるということでいいのですよね?」
「うん。だから……」
「えぇ、わかっていますとも。生半可な覚悟でOKするのは止めましょう。そういうことですよね?」
「さすが」
言わなくても勝手に意図を汲んでくれた。そういうこと。俺が受け入れた一番の理由は「四季が受け入れている時点でどうしようもない」そんな消極的なもの。そして、四季も四季でレイコにいきなり言われて、拒否できないとか、そんな感じで大差なし。
だけど、父母と呼ばれるからにはしっかりと責任を持たないと。これはレイコが無意識に求めているであろうことだろうし、最低限やるべきこと。そして、ある意味、アイリとカレンへの誠実さでもあるのだし。
「よし、こっちの打ち合わせは終わったよ」
「私がお風呂でうんと言ったことに変更はなしです」
「レイコの呼びたいように呼んでくれ」
そう言った途端、レイコがほっと息を吐いた。「やっぱ拒否られるんじゃ…」って不安だったんだろうね。
そこで終わる……と思っていたら、レイコがガロウの背中を優しく押した。押しやられたガロウは何とも言い難い顔をして、口をパクパク。でも、少しすると意を決したように口を開いた。
「俺も二人のことを父ちゃんと母ちゃんって呼んでもいいか?」
「別に良いけど……いいの?」
ガロウは明らかに俺らを父母呼びすることに抵抗あるよね?
「レイコが父母呼びしてるのに、俺がしてない「ガロウ」……あい。まぁ、お世話になるんだからちゃんとしないとと思って」
「なるほど」
いや、なるほどとは言ったけど、「なるほど」かこれ? お世話になるから父母呼びってそれ、俺ら世界基準だとホームステイとかどうなるの? レイコに合わせたって方が本音では? ちょっとこじつけが……。
「もー。ガロウ。言い直してもちゃんと言えてないではありませんか。すみません。お父様。お母様。ガロウはちょっと素直じゃないので……。私と同じく、両親という存在に憧れているのですよ!さすがに、私ほどではないでしょうが「レイコ!?」もう!気持ちはわからないでもないですが、しっかりとお伝えしておかなければならないことでしょう!?」
レイコの言葉にガロウは恥ずかしいのか顔を赤くしてプルプルしてる。図星だったのね。少し意外。レイコと同じく、両親……というか、それに類する無条件に頼っていいと思える大人への憧れはちょっとはあるんだろうなとは思っていたけど。今の顔を見る限り、思ったよりその思いは強そう。
良し悪しは別にして、本心隠すのうまいなぁ。……きっと、レイコを守らなきゃって一心でいたから、誰かを頼るより、自分で何とかしなきゃってマインドが強いんだろう。
「んん゛っ。ちょい恥ずいんだが、確かにレイコの言う通りだわな。俺も頼っていいか?」
「構わないよ」
「ですね。少なくとも二人を獣人領域に送り届けるまで、責任は持ちますよ」
「じゃあ、よろしく。父ちゃん。母ちゃん」
「「よろしく」」
おぉ、覚悟決めたらスパッと両親呼びしてきたね。こっちもよろしくね。
「…ん。ある程度まとまったみたいだから、首突っ込むね。…そろそろ行かないとまずいと思う」
「どーい!」
「だね。後で言わないといけないことは言うから、移動優先しよっか」
四季も同意してくれてるし、ガロウ・レイコも同じ。さっと移動して…わーお、ディナン様、クリアナさんとイヴァンさんは既に待っておられるし。
「お待たせさせてすみません。先にセンにご飯あげますね」
「あぁ。馬車に同乗させてもらうからな。万全にしてやってくれ」
「ありがとうございます」
いつも通り四季と手を繋いでセンにご飯を上げる。その間に馬車に乗り込んでもらおう。
「あの。保護した獣人の子達も連れて行くのですか?ここの方が安全では…?」
「ははっ。イヴァン様。残念ながら、この子らにとっては安全なところじゃないのですよ。お二人の傍が一番安心なのです。だから、一緒です。なぁに、イヴァン様。心配いりませんよ。イヴァン様をお連れするだけですよ?何かあるはずありませんって!」
うわぁ。クリアナさんフラグ立てやがった。
「うちの国は賊狩りを頻繁にしていますし、あちらの領域にしてもバーン様の管轄かつ、エルヒ断崖の上。不埒物が来る余地なんてないですよ!」
2本目ェ!
「ですから、問題ないですよ!まさかこの出発で皆さんとお別れするなんてありえませんよ!」
三本目。よく一回口を開いただけで三本も立てられるね。んー。クリアナさんには失礼だけど、クリアナさんが言ったってことがすんごい不安。無事につけるか?
…割れ目には着いたね。2本目のフラグは無事にへし折れたっぽい。後はイヴァンさんを引き渡して、帰るだけ。
「ブルッ!ブルルルッ!」
センの合図にバーンさんの声がして、無事に目的地に到着。
『早速ですが、イヴァンはどこに?』
「ここです!」
馬車の中からイヴァンさんが声を上げると、外からバーンさんのほっとしたような声が聞こえた。かなり大きい声だったけど、そんだけ気を張られていたんだろう。気のせいでなければ、周囲の雰囲気も少し柔らかくなった。
そんな空気が変わった中、イヴァンさんはすぐに会いたい気持ちを爆発させたのか、すぐに馬車を降りていった。
続いて俺らも降りると、目に入ったのはバーンさんとイヴァンさんが抱き合っている姿。無事に再会できてよかったですね。
んー。子供たちもその光景を見てるけど、ガロウとレイコは羨ましそうに見てるね。勿論、レイコのがその度合いは大きいけど。アイリとカレンは「よかったね」って感じ。
しばらくそうしていた二人だったけど、別のワイバーンが横でそわそわし出したあたりで離脱。イヴァンさんがワイバーン達にもみくちゃにされ出すとバーンさんがこちらを向いた。
『失礼いたしました。お礼が遅れてしまいましたね』
「いえいえ!」
クリアナさんが答えても、俺ら勇者勢を伺うように見てくるバーンさん。
「無事に再会できてよかったです」
『二重の意味でありがとうございます。約束を果たしてくださったのですから、こちらも約束を果たしましょう。私共はそちらには参りません。皆様が帰られたのち、この穴は閉じるとしましょう』
「助かります。事の顛末は」
『不要です。捜索を依頼しておいてなんですが、イヴァンは旅に出て事故に巻き込まれただけの話。その要因が誘拐であったとしても、自然のあるがままの結果なのです。それ以上でも以下でもありませんよ』
「自然……ですか?思いっきり人間が関わっていますが」
クリアナさんの言葉にバーンさんは目を丸くする。でも、すぐに再起動して言葉を紡ぐ。
『人間も自然の一部です』
「左様ですか。…ほんとにいいのです?死んでいたらどうしたのですか?」
『これも捜索を依頼しておいて……ではありますが、自然のあるがままに。です。今回はあの子が助けを求めていたからこそ、動いたのです。そうでなければ動きません。少し矛盾していると思われるかもしれませんが……、このような考えでもなくば皆さんの捜索を大人しく待ちはしませんよ。待っている間に死んだらどうするのです』
確かに。人間との対立を望んでいないからそうされたってのもあるだろうけど…、そういうある意味「しゃあない」で納得できてしまうって面もあったのか。
「なるほどです。あぁ、でも、簡単にお伝えしますね。下手人であろう奴らは今回の作戦で壊滅しました。もし、イヴァン様がこちらに戻ってこられるのであれば、ある程度の安全は確保されるかと」
『ありがとうございます。…まぁ、そこはあの子次第ですね。また何かがあれば助けられるように同じ処理は施すつもりですが…』
それされるとイヴァンさんが事実上、イベアにいる間は守らないといけない爆弾みたいなと化すんですけど。人間のことを考えてくれてはいるけど、やっぱ微妙にズレてるなぁ。
「ん?どしたの、レイコ?」
「勇者様がいっぱいいますよ!」
「え!?」
急いで下を見て見るが、どこかわからない。高度がありすぎる、ここ!
「もっと具体的に!」
「一番下です!」
「了解」
一番下!? よく見えたね!? 一番下からだと目測5000 mはありそうなくらい高いけど!?
「めっちゃ遠いじゃないですかーやーだー!よく見えましたね!あ。そういえば、こんな高いのに一瞬でここに来ても何もなかったですね」
『このお嬢さん感情のふり幅大きいですね……。ご質問にお答えしますと、あの門をくぐったからですね。周囲の急激な環境変動にある程度、耐えられる保護は付きますよ。…さすがに高温の熱源に囲まれているですとか、極寒の中とかですと厳しいですが……あぁ。確かに勇者様ですね。他の群れのワイバーン……だけでなく色々な集団に襲われているようです』
んーー、魔力を使ってもかなり見にくいんだけど……、あ。見えた。確かに襲われてる。そして、ちょっとヤバそう? だって、帰還魔法捜索隊が全員いる。
「助けに行くー?」
「行きたいけど……、どうする?どうやったら攻撃されずに信用してもらえる?」
『ふむ。であれば、私達が力をお貸ししましょう。イヴァンを下にやり、門を開いてもらいましょう。そこから、主様方が顔を出していただければなんとかなるかと』
「そんな簡単に門を繋げられるのです?後、帰るための門はそれで維持できるのです?」
『……イヴァンにつけると怪しいですが、作ることは簡単です』
怪しいんですか。
「なら、ボクでいいよねー。早くー!」
『はい』
あ。止める間もなく二人が動いてしまった。そして、そのまま流れるようにカレンがすっ飛んで行った。みるみるうちに小さくなっていき、じわじわと崖に追い詰められつつある皆の後ろに着地。門が形成されて、バーンさんの前に対の門が出来た。
怪我してる同級生もいるっぽいから、門を越えた瞬間、回復魔法を使えるようにして……、声をかけに行きますか!




