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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
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72話 心臓

 よし、撤退成功。保護していた狼の男の子と狐の女の子を下ろす。



「「お疲れ(お疲れ様です)頑張ったな(頑張りましたね)」」


 ポンポンと頭を撫で……てしまったが、これは嫌なのかOKなのかどっちだ。すんごい微妙な顔。勢いよく拒絶されない辺り、断固拒否ではないのだろうけど。わからない。



 女の子が傍にいるから、カッコつけたいのかな? 男の子だもんね。なら、止めとくか。女の子は四季にえらく懐いていて、撫でられて嬉しそうに頬を緩めているから、ギャップがすごい。



「あのー、シキ?その子らを労わるのはいいが、話してくれ」

「シュウ様もシュウ様です!のんびりお嫁さんを見てるんじゃないです!疲れてるんでしょうけど!羨ましいです!」


 クリアナさんェ……。欲望漏れてますよ。とはいえ、お二人のおっしゃる通り。



「見ての通り、最下層に牛の魔物が居ます。あれは討伐しないと駄目でしょう」

「シャイツァーであろう侯爵家の家紋が刻まれた盾を滑り降りた先で見かけました。それを追跡してあそこまで行きました。途中の分岐は全て無視しました」

「道中に保護対象たるイヴァンさんはいませんでしたが、代わりにこの子らが居ました」

「牛の再生力はそれなりですが、大火力を叩き込めば一撃で獲れるかと」


 さっきまでは手がふさがっていたから無理だったけれど、今なら紙を準備すれば倒せる。まぁ、エルフさんを見つけないといけないんだが。あの円筒部分はかなり強度ありそうだが、横の通路は怪しい。万一、崩落したら詰む。



「なるほど。であれば、イヴァンを探すか」

「ですね!敵は他に居ましたか?」

「少なくとも俺らは見ていないです」

「なるほどです!では、騎士たち!エルフ達を探してきなさい!侯爵家に繋がる通路には二人。それ以外への通路は一人!ここには……私らが居ればいいですね!行きなさい!」


 指示に従い騎士たちが動き出す。ポンコツポンコツと言われまくってるクリアナさんだけど、さすがは侯爵令嬢。ちゃんと威厳がある。



「おい、クリアナ。ラウルのシャイツァーを使った説明を聞かせろよ」

「え…………」


 結局、クリアナさんはクリアナさんじゃん。



「ま、まぁ俺のシャイツァーも出力するのに時間はかかるから…」

「かからんだろ」

(´・ω・`)


 喋れ。The顔文字のしょぼーんって顔をしながら微妙に目を逸らすなし。



(・ω・)


 こっち見んな。



「あぁ、勇者様方が置いてけぼりになっているな。すまない」

「大丈夫です。牛にちょっかいかけてるので」


 おそらく、あの牛にこちらに来る術はない。し、この建物を破壊する力もない。する力があるなら、盾をぶっ壊した時に酷いことになっているはず。



「あぁ、牛もいたか。なら、簡潔に。俺のシャイツァーは頭の中にある情報を紙に出力すること、俺の周囲100mの情報を完璧に把握することができる。それらを組み合わせれば紙に周囲100 mの情報を出力できる。まぁ、100 m以内にイヴァンはいないが」


 だとしても、先にそれ使っておいた方が効率的にイヴァンさん探せそうですね。



「あぁ。皆まで言うな。というわけで、早速出力しよう。紙は常に持っている。戦闘中ではすぐに燃えたりバラバラになったりする可能性があるから出せなかったが。今なら出せる」


 ラウル様の眼鏡はちゃんと度の入っている眼鏡なのか、眼鏡をかけたまま紙に顔を近づける。眼鏡のレンズが緑に光って紙に情報が転写される。



すんごいサイバーパンクっぽい光景だったけれど、出て来た地図は普通の地図。まぁ、そんなもんだよな。階層ごとに出力されているのはすごいが……、あの滑り台が長いからあの広間と+1階くらいしかない。



「よし、これを渡して……って、クリアナの指示で渡すやついなくなってないか?」

「ご心配なく。そんなことだろうなぁ。と思っていましたので、死角になっていたところにいた私達が居ます」


 何で隠れてんのかね……。



「勿論、反省を促す為ですとも!」

「ですです」


 俺らの心情を読んだのか、高らかに叫ぶ二人。明らかに一般騎士さんにしか見えないのに。まぁ、そんだけクリアナさんが家格関係なしに慕われていて、んなことしても理不尽に処罰されないと信じてるんだろうな。



「見つかれば、ディナン様が吹っ飛ばせますね!」

「だな。そうなれば(おれ)がアレを殺せる」

「おや、一点特化型の超強力な攻撃が出来るので?」

「無理だが?」


 ……何で「何言ってんだこいつ」って目で俺が見られなきゃいけないんですかね。俺こそ何言ってんだこの人って言いたいよ。



「なら俺かタクの方がいいのでは」

「ですね。規模にもよりますが地下が崩壊しますよ?」


 上に何もないならまだしも、進んできた感じからしてここはまだ王都の中。全部吹っ飛ばす! なんてしようものなら王都ごと吹っ飛びますよ?



「…お父さん。お母さん。作戦練ってるときにごめん。…多分、あいつ、飛んでくる」


 !? 慌ててちゃんと下を見る。あ。確かにやばいわ。雑にぶっぱしてたからアレだが、突進するときのように前足をガシガシっとかいている。しかも、後ろ脚を少し曲げて軌道を上に変えている。



 あの向きでは一直線には来れなさそうだが、だからと言って、油断していいとはならない。



「はっ!やる気かよ!(おれ)らの王都に来たことを後悔させてやる!」

「ですねっ!」


 え。あ。止める間もなく飛び降りてった! 護衛対象が先頭に立つな定期。そも、ちゃんと着地……は出来てるな。



 クリアナさんは足の裏から爆風を起こして衝撃を殺し、ディナン様も爆破で衝撃を殺した。……見てる感じ、爆破は全方位っぽかったが。



 二人は牛の方へ突貫。二人を敵と認識していなかった牛の甘さを突いて、後ろ脚を爆破。支点を失った牛は真正面の壁に突貫。さっきまでではありえなかった轟音が響いた。



 すんごい嫌な予感がする。予感がするのだが、二人と一頭はそんなこと意にも介さず、文字通りの爆発音をたれ流しながら戦闘を開始した。



「降りてくれるなよ。確実に巻き込む」

「仮にも王族なんですが、放置でいいと?」

「仕方ない。ディナン兄さんのシャイツァーの性質上な。兄さんのシャイツァーは心臓。兄さんの鼓動に合わせて爆発を生じさせる。勿論、爆発を外に出すかどうかは随意だ」


 でしょうね。でなければ、おちおち外も出歩けない。いるだけで周囲を破壊してしまう。



「だが、それ以外はほぼ操作できん。規模は兄さんの心拍数……というか気分依存だし、向きは兄さん中心に全方位だ」


 そりゃ、一緒に戦うことは厳しい……うん?



「なら、何でクリアナさんは行ったのですか?」

「シキ嬢。それはクリアナだからとしか言えん。クリアナが兄さんの行動を予想して避けてる」

「「ごり押しすぎません?」」

「ほんそれ」


 ラウル様ですらその反応!? え。マジで何やってんだあの二人。



「理屈はあるんだぞ?一応。そも兄さんが周囲を気遣って戦うなら軍団戦はまず無理」

「あー。だからディナン様はこっちで戦っている時に爆破されてなかったと」

「あぁ。巻き込むからな」


 タクの答えにラウル様が頷きながら答えた。でしょうね。としか言いようがない。二人が下りてから俺らは誰も下に手を出せていない。魔法であれ矢であれアイリの鎌であれ、何でも爆発に巻き込まれて届かない。火力を上げれば魔法は届くだろうが、二人を巻き込む。



「故にこそ、兄さんが最も輝くのは単騎。だが、単騎は完璧じゃない。爆発が心拍依存なせいで、爆発は常に発生しているわけじゃない。その間隙を縫えれば、相殺されずに殺せる。その護衛として突っ込んでるのがクリアナなんだよな。一応」

「「「一応」」」


 何故にその言葉を付け足してしまったのか。



「現実的に考えて拍動の間隙を縫える速度の攻撃なんざ、あんまないからな。勇者様方の世界にはあるかもだが」


 爆発の規模次第だが、銃とかならいけそう。



「というのが理屈だ。屁理屈に限りなく近い何かな気がしないでもないが。理屈なんざ無視すれば、「クリアナは兄さんが好き」以外の何もない。クリアナもクリアナで「私が合わせるので、気にしないでください!」なんて言ってのけてるから兄さんが配慮してるというわけでもない。まぁ、多少は配慮してると思うが。さすがに「結婚しよしよ」言われまくってうざいからって、進んで自国の侯爵令嬢吹っ飛ばすようなことはしない」


 だとしても……な。下を見ればディナン様が爆発しまくってる。ディナン様と牛が離れたときにクリアナさんが爆発する蹴りを差し込んでいる。



まさしく一応、護衛だな。あの距離じゃ護衛できんだろ。そして、連携の「れ」の字もない。まさにごり押し。



 それはそれとして……、



「四季」

「ですね」


ほとんど何も言っていないが、互いに視線の向いている先で何を言いたいかわかる。なにせ、ディナン様とクリアナさんの二人が下に降りてから、最初に牛が激突した壁が思いっきり凹んでる。そして、あたりを見渡してみれば二人と一頭の戦闘の影響でぼこぼこと壁や床に小さい穴が開いている。さっきまでは通路側くらいにしか重大な損傷は出ていなかったのに。



 おそらく、あの盾の加護がこの下の円筒空間全体に及んでいたんだろう。……その加護で壁を頑強にしすぎたせいで、ゴリゴリ削られて破壊されたのは皮肉としか言いようがないが。



「補強だけはしておこうか」

「ですね。それが一番かと。円筒容器でぐるっと壁面を覆ってしまいましょう。下は……まぁ、なるようになるでしょう」

「そも、下にどうやって魔法の効果を及ぼすかってのもあるしね」


 多少、離れていても魔法は発動するとはいえ、ちょっと底は遠すぎる。イメージもし難いし。



 四季に魔力がいっぱい籠った紙を貰う。設置するものを代償魔法で作るのは初めてな気がするが……、ま、行けるだろ。



 今回は気楽なもの。一応の補助としての役割しかないから、ひたすら強度を求めておけばいい。だから、意識しておくものは超簡単。後は魔力が多すぎてじゃじゃ馬になってるペンを宥めすかしながら字を書くだけ。



 ちょっと滑りそうになったり、ちょっと進みが悪すぎたり。そんな妙な書き心地の悪さを乗り越えて……よし、出来た。『円筒壁』! 書いた文字はやりたいことそのまんま。『壁』だけでも構わないだろうが、イメージとの乖離は出来るだけ小さいほうがいい。



「ちょっとだけ、壁から離れておいてくださいね!」

「「了解!」」


 声をかけた途端、壁から離れるお二人。さっさと魔法を使ってしまおう!



「「『『円筒壁』』!」」


 代償魔法で発動。唱えた途端、紙がほつれるように消えて、下に向かって滑らかな岩の壁が下に向かって降りていく。これで一番下まで壁が下りれば、ある程度大丈夫なはず。速度めちゃおそと言うわけではないから、戦いの邪魔にはならないは……わーお。俺らの魔法すら攻撃に使うか。



 やったことはすごく簡単。牛を壁に押し付けて、降りてくる魔法と床の間に挟むだけ。でも、一切タイミングを合わせる気がこっちにないのに、よくやる。



「そっから下には伸びませんから!」

「了解!」


 了解! と言ってる割に床のダメージを気にしてないのはいいのかね。どうせ床は崩れたとて、下は大地ってか? でも、派手にやりすぎるとこの地下空間の基礎部分まで巻き込んで破壊しかねないはず。……いやまぁ、その心配はいらないか。そうしようと思ったらどんだけ破壊しなきゃならないかわからないくらいの空間を破壊しないといけない。



 ……シャイツァーとはいえ、さすがにそこまでは行かないよな? にしても、手出ししたくてもできることがない。唯一、カレンだけはそれなりに速い弾速。弄れる軌道とちょっかいをかけやすい能力を備えてはいるんだが……、うん。せっかくの攻撃が爆破されまくってるな。カレンがちょっとかわいそう。



「俺らもイヴァンさんを探しに行くか?」

「さすがにそれは駄目でしょう。一応、ここを守る戦力としてクリアナさんに期待されているわけですから」

「それもそうか。なら、さっさと戻って来てくれれば「連れてきました!」……とか言ってたら来たな」


 話している時に来るってのは若干、都合がいいと思わないでもないが。まぁ、戦闘は下でずっと続いてたし、そりゃ見つかるわな。



「しゃあ!なら、全力で行くぞ!逃げてな、クリアナ!」

「はいです!カレン様ー!」


 圧倒的人任せ。自力で戻ってくるんじゃないのかーい!



 カレンも呆れた顔をしはしたが、要請通りに下に矢を放つ。いい感じのところに飛んだ矢をクリアナさんが掴むと、矢は弧を描いて戻ってきた。ほんと、ありえない挙動をする矢だ。



「さぁ、行くぜ!」


 ディナン様の宣言と共に攻撃と爆発がどんどん苛烈になっていく。先ほどのラウル様の言葉通りならば、心拍数を上げているのだろう。最初の方はただの打撃だった攻撃が、どんどん爆破が本体になっていく。



 ディナン様自身は浮遊することができるわけではないから、必然的に爆破に足元が巻き込まれ、凸凹していく。でかすぎる牛はそのせいで時が経つにつれ、あらゆる行動がしにくくなっていく。



「ブモオオオオォ!」


 牛もそれがまずいことはわかっているのか、まだ足場が無事なところに移動。全力で突進する体勢に入った。



 が、その決断をするには遅すぎた。その瞬間、ディナン様が爆発の勢いそのまま牛に激突。後ろ脚を捥いで牛を押し倒すと同時に、壁と激突。跳ね上がるように飛ぶ。



 どんな軌道してんだという俺らの心の声をよそに、ディナン様は爆破によって高度を稼ぐ。そして、程よいところで向きをくるりと変え、爆破で加速しながら落下。牛に拳を突き立てた。



「これでてめぇはしまいだよ!」


 そのままディナン様は牛を滅多打ちにする。もはや爆発が本体と化した攻撃は牛だけでなく、床を砕き、大地を穿つ。



 脈拍が上がるごとに身体能力も上がっているのか、加速する攻撃。叫んでいるはずのディナン様の声がとうに爆音でかき消され、両者の姿さえも爆炎で見えなくなってからしばらくして、ようやく爆音が鳴りやんだ。



 これでこの地下での戦闘は終わりか。……壁が何とか持ってくれてよかった。

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