71話 旗
拓也視点です。
「む。空気が変わりましたね」
「いきなりどうされました?」
ルキィ様がなんか変なこと言い出した。今まで他に出来ることがないからと、侯爵……いや、もう元侯爵か。の椅子に座って執務室で護衛されながら待っていたのに。
「いえ、空気が変わったな。と」
「情報が一切増えてないんですけど」
何できょとんとした顔されてんですか。あーもう、そんな顔もお可愛いなぁ!
「失礼。何を言ったのかわからなかったのかと思いました。シュウ様やシキ様、ディナン様達が中に突入されましたよね?その結果、中で大きな動きがあったようです」
「…何でわかるんです?」
こんな場所からでは中の様子はわかりませんけど?
「シャイツァーが匂いに関係するものだから……ですかね?私のシャイツァーを用いて魔法を閉所に充満させておくと、何となくですが大きな動きとかはわかります。私の魔法の通りがよくなったような気がするので、おそらく、良いほうに変わったかと」
「なるほど」
匂いに関係するから、ではなくて魔法の通りが変わったのがわかるから。では? いやまぁ、魔法の通りが変わったのが分かるのが、匂いだからかもしれないか。
「では、俺らも行きますか?」
「んー。私が行きますと足手まといが増えるだけになりそうなので止めておきます」
「なら、俺だけで行きましょうか?」
ルキィ様の口ぶり的にすぐに終わるわけではなさそう。それにディナン様達のいる内側から攻めてくる奴もいないだろうし、元侯爵邸の方から攻めてきそうなやつはもういないっぽいことはわかってる。それなら、戦力を追加するってのは悪い判断じゃないはずだ。さすがに、ルキィ様の護衛はこれ以上減らせないから、行くなら俺一人だが。
「ですね。お願いします」
わぉ、即決。ほんの一瞬しか悩まれなかったな。
「では、行ってきます」
「はい。お願いします」
穴の奥へ走る。まっすぐ行って……お、何か見えてきたが、バリバリ戦闘中だな。なんか、ちっさい蛇とかと戦ってる? 騎士がこっちに敵が来ないように押し止めてくれてるのか。なら、声を出しとくか。敵だと思われちゃ敵わん。
「おーい!勇者拓也がそっちに行くぞー!」
自分で勇者って言うのちょい恥ずい。でも、この世界なら勇者でもない奴が勇者っていうのはかなりやばい行為だから、これ言うだけでほぼ信用される。
俺が来るのを見ていたのか、ナイスタイミングで蛇をぶっ飛ばし、入口を開けてくれた。ありがとよ! と言いながら、空間へと飛び込む。わーお、なんかちっこい蛇に猫がいっぱい。
ちょこちょこ強そうなのがいるが……んー? 習達がいないか?
「タクヤァ!ルキィ様に何かあったのか!?」
「外では何も起きてませんよ!その証拠に俺は返り血一つ浴びてないでしょう!?」
戦っておられるのに、よく気づいたな…。っと、なんて思ってる場合じゃねぇわ。来た理由を伝えないとな。
「ルキィ様曰く、魔法が少し通りやすくなったらしいです。何か」
「ですよね!であれば、私のこの手ごたえは間違いないわけで……、となると、よし!クリアナ、いっきまーす!」
えぇ……。クリアナさん、俺の言葉で何か確信持って、壁の穴から下に行ったし。え、いいの?
「我も、攻撃が通りやすくなった印象はある!まぁ、どうせこいつら無限再生するんだがな!」
「なるほど…ですっ!」
会話しながら突進してきた鷲を切り捨てる。魔法を撃ってこようが、手数が足りんわ、あんなもん。断面をこんがり焼いてやったが、これで……あ、駄目か。普通に再生されたわ。こういう無限再生に「焼く」って定番の処置なんだがなぁ。
焼いてできたケロイド? をぐずぐずに溶かして再生しやがった。ふつーにグロイわ。
「クリアナさんを追いかけましょうか!?」
「いらんいらん!どうせあいつなら、なんやかんやでうまくやるだろ!」
「こんな初見のところで、迷子になりませんか!?」
「初見じゃなくても迷うぞ」
……えぇ。あー、そういえば「王宮では迷わない」とか言っていたような。逆に他のとこだとヤバいと。えぇ…。
「いや、タクヤ様!追ってやってください!兄さん!少しだが敵の動きがとろくなってる!俺らだけでも持つ!」
「……だな!減っても大丈夫だ!行ってくれ!」
「承知!」
王族が突出するわけにはいかんものな。俺が行くのが戦力的にも身分的にも一番。なお、侯爵令嬢。
「あ。そういえば報告ありませんでしたが、保護対象は!?」
「まだだ!」
「了解」
なら、下にいる可能性があると。さっきクリアナさんが意気揚々と突撃していった穴に突撃。敵としても戦力が減ることは歓迎なのか、熱烈な妨害はしてこなかった。
んー、これ、行く意味あるのか? まぁ、いいか。拮抗できてんなら悪いことにはならんだろうよ。滑り台のようにしゃーっと滑って下へ。習たちがいないってことはきっとこんな感じのスライダーとか使ったんだろうな。よーやるわ。
普通に怖いわ。何も見えんし。っと、出口。さて、クリアナさんは……あそこか。なんか壁の方に近づいてじーっと壁を見てる。
「クリアナさん?」
「あ。タクヤ様も来られたのですね」
「えぇ」
「さっすがディナン様「ではないです」ガーン」
おっと、俺を見てから喜色満面にいやんいやんと悶えてたのがきも……げふんげふんだったから、思わずストレートに言ってしまった。
ほんと、この人感情豊かだよなぁ。きょうび、ガーンなんて口で言ってる人見ないぞ。しかも、両手をほっぺに当てながら。こってこてやん。
「で、どうされたんです?」
「あぁ、あの旗を見ていました」
「旗?」
あ。あれか。天井付近、少し凹んだところに飾られている旗。旗と言っても、持ち手がついていて掲げるのに便利そう。というかあれ、戦争のときとかに「うちはここにいるぞー!」ってのを明らかにするためのやつで……うん?
「あの旗って……」
「ご存じでしたか」
「えぇ。待ってる間、暇だったのでルキィ様から聞きました」
旗の中にたなびく旗。そこに描かれているのは水を受けるグラム・ヘルサ。ここの人らグラム・ヘルサ好きすぎだろと思わんでもないが…、んなことはどうでもいい。あの旗は今回の一件で処分確定の男爵の旗だ。
「で、何で見てたんです?」
「いやぁ、なんであれあんなところにあるのかなと。あんなところにあればシュウ様、シキ様達が見つけてそうなものだなぁと」
「じゃあ、見つからないような何かがあったんでしょうよ」
清水さんは知らんが、習ならあんなの見逃さんだろ。置いてる場所べこって凹んでるもん。なら、そこを覆い隠せるような何かがあったんだろ。ルキィ様が言ってる「空気が変わった」タイミングででも解放されたんだろ。
その証拠になるようなものは……旗の上にある何かをひっかけるための場所くらいしかないが。間違ってはないだろ。
「てか、何で見てたんです?の答えになってなくないですか?クリアナさんなら「お!あんなとこに旗あるやん!ぶち壊したろ!」って全力で破壊しに行くもんだと」
「私をなんだと思ってんですか」
「クリアナさん」
「私の名前を代名詞的に使わないでください」
「なら、言いましょうか?」
「いえ、要らないです。ココロガオレマス」
嘘だぁ。この人がガチで心折れることないだろ。一瞬、落ち込んでも秒で復帰できる人だぞ。この人。本気でディナン様に拒絶されたら怪しいが。
「で、何で見てたんです?」
「いやまぁ、あんな怪しいのが露出してるわけじゃないですか」
「はい」
「罠かと」
「なる……えっ」
この人、罠とか疑えたんだ……。
「罠とか疑えたんだって目、止めていただけます?」
「思ってる通りですよ」
「ぴえん」
表情豊かだなー。ジト目からの流れるような涙目。
「ま、まぁ、私は本当に好きな人からの評価以外はどうでもいいのです!」
「それは気にするべきかと。仮にも貴族なら」
侯爵令嬢でしょ。貴方。貴族なんて面子命のゴージャスヤンキーじゃないですかやだー。
「はっはっは。既に私の評価は極まってまっす!というわけで、」
「え?」
何を……と問う間もなく、凄まじい後ろ飛びで俺の視界から消えた。
「いっきまーす!」
飛んで行った方に顔を向けている最中なのに、目の中に飛び込んでくるクリアナさんの姿。まーた姿が消えてインパクトの音。ガギャッ! なんて硬い音だけかと思ったら、爆裂音まで混じってる。明らかに魔法使ってんな。
なーんということをしてくれたのでしょう。さっきまで罠を疑っていたはずのクリアナさんの姿は……旗の飾ってあったところに脚をめり込ませているではありませんか。
「おりゃっ!砕け……ろっ!」
また爆破。クリアナさんはクルっと回ってまだ飛んでる。さっきまでの隠すための穴だよ! って雰囲気は見る影もなく。無残にも破壊しつくされてしまった。だが、まだ旗は生きてるな。強度がおかしい。やっぱシャイツァーか!
「ちいっ!もう一回行きます!タクヤ様も何かあればお願いします!」
「了解!」
多分、火をぶつけたところで無駄。直接、シャイツァーをぶつけてやろう。
「おらっ!こんどこそ爆ぜなさい!」
蹴りと同時に炸裂する爆発。…クリアナさんは技名とか叫ばないのな。ま、よそはよそ。うちはうち!
双刀に炎を纏わせる。今までやったことねぇが、出来るだろ。何せ、シャイツァーはイメージにかなり左右されるんだ。イメージするのは鍛冶屋。炎で鉄を鍛える彼らの姿。多分、実際の工程とは違うが、んなの気にしてられねぇ!
刃を研ぐように炎を纏った刀の背を滑らせる。心なしか鋭くなった気がする。なってなくても、魔力が強まったのか刀の刃がさらに赤く染まった。それをもう一個の方でもやる。これで、準備OK。後は足に魔力を回して飛ぶ! おっ、さすがに二連撃は耐えれなかったか。既に軽ーくひびが入ってる。
「そら!砕け散っちまいな!『赫赫たる灼陽』!」
赤みを増した刀でXに切りつける。推定シャイツァーってだけあって、スパッと切り裂けはしない。だが、少しだけ抵抗があったものの、脆くなっていた部分を起点に両断できた。
「流石です!これで……どうなるんでしょう?」
「さぁ?ですがまた何か変わりはすると思いますよ。なんとか上に戻りたいところですが……」
「お。階段ありますね。ひゃっはー!」
えぇ……。確かに部屋の横に上に行ける階段あったけれども。お。じゃないんよ。罠を警戒していたさっきの姿はどこに。錯覚か何かか?
んーー。俺はどうするべきかね。ここにいたところで無駄だし、戻るか? それとも……、明らかに何かが引きずられてった跡があるから、それを追うべきか。迷うな。ここにいたところで遊兵にしかならんのよな。
ヒャッハァァァァァ!
あー。クリアナさんの声がどんどん近づいて来てんなぁ。どんな速度だ。俺、んな長い時間、悩んでねぇぞ。
「到着ッ! ですっ!」
「はい。お疲れ。で、どうだった?」
「復活しなくなったみたいです!それこそ、私が上に上がったときにはほぼ終わってたくらいに」
「なる」
だから秒速で戻ってきたと。てことは……やらなきゃならないのはエルフさん探しと、習達探しか?
「俺は何したほうがいいとかは?」
「聞いてないです!」
「そら、聞いてないんじゃなくて、おめーが即座に戻ったからだろ」
「ディナン様!」
つーっと滑ってきたディナン様。それを見たクリアナさんはすんごい嬉しそうな顔で飛び掛かって、べしっとされた。少し可哀想ではあるが、まぁ、様式美。
「とりあえず、上に戻ろう。スイッチみたいなものがあったんだ。おそらく、魔物とかをあそこまで運ぶのに使うものだ。それ使って一気に最下層まで行こうぜ。シュウ様達が戻ってこねぇってことは、下らへんにやべーのがいる可能性がある」
「「了解です」」
言うなり勢いよく駆け出していくクリアナさん。せめてこっちです! とかくらい言っていこうよ。
「こっちです!」
今更かい。声をかけて来てもとっとこ進むクリアナさんに続いて上へ。滑る時は割とすぐだったが、登るとなるとやっぱ時間かかるな。
んー、上に戻ってきたはいいが、やっぱ戦闘の跡が生々しいな。死体とかあっちゃこっちゃに落ちてる。件のスイッチがあるって場所は……中央の闘技場? っぽいとこへの通用門かな? そこにラウル様と、何人かの騎士さん達がいる。
それ以外の騎士さん達は闘技場っぽいところを見下ろせる場所にいる。
「クリアナ!こっちに戻ってこなくていい!その辺で良さげな場所に案内してくれ!」
「了解です!」
「了解もくそも、戻ってきたばっかでは?」
「ふふん、私ですよ!それくらいはできるのです!その辺に行きましょ!」
「その辺」はまともな案内じゃないんよ。まぁ、闘技場の際っぽいところで立ってるか。座ると何かあるとマズいし。
「じゃあ、押すぞ!」
「あぁ!押してくれ!」
途端、あたりに響く機械音。俺らが見ている目の前で、闘技場っぽいところの中央の床が真っ二つに割れ……って、え?
「カレンちゃん!?」
何か飛んできたと思ったら、カレンちゃんが矢を掴んで出て来たんだけど!?
「ちょっと後でねー!いっくよー!」
放たれる三本の矢。宙に浮いたままのカレンちゃんを見ていることしばし、矢に掴まって習、清水さんと二人に抱えられた人型が二つ飛び出してきて、少し遅れてアイリちゃんが戻ってき……
ブモオオオオ!
たと思ったら、穴の下からやべー声が響いてきた。まだ終わりじゃないか。




