69話 のぼってくるもの
会場全体を揺らしながら、じわじわと広がっていく会場中央の床。確実に何かが出てくるのだろうが、こっちから何かできるわけもなく。
何せ、探しているエルフさんがまだ見つかっていない。そんな状況で全力攻撃なんてして、エルフさんの死体さえもまとめて消し飛んだら、ワイバーン達を止める術がなくなる。
…ワンチャン、エルフさんを殺しちゃえばあのシャイツァーでできてる空間のつながりも消えるんじゃない? と思わないでもないが、さすがに非人道的過ぎるし、ミスったときに取り返しがつかない。
だから、俺らに出来ることは警戒をしながら中央を見つめ続けることだけ。割と時間が経過した気がするのに、何も上がってこない……? いや、そんなはず……ないよな!
「はっ。舐めた真似してくれるじゃねぇか!」
突如として突っ込んできた何か。それを一歩前に出たディナン様が小さな爆発を持って叩き落す。それと同時に、あちこちから戦闘音が響きだす。
多分、中央はおとり。周囲に存在している一瞬で開く穴から、敵が流れ込んできた。だが、おとりだとしても、中央は上がりきっていない。
周囲の対応はイベア勢でなんとかなりそう。俺らはまだ穴の警戒をしておこう。戦闘音にかき消されそうになっているが、上がってきている音は聞こえて……
「お父さん!お母さん!」
「あぁ!ディナン様!ラウル様!」
「下から何か生き物が上がって来てます!」
叫んだ途端、飛び出してくる赤い虎。ラウル様を狙ったその一撃は、クリアナさんのジャンプキックによって阻まれた。激突する虎の爪とクリアナさんの靴。普通ならとうにクリアナさんの靴がぶっ壊れて押し負けてそうだが、靴がシャイツァーだからか拮抗する。だが、いつまでもとはいかず、両者ともにはじけ飛んだ。
浮いているなら、避けれんだろ!
「「『『風刃』』!」」
「…わたしも」
「ボクもー!」
そこに俺らとカレンが魔法と矢をぶっぱ。アイリも容赦なく鎌をぶん投げる。が、赤虎は九又の尻尾をうまく使い、鎌や矢を掴んで体勢を変えて回避した。切断出来た尻尾はあるが、もう再生された。……殺さないと駄目か。
「っと、させませんよ!」
!? クリアナさんが履いていた靴を脱ぎ去り、投擲。どこからともなく飛来してきた黄色い双頭の鷲の目前で爆ぜた。それで気づいたディナン様が拳で鷲の嘴をぶん殴…ろうとしたが、かすっただけ。両者に傷なく交差が終わる。
そして、中央の床がほぼ完全に上がりきって、さらに敵が追加。何故か既にボロボロの羽を持つ白蛇。獅子の鬣を持つ黒馬。そして、それなりの数の羽のない白い小蛇と普通の尻尾の赤い子猫。
連携して4頭──蛇と鷲の単位は頭じゃないが気にしない──が、攻め立ててくるが余裕はある。俺に四季、クリアナさんとディナン様の4人ででかい奴とは同数なのに、アイリとカレンで6人だ。もっとも、効果的な一打はイマイチ与えられないが。
「はっ!やっぱりしっかり絡んでやがるじゃねぇか!あのクソども!」
「だな!」
「ここへ至る道を隠し持ってた貴族の家紋にいる生き物ばっかですね!蛇が伯爵!虎が男爵!残るが子爵!です!」
なるほど。だから、ディナン様のその発言が出たと。
「その流れで言えば、通路を隠し持ってたのは6人いたはず」
「残る二家はどうなのです?」
「残る二家では、生き物は描かれていませんよ!シュウ様!シキ様!侯爵が王都の防壁たるグラム・ヘルサとそれを守る太陽と月が描かれた盾!男爵が旗!です!」
王都の防壁(盾)に盾を重ねていくのか。そして、旗……家紋に旗とは。旗に何か書かないと所属は明らかに出来ないが。家紋の中の旗にもなんか紋を書いてるんだろうか。
「ちなみに!こんなわけのわからない生き物はわが国周辺にはいませんよ!」
「…わたしも見たことない」
「ボクは知らなーい!」
なら、おそらくこの動物は貴族どもが変身した姿か。貴族どもが倒れたって情報があって、倒れた貴族の家紋と同じ姿をした、普通には生息してないはずの敵がいるんだし。
そうなると、盾の侯爵と旗の男爵は何してんだ? わからないな……。主犯の貴族としか言ってなかったから、その二人は入ってない? いや、ないだろ。侯爵とか6家の中で一番でかいんだから、どう考えても主犯だろ。
となると、どこかにはいるんだろうが……。わからん。てか、貴族が姿を変えて襲ってきているならば、それはシャイツァーによるもののはず。
「ディナン様!あのとき、フランシスカ様の魔法で黒って確定した奴らの中で、シャイツァーを持ってる奴は何人いますか!?」
「侯爵が持ってたのは覚えている!が、その効果までは知らん!し、それ以外も知らん!」
戦闘中ではあれど、会話をする余裕はある。普通に声が届いたのは嬉しいが、知らないのか。
「貴族が全員、シャイツァーを明らかにしないといけないなんて決まりはないしな」
「王族はバレてるのに、ですか?」
フランシスカ様は明らかに狙い撃ちされてたのに。
「あれはしゃーねぇ。証拠として使うには効果を明らかにしないことにはどうにもならん」
「逆に言えば、だ。俺やディナン兄さんのシャイツァーについて、貴族どもが完全に知ってるわけじゃねぇ。もっとも、俺のシャイツァーは戦闘に向かないが」
「ふっふーん。私はちゃんと把握させてもらえている貴族なのでーす!」
戦闘中なのにクリアナさん、胸まで張ってる。それを隙と認識したのか、周囲の白小蛇が一斉にクリアナさんに飛び掛かり、上から黄鷲が急降下してくる。
クリアナさんは足元を爆破し、白小蛇を一掃。その勢いのまま飛び上がってくるりと一回転。飛び込んできた黄鷲と真っ向から激突。ほんのわずかな拮抗の後、黄鷲が押し負けた。
黄鷲は勢いよく弾き飛ばされ、右の頭から地面に激突。そのまま頭をすり下ろされながら滑って停止。え。噓。これであの鷲、死んだ?
「くっはっは!ざまぁみやがれですぅ!そして、さらに得点稼ぎにいそしみますよー!私、ディナン様が把握しておられない貴族家まで把握しています!が、シャイツァーがあるなんて聞いたことないですね!これまで秘匿されてたのではないですかね!」
国がシャイツァーを把握できるようなシステムを持ってるわけじゃないのか。そんなの、市井に超強力なシャイツァー持ちがいて、その人が革命を志したら余裕で負けかねないと思うが。いいのか?
「…補足すると、わたしがいたバシェルでも同じ。…ていうか、ほとんどの国がそう。だって、基本的にシャイツァー持ちは貴族。…例外がいても、勇者でなければ常に携帯してないと駄目。…その時点で、見たらわかる」
なるほど。でも、逆に言うとそこを回避できるなら隠し通すことは可能と。なら、きっとシャイツァーなんだろうな。これ。
悪人と言える奴にまでシャイツァーなんて渡してんじゃねぇよボケ神。……とは思うが、神からすれば人間の善悪なんざ知らんとか、そういう感じなのかね?
「クリアナさん、大丈夫なのかね」
「多分、習君が感じてる通りかと」
「やっぱり?」
あの人、ちょくちょく有能エピソード出してくるくせに、黄鷲をぶち殺してイケイケどんどんになってる。誰がどれを受け持つか? なんて決めてるわけじゃないが、攻撃と攻撃の間のちょっと落ち着いたタイミングに、果敢に蛇や虎を殺しに行ってる。
このままぶち殺してやります! ってやる気十分なのはいいが、ちょっと視野狭窄になっていないか? でかい白蛇と赤虎くらいしか遠距離攻撃してきていないとはいえ、不安が拭えない。
「我が国を蝕む寄生虫は!この!私が!抹殺します!ディナン様のお嫁さんの名にかけて!」
「お前は嫁じゃないし、んなもんかけんな」
「えぇっ!?」
えぇっ!? じゃないが。そして、よそ見すんなし。ディナン様の方をガン見してる場合じゃないぞ!
「「『『岩弾』』!」」
「えっ!?ちょっ!わたっ……あわっ!」
何も言わずにクリアナさんの近く目掛けて魔法ぶん投げたのは悪いが、ほんっとにぎやかな人だな! クリアナさん!
岩弾がクリアナさんの顔面目掛けて飛来してきていた黄鷲に激突。鷲は肉をぶちまけて一撃で絶命した。
「わーお。すみません!」
「よそ見なんてしてるからですよ!」
「後、雑魚の数が全然減っていないんですから、やられても復活しそうなのは読めたでしょうに!」
ほんとにね!
「はっは!すみません!あわよくばを狙うのは駄目そうですね!」
戦闘中に言質取ろうとしてたのか。怖……。もはや新手の結婚詐欺では?
「にしたって、戦いにけぇなぁ!」
「兄さんが閉所で戦いにくいのはいつものことだろ!そも、兄さんのシャイツァーが役に立つような場面は、致命的に王族が立っちゃいけないんだよ」
「だから苦労してんだよ!クリアナ!一回、かますぞ!」
「はいです!」
叫んだディナン様が敵の白蛇や黒馬が集まるところへ突貫。
「ちょっと皆様は下がっていてくださいね!」
クリアナさんがそう言う最中にもディナン様は笑いながら、小蛇や子猫の攻撃をするする躱す。そして、すごい勢いで飛び跳ねると文字通り爆ぜた。
「ちぇいやっとぅ!」
同時に、クリアナさんがバク宙。足裏が前方、斜め45°くらいに来た途端に爆ぜ、衝撃波を相殺した。
……滅茶苦茶するな。二人とも。こっちにダメージはない。他の兵士さん達にもダメージは行ってなさそう。だが、肝心の向こう側がわからない。わからないが、攻撃が飛んできそうだし、
「「『『氷壁』』!」」
あらかじめ防御の準備。ディナン様の攻撃の効果のほどは、
「ちっ、確実に獲ったはずなんだがなぁ!」
声からしてあんまなさそうだ。そして、やーっと爆風が晴れて見えるようになってきたが、その透明な氷の向こうも特に変わった様子はなし。小蛇、子猫は兎も角、でかいのは健在だ。
獲ったと言っているのにあのざまってことは、黄鷲のように復活でもしたか? それはそれとして、あの爆発にも関わらず、闘技場には傷一つ付いていない。もうちょっと雑にやっても構わなさげ。ギア上げよう。
「しゃぁねぇ!いっちょもう一段階火力をあげ「ディナン様ー。さすがの私でもそれは止めますよー!火力上がることで誤射の可能性が上がりまくりますー!」無理か!」
「無理です!私ならできますが!ディナン様もなんかこう……いい感じに調整してくださいよ!」
漫才しながらもあの二人は余裕で殺していってる。黒馬も黄鷲もなんかちょっと機動力が高くて防御力がある生き物でしかない。小蛇や子猫という数はこちらにいる騎士さん達でほぼ封殺できてる。
全部ではないから混ざってくるが、誰にとってもほとんど脅威じゃない。俺らも「当てそこなっても多少は平気!」と遠慮なくぶっ放している現状、さらに脅威じゃなくなった。勿論、油断すると寝首をかかれかねないし、これが永久に続くなら俺らがガス欠するが。
やっぱ。どこかでこの敵が復活するループを断つ必要がある。だが、その方法がわからない。中央の床は確実にどこかに繋がっているが、下げ方がわからない。最初に小蛇とかが飛び出してきた小窓は開きっぱなしだが……、そこに突っ込まないといけないほど、事態は切迫していない。
戦闘はこちら有利で拮抗している……のだが、拮抗は言い換えると停滞であるのもまた事実。んんー。迷うな。突っ込むか? この拮抗が延々と続くとは思えない。ないのだが、続いてしまったら、ワイバーンとの全面戦争が起きかねない。
「四季!」
「えぇ!ですが、私も!」
「…知ってた!」
わかってたよ! 言う前から! 全部言わなくても「突っ込んでみる?」って聞いてることを察せるくらい、似た思考回路をしてる四季なら、俺と同じように「相手にだけ突っ込ませるなんてありえない」って考えるってことくらい!
「適当な小窓を選びましょ」
こくっと頷く。まぁ、二人も同時に通れる大きさはないが。それでも、先に四季を行かせてーは、心情的に出来ない。四季もそれくらいは配慮してくれる。
で、やるからにはディナン様達に一声かけるくらいはしていきたいが。それをすると狙いがバレかねない。
まぁ、見てる感じ、余裕そうだしいいか。これが敵の演技だったらやばいが…。ないと信じよう。俺らが必要だったのは侯爵家突撃時、手っ取り早い大義名分が必要だったから。なら、ディナン様達には騎士団だけで抑えきる算段はあっただろ。
何も言わずに駆け出し、闘技場っぽいところの壁際へ。壁に岩槍をいくつかぶっ刺し、それを足場に観客席へ。当然のようについて来てくれるアイリとカレンを引き連れ、観客席中程に存在する小蛇が飛び出してきた穴へ飛び込む。
足を曲げ、手で出来るだけペンと剣が下に来るようにしながら、長い道をシャーっと滑り降りる。ちょっと長いなーと思い始めた途端、通路が切れ、広い空間に放り出された。
特に魔法とかを追加で使う必要もなく、くるっと回転して着地。四季、アイリ、カレンが来るから、さっさとここから離れる。
滑り台形式だったら着いた5秒くらいで立ち上がらないと事故ってるレベルの早さで四季が来て、ちょっとだけ遅れてアイリとカレンも来た。
ふむ。この空間には何もなし……か? 放射状に廊下が広がっているから、その先に尋ね人がいるのか? んー。わからん。小蛇や子猫はこっから来てたはずなんだが。謎。弾切れか? あんな長い落下通路、蛇は兎も角、猫はどうやって上まで上がったんだか。
さっさと探すか。油断しないようにしないといけないが……。うん? あれ? あそこに飾っている盾って、あの侯爵家のやつでは? 滅茶苦茶でかい壁の前にある盾。その中に描かれる太陽と月。盾の中に盾という違和感マシマシだが。
四季の方を見る。目が合って、俺も四季も頷く。よし。やろう。先手必しょ……!?
「盾が逃げたー!?」
「ほんとにな!」
何で魔法をぶっ放そうとした途端、猛烈な勢いで逃げ出してんだあの盾ェ!




