68話 真想天秤
「さて、時間だ」
「では、行きましょうか」
了解です。ディナン様達、イベア王族とルキィ様に従って入場。こういうのって王様が既に待ってるパターンか、後で入ってくるもんだと思ってたけど、同タイミングなんですね。ちょっと意外。
会場に入って目に飛び込んでくるのは一段下がったところにいるたくさんの人たち。この人らが全員、貴族だと思うとなかなか壮観。
オスカル様がどかりと玉座に腰掛け、その左右をディナン様とラウル様が固め、ディナン様の横にフランシスカ様。そして、真横にルキィ様がいてタク、俺、四季、アイリ、カレンが続く。
わかっちゃいたけど、相変わらず俺らの立ち位置が高いなぁ。
「さて、それじゃ細々した前説明は要らないよね!今回はルキィ様達が来てくれたよ!」
優雅に一礼するルキィ様。その横で軽く俺らも挨拶。それを見届けた途端、さっそくとばかりにディナン様がルキィ様や俺らに挨拶するために貴族たちに前に来るように促す。
順番に貴族たちが挨拶を始める……かと思った瞬間、彼らの足元が円形に光る。それと同時に後ろの入場用のドア、左右の使用人が通るための通路から騎士が溢れ出してきて、周囲を囲む。
貴族の反応は様々。一切、動揺していない人。ちょっと動揺している人。慌てて「貴様ぁ!?」と発しながらこちらを睨んでくる、明らかに王族にしていい態度じゃない人。範囲外に逃れようとあがいて、騎士に阻まれる人。色々だ。
動揺していない人が1.5割。ちょっとが2.5割。貴様! が4割。逃げる人が2割。やべーのの比率の合計が6割は笑えない。
光が収まってくると、下から円形の黒い皿が飛び出てくる。その皿は俺達と同じくらいの高さ、もっと正確に言えばフランシスカ様の目線まで上昇。フランシスカ様は黒い皿が外れた天秤を片手で持ち、目線と同じ高さに掲げ、
「王都闇市へ通じる道を隠しているものは?」
と問うた。それと同時に天秤の残った白い皿が勝手に動き出し、黒い皿の上にいる人々を見定めるように妖しく輝く。一拍の後に何事もなかったかのように消え去り、黒い皿も地表に到達すると同時に消えた。
これが、フランシスカ様の心を読む魔法か。明らかにヤバそうな不良貴族だけでなく、まともな貴族まで巻き込んじゃったっぽいが、いいのかね。
あの魔法は精神にダメージが来るのか、しばし呆然とする貴族達。しかし、数拍ののちに彼らは我を取り戻す。そこからの対応は様々。だが、一番、目立つのはわめく貴族。だが、要約すると「真想天秤を断りなしに用いるな!大憲章を無視するな!?」だ。
フランシスカ様のシャイツァーって『真想天秤』っていうのかー。このざまなのに段差を上がってくる奴はいないのかー。……なんて、現実逃避をしている場合じゃないか。
「ご安心ください」
俺が口を開くと数秒で喧騒が止む。マジか。不良貴族でさえ勇者の言葉は聞きたいのか。そりゃあ、巻き込もうとするわな。
「今回の魔法の行使は俺らが依頼しました」
「放置していれば、イベアにワイバーンが大量に来襲します。そうなればイベアは大混乱に陥ります」
「イベアが北の防波堤の役目を果たせなくなれば、俺らの魔王討伐にも悪影響が出ます」
最後の言葉はタクが言ってくれた。さすが。俺らは討伐しに行くかはわかんないからな。俺らの討伐なんて言ったら虚偽になる。
「フランシスカ!それで、どうだ?」
「少々時間をくれ。兄上。さすがに問いを投げかけることで、精査せねばならぬ量を減らしたとはいえ、全員はきつい……」
あ。やはり疲れるのですね。であるのなら。
「「『『回復』』」」
四季と手を繋いでいつも通りに発動。これで少しはマシになるはず。
「道が確実にあるのはランラーゲン侯爵、ローホリーン伯爵じゃの。それ以外はカスティレゲロ男爵に……」
あげられた名前は6人。侯爵1, 伯爵1, 男爵2, 子爵2。「なっ!?」とかいうからすんごい位置が分かりやすい。そして、俺視点「あ。こいつ信用できないわ」ってやつばっか。侯爵と伯爵はちょい怪しいが……。タクなら余裕でダメ判定するんだろうなぁ。
しかも、さっきの状況的に今、名前を上げられているのは闇市への通路を持っている貴族。こっそり参加していた貴族はきっともっと数が多いんだろう。
っと、求められるだろう役割を果たさないと。
「ディナン様。フランシスカ様。闇市に参加していた貴族を絞り込むのは後にしましょう」
「時間がありません。直ちに突入して、件の人物を探しましょう」
貴族は全員、集まってるとのことだから多分、大丈夫だとは思うけれども…。証拠隠滅に動かれると困る。
「だね。ディナン兄さん。ラウル兄さん。勇者様。よろしく!」
「任せろ。出るぞ!」
「あぁ!」
了解です。詳しい作戦は決まってないが、大まかな骨子は聞かされている。一番偉い貴族の邸宅にディナン様と突撃。そこから闇市に殴りこむ。以上。わかりやすい。
一番偉いところに俺らが突撃するのは、侯爵って割と上の爵位だから、そこに勤めている人もそれなりに侯爵に忠誠心があるはず。それを勇者信仰でぶち壊そうってこと。ツッコミどころがあるとすれば、ルキィ様まで同行している点。
「閉所なのでしょう?であれば、シャイツァーが役に立つと思います」とおっしゃっていた。けど、どうしても、王女なのに他国の問題の最前線に立っていいの? って思ってしまう。まぁ、護衛にタクがいるし、いいんだろうけどさ。でも、馬で爆走したら危ないから、徒歩ですよ? 普通に走っておられるけど。
っと、到着。んー。王宮ほどではないけれど、微妙に水を使えるんだぞ! アピールしてるなぁ。ここは植物をいい感じに育てて、グリーンカーテンを作ってる。
「そら、門番共。通してもらうぞ」
「え。あのっ。いくら王族とはいえ我らは貴族家で「あ。ごめんね。門番さん。それ、王族だけじゃなくて勇者からの要請でもある」「ついでに付け足しますと、貴方の主は私達の協力で罪人になっています。かばうと連座させられかねませんよ?」あっ、えっ……。どうぞ」
ちょっと戸惑いはしたけど、通してくれた。まぁ、連座はされたくないわな。
「あの、ディナン様、先ほどはあのように言いましたが、実際にされることあるんです?」
「あると思ったから言ったんだろ?シキ様達の想像通りだよ。なにせ、今回の件は禁止されている奴隷を闇市で売りさばきまくってたってことなんだからな。国家反逆罪で余裕だ」
「なら、よかったです」
所詮、道を開けてもらうための言葉とは言え、あんまり嘘はつきたくないしな。
「ディナン兄さん。隠し通路がある場所が確定した。行くぞ」
「了解」
先頭切って歩いていくラウルさんについて、館を進む。歩みに全くためらいがない。たまーに屋敷の使用人さん達とすれ違う。だが、明らかに主人よりも偉そうな人が武装して、兵を引き連れてきているからか、こちらに手を出そうとして来る人は居ない。いるとしたら、筆頭家令くらいか?
「この部屋だな。鍵がかかってやがるが」
「んなもん、ぶち壊しちまえばしまいだろ」
「だな。そらよっ」
かるーい調子でドアに放たれた蹴りがドアに穴を開けた。蹴りが強すぎてドアが吹っ飛ばなかったのかね。
「体当りすっか」
「それなら、我が「いえ、私が!」…お、おぅ」
勢いよく立候補したクリアナさんがラウル様の横をすり抜けた。そして、そのままの勢いでジャンピングキック! 哀れドアは思いっきり吹っ飛ばされて壁に激突。穴から手を突っ込んで開けるってことをするかと思ったが、しないのか。いやまぁ、中に何かいたら危ないもんな。
そして、その考えは正しかった。中から鈍い男のグエッて声がした。証拠隠滅をしようとしてたら、吹っ飛ばされてきたドアに激突されたんだろう。
「あー。やっぱいるにはいるか」
「だな。で、えーっと。あぁ、あそこだな。隠すために謎の仕掛けとかあると思うが、どうする?兄さん。姉さんは来ていないから、そこで伸びてる奴を起こしても、開け方はわからんと思うぞ」
まぁ、この期に及んで証拠隠滅しようとしていたくらいですものね。連座にするぞ! くらいで吐くとは思えない。
「どのあたりに何があるかはわかるだろ?それで仕掛けを起動するための機構は見つけられないのか?」
「少し複雑すぎて厳しいな。シャイツァーで透過させたから、入口はそこの本棚の裏の壁をどかしたとこってわかった。場所はありきたりなんだが、意地でも見つけさせたくないという強い思いがあって」
「そうか。なら、吹っ飛ばすか」
脳筋! でもまぁ、どうすればいいかわかんなかったら仕方ないか。
「蹴破るとなれば、私の出番ですよね!唸れ!私のシャイツァー!全力キーック!」
再放送を疑いたくなるほどに奇麗なキック。本が収められているのもお構いなしに放たれた蹴りは本を棚から弾き飛ばし、壁に着弾。膝をグイっと曲げて壁を蹴って飛ぶ。
そして、執務台の上に着地。きゅるん! なんて謎の効果音がなりそうなキメポーズを決めると、背後が爆発。屋内で爆発なんて使うなとか、何でキメポーズしてんだとか色々いいたいところはあるけれど、なんだろう。この、百引さんか有宮さんを見てる時みたいな、ノリで生きてる感。
「開いてねぇな」
「だな」
「小癪な壁ですね!ですが、ご安心を!この私に任せていただければ、余裕で開きますとも!」
なんて勇ましく言っているクリアナさんだけど、やってることは力押し。ごり押しの極み。蹴りを放ちまくっても全く体勢を崩していないところを見るに、体幹はかなり鍛えられてるんだろう。
蹴りが命中するごとに爆発もしてるし…。いや、これは関係ないか? 本人の魔法なら自分には損害が来ないとかそういう設定も余裕で可能だろうし。
ここまで開かないってことは、おそらく魔法で保護されてるよな。これ。なら、先に解呪の魔法を使った方が良かったのでは?
「りゃりゃりゃりゃりゃほわっちゃ!?あ。貫通しましたァ!では、このままこの辺りをちょちょいのちょいっと」
ちょちょいのちょい(爆破)。家に魔法はかかってないように見えるのに、容赦のない爆破。よく家が耐えれるな。でも、これで道は貫通した。
「では、私はここから援護致しますね」
「あぁ。頼「お頼みします」…」
「頼まれました」
草。ディナン様が頼む前に、ラウル様がさらっと割り込んだ。そのおかげでルキィ様も嫌味を言うことなく受託。ディナン様が「お前、対応違いすぎだろ」って目をしているけれど、ルキィ様はガン無視。というか、タクに頼んで視線を切ってもらってる。
ほんと、二人はどういう関係なんですか…。
「では、突入しますか」
「あぁ」
「なら、私が先手を切って突入しまーす!」
おい侯爵令嬢…。まぁ、いいのかなぁ。めぼしい貴族は王宮にいるとしても、闇市の運営はいると思うんだけど。
無残にも破壊された機構を尻目に階段を降りると、目に飛び込んでくるのは爆発しまくっていたのに傷一つなく無事な階段や廊下。ただの砂岩を固めたような飾りっ気のない道ではあるが、ライトのような魔道具が壁に取り付けられている。
…正規の手法じゃないからか、電気は全くつく気配がないが。
「灯りを持ってきてよかったですー」
持ってなかったように見えたんだが。まっすぐ進むと十字路。気にせずまっすぐ突き進むと、開けた明るい場所に出た。
眼下に広がるのはコロシアムっぽい場所。ここは侯爵家からつながってただけあって爵位が高い人用とでも言いたそうな観覧席。やっぱ普通に人が居るな。こっちに気づいてないっぽいから、同行していた騎士さんたちは無言で下に降りて行った。
まぁ、あの人は任せておこう。そんなことより、コロシアムっぽいところの外周に観客席が用意されているのがやばい。貴族の家からしか来れないはずなのに、こんだけの席を用意してるのか…。んー。だが、やばい品さえもここに運び込んで保管してる疑いがあったんだよな。それなら、そこから入ってる? でもなければ、席を埋めるには明らかにおかしい数の一般人が貴族家に行くことになるが。
…それならラウル様が見つけられそうなもんだが。ラウル様は透視のできるシャイツァーを持ってるはずだし。なのに見つけられなかったってことは、シャイツァーを持ってる奴が絡んでる?
コロシアムっぽいところにずらずらと人が連行されているし、たまーに怒号が響いてる。でも、件のエルフさんが見つかった! なんて言葉は聞こえない。
「ラウル?」
「んー。駄目だ。兄さん。俺のシャイツァーでも隠れている場所らしきところが見つから……ん?」
ラウル様が不自然に言葉を切る。その目線はコロシアムっぽいところの中央に注がれている。そして、この会場が揺れている。
「ディナン様!王宮で貴族家の捕縛を行っていたオスカル様から、主犯の貴族家当主が意識を失ったとの連絡が!」
飛び込んできた伝令の兵士さん。なるほど。多分、決戦だな。




