67話 悪だくみ
明らかに俺らを巻き込む気満々のフランシスカ様とディナン様。でも、お二人の話題に出た刻限まではまだ時間がある。
「ではでは、ディナン様!クリアナが皆様を案内いたしますね!」
「ルキィ様は既に部屋は知っているだろうが」
「もー。そういうのは言わないお約束ですよー!」
ルキィ様は人間領域最大の国、バシェルの王女様。となると、使う部屋の格式なんてよっぽどのことがない限り最上級で確定。ディナン様との掛け合いを見るに、イベア王宮に来たことがないわけもなし。場所なんて既に把握されている。
けど、俺らは知らないし、他国の王族をほっぽり出すなんてことは出来ない。さすがに王宮内では迷子にならないクリアナさんに先導されて、目的地に到着。
勇者だからか、ルキィ様の部屋と遜色ないレベルの部屋に案内された。ふっかふかのカーペットやらソファやらが置かれた部屋で、中庭に面しているから窓の外には水が流れ落ちている。水の透明度が高いから、窓際付近ならば灯りはなくとも十分に本が読めそう。
「あ。シュウ様。シキ様。今晩、ルキィ様の歓迎会に参加していただきたいのですが、よろしいですか?」
恐々という様子のクリアナさん。ご安心を。こちらに否はないです。…拒否ったところでディナン様、フランシスカ様の様子を見る限り、土下座してでも引きずり出されそうですし。
「よかったです。では、一緒に服を見に参りましょう」
「夜会は今晩ですよね?間に合うのですか?」
オーダーメイドなら間に合わないはず……。あぁ、でも、王宮だし服の予備くらいはあるか。…あるのかな。
「大丈夫です。これでも我が国は北方の大国。メピセネ大砂海の抑えです。服飾の国、シメリーノープから買い付けた服が多数ありますとも!」
「それを俺らに提供することに不都合は……ないですよね」
なかったら見に行きましょう! なんてクリアナさんが言い出すはずもなし。…ないよね?
「ないですね。と、言いますか夜会に出ていただくにあたり、お持ちの服で出ていただく方が我が国にとってよくないのです。特に勇者様は。それ以外は場面によりますが。もっとも、シュウ様家族が招待客であるか否かという問題はなくもないですが」
俺らが招待客かどうかは微妙ってのは、正式には俺らがルキィ様の同伴者じゃないからか。
「あの、服を見に行くのは構いませんが、自前の服を着させないというのはいいのですか?私達は既にディナン様達のことを知っていますので、疑いはしませんが…。外部から来た人に服を着せるってそれ、服に何かを仕込んで暗殺する気か!?とかならないんですか?」
「……確かに?勇者の皆様には服を送るというのは、風習ですので気にしていませんでしたが……。その恐れは皆無ではありませんね」
「あぁ、勇者限定でしたか。それなら、まぁ」
納得はできますね。勇者は召喚された当初、着ている服以外は持っていない。それを補うため、勇者が恥をかかないようにするための風習と考えると、納得できないでもない。
もっとも、いくらこの世界の勇者信仰が厚いとはいえ、逆心を抱く人が皆無だとは思わないけれども。それでも、それが続いているのは勇者をそうやってぶち殺したとして、逃げきれる未来が見えないからなんだろう。
「あの。クリアナさん。アイリちゃんやカレンちゃんの服もいただいていいのですか?」
「勿論ですよ。シキ様。特にカレン様は勇者の見た目とかけ離れていますが……、間違いなく勇者であるお二人の娘です。我々が服を提供することに否はありませんよ」
ですか。では、ありがたく……と言いたいけれど、
「あの、俺以外全員、女性なんですが」
「ご安心ください、シュウ様。シキ様やアイリ様、カレン様への支援は私がさせていただきますが、シュウ様には別の人を付けます。既に部屋の中で待機しておりますので、入って指示に従ってください」
「了解です」
よかった。俺と四季は家族……すなわち夫婦という体ではあるけれど、実体はまだ恋人でしかない。そんな状態でいきなり裸ってのはちょっと刺激が強すぎる。
…アークラインのは事故なので除く。
「何してんの?」
「あ。ディナン様」
部屋からにゅっと首だけを出されてる。邪魔かな? 脇によっとこう。
「?何してんだ?早く入れ」
「あ。はい」
俺を先にいれて……ってわけでもなさそう。普通にドアをパタッと閉めたし。
「さ、服を選ぶぞ」
「え?まさかディナン様が選ぶんですか!?」
「そうだぞ」
「えぇ……」
何で? ディナン様、王族じゃん。王族にそんなのやらせるのおかしいじゃん。高位貴族令嬢とはいえ、既に次期当主が決まってるであろうクリアナさんとは立場が全然違うんですよ!?
「諦めろ。習。俺も選んでもらった」
「マジかよ」
タク。お前もいたのか。タクが選んでもらってるなら……諦めるかぁ。
選んでくださったのは体全体をすっぽり覆うような服。社会の資料集とかテレビとかで、砂漠を歩いている人がよく着ているイメージがある。ほぼ真っ白だし、選ぶとはという感じなのだけど……。
「装飾品も選んでいくぞ」
「何かつけるんですね」
「勇者様だしな。あぁ。我は今、二人に着てもらおうとしているような服を着ていないが、それはさっきまで騎士として動いていたからだ。心配せずとも、夜会にはその服を着るさ」
「「心配はしてないです」」
別に皆さんがどんな服を着ようが、イベア王族の皆さんは信用できると思っていますから。不意打ちなんて心配していませんよ。
「そうか。とりあえず……、んー。クリアナと喋っとくべきだったか?まぁ、いいか。あいつならきっとあれを選ぶだろ」
ツッコミ待ち? 何でこの人、クリアナさんと結婚は嫌だとか言ってるくせに、通じ合ってるようなエピソードをさらっと口から出してんの。
これで通じ合ってなければ笑うけど……、何故だろう。クリアナさんだし、意地でも合わせてきそうな気がする。
「よし、選べた。後は着付けだな。トイレとかは大丈夫か?まぁ、別に着ても普通に行けるが」
「「大丈夫です」」
「そうか、なら、さっそく着替えていこうか」
はーい。………?
「ん?脱げよ」
「え。あの。ディナン様がやるんですか?」
「そうだ。何か問題でも?」
思わずタクと顔を見合わせる。だよな。タクも問題しかないのでは? って顔してる。服選ぶだけでもあれなのにそこまでされるんです?
「安心しろ。我は長兄だぞ。長兄として、ラウル、オスカルの世話をしたことはある」
それがまずおかしいのでは? 普通、王族ならメイドさんとか執事さんとか……あ。あー。これ、あれかな。アークライン神聖国パターン?
あっちは暗闘でカーチェ様とブルンナ以外がぶっ飛んだけど、こっちも政治情勢絡みで、王族勢が自分以外を信用できなかった? ……あぁ。大憲章の説明の時に、王族と公爵級が吹っ飛んだっておっしゃってたな。
だからか。基本的に自分たちの身内しか信用できなかったと。…そう考えるとクリアナさんすごいな。よくそうなったディナン様の心理的障壁ぶち破ったね!?
「ほら、シュウ様、タクヤ様の着替えが終わったから、こっちに来てくれ」
「あ。はーい」
諦めてやっていただく。とは言え、着用に難しいことはあんまりない。服は上下一体になっているスカートみたいなもの。脚まで真っ白な布があるおかげで胴体部分がめちゃ長い以外、普通のシャツと変わらない。そこに、頭部を覆うようにターバン? を巻いて終了。
「で、後は……タクヤ様はこれとこれ。シュウ様はこれとこれだな」
俺もタクも右の肩から左の腋の下を通るように金色のチェーンを通す。ルビーかオパールでもはめ込んでいるっぽい太陽のような円がアクセント。
そして、タクの胸元には水を象徴しているのか、シルバーのドロップのブローチ。俺の方はなにかよくわからないブローチ。青い色をしているから、サファイアかアメジストだとは思うんだけど……、何でこれ、一部の断面がギザギザしてるんだろう。
「これでよし。後はまぁ、クリアナ次第だな。クリアナー!終わったかー!?」
こっちは二人。あっちはこっちにタクがいるんだから、ルキィ様もいるはずで、合計4人。終わるはずがないのでは。
「終わってますよー!」
終わってるんかーい! すごいな。クリアナさん。何で終われるんだ…。てか、女性は着替えに時間がかかるんじゃなかったの。
「どーです!?まぁ、伝統衣装なので肌の露出なんてほぼないですけれど」
ですね。皆、今の俺らが来ているような服を着てる。でも、色合いが俺らのとは違ってカラフル。基本的に単一色だけど、アクセントなのか小さな宝石が散りばめられている。
ルキィ様は黄金色の布に王族の権威を示す為か青系の宝石。四季は水色の布に若草を思わせる碧の宝石。アイリは目の色と同じ赤に髪と同じ黒い宝石。カレンは髪と同じエメラルドグリーンの布に黄色の宝石。
赤目のアイリに赤い布というチョイスに思わないことがないでもない。けど、四季がいるのにそれででてきたってことは、そういうことなんだろう。
頭の部分は意外なことに布はなし。砂漠に出るわけでもないからか、おめかしを優先しているみたい。
ルキィ様はティアラっぽい飾り。四季は星があしらわれた髪飾り。アイリとカレンはお揃いのエメラルドっぽいものがクローバーに見えるように配置されている金の髪留め。
後、頭の装飾以外に、ルキィ様以外は俺らと同じ金のチェーン。四季だけ、胸元に俺と同じような青い一部がギザギザしたブローチを付けている。
皆、いつもと雰囲気が違っていて可愛らしい。…ルキィ様に可愛らしいというのはアレな気がしないでもないけれど。
「どうです?ディナン様。私の仕事は、完璧でしょう!?」
「まぁ、そうだな。特にシキ様に「でしょうでしょう!?もっと褒めて!褒めてください!」よるな!鬱陶しい!」
「あひん!」
そりゃ、あんだけぐいぐいいったら冷たくあしらわれもしましょうよ。てか、四季へのクリアナさんの仕事が完璧? ……あ。なるほど。察した。
このブローチ、四季と俺のギザギザしている部分を合わせると、奇麗な雫形になるんだ。伴侶がいるってことを示唆するものだったのか。意識すると少しだけ恥ずかしい。
「そういえばディナン様。私も王族の皆さんの方針に明確に異は唱えません。が、勇者様のお力をお借りするのです。事前説明はしませんと不義理では?」
「クリアナの言う通りか」
「あ、説明してくださりそうな雰囲気ですが、だいたい察していますよ」
「勇者のわがまま。そういう感じの体で何かをするのですよね?」
誰が何をするのかは知りませんけれども。
お。予想が当たってるみたい。目を丸くしている。
「どうです?勇者様は頭も回るのです」
「なぜルキィ様が得意げなのかはわからんが…、おっしゃる通りだ。フランシスカは魔法を使えば心を読むことができる。「ワイバーンの襲来を何としても避けたいから、フランシスカの魔法で闇市の場所を明らかにしたい」そういう筋書きをお願いしたい」
使おうとしている魔法が思ったよりも凶悪だった。心読めるんですか…。
「心配せずとも、範囲に限りはある。皆様はその範囲から外れてもらうさ」
「それは心配していません」
し、使わないといけない事情も分かります。…闇市に関わっているような貴族が、ワイバーンが来るかもなんて情報ごときで動かないだろう。「ワイバーンが来ているという状況を活かした策だ!」とか思うやつもいるだろう。何しろ、やってることが犯罪なんだから。
「俺ら……それこそタクも四季も心配しているのは一つです」
「ディナン様。いかに大憲章の成立過程がゴミとはいえ、法は法。それを勇者という外部勢力の横やりで無視してしまっていいのか?ということです」
「勇者がいれば法律は無視できる──その前例を作ってしまうことになりますよ?」
聞いたところで「うん」という気しかしないが。何しろ、この世界の勇者への信頼度が高すぎる。
とはいえ、「前例を作ってしまう」その恐ろしさを理解しておられるのかどうか。それは確認しておかないと。…さすがにしておられるだろうけれども。
「あぁ、大丈夫だとも。その危険性は承知している。その言いぶりからすると、勇者様の世界も前例があるほど、動きやすいのだろうな」
「ですね」
一概にそれが悪いとも言えませんが……、保守的な傾向が強ければ強い組織程、前例主義。前例があればすぐに動こうとするが、前例がなければ頑として動かない。そういう例は大きいのも小さいのも枚挙にいとまがない。
「一応、私達……あぁ、私と習君ですけど「安心して。多分、俺もだから」ですか」
まぁ、この辺は俺もタクも似たり寄ったりな思想だし。四季はタクとあんまり関わりがないから、そう言い切っていいか確信が持てなかったんだろうなぁ。
「多分、違うぞ」
小声で耳打ちしてくるタク。ほんとに?
「習君ー」
「あ。ごめん。続けよ」
「はい。私達の思想としましては、「そういう前例を作った場合、敵対者がそれを運用する立場に立った際も、問題は生じないか?」という観点に立つべきというものがあります。それでも、問題ありませんか?」
勇者で何でもひっくり返す。その前例は作っちゃまずい気が…。
「安心してくれ。既にある」
うわぁ。うわぁ……。既に誰かやらかしてたのか。
「そして、前例を作る危険性も理解しているとも」
「であれば、こちらとしては言うことはないです。協力しましょう。あ、二人もだよな?」
タクの問いに俺も四季も頷く。ひっくり返した例があるなら、もう気にしても仕方ない。今後、出てくるかもしれない勇者がまともなことを祈ろう。
「助かる。では、少しの間のんびり……いや、忙しいかもだが、フランシスカも呼んで打ち合わせしようか。時間が来たら皆で行こう。夜会という名の戦場に」
了解です。さて、武力なしで済むかな。済まないかな。




