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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
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66話 スポルト

 翌日。宣言通り1の鐘(6時)ごろには全員、起床。本来、この部屋は料理を持って来てくれる部屋ではないのに、俺らが勇者ってわかっているからか、わざわざ持って来てくれた。



 食べきったらやることもないし、お皿を持って下へ……と思ったけれど、アイリに止められたのでやめておく。



 エレベーターとかがあるわけでもなし。めっちゃめんどくさいのにやってくれたんだし、帰りくらいは……という思いの前半部、エレベーター云々はあっちにも当てはまるわけで。



 移動の手間はないけど持ってこさせる手間が増えた! ってなるものね。ほんと、勇者の権力が強すぎる。慣れると堕落しそう。



 そんな一幕もありつつ2の鐘(8時)には全員集合。さすがのクリアナさんもディナン様が言っていたように、迷子にはならなかったらしい。



 かるーくルートの打ち合わせをしたら出発。バーン様との交渉……っぽい何かの結果、時間がない。だから、現在地アバレンスと首都スポルトの間にはサロネラブという街があるけど、泊まることはせず、早めの昼食休憩くらいで出立。



 ごつごつした岩と砂が混じるちょっと走りにくい道をセン達は軽快にかっ飛ばして、5の鐘(14時)より前にはでかい壁が見え始め、鐘がなってしばらくしてからようやく、スポルトの外壁に到達。



 砂漠でよく見る気がする一切の継ぎ目が見えない白っぽい岩? でできた門をディナン様、ルキィ様の権威で秒で突破して中へ。



「皆様!ここが、私達の誇るスポルトの街です!」

「クリアナ。(おれ)も自慢したいところだが、後だ。時間がない」

「ですね。後で見れるので、急ぎましょう」

「むぅ。絶対ですよ!」


 ぷくっと膨れるクリアナさん。そして、それを優しい顔で見ているディナン様。お二人は本当にこの街がお好きなんだろう。特にディナン様。いつもの彼なら今にも飛び出しそうなクリアナさんを押さえつけるために首根っこひっつかんで、強引に座らせてもおかしくなかった。



 街中だから、ちょっと速度を落として移動。馬車や人の喧騒が絶えず聞こえ、鼻にスパイスっぽい芳醇な香りが漂ってくる。



 進んでも進んでも、音や香りは強くなったり弱くなったりを繰り返しこそすれ、一定値を下回ることはない。



「ねー。水の音、しなーい?」

「水の音?」


 耳を澄ませてみる。……聞こえないな。なら、『身体強化』……んーーーあ。確かにする。さらさらと流れる音だけじゃなくて、吹き上げるような音がしてるような。



「カレン、耳がいいのね……」

「エルフだからねー!」


 あんまり外で言いふらさないでね……。バレるとめんどくさいかもだし。



「その水の音は(おれ)らの象徴よ」

「です!もうちょっとで見えてきますよ!」


 徐々に喧騒と香りが弱まり、水の音と匂いが強まっていく。途中、ひときわ大きな水のじゃあー! という音が馬車のすぐ横で鳴ったけど、そこで止まることなくさらに馬車は奥へ。しばらくしてようやく馬車が止まる。



「到着だ。降りるぞ。クリアナ。少し皆の応対を頼む」

「超任されました!」


 めちゃ不安だぁ。ディナン様もそんな顔をされた。けど、忙しいのか苦言をぐっと呑み込んで、外に先に出られた。



なら、俺らも降りますか。おぉー。外に出た途端、目に飛び込んでくるのは砂漠の中にあるにはあまりにも不釣り合いな光景。



馬車が通ってきたであろう道の両脇に噴水があって、高くまで水を吹き上げている。それだけじゃなく、王宮っぽいこの建物の等間隔に並んだ茶色い石の柱の隙間から、水が絶えずどばーっと流れてカーテンのようになっている。



道のところに橋が架かっていて、防備のための堀があるっぽい。その堀はこの光景を見ている限り、空堀ではなくて水堀なんだろう。砂漠のはずなのにこの周辺の水量がえっぐい。



「水がいっぱーい!」

「これこそが我らイベア王家の力なのです!」


 でしょうね。スポルトがあるのは砂漠のど真ん中。オアシスのそばであるとはいえ、水が超貴重であるというのに変わりなし。これだけ水を贅沢に使えるということが、力の誇示に繋がる。



「どこから水をー、ひっぱってきてるのー?」

「すぐそばの湖です!『アルウェラ湖』と言うんですよ!」

「それの源はー?」

「源流ですか?詳細はわかりませんが、地下水脈があるっぽいですよー。そしてその水脈はファヴェラ大河川から来ているっぽいとか」


 言ってくれるんかーい。オアシスをなす湖の源流ってこの国にとって超機密じゃないんですか!? …あ。機密っぽい。ルキィ様は聞かなかったことにしようとされているし、いつの間にか戻ってこられたディナン様は変な顔をされている。



 何で距離を取ってしまったん……あぁ。用事って誰かとの打ち合わせだったのですね。隣に女性がいる。



「兄さま。ちゃんと手綱は握っておかぬか」

「え。握ってくれるんですか!?」


 うわぁ。クリアナさん、どこから取り出したのか自分で自分の首に首輪をして、それに繋いだ紐を持ってぐいぐいとディナン様に迫ってるし。握る(物理)じゃないんですよ。



「ほら、こう言っておるぞ」

「絶 対 に 嫌」

「ぴえん」

「そういうところじゃぞ。クリアナぁ……」

「どういうところなんですかー!って、そうだ!フランシスカ様!お客様!」

「うん?」


 クリアナさんの言葉でこっちを向いた女性と目が合う。俺らがいることが信じられないのか、目を軽くこすられると、またこっちを見る。気のせいじゃないですよー。俺らもいますよー。



「兄さま?」

「ワイバーンのことが大事すぎてだな…」

「そういうところじゃぞ。兄さま。ルキィ様なら兎も角」

「え゛」


 タクが耐えきれなかったのかすんごい声を出した。俺らからは顔は見えないけど、すんごい顔だったからか、お姫様が噴出した。



「いや、失礼。ルキィ様は……まぁ、あれじゃ。兄さまがさんざんに絡んでおる。この程度の戯れを見せるのは今更じゃ。のぅ?」

「ですね。厳格な公的な場というわけでもありませんし。「な」あ。貴方は別ですよ」


 「なら、俺と結婚!?」とかほざこうとしたっぽいディナン様の機先を、ルキィ様は見事につぶした。



「なぁんで落ち込んでるんですかー!!!!私が居ますよー!!!」

「うるせぇ」

「さて、兄さまは放っておこう。いつものことじゃ」


 あ。マジでほっとくんですね。きゃいきゃいと二人で暴れておられるのに。



「お初にお目にかかります。わたくしは『フランシスカ=ラフエンテ=イベア』。イベア王家長女にして二番目の子供。お気軽にフランシスカとでも呼んでください」


 とフランシスカ様は丁寧に頭を下げた。なら、俺らもしないとね。ちゃちゃっと自己紹介。そんな最中もディナン様とクリアナさんははしゃいでいる。



「ところで、フランシスカ様は何故ここに?」

「勇者様方に様を付けられるのは嫌なのですが」

「俺らにも王族を呼び捨てする気概はないです」


 フランシスカ様の眼鏡の奥にある聡明そうな蒼い目が俺、四季、タクを滑る。



「皆様、同じですか。では、そのように。状況によってはこちらも様付けは致しますが」


 それでお願いします。



「で、先ほどの答えじゃが、兄さまの迎え以上の答えはないの。「対ワイバーンの件」でなどと伝令されてはの。わたくしたちのうち、誰かは出んとな。残り二人は動けぬし」


 なるほど。把握しました。



「そら、兄さま。行くぞ」

「ん?行っていいのか?」

「そろそろ来てもいいと言われていた時間じゃ。ま、別に突撃しても問題ないといえばなかったんじゃが」

「では、行きまぐえっ」


 い つ も の。走り出そうとするクリアナさんがディナン様に首根っこ掴んで静止された。



「お前はもう少し慎みを持て。さて、皆、行くぞ」

「じゃの」

「癪ですが付き合ってあげますよ」


 反省させたいのかディナン様はクリアナさんの首根っこを掴んだまま歩き出す。そこまで早くもないから追いつけるだろうに、「あー追いつけないから引きずられちゃいますー!」感を出してるクリアナさんは何なんだ。



 建物の中を真っすぐに進む。中に入ると水が落ちてきているところは一気に減った。中庭くらいなら水は落ちてきているけど、それだけ。紙とか乾燥麦とか湿気に弱いのもあるからかな。



 階段を上って最奥に到達。守備をしている近衛兵が頷いたのを見たからか、ディナン様は豪奢な扉を勢いよく開け放つ。



「帰ったぞ」

「ご苦労。報告を……と行きたいところだが、初対面の方もいる。ご挨拶を。私は「オスカル。そんな丁寧じゃなくていいぞ」あ。そうなの?それじゃあ、改めて。僕は『オスカル=ヴァス=イベア』。何故か兄さんたちを差し置いて王様やってる生きてる王族の三男にして末っ子です!以降、よろしくね!あ。呼び方は何でも……といいたいとこだけど、変な呼び方されても困るし、無難にオスカルでいいよ!」


 人懐っこそうな笑みを浮かべて、碧の目でこちらを見つめてくるオスカル様。えげつない速度で厳格な態度が崩れた。加減ってものを知らないのってレベル。別に俺らに対してはそれでいいんですけど、他に対してはそれでは駄目では。



「そして、俺が『ラウル=カストロ=イベア』。イベア王家次男にして三番目の男だ。俺もラウルと呼んでくれ」


 ペコっと頭を下げる銀髪碧眼の男性。どっかの騎士さんかと思ってたら、王様の身内でしたか。っと、こちらも自己紹介をしないと。さくさくっとして、終了。



「了解!ほいほい。で、ディナン兄さん。ワイバーンの件って?100字以内で」

「ワイバーンは喋れるワイバーン、バーンのシャイツァーでカスボカラス断崖から瞬間移動をしてきている。目的はうち(イベア)で行方不明になったエルフ、イヴァンの捜索。交渉で後4日は出撃を控えてくれるが、見つからなければまたワイバーンが現れる」

「なる。それでラウル兄さんを戻せっつってたのね」

「あの、俺らにはわからないのですが」


 オスカル様は理解されたようだけど、俺らには圧倒的に情報が不足してます。



「あぁ、ごめんね?75字で説明すると、ラウル兄さんは王都で闇市の調査をしてたの。ディナン兄さんはそのイヴァン何某が闇市にいるって睨んでるから、情報寄越せ!って戻せって言った」

「その割にー、先にオスカル様がー、ラウル様からー、報告を受けてたよねー?」

「二度手間って?そうでもないよ?兄さんたちの報告は大事だからね。すんごく。一回聞いて、もう一回聞いて不足がないかを確認することもできるし」


 オスカル様はそう言った後、毎回はさすがにしないけど。と付け足して笑った。



「…だとしたらディナン様を待たせた意味はなかったのでは」

「それはそうだけど、時間が合わなかったのが悪いよ」


 それを言われるとこっちはなんも言えないですね。



「で、ラウル。どうなんだ?」

「貴族どもが邪魔。地下に巨大空間があるのは確認した。だが、そこに辿り着くための道は貴族の邸宅にある。俺らじゃ踏み込めん。しかも、道があるから犯罪者って認定するにしても、その道をその貴族が知ってるかどうかがわからん」


 明らかに何かありそうな空間はあるけど、そこには行くための道がないと。いや、正確にはあるにはあるけど政治的にないと。



「巨大空間の位置がわかっているなら、どこかを適当に掘って繋げたらダメなんですか?」

「してもかまわんが掘っている間に逃げられる。後、間に合わん」

「ですか」


 間に合わないということは、一気に掘ることが出来る人もいないと。なら、取れる手は一つ。合法的に道のある貴族の邸宅から、その道をぶち抜く必要があると。…んなこと出来るのかな。あ。それなら、



「その巨大空間って、推定闇市を行うための場所ですよね?商品となるものはどこに保管しているんでしょう?いくら参加者が脛に傷があるといっても、一応、貴族なんですよね?危険物を王都に保管しているとは思えないのですけれど」


 先に四季が言ってくれた。だよね。保管庫があるならそこから闇市会場に行けそうだよね。



「いい着眼点だ。シキ嬢。だが、少なくとも俺が見ている限りは、やつらその辺の配慮はゴミ箱に捨ててやがる。王都周辺にはそういう保管できそうなものはない」


 危なそうなやつも王都にこっそり運び込んで、闇市にまで持って行っていると?



「門の管理体制に問題ないですか、それ?」


 スポルトは壁に囲まれた城塞都市。どう考えてもやばいものを運ぶのに物理的に壁を越える……なんてことはしない。なら、ルートは正面突破しかないはず。誰か腐れ貴族とずっぶずぶの担当者がいないとそんなことにならないでしょ。



「それは!そう!」

「「「えぇ……」」」


 オスカル様が壊れた。「それは!」で急に立ち上がってキメ顔で人差し指を天に立て、「そう!」で親指と人差し指を顔に沿わしてキメ顔。なーにやってんすかね。



「こいつ、時々こういうとこあんだ」

「気にしなくてよいぞ」

「だな」

「だったら王様やって?」

「「「嫌」」」


 悲報 オスカル様、王様を押し付けられてる。



「どうやって王様決めたんですか」

「適性を見たらそうなった」

「ほんとにー?」

「そうじゃぞ」


 タクとカレンの問いに一切、迷いなく答えるディナン様とフランシスカ様。少なくとも、そこに嘘はないらしい。まぁ、ディナン様は王よりは前線出るほうが向いてそうですもんね。



 ラウル様、フランシスカ様はわからないけど。



「しゃぁねぇか。時間もねぇし。フランシスカ。貴族どもを集めることは可能か?」

「可能じゃの。何せ、ルキィ様が来られるのじゃから。昨日の連絡の時点で、今日の晩に晩餐会じゃぞ」

「この状態で、ですか!?」


 期限を切られたってのはディナン様、お伝えされてるはずですよね!?



「一日くらいならルキィ様の近衛隊はいなくともなんとかなるという判断じゃろ。愚かじゃが」

「勇者諸君が呆れる気持ちもわかる。故に、(おれ)らも強硬策で行くか。フランシスカ。罠にはめるぞ。準備しろ」

「兄さま。その妥当性は……なんとかなるか。承知した」


 俺ら、何も理解していないけれどフランシスカ様はこっちをちらっと見ていた。何をするかはわからないけれど、絶対、巻き込まれるんだろう。

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