62話 再襲撃
「ワイバーンが北方でも隊商を襲撃した?確かか?」
「はい!間違いありません。隊商の生き残りがそう証言しておりますし、何よりアゴンからも目視出来ました」
情報の精度は高そう。…南に来るって思ってたのに、外れたか。
『ガランガランガラン!』
時刻を伝える鐘が、常とは違う響きで打ち鳴らされる。
「敵襲だ。ルキィ様。手伝ってくれ」
「一つ貸しですよ?皆さん。行きますよ。近衛も!」
近衛さん達、ほんとに大丈夫なんですかね。ディナン様の頼みだけだと嫌そうな顔をしてたのに、ルキィ様に頼まれた途端、手のひら返したんですけど。
宿の外は夜なのに鐘が鳴っているから慌ただしい。しばらく走っていると向こうから衛兵さんがやってきた。
「ディナン様!お力をお貸しください!」
「当然。おい。走るぞ。そのまま情報をくれ」
「承知です。隊商は馬車4台。全て列をなして敵であるワイバーンの群れから逃走中。数ははっきりとは不明だそうで」
まぁ、暗いものね。でも、だそうで。とは?
「何故、そんな曖昧なんだ?」
「隊商がワイバーンを見かけたらしく。襲われると思った隊商が、先行して助けを出したようで。その者からの情報です」
なるほど。直接見たわけじゃない&暗くなってきてるのダブルコンボがあったから、曖昧と。
「その隊商はこちらに逃げてきているのか?」
「はい。本日中にこの街に到着する予定だったそうなので」
その言葉に聞いた全員が微妙な顔になる。
焦りすぎだなぁ。ほんと超強行軍では? 何しろ、俺らが夜ご飯食べようかってなってた時間でもそれなりに遅い時間。そんな時間でさえ到着してないんだから。
「であれば、街の外周まで行けば見えるか?」
「かと思われます」
「ディナン様。ワイバーンはどのように迎撃なさるおつもりで?」
「はっ。決まってんだろ。ルキィ様。我に閉所での防衛は出来ん。打って出て迎撃する」
ディナン様が得意なのは周囲を巻き込む系の技とか魔法か?
「ですよね。ならば、私の魔法はあまり力になれないでしょうね」
「ルキィ様はこのような開けた場所で、短期決戦が望ましい局面は不得手だからな」
「私は行けますよ!」
クリアナさんがはーい! はーい! とぴょんぴょん跳ねて存在を必死にディナン様にアピールしている。走ってんのに何やってんだろうね。
アピールされているディナン様はすんごい微妙な顔でクリアナさんを見てる。
「クリアナさんは駄目なんですか?」
もしそうなら、じゃあ何ならできるの貴方ってなりますが。
「いや、ちゃんと戦えはする。戦えはするんだが……手分けして戦うとかはまずきつい。俺を見失ったらどこに行くかわからん。見失わなければ戦えるんだが」
戦闘中でさえ迷子になるんですか…。
「そのレベルで方向音痴が極まっているのに、よく街とはいえ単独行動許可しましたね」
「許可してねぇよ。勝手に我の役に立てそう!っつって、突っ走ってくんだよ。案の定、迷子になるがちゃんと仕事はすんだ。こいつ」
「えへへー」
褒められてないんですが。何で照れてんですか、クリアナさん。そんな無駄な会話をしながらも街の端に到達。敵は、
「ディナン様!隊商とワイバーンがやってきています!」
「了解!てめぇらは街の防備を固めてろ!」
どこにいるか探そうと思ったら、監視塔の上から声が降ってきた。暗いのによく見えるね。
壁の周辺は街というのもあって灯りがたかれているけど、街から出ると月しかなくて暗い……って、あぁ。あれかぁ。単純に地平線の問題か。姿は見えないけど、がんがんに点けてるだろう灯りの一部が漏れ出てる。
となると、ワイバーン達も見えておかしくないが……あー。うっすら見える? 隊商の持ってる灯りがワイバーンにまで届いて、それがうっすらと空に影を映し出してる。そんな感じ。
火球でも吐いてくれればもっと見えるんだろう。それがないってことは、上空から一方的に火球で嬲るってことはしてないのか。
隊商を襲うんなら、明らかに火球でいじめるほうが効率いいだろうに、何を考えてるんだ?
「シュウ様。シキ様。そこのそいつをワイバーンのところまでぶっ飛ばすことは可能ですか?」
「「え?」」
あの、ルキィ様。どういう意味で? まさか、戦闘に乗じて暗殺を試みられるおつもりで?
「?あぁ。失礼。こいつの魔法について話していませんでしたね。こいつの魔法は全方位無差別攻撃なのです。ですから、可能なら砲弾のようにぶっ飛ばすほうが色々と楽だなと」
「ルキィ……。それはそうだが、言い方ってもんがあるだろう?」
「気のせいです。後、様」
何をどうしたら気のせいになるんでしょうか。わざわざ口には出しませんけれども。
「今はいいだろうに。で、シュウ様。シキ様。出来るのか?出来ないのか?出来るなら頼みたいが」
「まぁ、やれと言われれば出来ないことはないです」
「力技にはなるでしょうけれども」
残念ながら、瞬間移動とか出来ないし、膂力を超強化してディナン様をぶん投げるとかは出来ないけれども。
「ふむ。どうするんだ?」
「『岩槍』とか『岩弾』とか、そういう実体のある魔法に発射した瞬間に掴んで乗っていただく。ですかね」
「なるほど。発射せずに魔法を待機させることは可能か?」
脳筋手法ですが考慮してみるんですね…。発射せずに維持……いわゆるホールドみたいな感じかな?
んー。今までホールドを意識したことがなかったから出来るかどうかわからないな。
「ちょっと四季と話しますね」
「構わん。だが、歩みは止めんぞ」
「勿論です」
待ってる間も隊商もワイバーンもよってきますものね。
「で、四季。出来ると思う?一応、俺らは梯子とか壁は作れるようになったよね?」
「ですね。ですが、あれはその場に出すだけです。あれは出した後に動かせません」
だね。あれは明らかに『設置』するって感じ。
「発射したいとなるときっと、攻撃魔法であることは必須」
「ですが、攻撃魔法ですと、今のところ一回、こう動いてほしい!ってベクトルを与えてしまいますと、そのベクトルを変えることは出来ません」
「うん。だから、出して留める!って工程を挟むと、それで一回、ベクトル与えた判定になるんじゃない?ってのがあるよね」
「ですです」
だから、留めてしまうと、その場に落ちて終わる。んー。
「あ。ですが、発想を変えるといいのかもしれません。氷の礫を目の前に召喚して、それをくるくる回して回転エネルギーを大きくしてから発射!なんてものも見たことありません?」
「うん。ある」
となると、障害になるのは「そんなのしなくても最初からいい感じにして、撃ちだせばいいんじゃない?」とかそういう否定的な考え。それは俺に依存するから排除すればいい。
うん。出来そう。
「ディナン様。出来そうです」
「そうか。ならば、どうすればいい?」
「石の槍を目の前に召喚しますので、それに乗っていただければ」
「わかった」
さて、や……あ。駄目だ。回転させるとディナン様もくるくる回ることになっちゃう。
「四季。じわじわ槍を短くして勢いを溜める。そんな認識で」
「同意です。そうしましょう」
さっと手を結んで紙で魔法を発動。目の前に岩の槍が出現。
「これに乗ってください」
「あぁ。発射位置は「適当に良い感じに発射してやってください」おいルキィ」
「なんです?どうせはっきりとは見えないのです。隊商の上空に良い感じに打ち込んでいただくしかないでしょう?」
「お前の言う通りだな。任せる」
「え。いいんですか?どれくらいの高度ならディナン様が耐えられるのかとか、どんな攻撃するからこの高度がいいとか知らないんですけど?」
どう考えても命にかかわるような案件なんですけど。そんなよくわからんけど、発射できたからヨシ! なんて現場猫精神でいいんです?
「常識的な範囲内ならどうとでもなる」
「それが一番困るんですけど。異世界から来た勇者である俺らと」
「この世界の王族たるディナン様の常識が一致しているとは思えないんですが」
しかも、上空に打ち込んでくれ! とかいうよくわからん状況。俺らの世界の普通の人間は生身でんなことされると100死にます。
「二人の言う通りだな。なら、ワイバーンの群れの中心付近に打ち込んでくれ」
「了解です」
完全にワイバーンの群れを視認出来ているわけではないが、だいたいの位置はわかる。その辺に発射すればいいだろ。
「そら、やってくれ」
発射前に最終確認。途中で落ちたらシャレになんないし。…うん。ちゃんと乗ってるっぽい。
「では、発射」
暗い上空めがけて槍とディナン様が飛んで行った。さて、俺らも追いかけますか。
街道に出て『身体強化』しながら全力で走っていると、目的地の方が騒がしくなる。よく見えちゃいないが、ディナン様の攻撃が決まったんだろう。
「ブルルッ!」
「ルキィ様!」
ここでわざわざ引っ張ってきたのかセンとルキィ様の馬車が合流。さすがに走るほうが早いとは言わんが、馬車は襲撃されると面倒では?
「ルキィ様。俺が護衛につきます!」
「お願いします。あ。クリアナ様の首根っこを掴んででも馬車に乗せてください!」
「…了解です」
一瞬、!? って顔をしたタクだったが、瞬時に気を取り直して指示通り、本当にクリアナさんの首根っこを掴んで馬車に乗せた。単騎で行かせようものならオチは見えてる。
「ブルルッ!」
センは連れて来てくれた騎士さんにお礼を言うようにひと鳴きすると、乗るように促してくる。
「ボクは魔法でどうとでもするから、おねーちゃんと一緒に行ってー!」
「「了解!」」
さっとセンにまたがり、四季の手を取って引き上げる。俺と四季の間にアイリを挟んでいつもの形になっていざ出発。カレンはディナン様方式。自分で発射した矢を掴んで飛ぶ。
普通の馬かつ何かを引かないといけない馬車よりも、俺らだけを乗せるセンの方が早い。あっという間に隊商と合流。
「援護に来ました!」
「後続に馬車が来ているので、彼らに保護してもらってください!」
「ありがとうございます!」
すれ違った彼らはそそくさと走り去っていく。見たところ、隊商は馬車が三台。一台足りないが、やられたか。そして、その三台の最後尾の一台の上部に、軽くひっかき傷がついている。
ワイバーン達の目標は彼ら。なら、ここで方向転換して後ろをついていく感じで護衛を
「…待って」
「ん?どうしたの。アイリ」
「…ディナン様を拾おう。その方が、楽なはず」
アイリは俺らの実力もディナン様の実力もわかってるはず。そんなアイリの提案。聞き入れるほうがいいか。
「探しましょう。とはいえ、」
「だねぇ」
なんか不自然にべこって凹んでいるところがあるし。あそこでしょ。ディナン様がいるの。
「ディナン様ー。ご無事ですか?」
「あぁ。無事だ」
穴に声を掛けたらちゃんと言葉が返ってきた。が、穴の大きさよ。思ったよりも広い。でも、既にある程度上がって来ていたのか、即座に合流できた。
「もう一回。やってくれ。おそらく、それでかなり数を減らせる。撃ち漏らしは何とかしてくれ」
「了解です」
もう一回、四季と力を合わせて発射。斜め上に飛ばすと、ちょうどいいところでディナン様が魔法を使ったのか槍が砕けた。
そして、ワイバーンの悲鳴が聞こえて何騎かが落ちてくる。反撃したいからかワイバーンが火球を吐くが、ディナン様に届くことなく迎撃されている。
「自ら、灯りを提供してくれるなんてー!ありがたーい!」
「だな」
一瞬だけが、明るくなった感じから見て残るは三騎。カレンの弓に合わせて魔法をぶっぱすればすぐに終わった。
さて、後は残存兵力がいないかを見るために、上空で炸裂する光の球でも飛ばしとこう。……作ってないから今から書かないと駄目だけど。ちゃちゃっと「どーん!」……ディナン様が落ちてきたかな? まぁいい。気にせず書き上げて完成。
それを上空に向けてぶっぱ。いい感じのところで炸裂して、空をまばゆく照らす。
「んー。俺が見る限り敵影なし。皆は?」
「同じくです」
「…ん」
「いなーい!」
了解。なら、ディナン様を拾ってルキィ様のところに戻るか。
「ご無事ですか?」
「あぁ」
今回はまだ穴の底。だけど、穴の深さは少しさっきよりはマシ。相変わらず無傷。
「残りはやれたか?」
「はい。少なくとも目視する限り」
「そうか。なら、戦闘終了ってことでいいか?」
「いいのではないでしょうか」
敵の気配はなさそうだし。アイリもカレンも何も言ってないし。
「他に迎えはいるか?」
「いませんね」
何でそんな残念そうな顔を……あぁ。なるほど。確かに。
「センには乗れませんものね」
俺ら三人で定員オーバー。四人はさすがに無理。
「さっきと同じように戻りますか?」
「さすがに街の近くでやりたくないな。こんな穴が開くし」
この穴は絶対に開くもんなんですね。
「穴は埋めておきますか?」
「頼む。ワイバーンの死体は……さすがに回収できんか」
「ですね。残念ながら」
どこにワイバーンの死骸が落ちたのかわからない。その上、暗くなってきてる。これでどうやって探せと。
「しゃあない。それは明日にするか」
「ですね「ディナン様ー!お迎えに来ましたよー!」来てくれたらしいですね」
お迎え。ただ、何故単騎で動かないように! って首根っこ突っ込まれたはずのクリアナさんが来てんだろうね。意味が分からない。
「…何であいつ、単騎で来てんだ。ルキィがいるのに」
「それでも止めれないくらい暴走したんでしょう」
恋する乙女は止められない(物理)。乙女に失礼だと思うなら暴走機関車でも可。
「しゃあない。クリアナ!来い!」
「はい!」
飛び切りの笑顔で疾走する馬からディナン様のところへ飛んだ。違う。そうじゃない。
「ブルルッ!」
「ブルッ」
騎手が居なくなったお馬さんはセンが止めてくれた。飛び降りたクリアナさんはディナン様が受け止めてくれずに地面にドーン。
「なんっ……、何で受け止めてくれないんですかぁ!」
「止めるわけないだろ」
「ディナン様。お馬さんは確保してます」
「すまない。助かる」
嘘泣きするクリアナさんをガン無視してお馬さんにまたがるディナン様。でも、そのまま突っ走ることはせず、クリアナさんの手を取って後ろに乗せた。
それだけでクリアナさんはにっこにこ。さっきまでの嘘泣きはどこに行ったんだってレベル。
まぁ、帰りますか。とりあえず、情報収集してもらって……、明日、それをもとにして考えよう。




