7話 フーライナ
「そういえば、全然人に会わなかったね」
大きな街道だから他の商人さんとかとすれ違ってもよかったはずだけど、出会ったのは出待ち?していた騎士さん達だけだ。
「…時期の問題」
時期?
「…ん。今の季節は収穫期。…農作物を扱う商人は昨日までにフーライナについてないと無能」
無能って……、バッサリ切り捨てるね。
「…事実、無能。…食物を扱う競りとかは今日始まる」
「あぁ、それでですか、本に『フーライナの競りに間に合えない商人は商人をやめるか死んだ方が良い』と記載があるのは」
死!?また、極端な言葉を。
「…それだけ、フーライナの食料は大事。…『人類の食料庫』の名は伊達じゃない」
「その名の通り人類の消費する食料の半分くらいはここで生産されるようです。穀物、肉、野菜、果実…環境の合うもので作ってないものはないようです」
なかなか極端。それでよく回るね。
「穀物を主に作っているようですから」
なるほど。それならいけるか?穀物は割と日持ちする。お米とか古米、古古米ってあるように適切な環境なら1, 2年はもつ。それなら人が居ないのも納得かもしれない。
「今の時期、フーライナに用のある人は商人だけ。商人は昨日くらいに買い付けに来ている。手ぶらで来ても利益にならないから、多種多様に積んでフーライナに来る。だから、今更商品を持って行っても飽和していて意味がない。そんなわけで人が居ない…ってこと?」
「…ん。後、二、三日もすれば食料を運んで帰る商人とすれ違うと思う」
仕入れたら即帰還。野菜とか果物の生鮮食品を扱う商人さんかな?
「…特に今年は人魔大戦の年。いつもより商人は多いと思う」
大戦の年?あれ?戦争ってそんな年が決まって起こるモノだっけ?
「…人間と魔人の戦争はここ最近10年周期。だから今年、戦争があるはず」
「あぁ、だから今年もあると?でも、それは短絡的じゃない?」
ひょっとしたら9年目に来るかもしれないし、11年目に来るかもしれない。
「…わたしも同意。でも、今回は10年目で確定。…去年来なかった。今年勇者が召喚された。…王は梃子でも日程を変えるつもりはないはず」
勇者召喚したから引けなくなったパターンのやつか?
「勇者召喚が戦争勃発を確定させてしまいましたか…」
「…ううん。そもそも、召喚されてなくても今年で確定。…記録にある限りでは、人間も魔人も境界になってるファヴェラ大河川で戦線が膠着してる。…散発的な攻撃は出来ても橋頭堡が得られてない」
橋頭保──川向こうの足がかり──が作れない。のなら、腰を据えて戦えないから戦線が膠着するか。
「川なら橋とかないの?」
「…人間と魔人は仲が悪い」
あっ。察し。そもそも作ってないか、戦争で全部落ちたかのどっちかか…。
「…一カ所だけファラボ大橋っていう自然に繋がってる場所がある」
「壊されてないの?」
「…破壊不能。…エルフ領域北端にあるシクードル滝の水が初めて滞留する場所だからこんな場所が出来たのでは?っていう学者もいる」
なるほど。橋はあっても一本。そりゃ膠着もするか。
「…川幅が広すぎて泳ごうものなら的にしかならない。増水したら死ねる。…川を泳いで渡る選択肢は消える」
「一本しかない橋を放置する道理はなし。必然的に正面激突せざるを得ないということですか」
「…ん。そうらしい」
ほんと無駄。
「口さがない人は死体の高さを競う勝負って言ってそうだね」
「人魔共同の川を埋め立てる公共事業でも良さそうですね」
違いない。ほんと、無駄。
「…心配しなくてもお父さんの言ったことは言われてる。『人間は数が多くて死にやすいから絶対負けないな!』までが鉄板」
!?
「…なんでびっくりしてるの?」
「言っておいてなんなんだけど、」
「アイリちゃんが混じってきたので…」
言動的にアイリは間違いなく軍人。だから、こういう話題には怒らないにしても不快感があるかと思ったのだけど…。
「…ん。…怒る人は怒るからやめることを推奨する。…けど、わたしにはどうでもいい。…単なる子供だましの言葉遊び。そこに意味はない」
塩対応。
わかってはいた。わかってはいた。アイデンティティが「護衛」という役割にしかない子に、郷土愛とかそういうモノがあるはずがないと。でも、突きつけられると……少し来るものがある。
本当に、この子が一体何をしたというのだろう。
やめよう。考えてもどうしようもない。アイリに悟られてしまうかもしれない。悟られると気に病むかもしれない。なら、悟られないようにせねば。
「…どうしたの?」
「え?あぁ。勇者召喚が実施された理由を考えていまして…、思い当たることが」
ありがとう、四季。うまく誤魔化してくれて。
「その心は?」
「戦線は膠着しているという点、魔人が飛べるという点。二つを合わせて考えればおわかりになるかと」
え。魔人飛べるんだ…。
「シャイツァーの力があれば人も飛べますが、獣人、魔人は人種によっては素で飛べるらしいですよ?」
人種ということは、鳥とか悪魔みたいな羽がある人達がいるってことかな。
それは兎も角、召喚が行なわれた理由ね…。
「魔人は飛べるから後背地を荒らせるけど、人間はほぼ無理。いくら侵入者を血祭りにあげようが不満は溜まる。いい加減膠着を何とかしろ……というところ?」
「だと思われます。が、この場合、何故もっと早くに召喚しないのか?と言う点が謎なのですが」
「…二人の推測は妥当」
そうなの?じゃあ、理由の説明は出来る?
「…ルキィ様から聞いた。…あってる。…勇者が召喚されなくても飛べるシャイツァーの人、頑丈な人を射出して嫌がらせをする計画はあった。…だから、勇者召喚が戦争を決定づけたとか心配しなくていい」
勇者召喚が戦争を決めたとかは俺らが心配することではない。が、わざわざ言ってくれたのは、俺らがそのことを心配する人だと可哀想。そういう配慮か。
「…召喚しなかったのは、勇者召喚が貴重だから。…100年に一回とかだったはず。大災厄が起きたときに対応するために必要」
!?めっちゃ貴重じゃん!?何やってんの!?
「…わからない。どうせ膠着する戦いが災いな訳がない。反対されたのに押し切った…のが今回。…心配しなくても反対してたのは災害対応だとか、誘拐なんじゃ?と考える理性的な人たち。召喚された勇者に八つ当たりする人はいない」
「多分にこれまでの勇者の功績と言う名の威光も絡んでそうですがね…」
馬鹿でも勇者の威光に跪くと?…あり得そう。籠絡して勇者を手駒に…とかもっとありそう。
ん?あれ?まともな人は八つ当たりをしない。となれば、暗殺しようとしてるのって召喚推進した奴らってことになるよな?うわぁ。ひどい。
「話を戻すけれど、今年が大戦の年なら魔人側からフーライナに工作されてるって可能性はないの?」
「…否定はできない」
わーお。フーライナをスルー出来るといいんだけど…。
「…フーライナ以外は遠い。バシェル内にとどまる方が危ない」
だよねー。さっさと抜けるのがいいかな?
「…安心して。記録ではそういう工作はない。しようとしても見た目でバレる。…というか、わたしが悪いけど、食料ないから迂回の選択肢はないよ?」
「食料は気にしなくていい」
「です。私達の判断ですから」
その責任は俺らにある。アイリが気にすることではない。
「…それで死なれると困るのだけど」
ごもっとも。
「…橋の先にある建物がフーライナの国境監視所。…広い川を渡って入国出来ないこともないけど、泳いで渡るならあらかじめ許可を貰うか、溺れて助けてもらうかじゃないと、射殺」
!?
「え、射殺?」
「…ん。正規で来ないなら不審者かやましいことがある人に違いない」
極端!
「…『食料庫に徒なす者には死を』という言葉の元に死は正当化される」
うわぁ…。それで許可を貰うか溺れるか。なのね…。
「…溺れたフリで渡ろうとすると拷問されるから正規で通る人しか居ない」
「フリの判別はどうするのです?」
「…判別できる人にご足労いただくか、そこまで連れてく。…今ならさらに北のイベアかな?…もしくは真偽判定装置のあるアークライン神聖国。…どっちも獣人領域を目指すなら通る。…入国目的を聞かれたらアークライン神聖国に行くのに通るって言って」
了解。なんでその国選んだのか謎だけど。
「…この世界の宗教の聖地。目的地としておかしくない」
そっか。ありがとう。…今更だけど、表情を読まれてるのかびっくりするくらい的確に言葉をくれるね…。
「…慣れてる」
そうしなきゃ生きてこれなかったと。…ほんと、この子が何をしたって言うんだろうね。
「…あの、今気づいたのですが、そこまで徹底しているのならば、あの証明書はまずいのでは?」
「…黒髪黒目で王族の証明書。大丈夫。…最悪、わたしが近衛って名乗る。そっちの証明書もちゃんとある」
ん?
「近衛で通れるのですか?」
「…ん。ルキィ様付きの近衛だから。…身分は保障されてる。…その場合、二人はわたしを引き取ったお父さんとお母さんになるからよろしく」
…あれ?ならアイリを隠さない方がよくない?隠れてた子が実は近衛なんです…って、俺らが思いっきり訳ありってことになるよな…。駄目じゃない?
「…手遅れ。恥ずかしかったで押し通す」
言いながらアイリは俺の陰にしっかり隠れた。だねぇ。何故かわざわざ橋まで出てきてくださってる。
騎士さんに促されるままに建物の中へ。内装が物々しい。検問所兼砦かな?
「入国の目的は?」
「アークライン神聖国に行きたいので、通り道です」
「身分証明書を」
また偽造の証明書を渡す。いくらアイリやルキィ様が偽造じゃないって言い張ろうとも、俺的には偽造。ばれませんよーに。
「ふむ。後ろのお二人は…、」
「私は習君のお嫁さんで、この子は子供です」
騎士さんがちらっと俺を見て、二人を見比べる。
「ご協力ありがとうございました。よい旅を!」
「はい、ありがとうございます。皆様にもよいことがありますように」
「ありますように」
「…ように」
あれぇ?めっちゃすんなり抜けれた…。
「…貴族っぽいんだからそんなもの。…その上、わたしの容姿と二人の容姿は二人の実子として際だっておかしいところもない。…やましいこともなさそう。となれば通す」
なるほど。
「…後、黒髪黒目だから審査が甘いのかもしれない」
「勇者の末裔だからですか?」
「…ん」
勇者パワーがすごい。たとえ勇者がいい人でも子供もいい人とは限らないんだけどな…。
「…後、犯罪者ならフーライナの噂は知ってるはず。…それを承知で正面から来ないだろうって考えもある」
「逆に正面から来られたらどうするの、それ?」
普通に通してしまいそうだけど…?
「…通られるときは通られる。…だから犯罪をした後で徹底的に、草木かき分けて捕まえて、吊す」
諦めてるじゃん…。
「…仕方ない。…でも、割合を見る限り正面から入った入国者の犯罪率は人間領域の中で一、二を争うくらい低い。大丈夫だと思う」
じゃあ、問題ないのかな。
「…ん。ないはず。…それより、あの別れの挨拶は何?」
「その場のノリと勢い。特に意味はないよ」
よい旅を!って言ってくださったから、その返礼としてよさげな言葉を探したらあんな感じになった。
「マズかった?」
普通にありがとうの方がよかったかな…?
「…大丈夫。何か決まった作法があるのかと思っただけ」
何かやらかしたわけではないのね。ならよかった。
「で、街はどこ…?」
「…あの壁の裏」
立派な城壁が意外とすぐそばに。石造りで頑丈そうだけど、位置的にバシェルと戦争したら速攻で包囲されそう。
「…どしたの?」
「こんな国境線沿いに街を置いておいて大丈夫なのかと思いまして…」
「…大丈夫の定義による」
定義?
「…包囲されるけど、最初っからその想定。…包囲されるという事実を重く見るか、想定内である方を見るかで変わるということ」
それを街の人は理解しているのだろうか。
「…心配せずとも食料庫の南口『ミェージュ』はそういう街」
「水運の便がいいとか、バシェルへの宿場町、」
「川を不法に渡る人を監視する人の休憩所…と言うわけでもなくですか?」
「…その面もある。けど、南口の役目は燃えること。…燃えている間に南口付近の食料を全て焼いて、侵略者に何も残さない。そのためだけの街」
何か正気を疑うような発言を聞いた気がするぞ?
「役目が燃えること?」
「なのです?」
「…ん」
聞き間違えじゃなかった。となると…、
「「焦土戦術」」
「…ん」
マジで?
「正気?」
「…正気らしいよ」
嘘だろ。何で?焦土前提で作ってるの?
「文字通りの焦土ですよね?」
「…ん。全部焼く」
え、本当に正気?
「フーライナは十分に縦深がとれているのですか?」
「…訂正してくれてもよくわからない」
アイリはいつもの顔だけど、質問した側の四季が困った顔。まぁ、縦深なんて難しいからね…。
「首都までものすごく遠い訳ではないですよね?」
「…ん。馬なら2, 3日」
なら、焦土戦術の本場、ロシアの如く引き込んで叩くなんてことは不可能。焦土にしたら作ってるモノが燃えるだけ。食料庫としては最悪だろう。
……ん?食料庫として最悪?まさか。
「食料を全て焼く、そうすることで…、」
「食糧不足になると困る人間領域の国々を強引に介入させる…という算段ですか?」
「…らしいよ」
クレイジー。だが、合理的。
「戦争されたら意地でも全部焼く」
「食糧不足で死にたくなかったら助けてね!…という腹ですか」
「…ん」
食べるものがなければ人は死ぬ。いつの時代も死ぬのは下から。不満が溜まって爆発して革命…という流れを恐れるなら、もっと悪化して自分まで餓死することを忌避するなら、他国は兵を出さざるを得ない。そうして出してもらった兵で攻めてきたやつをフルボッコ。綺麗な流れだ。
「四方から攻められるとか、土地に細工されるとかの場合はどうするの?」
「…フーライナ騎士団の練度はそれなり。四方から攻められても諸共滅ぶように出来る。…土地に細工するなら国境越えても殺す」
うわぁ…。
「食料を握っているフーライナが暴利を貪るとかはないのです?」
「…それはフーライナの『フーライナは神が与えたもうた土地の上にある。その恵みを独占することは許されない』という矜恃に反する」
矜恃ねぇ。矜恃はそれを持つ人/ものがらしくあるために必要なモノ。大事ではあるけれど脆い。割と不安定に思える。が、
「その場合はフーライナが滅ぶだけか」
「でしょうね。矜恃を失ったモノにふさわしい末路といえます」
巻き込まれる側はたまったものではないが、矜持を失えば「ふざけんな!死ね!」になって全方位から全力侵攻されるだけ。戦火で豊かな土壌は失われ、残るは荒涼たる田畑のみ。
ある意味、美しい。
「…ん。今のフーライナの誇りは人類の食料庫であること。…故に、暴利を貪ろうとする商人、田畑を荒らす害獣、害虫、コソ泥。流通を妨げる盗賊…あらゆる食料庫としての役目の障害はフーライナに存在することは許されない。…国外に脱したとてその罪は許されない」
金庫の鍵を預かる人間は中身を預ける人から信用されねばならない。それと同じようにフーライナは人類から信用されねばならない。その必要な信用をその行為で担保している…と。だからフーライナは食料庫たることを周囲から許され、自身も誇ることが出来る。そういう流れが出来てるのね。
「…そろそろミェージュ。…まだ国境に近いから身分証はルキィ様に貰ったモノを出して」
了解。そもそも証明書はこれしかないんだけどね。
「確認いたしました。どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
本当に超すんなり。さて、ご飯…と行きたいところだけど、
「えっと、確か…、お金は石、鉄、銅、銀、金、白金のグレードがあって、それぞれに小、大があるんだっけ?」
「そのはずです。価値は小石より大石。大石よりは小鉄のはずですよ」
つまり金貨…えっと、入れてくださったのは小金貨か。小金貨でも9番目のランク。うん、やっぱりやりすぎ。まんま「おつりは要らない邪魔だから」になってしまう…。
仮に日本円と同じとすると、1, 5, 10, 50、100, 500、|1,000, 5,000《銀》、10,000円…諭吉さんか。やばそう。
「…食べに行かないの?」
「お金が高価すぎて、迷惑かけそう」
小銭を大量に渡されても貰う方も渡す方も面倒くさい。貴族って勘違いされそうな容姿してるから普通の人がやるより困らせそう。
「…なるほど。なら、組合だね」
「「組合?」」
「…ん。…冒険者や商人の管理、銀行、証明書発行とか色々やってて便利」
ファンタジーでよく言うギルドみたいなモノだろうか?
「…勇者がギルドってよく言ってたからギルドでも通じる」
王城にあったパソコンの検索機能がやけに日本人に最適化されていたことといい、ギルドという呼称といい…、実は勇者は現代日本人限定だったりしない?
「兎も角、ギルドに行こうか」
「ですね。場所は…、あちらですか」
アイリがこそっと指さしてくれた方へ進む。金貨を両替してもらったら、買い物に行こう。




