表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
68/93

60話 ワイバーンの情報

 扉を勢いよく開けて入ってきた女性は間違いなくクリアナさんだろう。



何しろ、入室した瞬間、カーペットでつるりと滑って転びながら、棚の上の飾りを撃墜。それだけでは飽き足らず、立とうとして体をくるりひねってジャンプすることで足元に転がった花瓶を蹴り飛ばして転倒。飛ばされた花瓶は部屋の奥に置いてあったケース入りの貨幣で作られた宮殿をケースもろとも破砕。



そんなポンコツで済ましていいのかわからない被害をもたらしているディナン様の知り合いっぽい女性なんて、話の流れからして、彼女しかありえない。



 さすがはルキィ様にポンコツオセロを完成させた人というべきか、それでも若干、ポンコツ差が足りなさげなことに戦慄するべきか。怖……。



「ふぇぇ……。ディナン様ぁ」

「ポンコツ」

「反論できましぇん」


 でしょうね。それで反論出来たらすごい。下半身轢断されてることに気づいていないから生きてるだけの人が「ここから入れる保険があるんですか!?」って言ってるときの|返答《あるわけねぇだろ、んなもん》くらい、返せる言葉が固定されてる。



「ルキィ様もいらっしゃ……」


 部屋を見渡して俺や四季、タクがいることに気づいたっぽいクリアナさん。ぱちぱちとわっかりやすい瞬きを二回。そして、目をごしごし。再度、瞬き。



「あっ」


 初対面の人がいるのにやらかした! なんて副音声が絶対ついてる言葉を漏らすと、クリアナさんは出来るだけ丁寧に立ち上がる。そして、華美ではあるけど、動きやすそうなズボンをぱんぱんと払ってゴミを落とす。



「皆様、お初にお目にかかります。私はクリアナ=ベルディーと申します。このイベア王国にて侯爵を任されておりますベルディー家の長女です。以後、よろしくお願いいたします」


 めっちゃ奇麗な所作で一礼するクリアナさん。



 なるほど。あの醜態をさらしてもルキィ様の評価がポンコツで止まっている理由はこれか。少なくとも今、見れたのは礼儀……しかもただの自己紹介だけ。だけど、それが感嘆するくらい洗練されているもの。



「今更、取り繕っても無駄ですよ?」

「ですよねー。ルキィ様。皆様のお名前をお聞かせいただいても?私のことは何なりとお呼びください」


 了解です。なら、ささっと名乗って自己紹介を済ませてしまおう。



「一応、勇者をさせてもらっている森野習です」

「四季です」

「…アイリ」

「カレンだよー!」

「こいつらが家族です。俺は別枠の矢野拓也。ルキィ様の護衛兼近衛をしています」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


 こちらこそよろしくお願いいたします。



「で、クリアナ。おまえ、今までどこほっつき歩いてたんだ?俺、ギルドでまず情報収集するっつったよな?」

「あれ?私、外で聞き込みすると言いませんでしたっけ?」

「やめろって言ったよな?」


 言われた途端、クリアナさんはこてっと首をかしげた。まさか……連絡がちゃんと届いてない!? …というわけではなさそう。目が左右にきょろきょろ。目が泳ぐという言葉のお手本にしたいくらいに泳いでる。



「そんな気がしますが、お役に立ちたかったのです!」

「ほぉん。なら、成果は?」

「何の成果もっ!得られませんでしたぁ!」


 めっちゃ元気に言い放つクリアナさん。見てるだけなら面白いけど、それを言われたディナン様は頭が痛そう。



「ディナン様!?頭を押さえてどうなさったのです!?」

「ちょっと頭痛が痛くてな」

「なんと!?それはいけません!薬を……ていうか、原因は何なのです!?」

「お前」

「ついに私の魅力がディナン様に届いたのですね!?」

「はぁー」


 漫才でもやっておられるんだろうか。さっき心に抱いた礼儀すっごい奇麗って感想が全部どっかにぶっ飛んでいく。



「原因は?」

「詳しそうな守衛を探しに行って迷子になりました!」

「何でこの街で迷子になれるんだとは思うが、いつも通りだな!」

「です!」


 ……ポンコツで済ましていいのか、この人。この街、ぐるっと壁で囲まれてるんだから、最悪、壁沿いを歩いて行けばどこかで守衛さんには会えるでしょうに。



「…ポンコツで、済ませていいの?」

「いいのです。こんなのですがところどころに目を見張る長所がありますから。それ故に彼女が迷子になったという事実は、この街の安心感に繋がるでしょう」


 むしろ大丈夫かこいつ感が強まりそうですが……そんなもんなのですかね。



「とりあえずお前は座って……いや、片付けてろ」

「え?……あ。あー。ですね。お茶も入れ替えますね」

「そうしろ」

「お願いします」


 ディナン様に辛辣なルキィ様がクリアナさんには丁寧語なのなんか面白い。



「で、だ。いい加減、まともな話に戻ろう。ワイバーンが出たってのはどこだ?」

「フーライナからここに来るまでの道筋です。隊商を襲撃していた10頭を討伐しました」

「はぁ!?おいおい、冗談だろ」

「なわけないでしょう。いくらお前が嫌いと言っても「わーってる。お前が嘘つくなんざ思ってねぇよ」知っています。「食えねぇ女だな、ほんと!」」


 ほんと、今日だけで何度も思ってるけど、ルキィ様がここまで雑な態度をとっておられるのは珍しい。



 絶対お前(ディナン様)とは結婚しないとおっしゃっておられるルキィ様だけど、そんなルキィ様が好きなタクとしては複雑な気持ちだろうな。



 |BSS《僕が先に好きだったのに》はディナン様のが先だから成立しないけど、そんな気持ち……いや、僕も好きなのにとか、僕のほうが好きとか?



「習?四季?」

「「ん?どした(どうかされましたか)?」」

「いや、なんも」


 ちょっと顔が呆れてるっぽい? でも、何がしたかったのやら。変なタク。



「おい、ルキィ。茶々を入れるな。微妙に勇者様の気が散ってる」

「ですね。ここからはまじめに行くとしましょう。で、ディナン様はどこに驚いておられたので?」

「数だな。ただでさえ野生で見ることのないはずのワイバーンが10もいるってのはやべぇ」

「ギルドで何体見かけたとかの情報は得られなかったのです?」

「んー。数匹見かけたってくらいだったな。群れでとは聞かなかったな」


 ワイバーンにあんまり詳しくないから、それが珍しいのかそうでないのかの判断がつかない。なら、聞くか。



「あの。ルキィ様。ディナン様。ワイバーンについてもう少し知りたいです」

「今の状態ですと、ワイバーンについて全く知らないので、私たちから意見を出すことは不可能です」

「私からもお願いします!正直、微妙なので!」


 !? クリアナさん!? あなたがそれでどうするんですか!?



「クリアナ。ポンコツって言葉撤回していいですか」

「ルキィ様。後生です。それだけはお止めください。嘘です。さすがに把握しております」


 後生て。撤回しなくてもポンコツですけど。それでいいんですか……。



「なら、説明して証明しろ」

「勿論です。ディナン様。ワイバーンは魔物の一種であり、人間領域最南端のカスボカラス断崖に群れで生息しています。彼らはカスボカラス断崖に接近しない限り……すなわち、生息圏を侵さない限り積極的に襲い掛かってくることはありません」

「そうなんですか?魔物と聞くと、めっちゃ凶暴なイメージがあるんですが、襲い掛かってこないんですか?」


 少なくともこれまで会ってきた魔物は襲い掛かってきたんですが。



「その認識は正しいです。魔獣、魔物は人類の天敵です……が、いくつかの例外はいます。少なくともワイバーンに関しましては人類と生存圏が被っていませんので、本当にこちらから要らないことをしない限りは襲ってきませんよ」

「あ。一番大事なことを伝え忘れていました。報告はしていますが、そのワイバーン達、隊商を襲っていました」

「「!?」」


 ぐるって効果音が鳴りそうなくらい勢いよく補足したルキィ様を見るお二人。そんな生体でしたら、さもありなん。



「ということは、考えられるのは隊商が何かをやらかしたということでしょうが……。ワイバーンがここにいる時点で異常事態。自衛のために先制攻撃をしt「本人たちの主張では何もしていないそうですよ?」…それは後で確認しましょう。いいですよね?ディナン様」

「あぁ。ルキィ王女。それよりまだ話していないことはないか?」


 ルキィ様がまだ口に出していないこと……。あぁ。



「意図したのかどうかは不明ですが、襲われていたのは馬車だけでした」

「人や馬には被害はありませんでしたね」

「被害者には悪いですが、たまたまそうなっただけであって欲しいですねぇ……」


 確かにたまたまっていう可能性もないこともないですね。



「クリアナには悪いですが、現場を見ている限りたまたまはありえないでしょう」

「ちっ、めんどうな」


 吐き捨てるように言い放つディナン様と、その横で首が壊れそうなくらい勢いよく振るクリアナさん。



「おい、竜騎が逃げたって情報は入ってたか?」

「少なくともアークラインでは聞きませんでしたし、そのような報告もバシェルから受けていませんね」

「私も同様に聞いていません。スポルトでもそのような話はなかった……おぉっと、生体の話の途中でしたね」


 このタイミングで戻すんですか?



「はっは。皆さん、驚かれていますが竜騎……竜騎士の話題が出ましたからね。戻るのがよいでしょうよ。どのみち、そういう情報がない時点で「謎」でしかないのですから」


 さいですか。ディナン様もお止めになっていないし、続けてもらおう。



「竜騎士はカスボカラス断崖に生息するワイバーンの有精卵が割れずに落ちてきたのを孵化させます。そのワイバーンを調教し、人が背中に乗れるようにした兵種です。上からぶん殴れるだけで強いですし、飛ぶ魔人を同じように飛んで迎撃できる貴重な兵種です。が、すんごく貴重な兵種です。イベアですら持っていませんね」

「まぁ、イベアまでが遠すぎますからね。孵化させず、割らずに運ぶというのは至難の業でしょう。砂漠もありますし」


 距離はどこでも障害になりますものね。



「だな。バシェルが五機だったか?」

「えぇ」


 五機ですか。それでは航空戦力としてはほぼ使えなさそうですね…。観測とかには無類の強さを発揮しそうですが。



「後は南の雄たるエルツェルが四機でしたか」

「そんなものですね。そもそもワイバーンが大食漢なのでイベア以上の大国でないと財政的に耐え切れません」

「一機保有とかすらないのですか?」

「ですね。一機保有はそもそも無駄……とまではいきませんが、かなり無理がありますから。常に偵察しろなんて、物理的に無理でしょう?」


そりゃそうですよね。夜中は飛ばないと仮定しても日中の12時間。三交代とすると四時間。四、五機運用ですらかなりギリギリっぽいですね。



ノウハウもいるだろうし、そりゃ、小国には無理ですね。



「一番問題になるのが、正規の方法では卵の確保が運任せな点でしょうね」


 正規の? となると、後の方法は決まってきますか。



「密漁ですか?」

「おっしゃる通りです。ですが、国としてはその手段はなしです。人間領域では、密漁は禁止されています。断崖の上の巣から落ちた卵を取ろうが攻撃はしてきませんが、さすがに目の前で卵を盗まれるとなれば話は別。奪還のためにと大挙して街にでも来られたらたまったものじゃありません」


 なるほど。でも、そうだとしてもガン無視しようって輩は出るわけですね。



「ってことはー、今回のはそのみつりょーが原因ー?」

「ではないと思うのです。密漁であるならそもそもイベアに至るまでの道筋でワイバーンの目撃情報が前からもっと南の国で出ているはずです。少なくとも3, 4日前くらいから。出ているなら、ギルドによる連絡網で私たちの耳にも届いていなければおかしいのです」

「だな」

「バシェルも同様です」


 ということは今回の件って、マジで異常事態では? 



「今回の件の変なところを軽くまとめますね。イベアは人間領域最北端の国で、ワイバーンは人間領域最南端のカスボカラス断崖に住んでいる。だのに、イベアで多数の目撃証言が出るまでにその道中の国で一切の目撃証言がない。ここまではあっていますか?」


 まとめただけだから全員、頷いてくださった。この前提は間違ってない。なら、可能性としては、



「誰にも見つからずにイベアまで到達する道って存在していますか?」

「ないこともないとは思います。が、ワイバーン並みの生物が食事したような痕跡すら発見されたとも聞いていませんので、可能性はないかと」


 人間領域直行ルートはなしと。なら、



「ワイバーンが現れた方法は次の4つですかね?その1。わざわざ魔人領域の方に一回飛んで行って人間領域での痕跡を一切残さずにバシェルに到達した。その2。発見されたワイバーンはカスボカラス断崖のワイバーンではなく、実はデザートワイバーンとかのメピセネ大砂海で生まれた新種で、それが南下してきた。その3。フーライナであったようにチヌカが暗躍した結果。その4。発見されたワイバーンはカスボカラス断崖のワイバーンなのは間違いないが、瞬間移動か何かをしてきた」

「その辺りだろうな」

「最後のは荒唐無稽すぎるような気がしますが……。否定はできませんね」


 魔法がある世界ですからね。否定は出来ないかと。



「ならば、どうします?私たちはどう動きますか?ここはイベアです。私達はそちらに従います」

「難しいところであるのは間違いない。(おれ)の権限でルキィ王女たちの同行を要請することは可能だが……」


 歯切れが悪い。何かそれを遮るものがあるのでしょうね。



「?何故そこで歯切れが……。あぁ、大憲章(マグナ・カルタ)がありましたね」

「え。大憲章(マグナ・カルタ)ですか?」


 あれって、俺らの世界、イギリスで出てきた法典のはず。何でそんなものが……いや、訳の問題?



「はい。大憲章は国王が勝手をしないように上に法律を作っておこう……という崇高な目的のために作られはしたものですね」

「実態はお察しだ。先の人魔大戦ではわざわざイベアにまで羽を伸ばしてきやがった魔人どもに視察や鼓舞のためにイベアを回っていた(おれ)らの父上や母上が急襲された。その奇襲部隊は迂回してバシェルを叩くことを目的としていたらしく、(おれ)らより上の男性王族が衆寡敵せず壊滅。公爵級は前線で戦死。そのごたごたを突いて作りやがった」


 目的はイギリスと一緒なのですね。成立経緯がもはや真逆ですが。



「交渉に使えるかもしれない素材を独断で決めると文句言われるかもしれない……ということですか」

「あぁ。シキの言う通り」


 となると、俺らは王都スポルトを目指すことになりますが……。



「俺らを放置するわけにもいかないから、お二人は護衛についてくださることになりますよね?」

「そうなるな。タクヤ。ワイバーンが出ているという異変が起きているのに、付近にいる合流できた騎士団が警護しないというのはマズい」


 放っておいて壊滅なんてしたら外交的に死にますものね。……お二人しかいないのに騎士団とは。と思わないでもないですが。



 うーん……詰んでない? スポルトに行くしかなくない? でも、それをするとさらなる被害が出かねない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ