59話 王族
全員、ご馳走様したら馬車へ。すぐそばだから歩けるけど、王族としての格が云々で。めんどくさ。
近衛二名が御者をする馬車に寄られていざ出発。
「ルキィ様、残りの近衛は?」
あの近衛達がルキィ様に二人しかつかないなんてありえないはず。
「留守番です」
「いいんですか?」
「いいんです」
あっ。はい。笑顔じゃない笑顔。追求はやめとこう。
「ルキィ様、近衛を頼りにしてますけど…、同時にたまに煩わしくも思ってますよね」
「だろうね。一部の人がルキィ様を好きすぎるから…」
目に入れても痛くない! なんてレベルをとうに越している人ばっかり。パオジーさんと、名前を聞いていないもう一人も近衛が、比較的おとなしめ。
「…悪化したような気さえする」
「ですね。何ででしょう?」
何故ルキィ様はお分かりになってないのか。ほぼ確定でアイリが離脱したからでしょうに。ルキィ様、アイリばっかりかわいがっていたみたいだし、アイリのいない今がチャンスだと考えているはず。
ただ、ルキィ様の好きな女の子のタイプって、自分より小さい子。ルキィ様、そんなに大きくない。もちろん、アイリや、カレンよりは大きいけど。
一方、近衛の皆さんは背がルキィ様より高い。ほとんどの人がアウト。何とも言えない悲しさがある。男の好みは不明。頑張れ、タク。
「到着です」
思ってたより到着が遅い。ギルドはフーライナと同じ感じ。石造りだけど、砂漠って聞くとイメージしそうな黄色っぽい色をしてる。
あれ? 砂漠では、粘土で建物を作っていたような……? いや、ピラミッドがあるし、石で作ることもあるか。
「皆様、先に中にお入りください。私は馬車を置いてきますので」
「行きましょう」
「お二人は待たなくていいんですか?」
「皆様がいれば過剰戦力でしょう」
ですね。なら、入りますか。
中は……、極めて普通。受付があって、ボードがあって、階段がある。一般的にファンタジーでイメージされそうなギルド。
「さて、では、行きましょ……」
ルキィ様が受付へと足を進め始めた途端、階段からやたらとギザな男性が「カツリカツリ」と高らかに足音を鳴らしながら降りてくる。その容姿は何人かの女性が「はぅ…」と、息を漏らす程度に美形。髪は獅子を思わせるような金髪で、覇気に満ち溢れた瞳をしている。だが、その瞳の色は赤色だ。
赤目なんだからきっと、苦労しているんだろう。でも、それと同時に、あんなに目立つ登場の仕方をしているぐらいだから、トラウマなんてないだろうなぁ…とも思う。
ふと、アイリの方に視線がいく。四季も同じくだったのか、「どうしたの二人とも?」という顔。
「ちょっとね」
「自然と目がいっちゃったんですよ」
きっとバレてるだろうけど、やんわりぼかしながら釈明する。アイリは、小さくため息をつくと笑って、
「…いいよ。気にしすぎ。…全く。過保護なんだから…」
嬉しそうに言う。やっぱり、バレてたね。過保護……かぁ。考えさせられる言葉だ。本当の過保護って、公園の遊具を片っ端から取っちゃうようなことだと思うんだけど。
「…嬉しいけど、ルキィ様を見て?」
え? うわぁ……。なんか能面を張り付けたような顔。この場が人目のある場所でなければ、もっと露骨に嫌そうな顔をしているってくらいの。
「ルキィ!久しぶりだな!さぁ!我と「ちょっと待ってください。貴方は誰ですか?護衛として不審者が近づくことを許すわけには行けません」ふむ、我を知らぬか!であれば……、ふむ。バシェルが召喚した勇者様か。すまないな勇者様」
判断と謝罪が早い。この人、ずかずかと近づいてきた割にはできる人だ。
「我は……大声で宣言するわけにはいかないな。小声で許してくれ。我はイベア王国第一王子『フェルベル=ディナン=イベア』だ。気軽にディナン、もしくは気がねするというのであればディナン様とでも呼んでくれ。さて、ルキィ。我と結婚を…」
「嫌です」
なにこの怒涛の展開。一言でいうと、「暫定不審者がこの国の王族だったうえ、唐突に他国の王女を口説いたと思ったら一瞬で切り捨てられている」という状況。なんだこれ。「件」を付けたところでラノベタイトルにもならなさそう。
「え。あの、ルキィ様。事実ですか?」
「残念ながら事実です。残念ながら」
「相変わらずだな。ルキィ」
「様」
「え?さっきは無視「様」お、おぅ」
すごい。ルキィ様の顔に「呼び捨てすんなボケカス」って書いてある。どうしてこうなった。
「そちらのお嬢さんもお奇麗で。どうだ?我と「嫌です。そも、私は既婚者です」…」
四季はそういうと俺の手をぎゅっとひっぱって腕を組みんだ。
「そういうことです」
嬉しさで変な顔になりそうなのを抑えながら淡々と返す。これ以上、言うならば武力衝突も辞さない。
「…それ以上、近づかせない」
「おぉう……」
アイリが俺らとフェルベル様の間に割り込んだ。鎌まで構えて殺意は満々。アイリも普通に過保護なのでは。
「と、言いますか、ルキィ様に告白して置いて即座に私に声をかけるのはさすがにどうかと思いますよ」
「ですよね!もっと言ってやってください!」
草。ルキィ様にディナン様、嫌われすぎでしょ。
「ルキィ様、何でそんなに辛辣なんですか?」
「え?何でって……毎回告白してくるんですよ?拒否しているのに。そして、長男なくせして実質的な王を弟に押し付けたクズです」
言い方。ルキィ様、言い方が本当に辛辣すぎます。
「あ、なるほど。察しました。宿の最上階にいたのはお前でしたか。であれば、あの宿の態度も致し方なしですね。後で謝罪しませんと」
お前て。他国の王族に使うには二人称が雑すぎる。
「ルキィ。「様」…あ、すまん。だが、辛辣すぎんだろ……」
ほんとにね。何があったんですかってくらいに扱いが雑。
「自身の言動を顧みられれば良いかと。それより、訪問した要件を早く果たしたいのですが?」
「ふむ。まぁ、用件はだいたい読めている。我もいたほうがいいだろう?別室に行こう」
「そうしますか。嫌ですが」
ほんっとうにルキィ様のディナン様への対応が塩。マジで何やったんすか。告白しまくってる以外になんかやらかしてるでしょ。絶対。
階段を上って応接室っぽいところへ。調度品は王族が通るところなんだから当たり前のように豪華だ。勿論、防犯が難しいからかアークライン神聖国と比べてしまうと数段も格は落ちるけれども。
「職員は?」
「今はいいだろう。先に国家間の関係だ。まずは座ってくれ」
了解です。ソファーの数的に全員は無理か。なら、今回はほぼ安全だろうし、こっちでいいかな。ルキィ様を中央にアイリとカレンで挟む。俺ら高校生組はすぐに動けるように立っておく。
「ルキィ様がこっちに来たのは」
おぉ。ついにルキィ様って呼ぶようになった。
「戦争する気はないですよー。というアピールです」
「だよな。その関係でフーライナ。アークライン神聖国と回ってきているんだろ?」
「ですねぇ」
なるほど。この二人は腐れ縁なのかな? こいつにはこんな対応で良いだろ。みたいな感じがそこはかとなくある。ディナン様の求婚へのルキィ様の塩対応はガチだろうけど。
「だが、それだけだとギルドになんざこねぇだろ。何があった?」
「ワイバーンが出たからです。念のため確認いたしますが、ワイバーンの生息地はわが国バシェルよりももっと南。それこそ、人間領域とエルフ領域の境たるカスボカラス断崖。そこであるということに違いはありませんね?」
「違いねぇな。故にこそ、ここ数日、唐突にそいつらが目撃されるようになっているというのが違和感しかない。我らがここに来ているのもそれが理由だ」
「なるほど」
うん? あれ?
「あの、ディナン様。我らですか?その割に、おひとりで行動されているようにしか見えませんが」
「そもそも、王族としてそれは許されるのですか?」
「その質問に答えよう。えーー、すまん。名乗ってもらえるか?」
え? 名乗って……ないわ。ない。え。待って。この人、名乗ってすらない人と結婚しようとしてたの? 怖……。
「お気持ちはわかりますが名乗ってさしあげてください」
あ。そうですね。
「私は矢野拓也。ルキィ様の近衛兼勇者です」
「私は森野習。勇者兼こっちの家族の父です」
「私は森野四季です。同じく勇者兼こちらの家族の母です」
「…私はアイリ。長女」
「ボクはカレンだよ!次女なのー」
何故か自己紹介したのに、ディナン様は俺らの方ではなく、ルキィ様の方をじっと見ている。何で四季が名乗った瞬間、俺が驚いてんのとか、勇者っつってんのになんで長女が赤目で、次女が黒髪黒目の欠片もねぇんだよ。みたいな感じだろうか。
仕方ないじゃないですか。公的な名乗りの場で苗字含めて名乗る時に森野四季なんて四季、使ったことがないんですもの!
「把握した。そのあたりの事情はツッコまないぞ。面倒だからな」
「質問の答えは簡単ですよ。単純にこいつが騎士団に属しており、武力もあるので少人数行動が許されているというだけです」
「説明を全部取られたが、そういうことだ」
ですか。それでも王族っていう替えが効かない役割なのは変わらないはずなんだけど……。弟さんが王をやってるならいいって判断なんだろう。
「であれば、もう一つ。らと言っている割に一人なのはなぜです?一人くらい別行動していても、他にもいるでしょう?」
「単に調査に出ているのでは?おい、お前。出ているのは誰です?」
「クリアナだ」
「え゛」
ルキィ様が出しちゃいけない声を出してる。
「え、待ってください。クリアナってあの?あの『クリアナ=ベルディー』侯爵令嬢?え、それ以外は?」
「いない。ついてきているのはクリアナ=ベルディー侯爵令嬢のみだ」
がっくりと肩を落とすお二人。
「そのクリアナ侯爵令嬢がどうされたのです?」
「即座に迷子になれる天才的才能を持った馬鹿。ただ、戦闘力はあるから10人程度の盗賊団くらいなら踏みつぶして帰ってくる」
「そして、こいつの婚約者で「嘘は止めろ。冗談でも」……嘘ではないでしょう?」
本気で嫌そうな顔のディナン様。うん?
「まさかとは思いますが、俺の四季に告ってきた理由ってクリアナさんと結婚したくないからとかいうろくでもない理由ではないですよね?」
「まさか。勇者様と結婚ってのはバシェルを許す手っ取り早い理由になるなと思ったんだよ」
早口だし、微妙に声が震えてる。一発、しばいてもいいかな。いいよね?
「やめとけ。習。俺からも聞きますが、ルキィ様に対してのも」
「まさか。うちの国には騎士団が10あるが、それはほぼ北方の獣人領域の警戒にあたっていて、遊撃的に動ける兵力が少ない。バシェルと俺らが同盟すれば魔族領域からの侵攻にも、もっと弾力のある対応が出来るかと思ってだな……」
こっちはあんまり嘘くさくない。けど、
「フーライナとアークライン神聖国が許しますかね、それ」
「だよね。四季」
確かに、バシェル、フーライナ、アークライン神聖国、イベアはファヴェラ大河川にかなり近い。というか、アークライン神聖国を除けば接している。さらに悪いことに、バシェルにあるファラボ大橋という部分で、わずかに陸続きになっている。だから、人間は魔人に対して一致団結して対抗している。
でも、今後はどうだろう? 勇者が1クラス分、約30人召喚されたという今回の召喚。人間領域の中で「勝ったな。風呂入ってくる」とかのたまう馬鹿が出てきてもおかしくないわけで。戦後のことを考えると駄目なんじゃない?
よしんば魔人を倒せなくても魔人が来る周期は基本決まってる。なら、暇なタイミングで……と思う馬鹿が湧いてもおかしくない。
いくら焦土作戦戦術をフーライナがとるとはいえ、勇者が居れば大丈夫! とかほざいて、攻める。その可能性を排除しきることは出来ないはず。だから、少なくともフーライナとアークライン神聖国を含めた同盟体勢でないと。
「ですよね」
「だが、我と結婚することには盛大な国益が……!」
「あります?よしんばあったとして、貴方とは嫌です。主にその性格が。一回死んで出直して下さい」
他国の王族にそこまで言っちゃうんですね……。どんだけ溜まってんですか。
「助けるわけじゃないけどー、そこまでー、この人ー、性格悪いのー?」
「王族としては良いほうですよ?ですが、ただ一点。告白してくる理由がクリアナ嬢と結婚したくないというのが、あほボケなすカスのゴミ屑ナメクジ」
悪口×7を言うルキィ様とかレアだなぁ……。
「ちょっ……。お前……。そこまで言うか?」
「言いますよ。いくら政略結婚が主となる王女とはいえ、そんな理由で告白されて嬉しいわけないでしょうが!せめてもっとまともな国益とかを最上位に持って来てくださいよ!この……おっと、失礼」
「今更止めるのか?」
「言いましょうか?」
「すまんかった」
ルキィ様の眼圧にディナン様が秒で折れた。何を言うつもりだったんですかね。ルキィ様。
「仮にあの人以外との結婚が先に成立したとて、あの人なら「側室でもいいのでー!」って突っ込んできますよ?それ、拒否れます?」
「ムリダナ」
あぁ、ディナン様の顔がなんか顔文字で見たことある顔になってる!
「無理なんですか?侯爵ならば家族が「側室はなぁ……」とか言わないんですか?」
「言いませんね。あそこは。むしろ「うちのポンコツを本人の希望通り貰ってくださってありがとうございます!」になります。その上、国中にそのポンコツ度合いとディナン様が好きってことは伝わっているので」
そも求婚されないか、されたとして、当然のように秒で拒否られると。
「ですが、それだけですと王妃……じゃない。公爵夫人として不適格となりません?」
今のところ、まだ王子っぽいですけど。
「ポンコツな以外は優良物件なので。絶対にこいつを裏切りませんし、有事の際に戦力になります。既にこいつ付きの給仕として働いているので、その役割を果たすことも可能です。また、侯爵令嬢としての教育は受けていますので礼儀作法と教養はあります。ポンコツですが」
ほんとにそれ、大丈夫です? ルキィ様にすら前後ポンコツで挟まれてる時点で不安しかないんですが。間の誉め言葉全部、オセロだとポンコツになりますよ?
「後、こいつの理想も高いんですよね。王じゃないからって、えり好みしやがってからに。「自分を王族としてみない人」って、どんだけいないと思ってんですか」
王族なら、残念ながら王族って地位が目当ての人が出てきますよね……。貴族でも平民でも。
「ですが、ポンコツクリアナ嬢はちゃんとそれを満たしているのです。ポンコツですが」
狙ってやってオセロやっておられる? いや、むしろルキィ様にすらここまで言わせる人がやばいのか。
バンッ! 「ディナン様ー!あなたの愛しいクリアナが帰ってきましたよー!わ、わわっー!」 ドンガラガッシャーン! 「あわわっ、すみません!すぐに片づけ……あーっ!ふっとんだー!」 ガッ! ガッシャーーン!
なるほど。これがポンコツさんか。




