58話 ディブラッタ
「そういや、今更だけど、アイリとカレンは言葉大丈夫?」
「獣人領域に行ったときに私達は意思疎通できますが、二人は駄目……とかないです?」
俺らは勇者だから言語関係は大丈夫。でも、二人にはそれはないよね?
「…イベアは大丈夫。獣人領域はわかんない。…統一されたときにある程度共通言語になったはず。…でも、別れたからちょっと変わってるかもしれない。…でも、通じなくても大丈夫。最悪、シャイツァーから言語の加護もらう」
悪い顔するなぁ…アイリ。脅し取るつもりだろうか? というか、そんなことできるのだろうか? まぁ、シャイツァーは出来ないことは出来ないって言う。だから、アイリがそういうってんなら出来るんだろう。
「ボクはへーき!だって、すでに言語の加護あるんだよ!」
えへん! と胸をはるカレン。なら、大丈夫か。言語関係の心配が要らないのは嬉しい。
「目的地、ディブラッタに到着しましたよ。今から宿に行きますねー」
パオジーさんの声。無事に到着したらしい。今日は何事も無く何より。
しばらく揺られて宿前に停車。さっそく下車。見た目は普通……ではないか。アークライン神聖国にいたせいで基準がバグってる。昔なら「わぁ、豪華!」と思えるくらいの豪華さではある。
「表情に出すぎだぞ。二人とも」
「タク。そんなに出てるか?」
「出てるな。アイリちゃんは別格だろうが、カレンちゃんも出てないぞ」
まじか。カレンにさえ負けるの…!?
そんな驚愕を込めてカレンの方を見ると、首をかしげて嬉しそうにニコッと微笑み返してくれた。まるで向日葵が咲いたよう。なんかもうどうでもいいや。
「おい、早く中に行こうぜ。他が入れないだろ。そんで飯だ」
「あぁ、だな」
人通りはゼロではないものな。
宿の中は間違いなく清潔だし、奇麗。比較対象が悪すぎるだけで。そりゃ、アークライン神聖国経由で首都に行こうとすると、確実に一泊しないとダメな街なんだもんな。王族用にちゃんとした宿は必要だものな。
この宿でのご飯は個室配膳形式。道中、食材は分けたとはいえ一緒に食べてたことを考えるとちょっと寂しい。
……にしても、なかなか受付が終わらないな。ルキィ様の近衛騎士が馬車の応援を呼んでんだから、今日来るのは予想できただろうに。てか、受付、揉めてる?
「ルキィ様。受付で揉めていません?」
「え。……本当ですね。聞いてきます」
「ルキィ様を一人にするわけにはいきません。習。行くぞ」
了解。俺とタクがルキィ様を追い抜いて、四季とアイリとカレンが後ろを守りながら近づくと、受付にいた近衛騎士が先に気づいた。
「ルキィ様!一番いい部屋が埋まっているそうです。王族ですし、対応を要請しているのですが、うんと言ってくれないのです」
「申し訳ありませんが、お客様が王族でありましても、こちらには対応できかねます。ご自身でお客様と交渉をなさってください。ただ、お客様はどこにおられるかわからないのです」
「なるほど。把握いたしました。無理を言いましてすみません。開いている部屋で構いません」
「ルキィ様!?」
明らかにほっとした様子の受付の人と狼狽する近衛騎士の対比が激しい。
「落ち着きなさい。勇者様も騒いでいないのですよ?」
「お言葉ですが勇者様はわかっておられないのでは?」
「そんなことないですよ。ねぇ?」
ですね。見ていればだいたいはわかりますよ。
「貴方の服を見ればルキィ様の近衛騎士であることは明白です。そして、ルキィ様が旅をしている途中ということは有名な話のはず。であれば、受付の人は宿泊者がルキィ様であることは悟れます」
というか、悟れないとマズい。このクラスの宿なんだから。
「でも、受付の人は引かなかった。そこらの貴族であれば大国バシェルの王女であるルキィ様に配慮するでしょう」
宿泊者の個人情報は渡さないにしても、どこにいるとかくらいは言えるはず。それすらしないということは、
「宿泊者はルキィ様より少し劣るかそれ以上の格がある。そういうことですよね?ルキィ様」
「ですね。シュウ様とシキ様のおっしゃる通りです」
よかった。推測はあっていましたか。
「ほら。スーピヴァ。貴方もそれくらいは「わかりますよ。だから、です!」……」
めっちゃ元気よく反駁するスーピヴァさん。
「他の皆も同意見ですか?」
勢いは様々。だけど、近衛騎士団の全員が賛意を示す。
「うわらば」
あ。ルキィ様の顔が死んだ。お疲れ様です……。
キュルキュル
そして、ルキィ様の方から可愛らしい音が響いた。お腹空いたのですね。
「食事にしましょう」
ルキィ様は頬を赤らめながらそうおっしゃった。そして、主そっちのけで熱中していた近衛も、王族の言うことを聞けない宿側も、ルキィ様に謝罪。そして、ご飯のためにやたら豪華な大部屋に通された。
明らかに過剰な人員が配置されているように見える。…最高級の部屋が用意できないお詫びかな? 超丁寧な対応をするので許して! となれば、ルキィ様も許さざるを得ないだろう。ある程度の面子が立つから。いやぁ、めんどくさい。
「アイリ。近衛騎士達の行動の理由はわかる?」
「…ごめん。わからない」
そか。ルキィ様と行動していたはずのアイリがわかんないなら、直接聞くしかないか。…ルキィ様は話してくれそうにないから近衛騎士に。…話してくれそうにないなぁ。
…で、カレンは何がしたいんだろう。俺と四季をよじ登ったり、飛び降りてみたりしている。ちょっと邪魔。いつご飯が出てくるかはわからないけど、出てきたら止めないと……ってもう来たし。
ん?ご飯が出てくるまでの時間と出て来た量があってない。サボテンモドキとヤシの実モドキだから、下ごしらえは要らなさそう。でも、調理法がゆでるとかだと、普通に時間かかりそうなんだけど……どんだけあるんだ。これ。
あぁ、来たし、カレンを止め……既に止まってくれてる。偉い。撫でとこう。
「食べ方をご存じない方は私の方を見てください。まず、『サフォテ』は棘に注意しながら、先端のほうを爪でかいてください。そうしますと、薄皮が指に引っ掛かりますので、そのままむいてください。それで棘も一緒に外れます。次に『ヤルシュ』ですが、こちらはハンマーを使います。硬い殻を殴っていただき、丸い中身を取り出してください。この中身をサフォテで巻いて食べます」
なるほど。いざ実践。サフォテの棘を掴んで、別の棘に刺さらないように注意しながら皮を引っ張ると、面白いくらいにスルスルとむける。皮をむいたサフォテは驚くほどみずみずしく、水分が葉に張り付いているように見える。
だけど、不思議なことにその水分が垂れたりしない。直接触ると、水分が溢れてくるのに。置くのがもったいないけど、実演してくれた人も置いてたし、一旦、お皿にサフォテを避難させて、ヤルシュをハンマーでたたき割る。どれくらい力を入れればいいのかわからないので、『身体強化』抜きのほぼ全力。
でぇい! バキッ!
あ。やりすぎた? 殻が粉々になった……あぁ、中身は無事だ。中の実? はふっくらしていて柔らかい。クッションをさわっているみたいだ。
じゃあ、引っ張るとどうなるんだろう? おー、ぐにーっとめっちゃ伸びる。どこまで伸びる…………えー、結構、伸びるね。でも、さすがに……この辺が限界かな。1 mくらいかな? ここまでくるとうまくつまめなくなってしまった上、伸ばすのにかなりの力がいる。
観察はほどほどにして、実食に移ろう。ヤルシュをサルファで巻いて…おぉう。サルファの水分が一気にヤルシュに吸収された。 水分が減って持ちやすくなったそれを口へ。
手で持ってた時の感触からわかってたけど、弾力がすごいね。てかこれ、餅では? めっちゃ伸びてたし。蒸してたっぽいけど、触感や味はかなり焼いた餅に近い。醤油が欲しくなる。
でも、これ単体でも、塩味がしていて美味しい。てか、この味だと、醤油はしょっぱくなりすぎるかもしれない。
「餅だな。習に清水さん」
「んあ?」
かなり間抜けな声が出た。四季は口にこれ含んでいるからか、そもそも声を出してない。二人そろって頷く。
あぁ、そういえば、アイリとカレンは大丈夫……ではなさそうね。カレンはわかるけど、アイリは何故だ。アイリならできると思ってたんだけど。
まぁ、いっか。とりあえず、一回くらいは自力でやる楽しさを味わってほしいから、もう一回、説明しながらやろう
「まず、サルファを持って「痛っ!」……棘に気を付けてって先に言うべきだったね」
カレンが思いっきりやらかした。上面は大丈夫だったけど、下は見えなかったもんね。アイリはちゃんと避けた。
『回復』
「ありがとー。おかーさん」
「気をつけてね」
四季が回復をかけてくれた。四季は説明を俺に任せ、食べやすいようにサルファとヤルシュを準備してくれるみたい。
「棘に気を付けながら、先端の方を指でかいて薄皮をひっかける。難しかったら、正直、棘でもいいと思う。そこは好みじゃないかな」
多分、棘を掴むっていうと拒否反応が出る人がいるだろうから、ああいう説明になったんだろう。
「いけたら、引っ張ってむく」
むくコツはない。何しろ、ひっぱりゃ全部つるんととれる。だからこそ、一回くらいは体験しといてほしい。この爽快感はなかなか癖になる。
二人とも、ちゃんと剥ききった。偉い偉い。
「次。ヤルシュの実をハンマーでかち割る。力加減は…、ごめん。わかんない。魔法なしでとりあえず一発やってみて」
「全力でやらないで」だと、魔法使ってやりそうだし、今度は先に言っておく。魔法は便利だけど、ミスったときにどうなるか予想がつきにくくなるんだよね。
とりあえず、さっきの半分ぐらいの力で殴る。あ、ヒビ入った。これくらいが適正か。でも、力加減を説明するのは不可能だ。そもそもアイリとカレンと俺じゃ、持ってる力が違う。
こういう個人差のあるところの説明って難しい。二人の割り方には性格がよく出ている。
アイリは弱いほうから徐々に強くしていくタイプ。疲れるけど、失敗しない、堅実だ。
カレンは「魔法を使ってないければ、全力でやってもいいんだよね!」と言わんばかりの一撃。雑だ。人の事言えないけど、雑だ。
結果的に、カレンはヒビの入りまくった実を取り外すのに時間がかかって、アイリと同じ時間に準備完了。
カレンが恨みがましそうな目でアイリを見ている。そして、こちらもチラチラと。
カレンの力が中途半端だったんだね…。俺クラスの力だと、実は粉砕される。だから、探し出すだけで済む。中身が傷みそうではあるけど。
アイリみたいにやれば、ヒビが入るから、そこからぺリぺリとゆで卵の殻をむくみたいにはがせる。
カレンのが一番中途半端すぎて駄目みたい。ゆで卵みたいに薄皮もないし…。まぁ、ゆで卵を剥くとき、うまく薄皮使えた試しないけど。
アイリはそんなカレンに見向きもせずにサルファを巻きつける。カレンもそれを見て、遅れまいと急いで巻いて、二人ともほぼ同時に食べる。
喉に詰まらせないでね。頼むから…。
……あぁ、でも、そんな心配は杞憂だったみたい。俺のように、伸ばして遊んでから、噛みちぎった。
………本当に美味しそうな顔して食べるなぁ。作ってくれた人も、食材も嬉しいだろう。食材に関してはエゴだと言われてしまえば、それまでなんだけど。
さて、ま、そんなことは忘れて、俺も四季の真似して作っとこう。作りたかったら勝手に作るでしょう。余れば俺たちが食べればいい。説明にそこまで時間かかってないから、まだ2個しかできてない。
どんどん作っていこう。二人とも結構食べるの早い。
一個完食すると、アイリは作り置きに手を伸ばし、カレンはサルファ自体に手を伸ばす。カレンはもう少し自力でやるみたい。リベンジかな?
あぁ、二個目はちゃんとできたね。次……も、サルファか。前に成功しているから、今回も危なげなく成功。でも、それで飽きたのか、作り置きに手を伸ばした。
よきよき。いっぱいお食べ。とはいえ、アイリ、結構食べるな…。4つ目だよ? とりあえず、作り置きは今6個ある。もっと作っとこう。
アイリは最初幸せそうに食べていたが、徐々に苦しくなってきたのか、ペースが落ちる。
カレンは6個食べたところで、「お腹いっぱーい」と言って、四季の膝の上でおねむだ。
アイリは20個食べたところで、
「…お腹いっぱい。無理」
と言った。ありゃま。
「…作りすぎ。…何考えてるのさ…」
え? 「美味しそうに食べるなー。ずっと見ていたいな。だけど?」と言うつもりで、瞬き。四季の方を見ると、同じ目をしている。
「馬鹿だろ…」
タクの言葉にアイリは少しためらないながら頷いた。うん。やりすぎたね。20個ほど、作り置きあるし…。
「大丈夫。責任もって食べるから!」
「はい!」
「そうじゃねぇ!いや、まぁ…、反省してるっぽいからそれでいいんだけど…」
頭をポリポリかくタク。まぁ、いいじゃん。食べきれるさ。一人10個。それで済む。
アイリがもっと早めに指摘しなかったのは、たぶん、俺達が作ってくれるのが嬉しかったからだろう。最初、自力でできるはずなのに説明をしてもらおうとしたのもおそらく、かまってほしかったからじゃないかな? 最初だけ自力でやって、次から俺達が処理した奴を食べだしたのも同じ理由。で、指摘できずにオーバーフローと。
ごめん。
思ったよりお腹にきたけど無事完食。さすがにもう一個食べようという気にはならないけど…。
「辛そうだな…」
少しだけあきれ顔で言うタク。それでも「残せよ」と言わないのは、俺の「お残しはダメ」という流儀に反することを知っているからだろう。もちろん、アレルギーは除く。アレルギーは死ぬ。俺はないけど。
ぐだっとしているとルキィ様がやってきた。
「すいません。一緒にギルドに来てもらえます?」
「なぜ?」
「先のワイバーンの関係です。来てもらわないと困るのです…」
困るのか…。なら、仕方ない。3人の顔を見ると、全員頷いた。
「了解です。服はどうします?」
「そのままでお願いします。」
「了解です」
昼からの目的地は決まった。




