57話 イベア
アークライン神聖国の首都を囲む壁。その外側に広がるアークライン神聖国の平原を抜け、外周の壁を抜けると、そこはもうイベア。
ルキィ様がいてくださるから入国審査はすぐに終わった。イベアは砂漠の国と聞いていたのだけど、まだ緑はある。でも、馬車の中から見る限り、先入観からか微妙に乾燥しているような気がするし、進めば進むほど確実に緑は減っているように感じる。
「気になりますか?外」
「はい。砂漠の国と聞いていたので、どんなところなんだろうと思いまして」
護衛のためとかそれっぽい理由をでっちあげてたけど、どう考えても「アイリと一緒にいたい」が本音のルキィ様に答える。まぁ、タクや俺らがいるから、守りやすいのはほんとなんだろうけど。
「イベアはいい国ですよ。うちに負けず劣らず。残念ながらというべきか、この辺りはまだまだ砂漠感は薄いですよ。いくら砂漠の国と言っても、まだそんな乾くところではないです。何せ、南にアークライン、南東にフーライナと言った農業国があり、東にファヴェラ大河川があるのですから」
そんなからっからにはなりませんか。…とはいえ、川がある=乾燥しないってことではない。地球ですら、ナイル川なんてサハラ砂漠を突っ切る外来河川があるもの。
「北に行けば、大砂漠がありますから本格的に乾燥してきますがね」
「東南北が出たからついでに西も言っとくと、西は基本、小国家群があるぞ」
へぇ。てことは、だるそう。謝罪行脚。
「全部に行くんですか?」
「いえ、さすがに無理です。ですので、小国の中でも比較的に強い『カリア』という国だけに行きます」
「それでいいのですか?」
いいって判断されているのだから、いいんでしょうけれど……。
「構いません。こう言っては何ですがあれらの国は「行くだけ感謝してくれ」という規模でしかありません。人間領域の北方は大砂漠からの魔物の防波堤となるべく、様々な国家が集合し、巨大化した『イベア』。そして、フーライナの衣服版のような『シメリーノープ』以外は泡沫のようなものですので」
言いますねぇ……。
「お言葉ですが、態度に出されるとよろしくありませんよ?」
「承知しておりますよ。シキ様。その辺りはお任せください。それより、4人のほうが大変ですよ?獣人領域に行かれるのでしょう?かつては国交があったそうですが、今は廃れてしまっていますから」
ですね。そのせいで道も失われてるでしょう。
「だからこそ、首都『スポルト』で時間をとる予定なのです」
国土のほぼ中央にあるでっかいオアシス都市にして、大砂漠からの魔物を迎え撃つ最前線でしたか。そこでなら、砂漠対応装備を整えられるはず。
「そこについてしまうとまたお別れなのですよね…」
「ですね」
ルキィ様達は人間領域の他の国を目指し、俺らは獣人領域を目指す。必然的に別れざるを得ない。
「仕方ありませんね。…お腹も空いてきましたし、ご飯にしましょう。パオジー。止まってください。ご飯にしましょう」
ルキィ様が御者台に声をかけると、俺らに代わって御者をしてくださってるパオジーさんは馬車を止めた。センがルキィ様の声を聞いて勝手に止まった気がするけど、きっと気のせい。
「セン、賢いですね。私が何もしなくても止まりましたよ」
「そうなんですよ。賢いでしょう?」
気のせいじゃなかった。ですよね。まぁ、センだし出来るよね。
さっさと昼食の準備をしよう。いくつか消費したい生ものもあるから、料理できるならしないとね。
「習。すんげぇ緑減ったな」
「だな。ガラッと砂漠になる!と思ってると意外ではあるが……多分、こっちのじわじわ減る感じが普通なんだろうな」
それでも、一気に乾燥しすぎな気がしないでもないが。アークライン神聖国は普通に森とかあったのに、ほぼ草が生えるだけになって、木はかなりまばらだ。
「地理でこういうのなんて言うんだっけ?」
「ステップじゃない?」
テレビで見るケニアの大自然。そんな感じだもの。合ってるだろ。
食材の選定完了。四季がメインの肉や調理道具を選んでくれてるから、俺はよさげな野菜をとるだけで済んだ。
「てか、タク。喋ってるだけじゃなくて、ルキィ様達を手伝えよ」
「あっち見てみ」
ん? タクが指さす先にいるのはルキィ様の近衛騎士。王女の護衛だから当然、全員女性。そういやそうだったわ。
「ありゃ、酷だわな」
「だからこっちに来た」
「てか、普段からあれだろ?よく混じれるな」
「気合」
気合かぁ。俺だったらきついだろうな。……いや、でも、ルキィ様が四季に置き換わったと考えれば……行けるかな。勇者だから無体なことはされないだろうし。うん。気合でいける。
「何か手伝うことある?」
「ないよ。こっちと、そっちで料理分けてあるし…。俺と四季がいれば十分すぎる」
「そっか」
料理をわざわざ分ける意味は同行している以上そんなにない。だが、ルキィ様が「こちらのために食材を使わないで!」っておっしゃったもの。分けるよね。
俺の目の前ですることがなくて、目に見えて落ち込むタクを放置するのはうっとお…、もとい、かわいそう。
「見張りでもしておけば?ここは魔物や魔獣はでないだろうが」
「賊とかいるしな。おっけぃ」
こんな大所帯襲う賊は頭逝かれてると思うけど…。
でも、女性比率高いし、美人が多い。襲ってくる奴がいないとも限らない。んー、人間の業だなぁ。
「…何作るの?」
「野菜炒め。調味料を大量にもらったからカレー味」
「まぁ、モドキですけどね…。それらしきものを混ぜるだけですから」
さしもの勇者もカレーの作り方を完全に覚えている人はいなかったっぽい。唯一、一人だけ再現した人がいたし、レシピもあった。でも、俺らには辛すぎた。
だから、辛みの原因のスパイスを俺ら好みに原料したのを使用。久しぶりに包丁で切った野菜、肉をフライパンで炒めて、適当に予め配合したカレー粉をドーン。さらに炒めて……
「味見しますねー。…うん、私は好きです」
「どれ?」
指でつまんで一口。うん、カレー粉自体、うちのよりちょい甘かったけど、野菜の甘みで少し甘みが強まった。けど、美味しい。アイリやカレンもいるしちょうどいいね。
「どうです?」
「うん、大丈夫。好きだわ。これで完成っと」
皆の分をよそおう。なーんで、四季は少しだけ顔を赤くしてるんだろ? そして、何で生暖かい目でカレンとアイリは俺らを見守ってるの?
まぁいいや。パンとともにいただきます。あー、粉作った時も思ったけど、ご飯が欲しくなるなぁ。
味見したから当然だけど、味もよし。パンとよく合う。…むー、パンの中身くりぬいて、これを入れて揚げてカレーパンぽくすればよかったかな。
いやでも、時間かかるしなぁ。何より、野菜がキャベツっぽいのだからなんかイメージと違う。今度やろう。そのときはちゃんとしたカレーも作ろう。いつになるかは知らないけど。
タクがものほしそうな目で見てくるので少しだけ分けてやる。喜んでくれたので良しとしよう。
アイリもカレンも無言でパクパク食べている。顔を見る限り気に入ってくれたようだ。良かった。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
食べ終わると、移動開始。水源となるオアシスが少ないから、アークライン神聖国からスポルトまでは町は少ない。今日の泊まる予定の町は、少し遠いのでさっさと出ておく必要がある。まぁ、何事もなければ普通につくんだけどね。
______
「ブルルッ!」
「ギャーギャー!」
!? センの声に聞きなれない生き物の声!?
「ルキィ様!皆様!前方にワイバーンの群れです!数は10!隊商を襲撃しているようです!」
パオジーさんが叫ぶ。フラグ回収か。
「習!行くぞ!」
タクのやつ、馬車が止まってもないのに出ていきやがった! そりゃ、迎撃必須なんだろうけどさ! 俺らワイバーンがどんなもんかよく知らないぞ!? てか、飛び出して行っていいのか? 一応、俺らはルキィ様の護衛だぞ!?
「行ってください!バオジー!隊商まで突っ込みますよ!」
「了解です!」
え。了解しちゃうんですか。ルキィ様が突っ込むというのであれば、俺らは従うまで! 今のうちに情報収集!
「アイリ!ワイバーンってどんなの!?」
「…体長3mくらいの竜。空を飛べて固い鱗を持つから、まともな飛び道具がないと大変。…一般的には目を抜くか、飛ぶための翼膜を破壊して撃墜してタコ殴りで、殺す。…それが出来ないなら亀みたいに固まって防御し続けて諦めるのを待つしかない」
なるほど。で、見た目は…あぁ、まんまファンタジーのワイバーンか。
「こちらバシェル王国ルキィ王女近衛騎士団!救援は必要ですか!?」
「お願いいたします!」
「承知!皆様!出番です!」
了解! 急停止した馬車の中から飛び降りる。隊商には多少、被害はあるみたいだが、今のところ、アイリの言ったセオリー通りに固まって耐えてる。だが、攻撃はしてない。弓とか持ってる人はいないわけじゃない。が、数が多くて波状攻撃されるから機能してないのか。
「行くぜ!」
馬車で追い抜いたタクが剣を勢いよく投擲。力任せにぶん投げられた剣はワイバーンの頭蓋を貫き、叩き落した。
さすがシャイツァー。固い(当社比)くらいじゃどうにもならんか。
「アイリ!カレン!自由に攻撃を!四季!」
「えぇ、分かっています!隊商の皆さん!防御魔法を使います!」
宣言だけしておいて、四季と手を繋ぐ。使うのは最近、ようやく使えるようになった魔法。
「「『『氷壁』』!」」
隊商の馬車列と人の集団をワイバーンから隠すように透明な氷の壁を出現させる。これで、防御はほぼ間違いなく大丈夫。
「攻撃できる人は攻撃に回ってください!」
「無理な人は引き続き、固まって防御をお願いします!」
万一、ぶち抜かれるとまずいから。
さて、俺らも攻撃に移ろ……うとは思うんだが、やる必要あるかな。既に火力足りてそうなんだが。カレンは既に矢で目から脳までぶち抜き、2頭を叩き落している。あ、また1頭落ちた。
張り切るタクが放つ火球や剣は上空を旋回しているワイバーンには当たりはしないものの、こちらへの突撃という選択肢を奪っている。アイリはアイリで鎌を放り投げ、途中でサイズ変化させることで、回避させずに胴体を引き裂いてる。
シャイツァーまじシャイツァー。アイリがあえて一般的にはなんて言ってた理由がよくわかる。鱗如き、障害にならない。
順調に数が減って行ってるのに、逃げないのな。というか、むしろ破れかぶれでもこちらに突っ込もうという気概を見せてる。突っ込んで……来たな!
「その意気やよし!切り伏せてくれる!」
「…ん」
あ。これ、出る幕ないわ。警戒だけしてよう。
ついに3頭まで減ったワイバーンがそれぞれの方向からこちらに突っ込んでくる。が、突進行動をとり、軌道が読みやすくなったせいで、早々にカレンに1頭が射抜かれる。なぜか飛べているが、どうせ落ちる。
残る2頭が口を光らせ、火の玉を発射。しかし、アイリもタクもそれを真っ向から切り捨てて無力化。返す一撃で得物を放り投げ、撃墜。
これで終わり。ほとんど俺ら何もしてないんだけど。…あぁ、出来ることはあるか。『回復』っと。これで怪我をした人も治るでしょ。
後は、隊商の人とのお話だけど……、近衛騎士団が来たからお任せ。勇者たる俺らや王族たるルキィ様にすることはない。
「アイリ?さっきからしきりに不思議そうに首をかしげてるけど、どうしたの?」
「…ん。そもそもここでワイバーンの襲撃があること自体、おかしい。…でも、もっと変なことがある気がして」
「そうなの?それって何?そりゃ俺らだって、魔物だろうワイバーンがこんな街道に出るのは変ってのはわかるけど」
「…違うよ」
? 魔物ってのが違うのかな?
「何が?」
「…それを言うなら、ワイバーンはこの辺りに住んでないことを言うべき。…ワイバーンの生息域は人間領域の南。エルフ領域との境になってるカスボカラス断崖付近」
「わお」
そりゃ、飛び切りおかしいね。そして、そんな飛び切りおかしい違和感があってなお、アイリが引っかかってる違和感ってなんだ?
少なくとも、この惨状を見てわかるものだよな。うまく対応できたのか隊商は5台ある馬車のうち3台を失いこそすれ、人死には出ていない。だからワイバーン以外の死体はない。……うん? ワイバーン以外の死体はない? 馬車は壊れてるのに?
「「馬?」」
「…馬?……あ。それだよ!」
きらっと顔を輝かせるアイリ。わかったのが嬉しいのね。
「…馬だね。食料が欲しいなら、馬車を壊したなら、それを曳いていた馬を襲えばいい。…なのに、隊商に執拗に攻撃をかけてた。…それが変。…そもそも御者台にいたはずの人すら死んでないってことは、狙ってたのは馬車の積み荷のはず」
「確かに変だけど、積み荷だけ狙うってのは変なの?ワイバーンの卵が盗まれたとかなら、ありえるんじゃないの?」
某ゲーに出てくる飛龍の如く。まぁ、あいつらの攻撃のせいで卵落として割るんだけど。
「…ワイバーンはそんな殊勝な生体してない。だから竜騎士が成立する。…カスボカラス断崖に生息するワイバーンは卵を産んで、育てはするけど…、断崖から落ちたら放置する」
えぇ……。落ちたらそれまでってか。あぁでも、地球にも似たようなのはいたか。
「…わかってすっきりした。でも、変ってことしかわかんないね。…なぜかワイバーンがここにいて、謎の行動をとってる」
「だね。ルキィ様。今回のことは情報として入っていますか?」
「いえ。そもそも、カーチェ様やブルンナ様も何も言っておられなかった以上、こちらも皆さんと同じ情報しか持っていませんよ」
そりゃそうですよね。最近はほぼ一緒にいたわけですし。
んな話をしていたら隊商と近衛騎士の話が終了。その結果、今日は野宿することに。馬車が破壊されすぎて、荷物はもちろん、人を運べない。こちらの馬車に乗せることは不可能。馬車を呼ぶ必要があるが、時間がかかる。
ワイバーンが出るなんてわけのわからない状況だから、ほっぽり出すこともできない。だから、護衛する。
ルキィ様に遅れる謝罪をされたけど、超特急の旅じゃなし、問題なし。どうせ、馬車の改良は要るんだから、こうやって恩を売っておけばやりやすくなるはず。ルキィ様っていう王族のコネはあるけど、コネはあるほどいい。
日本に残してきた家族は心配しているだろうけど……あれ? なんか「どうせどっかで無事にやってるでしょ」とあんまり心配されてないような気がしてきてた。
夜ご飯は隊商の詰んでた荷物の中から、まだ食べれるけどさすがに売れないものを中心にいただいた。雑多な食材だったから適当に鍋に。鍋にすると食べやすくていいよね。
ご馳走様をしたら、お風呂代わりに作ったシャワーを浴びて汗を流し、魔力をセンにあげる。嬉しそうなセンにもお休みを言って、馬車で4人そろって寝た。
翌日、朝ごはんを食べて、そろそろ暇だなーって3の鐘頃にようやく馬車が来た。
まぁ、夜通し走って来てもらっても、俺らは寝てるんだけどねてか、隊商の人も困る。夜に移動なんてしないだろうから。
「ルキィ様。あいつにしては遅かったですね。あいつ、ルキィ様第一主義だったはずですよね?」
言い方ェ……。
「街で止められたんでしょうね。夕刻を過ぎると、門は閉まりますから」
…ルキィ様の答え的にそれが日常なんですね。アークライン神聖国でちらちらと近衛騎士の人たちを見かけた感じでは、好きなのはわかってたけど……まさかそこまでとは。
「ルキィ様、準備が整いました」
「では、出発!」
ルキィ様の掛け声で、全ての馬車がゆっくりと動き出した。




