56話 後始末
これからもよろしくとは言ったものの、ちゃんと互いに何が出来て何が出来ないのかは把握しておかないと。連携が取れなくて詰む。とはいえ、それは今じゃない。
「出ようか」
「あんなことがあったのに、ずっとここにいるのはしんどいですからね」
封書庫の中の本は気を付けておかないといけない本ばかり。そんなところでゆっくりはしたくない。今までは日記関係でわちゃわちゃしてたから、出れなかったが、もう出れる。
「ブルンナ。この日記は持って上がるか?」
「びみょーなところ。内容が内容だから、闇に葬ってもいいんだけど…。扱いを決めるためにもとりあえず、姉さまに聞かないとねー。まぁ、禁書か封書の二択だけど」
「だろうな」
あれを開架に置くのはちょっと刺激が強すぎる。情報を明らかにすることは望ましいことではあるが、何でもかんでも明らかにすることが絶対に正しいかというとそうじゃないんだから。
「あ。持って上がるにしても、袋とかいる?」
禁じられた本の持ち出しって、その辺をちゃんとしてないとダメそうだけど。
「確かに。…ま、あの子ら呼ぶかぁ」
「「お願い」」
「うぃ。じゃ、ちょい待ち」
くるっと身をひるがえすブルンナ。ここで、色々会話してもいいけど、会話が弾みすぎると止め時見失うから、やめとこ。
一緒に行けることが確定して嬉しいカレンが、ちょっとそわそわと俺らの周りを動いているのを見ながら、待つことしばらく。
「おまたっせー!ホントルクンが直々に来てくれたけど、袋はもらったぜぃ!」
「え?何で?」
別にその子が本当に持ち出しても大丈夫そうかの確認をするわけじゃないでしょ?
「本を持つお手伝い!というわけで、この袋を広げてー」
袋っていうか、もろに布。どう見ても風呂敷。別に悪いとは言わないけど、ここの建造に携わったであろう勇者の趣味がわからない。
よく見る唐草模様の風呂敷の上に日記を置くと、ドローンが四隅をつまんで持ち上げた。結構、風呂敷が大きいから横から見えることも、落ちることもなさそうね。
そのまま禁書庫を経て図書館へ。既に手続き的なものは終わっているらしく、一切、待たされることなく部屋へ……って、
「ブルンナは何で俺らと一緒に部屋まで戻ってきてるのさ」
「え。……確かに!ブルンナ、姉さまに日記持ってかなきゃじゃん!じゃ、ブルンナは戻るね。この子と一緒に。慌ただしくてごめんねー」
俺らがエレベーターから降りるなり、ブルンナは下に戻って行った。窓から出ていくかと思ったけど、そんなことはなかったね。
「では、落ち着いてお話しましょ……あ」
「四季?どうしたの?」
「あー。あの、お話する前にご飯と思ったのですが、それよりも先にお風呂にしません?戦闘があったので、汗や色々な汚れが……」
確かに。このままってのはちょっと色々あれだよね…。
「なら、お風呂にしよっか。先に行ってきて」
「ありがとうございます」
四季がアイリとカレンを連れてお風呂へ。その後で、俺。お風呂から上がれば、いいタイミングでご飯を呼んでくれたらしく、既に机の上に大量のご飯が。
相変わらずのおいしさのご飯をいっぱい食べてご馳走様。お皿の返却まで済ませてようやく一段落。
「さっそくだけど、カレン。カレンの魔法とか戦法は具体的にどうなの?」
「まー、見てもらった通りだよー。ボクは魔力を使って矢を作れるよ。弓の扱いに関しては自信があるから、遠距離攻撃は任せて!」
「コスパはどうなのです?」
「魔力はほぼいらないくらいにはいいよー。一番、ネックになるのは『身体強化』の魔法くらい。あの戦いならー、まー、後、一時間は続けられるよー」
そか、なら経戦能力もそれなりか。手抜きしてたようには見えなかったし。
「…物理的に変な挙動をしていた矢があったけど?」
「あれもボクのまほーだね。自由自在に矢を曲げる!なんてことは、物理法則に反するからできないけどー」
「「できないんだ」」
意外。できるもんだと思ってた…。
「できないよー。ボクが出来るのはー、撃った矢をその場にとどめて置くこととー、狙いを付けた敵に、絶対に矢が当たるようにするだけー」
だけの定義が壊れる。それを駆使すれば意識外から矢を当てることなんてお手の物じゃん。
「それをするための代償はありますか?」
「対象をしばらく凝視しておく必要があるってことくらいかなー。おおよそ、1分くらいは必要かなー」
1分。長いような短いような…。敵によるだろうなぁ。これが致命的かそうじゃないかは。
「魔力消費は?」
「こいつに絶対当たるようにするー!って、ロックする時にだけちょっと。それ以降は、自動ー」
魔力消費はかなり少なめね。マジでコスパよさそう。
「…ロックすると、次から撃つ矢は絶対、その相手にだけしか当たらない?」
「そんなことないよー!ロックしながら、別の相手を射抜くことは出来るよー!もし、その相手に当たらなくても、当たれーと思えば、ロックした奴に飛ばすことはできるよー!ただ、ふくすーにロックはできないよー!」
制約はあるけど、融通が利くところもあると。
「ロックの適宜切り替えは無理?」
「だねー。一度、ロックしてから別のをロックするなら、もう一回、凝視しないとー」
「ロックしている敵にめがけて矢が飛んでいるときに、他の敵がいたときはどうなります?」
「そいつに当たるよー。貫通できるなら、貫通してでもそのひょーてきにあたりに行くしー、貫通できないならー、その場に落ちるよー」
絶対に一人にしか当たらない! とかいう仕様はないと。
「停止させた矢を再始動させるとき、その矢の速度ってどうなるのです?」
「停止前の速度と同じだよー。停止ちゅーも、速度は保存されてるのー!」
「加速させることはできないのですか?」
「無理ー」
「じゃあ、速度が減衰しまくると、落ちる?」
「落ちるねー。落ちると、さすがに消えるよー」
必中ではないと。だからこその燃費の良さかな? …速度がほぼない矢が当たっても困るけど。
「矢を空中に留めているときに、ロック対象を変えた場合はどうなりますか?」
「あたらしーほー」
そこは切り替わるのね…。一概にどっちがいいとは言えないから、選べるとよかったんだけど、無理か。
「魔法で他に何か言っておくべきことってある?」
「んー。ないかなー。逆に聞きたいことはー?」
「それがないんだよねぇ…」
既にだいたい聞いちゃったから。だからこそ、他に何かないか聞いたのだけど。他にないならないか。
「魔法関係ないのですけど、カレンちゃん。カレンちゃん自身の弓の腕前はどんなものなのです?」
「魔法関係なしってことだよねー?」
「ですです」
「せーしもくひょーなら、矢が届く距離にありさえすれば、当てられるよー。動いていてもあの本みたいに挙動が簡単ならよゆー。早すぎるとあやしー」
かなり腕前は高そうね。ロックまで組み合わせると、ほぼ外さないだろうな。
「じゃー。次。おとーさん達だねー。基本じょーほーは、蕾の時に理解してるからー、新しーとこだけでいーよー!」
蕾の前で喋った記憶ないんだけどなぁ……。ま、気にしたら負けか。
「出来るようになったことは多いよ」
「ですね。まず、『何かを前方に発射する』という一種の概念的な縛りが取れました」
あ。二人ともなんか微妙な顔してる。物分かりがいいはずの二人なのにわからないってことは、説明が抽象的過ぎたか。
「平たく言うと攻撃魔法や回復魔法以外も使えるようになったってことだね」
「これまでは敵の攻撃を防ぎたいとき、魔法を撃ちだすことで相殺することしかできませんでした。が、盾を作り出して攻撃を防げるようになった…と言えば、わかるでしょうか?」
これなら大丈夫そう。頷いてくれてる。
「後、他には『梯子』を作ったり、『橋』を作ったりもできるね」
「これまでは届かないような高所ですと、アイリちゃんの鎌に掴ませてもらうという、ひどく不安定な方法しかとれなかったのですが、自在に調整できるようになりましたよ」
地味だけどすごく行動範囲を自由に広げられるようになった。屋根の上とか、前まで行けなかったところにも行きやすい。
「…橋や梯子はどうできるの?」
「魔法を唱えた瞬間、思い描いた通りに全部一気に出るね」
端からじわじわじゃなくて、思った瞬間、完成形がどーん。そんな感じ。
「…ちゃんと橋になる?届かないとか、こっちに倒れてくるとかない?」
「その辺は、大丈夫みたい」
「ですです。最悪、これまでは手に持っていないと発動できませんでしたが、魔力を込めておきさえすれば、一度で紙が消えてしまいはしますが、遠距離でも発動できるようになりましたから」
「…それはすごいね」
「だよね!」
これまでは手に持っていないとダメだったから、銃みたいな扱いしかできなかった。でも、離れていても発動するなら、爆弾や地雷みたいに使うことだってできる。…所詮紙だから、投げた挙動は紙なんだけど。
いやでも、丸めるとか紙飛行機にするとかで投げ方も変えれるな? 悪いこと色々出来そう。
「他にはないのー?」
「他?他は特にないかなぁ…」
「じゃっっかん、紙を使い切った後、似たような紙系統の紙を作る時の必要魔力量が減ったくらいでしょうか」
だねぇ。ほんと、誤差レベルだけど。
「…ん。なら、わた「は、知ってるー!」…ん」
無慈悲。ちょっとアイリ、悲しそうだよ? ほんと、微妙な顔色の変化だけど。
「となると、もう話さないといけないことはない…かな?」
「ですかね。後、することと言いましたら、もう一度、封書庫に入ってみて、めぼしい本がないか探すくらいですね」
「…夜にルキィ様たちの歓迎会があるのを忘れないでね」
ありがと。そういえばあったね。
「じゃあ、何かあっても嫌だし、のんびりしてよっか」
「ですね」
子供たちも頷いてくれたし、のんびりしよ。
______
歓迎会は何かあるわけもなく無事に終了。四季やこの子らの奇麗or可愛いドレス姿を見れた以外に特に収穫はなし。
後日、もう一回行ってみた封書庫も、明らかに触っちゃいけないやつばかりで、新情報があるはずもなく。
カーチェ様の体調が回復してから、アイリのシャイツァーの名前が読めない件を何とかしてもらいに行っても、読めず。俺らやカーチェ様が頑張っても聖魔法ではどうにもならなかった。だから、きっと、根本的に何かが欠けてるとか、そういうことなんだろう。
刺激の強すぎる封書庫で回収された日記は当然のように封書庫送り。この世界の人にとっては衝撃的過ぎるし、妥当だろう。
そして、今日は全行程を終えて、ルキィ様達と出発する日。そこそこお世話になったこの部屋ともお別れ。
「忘れ物はない?」
「ないと思います」
「…ん。隅々まで探したけど、なかった」
「ねー」
なら、大丈夫そうか。エレベーターで一階へ。鍵だけ返して馬房へ。
「セン。今日、出発だけど、どう?行けそう?」
「ブルルルン!ブルルッ、ブルルルッ!」
「大丈夫!むしろ、望むところ!」かな? そうだね。全然、走れてなかったもんね。ごめんよ。
馬車とセンを繋いで準備完了。子供達には馬車に乗り込んでもらって、俺と四季が御者台へ。馬房出て、通路に出るとルキィ様とタクがなぜか馬車にも乗らずに待機中。
「あれ?遅れましたか?」
「いえ。時間よりも早いですよ。こちらが早かっただけです」
「なら、よかったです」
…なーんか、ルキィ様がそわそわされているような。これ、あれかな? 「馬車に乗ります?」って誘われるのを待ってる?
「…どしたの?」
「前見て」
後ろから顔だけ出したアイリにそう告げると、視線をちらっと前にやると、悟ったように頷いた。だよね。そういうことだよね。カレンへの許可は…とってくれたのね。
「お乗りになりますか?け「乗ります!」了解です」
大正解。警備上の不安とかあるはずなのに、そんなの知らねぇ! と言わんばかりの勢い。
「俺も乗っていいよな?」
「勿論」
「です。ただ、一応、言っておきますが変なことはしないでくださいね?」
「しないしない」
ルキィ様にほの字なんだから、そこの心配はしてないけど、一応ね。
「ただ、後ろの近衛のご機嫌取りは任せる」
ルキィ様のことが大好きな近衛が、ルキィ様から引き離されて不満っぽいオーラを垂れ流してるからな。俺らは知らん。許可しただけだし。
「俺に出来ると思ってんのか」
「がんばれ」
「出来ますよ」
知らんけど。ルキィ様と一緒にいれるタクがご機嫌取りに行っても焼け石に水の可能性が高い気しかしないけど。
「うぇいうぇいうぇい!待って!」
「ん?どうした?」
「渡すものがあるの!」
?
「昨日までにいただくものはいただいたはずですが…」
だよね。お金とか、服とか、ご飯とか…必要なものは全部、くれたよね?
「一番大事なの!はい!」
渡されたのは見覚えのあるカード。だけど、そこに書いてある名前だけが違う。
「ギルドカードだよ!カレンの!ブルンナたちの依頼を受けてくれたから、正直、みんなランク上げてもよかったんだけど、全員のランクを揃えようと思うとあげれなかった!」
「了解。ありがと」
「ありがとうございます」
俺らはランクにあまり意味を見出してないから問題ないな。扱い的には銀行のカードレベル。だって、冒険者ランクより、勇者って肩書のほうが重いもの。
「じゃ、これで渡すものは本当にないね!じゃ!みっんなー!」
ブルンナの号令で、どこにいたのか聖楽隊が見送りの音楽を鳴らしてくれる。
「皆様の旅路に、幸がありますように!」
「妹に台詞も言葉を交わす機会もかなり取られてしまいましたが…、皆様に神のご加護があらんことを」
かっちりした挨拶をするブルンナと猫を被ったカーチェ様に見送られ、馬車は進む。
二人ともこちらから視認できなくなるまでそこに立って手を振ってくれ、音楽はアークラインの城壁を越えるまで高らかに響いていた。
お読みいただきありがとうございます。
これにて2章終了です。来月は閑話と人物紹介、9月から3章の予定です。
誤字や脱字、その他、もし何かありましたらお知らせいただけると嬉しいです。




