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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
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55話 日記



 爆風は抑え込んだ。だが、これで終わったとは断定できない。最大限の警戒をしながら、地面に落ちた日記を見つめる。



 俺の心臓の音とみんなの呼吸と身じろぎする音だけが耳に届き、頬を汗がつうっとすべていく。一拍、二拍……。



「大丈夫そうじゃない?」


 しばらく経過してから、ブルンナが声を出す。確かに、大丈夫だろう。そう思った途端、緊張で固くなった体がほぐれる。だが、まだ安心はできない。



「カレン。あの日記にちょっかいかけてみて」

「りょーかい!矢でいい?」

「あぁ、それで構わない。…いいよな?」

「もち!いくら貴重な遺産だとしても、暴走したやつだし!それで人的被害が出るほうがまずいよ!」


 ブルンナの元気な返答を聞くなり、カレンが矢を発射。その矢はまっすぐ飛んで行って、普通に日記に突き刺さった。



「変な挙動はしてなかったよね?」

「ですね」

「…わたしも、してなかったと思う」


 なら、大丈夫か。そう思った瞬間、疲れがどっと来る。さっきまで張りつめていたから気づかなかっただけで、やっぱ疲れてたのか。



「とりあえず、あの日記を片付けましょう」

「だね。あぁ、一応、言っておくけど、既に瘴気もまとっていないし、もう日記には警戒しなくていいだろうけど、封書庫ってことを忘れないでね」


 変な本が保管されてるのがここだ。油断すれば面倒くさいことになりかねない。アイリは心配していないけど、カレンは未知数だし、ブルンナは怪しいからなぁ…。



 あぁ、でも、ブルンナはちょっと心外! って顔をしてこっちを見てるから、大丈夫か。さて、日記は普通の日記だな。2000年近く経ってるにしてはいやに奇麗だが。



「経年劣化が見られないのは、やはりそういうことですかね?」

「たぶんね。瘴気が日記を日記として残したんだろうね」


 負の感情をエネルギーにして……ってのはよくあること。その負の感情の供給源としてこの日記は最適すぎる。



 日記の見た目は普通。初代教皇が使っていたにしては質素ではあるが、それ以外に特筆すべきことはない。



「いちおー、浮いてるときに真ん中にあった本にー、矢は刺したよー」

「よく区別付いたね…」


 俺だと無理だぞ。爆発を抑え込むと同時に、一斉に落ちたのもあってなおさら。



「まー、第何番って書いてくれてたしねー」


 得意げに言うカレン。そっか、それでも偉い。頭をなでるとカレンは嬉しそうに身をよじる。



「…これだね。どうぞ」

「ありがと。四季、俺が読んでもいい?」

「んー。本当ならば、習君にだけ体を張ってもらうというのは喜ばしくはないのですが…。一緒に地雷原に突っ込んで、二人とも再起不能になるほど馬鹿らしいこともないので、お願いします。回復魔法は用意しておきますので」

「お願い」


 渋々だけど、許可を貰えたし、読んでみるか。とりあえずばーっと。



 うん、見てて楽しいものではないのは確定。日記とはと言いたくなる。日記ってその日あったことを書き留めるものじゃなかったっけ?



「何が書いてありました?」

「恨みつらみだね。とても日記とは言えないんじゃないかな。いや、日付は書いてあるから、そこだけは日記なのかもしれないけどさ」

「なるほど?では、習君が大丈夫そうなので、私も読んでみますね」

「シュウもだけど、シキもばーっとやるだけなの何なの…?」

「速読だよ」


 詳しく読むのはまぁ無理だけど、概要の把握くらいならいけるいける。



「ですね。日記というにはあれですね」

「だよね」


 日付と天気があったら、その天気に関する恨みつらみ。晴れなら「こんな世界滅べばいいのに、無駄に晴れてる」だし、雨なら「わたくしの悲しみはこんな雨程度ではかなわない」だし、くもりなら「この暗い雲が世界を覆いつくしてしまえばいいのに」だし。



 その後も何があったかは書いてあるけど…「だれだれと会食。こびへつらうことしかしてこない。お父様とお母様の話題を出しすらしない。裏切者」とか、「慰霊祭。どの口が」とかの悪態しかない。



 しかもその悪態部分の筆跡が怖い。怨念だけで人を殺せるんじゃないかってくらい。



「いやあの、日記が云々って言ってるけど、他の日記も一番最後の頁がやばすぎるんだけど?」

「え。読んだの」

「え?まずかった?一番、やばそうなのが平気そうだったから、読んだんだけど」

「あー。なるほど。それならいいや。考えなしだったらしばいたけど」

「えぇ…。まぁいいや。こんな感じ」


 最後のページだけ見せてくれた。ふぅん。



「この最後の日記のマシなバージョンか」

「ですね」

「これより酷いって何があるの…」

「単にひどくしただけだよ」


 最後の日記も、見せてくれてる日記も最終ページは黒に染まっている。だが、それはただの黒じゃなくて、何度も何度もこの世界を呪い続けた結果。「呪いあれ。災いあれ」と字を繰り返し書き込んだことで読めなくなって黒くなった。



重なっているせいで字を判読することはできないが、漂ってくる雰囲気からして内容のベクトルは間違いない。



「どれー?」

「見せて!」

「…わたしも見たい」

「四季、見せても大丈夫だと思う?」

「私も習君もなんともなかったんですし、平気でしょう」

「それもそっか」


 日記の両端を持って最終ページが見えるようにして三人の前に差し出す。



「ひっ!」

「っ!」

「カレンちゃん!」


 その瞬間、短い悲鳴を上げてカレンがしりもちをつく。それを見て俺が動くよりも先に四季がカレンに近づいて、優しく抱き留めてあげてくれている。なら、俺がすることは、



「アイリ!ブルンナ!二人に異常はないか!?」

「…ん。何も」

「ブ、ブルンナもないよー」

「ブルンナちゃんもちょっとまずそうじゃないですか。こちらへおいでなさい」

「う、ううん。大丈夫」


 ふるふると首を振るブルンナ。少し顔が青いけれど自己申告通り、大丈夫そう。それなら、カレンか。



「四季。カレンは大丈夫そう?」

「今、深呼吸してもらっているところです。無理に何かを伝えようとしてきたので、先に落ち着いてもらうことを優先しました」

「さすが」


 無理にしゃべろうとすると記憶を掘り返すことになって、また悪化する…なんてことがあるからな。



「ふー。落ち着いた。大丈夫。無理にしゃべろーとはしないから、安心してー」

「大丈夫と言えるような顔色をしてないぞ…」


 顔が真っ青。生き物の顔はこんなにも青くなるのかと思えるほどに。



 自己申告を無視して、介抱に努める。四季が抱き留めながら背中をさすり、俺が頭を撫でること、しばらくカレンの呼吸も落ち着いてきた。



「いまさらだけど、魔法を使ってあげなくてよかったの?」

「あの日記にもはや攻撃能力はないはずだからな。あるなら、俺らにも影響は出ている」

「それに個人差もありましたし。何より、本当に攻撃であるなら、こうしていても悪化したはずです」


 その場合、すぐに使ったさ。でも、今回は大丈夫そうだった。なら、使っても意味はないだろう。



「ごめーん。落ち着いたー」

「大丈夫。謝らなくていいですよ」

「だな」


 謝られるとこっちが申し訳なくなる。



「それで、どうしたんですか?あぁ、繰り返しにはなりますが、無理にしゃべらなくてもいいですよ」

「だいじょーぶ。喋る。喋りたーい。といってもー。めちゃくちゃ簡単なんだけどねー?罪悪感とー、溢れ出る濃密な殺意に圧倒されちゃったのー」


 言葉にされるとものすごく単純だな。



「ブルンナも同じく?」

「そーだね。でも、あれを読んで何ともなかった三人のが逆に怖いんだけど」


 軽くブルンナに引かれてるなぁ。でもさ、



「いかに濃密な殺意であれ、俺らはその対象じゃないからな」

「そんな殺意ですから、いなすのは至極簡単ですよ」


 あくまでこの世界の生物に対する恨みだからな。勇者である俺らはその範疇にない。



「となると、真にやばいのは…?」


 ブルンナの目線がアイリに向く。



「…そんな目で見られるのは納得いかない。確かに、わたしは殺意に晒されるのは慣れている。でも、わたしが感じた殺意はこれまで感じた殺意の中で上位にはこれど、最上級じゃなかった。…それだけ」


 アイリにしては饒舌。ほんとにそう思われるのが嫌らしい。



「まぁ、アイリは過去が過去。この世界を恨んだことだってあるだろうから、殺意の対象から外れたんじゃない?」

「でもさ、ただの日記だよ?そんなことまでする?」

「そこまでは不明ですね。ですが、攻撃までしてきたのですから、可能性としては否定できないかと」


 だな。でも、ブルンナの言うことも一理ある。それを確認するなら……いや、意味はないか。アイリに罪悪感あった? と聞こうと思ったけど、罪悪感は本人の心に依存する。殺気とは別問題。



「あ!それよりー、ボクを連れて行ってくれるー?最後の最後はともかくとしてー、けっこー、役に立ってたと思うよー!」

「あー。そういえば、連れていけるかどうかの判断は後でって言ってたね。…ごめん。後でいい?」

「さすがにここに長居はしたくないですから」

「それはそーだね!なら、よーじをさっさと済ませちゃおー!」


 エルフにまつわる本を探そう。あるかどうか怪しいが……。







______


「何の成果も!得られませんでしたぁ!」


 部屋に戻ってくるなり叫ぶブルンナ。俺らしかいないとはいえ、よくやるなぁ。



「いや、得られたでしょ」

「ですね。ただ、確定ではありませんが…」


 そこはなんとも言い難いところではあるが。



 得られた情報は「エルフ、獣人、魔人は全て神話決戦後に生まれた。そして、前者は後者の二種族はまき散らされた瘴気の影響で変質した人間かもしれない。エルフは世界樹の管理種族として作られたらしい」という程度。



 断定情報が一個もない。そして、何でこの情報が封書庫にあったのかは謎。まぁ、魔族としょっちゅう戦争してるんだから、その魔族がもとは同じ人間でした! って言われると少ししばきにくくなるとかだろ。



 ただ、この情報が他の書物で見られないってことは、人間だったって事実が完全に忘れられるほど、どっかで分断があったんだろう。じゃないと、ここに置くだけで表の世界から完全に消え去るわけがない。…もしくは、眉唾すぎて忘れられたか。



「それに、ボクの戦力ひょーかもできたでしょ!」

「…お父さんとお母さんも新しく魔法を使ってたし」

「ごめんて。ノリだよ。ノリ。でもさぁ、徒労感はひとしおじゃない?」


 それは否定できないな。エルフの情報を探しに行ったのに、ろくに情報はなく。確定したのは初代がこの世界を恨みながら死んだってだけ。



「あぁ、そういえば…。初代教皇があんなんだってのは伝わってるのか?」

「うんにゃ。さすがにあの程度ってのは伝わってないね。そりゃあ、経緯が経緯だから「この世界が大好き!」はないだろうなとは思われてたよ。でも、なんだかんだでこの国の建国に尽力して、ばらばらだったここをうまくまとめたからね…。封書庫の目録を知っている人でさえ、「この世界の安定に尽力した聖人。ただ、鬱憤は日記に込めた」じゃないかな」

「…頭沸いてるの?」

「罵倒が直球過ぎない?」

「…普通」


 普通……いや、普通か。あれをみて、「鬱憤」で済ませてしまうのは…。うん。そのレベルの罵倒をされても仕方なし。



「いやいや、冷静になって?目録だよ?封書庫なんて、本当に「ひゃっはー!いくぜぇ!」って行く場所じゃないんだからね?目録を知ってるだけなら、その程度になってもおかしくないよ」


 それは…確かに。一理あるか。実際にあの日記を見ていなければ、あの狂気は、慟哭は理解できない。筆舌に尽くしがたい思いというのはアレのことを言うんだろうな。



それであれば、「封書庫に収められている」という悪い面も、聖人というベールが覆い隠してしまうんだろう。



「まぁ、日記に関しては後にしておこう」

「ですね。これをどうするのかとかも聞かないといけませんから」


 俺らの判断でゴミ箱行き! とかできるわけがないし。



「じゃー!ボクの話をー!ついて行ってもいーい?」


 可愛らしく首をこてっと傾げるカレン。んー。微妙。ちゃんと言いつけを守ってくれてたってのは高評価ではあるんだけど。あれで判断するのは正直、ムリゲーに近い。



「四季」

「ですね。少し良心が咎めますが…」


 やるしかないか。



「?ねー。二人で何を」


 唐突に二人でカレン目掛けて本気の殺気を叩きつける。



 瞬間、カレンは「ひっ」と小さく息を漏らしはしたものの、俺らから飛び跳ねるように遠ざかり、気丈にもキッとこちらをにらみつけてきた。



「うん。今のにその反応ができるならいいかな」

「ですね。立ちすくまれてしまいますと、私達でも守ってあげられませんから」

「あー。今のは試験?」


 頭の回転も早い。ぱっと花が咲くように顔をほころばせた。



「うん。正解」

「鬼畜ぅ」

「鬼畜で結構。それで、私たちが守り切れずに死ぬ…なんてことがなくなるのであれば、容赦はしませんよ」


 一緒に来てもらうってなったときに死なれると悲しいしね。



「…ん。間違いない」

「そーだよ!」

「え。これ、ブルンナが批判される流れ?」


 急にわたわたしだしたブルンナ。だけど、カレンはそれを無視して、



「それじゃー、これからもよろしくね!おとーさん!おかーさん!」


 そう満面の笑みを俺らに向けながら言い放った。

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