6話 検問
「これくらいあればいいかな?」
「と私は思いますが…、アイリちゃんはどう思います?」
『回復』が2枚に『火球』、『岩弾』を追加で書いた。あと一回くらいで消えそうな日本語『風刃』、一回使ったアークラインの言葉版『風刃』、日本語『ウォーターレーザー』をあわせて攻撃出来る魔法は5枚。
『球』は2 mくらいの球で押しつぶす感じ。『弾』は鉄砲の弾のように細かいのをいっぱい出す感じ。あくまでそういう感じだから、非常時は『弾』で『球』とかもちょっと効率落ちるけど出来る。
これだけあれば十分だと思うけど、足りないかな?
「…過剰」
「過剰?」
「です?」
「…ん。過剰」
何故だ。むしろ足りないかもって思ってるくらいなのに。
「…『火球』を遠距離からたたき込めば済むでしょ?」
まぁ、そうだけど…。
「書いている最中に、魔物がこんなところに大量に居るのはおかしいから、」
「その対応であの人たちはいるのかもしれない…と言ってくださったのはアイリちゃんですよ?」
だから先制攻撃はしない。俺らを殺そうとしているわけでもない、ただ真面目に仕事してる人を消し飛ばすのは可哀想すぎる。俺ら狙いであるならば、仕事であろうがなかろうが容赦しないけど。
「…その上で、時間的余裕はそんなになかったから対お父さん、お母さんで網を張れるとは思いにくい…とも言わなかったっけ?」
言われたな。俺らが起きたのはタクらが目覚めて一日後。その次の日には出立して、野営して今ここ。無線もないだろうから、四日で…というか、俺らが西光寺達とは別口で王城を出てからと考えると実質三日。それで連絡取れるか?といわれると怪しい。
ただ馬で飛ばせば行けそうな気はする。歩く人用の村?みたいなところをスルーしたからか、それらしき馬とはすれ違わなかったけれど。
「万一があり得ますから」
「それでも過剰だと思うよ?…二人の魔力が心配」
「まぁ、たった4枚作るだけなら」
「まだまだ余裕はありますね」
俺の魔力は残り半分くらい。たぶん四季も同じくらい。最悪、彼らを伸すことになっても余裕だろう。
「…勇者は魔法のない世界から来てるって聞いてるんだけど?」
「俺らの世界には魔法はないはず」
「ですね」
断言できないけどね。俺らが知らないところで魔法がないとは言い切れないのだから。
「…勇者だからか魔力量か習熟度か、その両方がおかしいのかな…?」
アイリがぼそっと何かを言ってる。けど、アイリには俺らに聞かせる気がないのか、ほとんど聞こえない。不思議そうに首をかしげているけれど、一体何を思っているのやら。
「アイリ。鎌はどのくらいまで小さくできる?」
「…隠しきれないから意味ないよ?」
だろうね。隠しきれるのであればアイリの迫害はまだ少しだけ優しいものになってたはずだ。
「確認しておきたいので、やってみてくれませんか?」
「…ん」
アイリが持っていた鎌がしゅるしゅる小さくなっていく。でも、手より少し大きなサイズになったところで縮小は止まった。アイリの手に握りこむには大きく、ポケットに入れるには微妙に大きい。なんとも嫌らしいサイズ。
「人見知り設定で俺と四季の陰に隠れるのは可能?」
「…出来なくもない。…でも、見えるかも?」
「そのときはそのときですね」
出来ればアイリの鎌は見られてほしくはないけれど、見られてしまったならば仕方ない。
「それでも、出来るだけ罵倒されるような可能性は減らせるように動くから、」
「アイリちゃんも協力をお願いします」
「……ん。わかった」
あれ?微妙に返事が来るまでに間が。答える前に目を丸くしていたのと関係する?
「…行かないの?」
「え?あ。うん。行く」
「行きましょう」
今度こそ出発…と思ったら目深にフードを被ったアイリが服を掴んでくる。
「どうしたの?」
「…?」
あれ?そっちこそどうしたの?って目がフードの下にある…?んん?あ。あぁ!
「人見知り設定を頼んだけど、見られてない段階で俺と四季の服掴む?」
「…出来なくもない」
…あぁ、演技に期待するなと。
「大根になるくらいなら極端なことをしておくと?」
「…ん。…設定を発揮しようとしたら既に見られてた…とかだと困るかもしれない」
人見知りの子が人に気づいたからいそいそ隠れた…でも通用しそうだけど。「演技に期待するな」ってところにかかってくるんだろうなぁ…。
「…護衛としては反応が一歩遅れるからよくないんだけど」
「それは諦めてくださいな。一歩くらいなら私達でも耐えられます」
一歩耐えるだけでいいなら、馬頭を浴びる可能性を減らす方を選ぶさ。
「…ん。じゃ、行こう」
だね。隠れないで堂々と。道のすぐ脇で数個テントをっぽいものまで組んで、道を塞ぐ騎士っぽい人に近づく。
「とま…、止まってください!」
命令口調ではなくて丁寧語。暗殺者なら即襲ってきてもおかしくない…と考えると、普通の騎士さんか?
「何か身分を証明できるようなものはありますか?」
俺の分の身分証明書を渡す。
「あの、お二方の証明書は…?」
指で証明書をこんこんと叩く。「黒髪黒目で苗字あるんだけど、それで身分保証されてない?」と暗に訴えかける。これで勝手に貴族と勘違いしてくれれば…、
「あの、隣にいらっしゃるのは奥方様で、後ろにいらっしゃるのがお子様ですか?」
「はい」
「お仕事ですので、見せていただけるとありがたいのですが」
ちっ。駄目か。
「では、私の分をどうぞ」
「娘さんは…」
「この子に持たせているのですが、何分、人見知りする子でして…」
嘘だけど。アイリが他人に接しているところは見たことはないが、人見知りはしないだろう。淡々とやるべきことをこなす子だしな。
「まもなく国境であるのに、何故ここで検問をされておられるのですか?」
「実はこの先のフーライナで魔物が異常発生しているようでして…、それがこちらに波及しないかどうか、その確認作業をしております」
魔物のほう……か?俺ら絡みではなさそうだが、検問チックにする意味が分からない。
「もう少し詳しく教えていただいても?」
「こちらにはまだあまり情報が来ておらず詳細は不明なのですが、魔獣、魔物領域ではないはずの場所の何カ所かで、魔物絡みと思われる異変が確認されているようです」
「…普通、魔獣と魔物は湧く場所が限られてる。…この周辺にはない」
了解。ありがとう。
「ですので、フーライナに行かれるのであればお気をつけくださいませ。ところで、娘さんはなんとおっしゃっていたのです?我々に関係のあることであれば教えていただきたい」
補足してくれてたなんて言えない…。いや、ヒントくれてた。誤魔化せる。
「さっき、襲われたよね?と言ってました」
「先ほど私達、魔物猪の群れに襲われていまして…、それは関係ないの?と聞きたいようでして…、」
騎士さんの顔が引きつっている。思いっきり関係ありそうですしね…。
「あの、どこでですか?」
「この街道をちょっと戻ったところです。こちらの方角から来ました」
「心配なさらずとも襲ってきた猪は全て殺しましたが…」
騎士さんの汗がどんどんひどくなってく。
「一応、証拠です」
アイリがばらしてくれた猪の頭だけを二頭分出す。量が量だけど証拠のためにアイリが確保してくれた綺麗な分だ。嘘つくためだけに猪の頭二つ持ち運ぶとか、ほぼあり得ないだろうから、ちゃんと証拠になるはず。
「プ、プロスボア……。あの、詳しい位置は…?」
「街道で水を上に撃ったので、見ておられればそのあたりです」
「戻っていくなら1時間か2時間でしょうか?」
完全に信じてもらえたらしい。顔が真っ青だ。
「新たな魔物領域が生まれた。もしくは、最近のフーライナの異常に関連した魔物が我々の目を盗んで森へ入った。二つの可能性も考えられるのですが…、」
この辺りは既に森ではなく、見通しの良い川辺。ちょっと行けば小高い丘があるけれど、普通、森へ入るものは見逃さない。
「他の隊にも確認いたしませんと…!あぁ、貴重な情報ありがとうございました!どうかお気をつけて!」
「え、あの。この頭は要らないのです?」
「欲しいですが情報提供費を支払えない以上、構いません!では、お達者で!」
少し狙ったとはいえ、俺らに構ってられなくなった感がすさまじい。
「…それであってる。二人の証明書見て、奇特なお忍び貴族だと思われたんだと思う」
奇特って…、いや、否定出来ないかな?徒歩だし。服はある程度高そうなものだけど、森を歩く服ではない。
「進みますか」
「だね」
いいって行ってくれたし。でも人見知り設定は継続。まだ後ろに騎士さん達居るし。
「第三大隊!異常があったようだ!至急確認へ向かうぞ!」
「隊長!真偽は!?」
「お前、貴族様に確認できると思ってんのか!?」
「思いません!」
テントから声がめっちゃ響いてる。思いっきり貴族と勘違いしてくれているようだ。何を話しているか気になるから『身体強化』を耳に。これでよく聞こえるようになるはず。…原理不明だけど。
「隊長!あの方々、黒k」
「気のせいだ」
!?伝令が回ってる!?
「え?」
「気のせいだ。というか、子連れだぞ。勇者様はこれまで子供連れで召喚されたことはないんだから、違う」
ちゃんと家族設定が効いてるっぽい。
「それよりも。だ。威信より、安全だろう?威信で飯は食えない…こともないが、そちらにかまけて安全を壊す方が失笑もの。そうだろう!?」
「そうですね!」
たぶん騎士さんたちはこっちに来ない。でも、伝令は回ってきている様子。油断は出来ない。
あ。あぁ、伝令回ってきてたから検問チックだったんだ。魔物調査に嘘はないけど、勇者…というか黒髪を通すなというのも来てたから。
「では、早速現場に…って、現場知ってるんです?」
「聞いた」
「着いてきていただくのは…」
「あの方々は容姿、名前からしてこの国の貴族様ではないはずだが、証明書持っているんだぞ?」
「無理っすね」
名前が偽名って可能性は除外しちゃうのね…。
「…証明書だよ?」
偽造されない前提なのね。前提崩壊したら弱いなぁ…。
「隠密はどうします?」
!
「え?」
「いえ、彼ら国境越えようとする黒髪黒目は殺せとか言ってませんでしたっけ?」
!?仕事が雑にもほどがあるでしょ!?
あ。あぁ、情報提供代を渡せない…ってそれでか!俺らが生き残った場合「隠密殺したのこいつらじゃん」ってなるの避けるようとしてくれてたのか!
「……俺は関知しない。我々には我々の仕事が有り、彼らには彼らの仕事があるのだ」
関知して。絶対それ駄目なやつでしょ!?全然関係ない貴族襲って国際問題になりかねませんよ!?
「準備できたな!行くぞ!バシェル騎士団出撃!」
準備できたな(断定)。言う意味あるんですかね…。そして、雄叫び上げて去って行く騎士団。…絶対本来の手順じゃない。手順じゃないってことは…、
「殺せ!」
そうなるよね。放置されていたテントからいかにもって人らが飛び出して…ん?気配がテント以外からもする。既に囲まれてる?
「…ッ!後ろは任せて!」
なら、俺らは前!前に居るのは二人。何かを投げると同時、スッと距離を詰めて飛びかかってきている。
紙…は間に合わない。飛び道具回避…はしたくない。避けるとアイリに当たりかねない。
全くもって面倒な。上体を少し後ろへ下げながら、飛び道具をペンで撫でるように上へ。上へ軌道を曲げていなす。
下げた上体をそのまま勢いよく下げてバク転。ついでに蹴りを狙う。が、さすがに当たらない。
着地ついでにペンを放り投げ。ま、避けられるよね。相手も同様に武器を投擲。再度、突撃。
残念。この位置ならば避けられる。体をずらせば、頭の後ろで硬質な音が鳴る。
音の聞こえた方に右手を伸ばし、やつが投げた武器を回収。その武器で切り払いを受け止めて、左手に持ち換えたペンを腹へ突き刺す。
『身体強化』で右手を強化。左手の刺突、右手の強化で鍔迫り合いの均衡を一気に崩す!
よし、押し勝った。シャイツァーを左手に再召喚。ペンで首を思いっきり殴りつける。
ぐしゃって音と確かな手応え。やったか。四季…も、ファイルで首を砕いてる。こちらは片付いた。アイリ…はまだ手こずってる。
「アイリ!」
「「『『風刃』』!」」
魔力をいつもより多く込めて長く、厚く!そんな思いを込めて四季と発動。許容回数を超過した紙が消え、巨大な風の刃が飛翔する。
アイリは俺らの声を聞いた時点で、どんな魔法かわかる。だから即座にしゃがんで回避できる。だが、隠密は別。日本語で喋った言葉を理解できるわけがない。
しかし、優れた武人ではある。とっさにしゃがんで回避した。が、それまで。余裕を持って避けたアイリが鎌を巨大化させて振るう。準備万端のアイリの一撃を避けきれるわけもなくスパッと斬られて絶命した。
「…お父さん、お母さん、今ので何人!?」
「たぶん5」
「ですね」
「…ならたぶん全員。隠密は5人一班」
他に居ない限り全員仕留めたってことね。
「アイリちゃん、隠密の編成とかよく知っていますね」
「…ルキィ様の近衛だったから。…今のは王家所有の隠密。それを動かせるのは王家だけ」
近衛と隠密、その二つが王家を守る双璧なのね。
「近衛と隠密は関わりがなさそうだけど…?」
「…仕事上の付き合いはある。…わたしはなかったけど、ルキィ様から聞いた」
ルキィ様ェ…。明らかにアイリを猫かわいがりしていらっしゃる。
「…それはそうと、二人は大丈夫なの?」
「「何が?」」
「…殺したこと」
あぁ、それね。
「うん。大丈夫」
「ですね。落ち着いたものです」
「ぶん殴って殺した感触が手に!」」だとか「血が吹き出るシーンが頭から離れない!」とかはない。
「…ほんとに?無理してない?…初めての殺人は気を病むもの。恥ずかしいことだとは思わない」
「してないね」
「ですね」
繰り返しになるけれど、心は凪いでる。無理などしていない。
「アイリの言うように、人殺しで気を病む人は多い」
それは戦争が証明している。新兵は人を殺して心を病む人が多い…的な話を聞いたことがある。
「そして、それはきっと人間として正しいのでしょう」
根拠はない。けど、人間らしさと言えばそうだと思う。
「その点、俺と四季が異端なんだろうな」
「でしょうね。人間殺すのも生き物殺すのも命を奪うという点では何も代わらない…という考えですから」
「動物相手に残虐なことが出来るならば人にも出来るはず」…という理論がばっちり通ってしまう。それが俺と四季という人間なのだと思う。
「…さっきは?」
ん?人間で動揺しないのは生き物を殺すのと代わらないから。じゃあ、魔物を殺すときはどうなの?ということかな。
「殺しにかかってきた奴らの生死まで考えられるほど俺は優しくない」
「ですね。殺しに来ている以上、殺される覚悟もあるでしょう」
切り抜けるのに殺す必要があるならば、殺す。ただそれだけのこと。
「軽蔑する?」
「…別に。…護衛しやすくて嬉しいとは思うけど。…何でそこまで達観してるの?…向こうで何かあった?」
向こうで?
「ないない」
「ですね」
普通の高校生そんな変なことは……、あれ?脳内でタクが「お前、色々やってるじゃねぇか!?」って絶叫しているような…?思い当たる件がないから気のせいだな。
「…地球って修羅の世界なのね」
!?何でそうなるの!?
「俺らの住んでる国は少なくとも平和だぞ!?」
「そんな日常的にドンパチやる国ではないですよ!?」
地球でも内戦やってるところはあるからそこは修羅かもしれない。し、日本でもヤバイのが牛耳ってるようなところに行ったら別だろう。でも、日本は世界的に見て平和と言える国のはず。
「…ドンパチ?…まさか魔法で起こすような爆発がそこらじゅうで起こせるということ…?」
待って。確かに爆発乱舞は火器の発展でミサイル撃ちまくれば簡単に作れるだろうけれど…、何でガンガン過激な方に行くの!?
「…あれ?違う?」
「違うよ!」「違いますよ!」
気づいて止まってくれた。この子の中での俺らの世界は一体どうなってるんだ…。
「…魔物が日常的に襲来してくる世界」
全然違う…。何でそんなことになったんだ…。
「…二人の思考は特異。…実際に殺害を経験すれば動物と同じと言っていても、変わりうる。…だのに、変容していないという点も含めれば余計に」
だから「俺らが過去に人を殺したことがあるんじゃないか」とか「凄惨な体験をしていてぶっ壊れてるんじゃないのか」って考えたと?
「でも、何もないしね…」
「私もですね。魚を捌くくらいならしたことがありますが、猪級の動物、ましてや人間なんて殺したことはないですしね…」
アイリが気にしてくれていることに対する答えを俺も四季も持ち合わせていない。
「…武器同士を激突させて落とすような人たちだし…、平気って言ってるからたぶん平気かな」
判断基準がおかしい。なんで武器同士激突させて落としたら平気になるんだ…。
「…普通、狙ってやれない。…狙ってやったでしょ?会話もなしに」
…言われてみれば、確かに会話しなかったな。でも、ワンパターンだったし、やれるでしょ。
「…無自覚。…仲いいね」
…それはそうかもしれない。運命の赤い糸とか考えてしまいそうなレベルには。
「…で、これどうする?」
「逆にどうしたらいい?」
「方法を知っているならば、それを教えていただけると…」
聞かれても俺らにどうすればいいかなんてわからないよ?
「…ん。じゃあ、燃やそう。…剥いでもいいけど毒針とか仕込んでるものに刺さると危ないから」
「であれば、運ぶのもシャイツァーで?」
「…ん」
了解。少しだけ手で運ばないことが申し訳なく感じるけど…、ま、仕方ないよね。
「魔道具使いますか?」
「…火魔法のほうが早い」
了解。
「「『『火球』』」」
紙から飛び出た火の玉が跡形もなく焼き尽くす。燃やしている間くらいは手を合わせておこう。…恨まないでね。
「…ん。行こう」
了解。なのだけど、
「アイリ、俺らの後ろに」
「…何で?」
「この先、フーライナなのでしょう?検問所があると思うのですが」
だから、後ろ。傷つかないで済むならばそのほうがいい。
「…ん。わかった。…街道を進んで丘を登れば橋がある。その先がフーライナ」
わかった。じゃあ、お腹も空いてきたし急ぎますか。




