52話 合流
ぽかんとしている俺の横を、一陣の風が走り抜ける。
「アイリーンちゃん、アイリーンちゃん!」
その正体はアイリを見つけて突撃していったルキィ様。王族なのに他人の目の前でそれでいいんですかね…。
「会いたかったよぉ。スハスハ、クンクン」
余計にひどくなった。ホールドしてただけだったのに、なんかやばいこと言いながらほおずりしだした。どこから見てもただの変質者です、本当に以下略。会いたかったよぉまでならよかったんだけど。
「…ルキィ様」
「スハスハ、クンクン…、あ。何ですか?」
「…離れて?」
アイリの言葉にルキィ様がビシッと固まる。でも、それは一瞬。即座にまた戻った。「アイリちゃんがそんなこと言うはずがない!」って自己解決したな…。
「…ルキィ様?」
「お二人に大切にしてもらってますか?大丈夫だとは思って託してはいますが、私、そこだけが非常に不安だったのです!」
慈しむような表情を浮かべるルキィ様。でも、行動は変わらない。行動と表情のギャップがひどすぎる。
「…うん。してもらってる。してもらってるから。離れて」
「ぬぁぜです!」
「…嫌いになるよ?」
崩れ落ちるルキィ様。「ガーン!」という言葉が聞こえそうなくらい落ち込んでる。
「ルキィ様。他国の王族の前で何やってんですか?早く立ってください」
「はっ、ですね」
おぉ、タクがルキィ様の手を掴んで立たせた。さては割とこういう処理、慣れてるな? …お前のせいだぞって目をされている気がしないでもないけど、気のせいだ。うん。
「こほん。お久しぶりで…きゃあああっ!?」
「ブルンナェ…」
こそこそと移動していたブルンナが転倒したルキィ様の前でえへんと胸を張っている。おそらく、魔力の消費を抑えるために俺や四季には魔法を使わず、ルキィ様やタク、カーチェ様にだけ魔法を使ったんだろう。
そのせいでルキィ様には目の前にブルンナが出てきたように見えたと。…いや、何やってんの。
「べい゛っった!ちょ、アイリ!?」
「…折檻」
「ひどい!ルキィ様の醜態を誤魔化そうとしたのに!」
「非礼に非礼で返してんじゃねぇ」
頭を抱えるカーチェ様。お気持ちはわかります。が、ルキィ様だからやってんでしょう。多分。
「ねー。話を進めよーよー」
「え。誰ですか、貴方…。いえ、今は確かに、話を進めるべきですね。えっと、今までのはなかったことにしても?」
「したほうがいいだろうな。互いに」
二人が頷くと場の雰囲気が切り替わる。
「既にお会いしたことがございますが、本日は謝罪の場。正式な名乗りから始めさせていただきましょう。私はバシェル王国、第二王女ルキィ=カーツェルン=バシェルと申します。本日は、我が国の勇者召喚陣の使用に関する釈明と疑念の払しょくに参りました」
「承知している。こちらはアークライン神聖国教皇カチェプス=ヨエハ=ヴェーラ=アークラインだ。さて、堅苦しいのはこれでいいだろ。後はおまけと勇者様方だし」
「ひどい!誰がおまけなの!?」
「お前」
でしょうね。勇者様方以外となるとブルンナしかいない。
「あの、よろしいのですか?まだ謝罪もしておりませんが」
「いらんいらん。それが国ってもんだから仕方ねえっちゃ仕方ねぇが、反対し続けてたって聞いてるルキィから謝罪されても困るんだわ。既知の仲だからこそ、猶更に」
「ですか。…では、お言葉に甘えさせていただきます」
ルキィ様が提言を素直に受け入れられた。謝罪しに来ていてもともと立場が下だし、教皇という国の代表と王女という次代の国の代表と肩書でも下。受け入れるしかない。
「ひゃっほい!ルキィ様!おひさー!」
「もうちょっとマシな再会をしたかったですね、ブルンナ=クリーナ=ヴェーラン=アークライン様!」
「もー、何でそんな距離を感じる言い方するのさー。いつもd「距離を取りたいからですが?」ぴえん」
残念でもないし当然。行動が突飛すぎるんだよ、ブルンナは。
「まぁ、冗談はこのくらいにしましょう。カーチェ様。本当によろしいので…いえ、いいと言ってくださっているのですから、ほじくり返すのはよしておきます」
「そうしてくれ。だが、ルキィ。お前には何もなしでも、国には何もなしってわけにはいかねぇのはわかってるよな?いくら勇者様の数が常より多いとはいえ」
「勿論です」
緩んでいた雰囲気がピリッと引き締まった。雰囲気の温度差がさっきからひどすぎる。
「どうせフーライナでも言われてるんだろうが、俺からも言っとくぞ。ルキィ。俺らは今のバシェル王と第一王女を認めない」
カーチェ様がそういった瞬間、ルキィ様が悲しそうに目を伏せる。無理もない。
何しろ、言われていることは「お前、さっさとあの阿保どもを引きずりおろせ。何をしてでも」ということに他ならない。その何の筆頭はクーデター。親と姉を自分で殺せ。カーチェ様が言っていることはそういうことだ。
「昔はあぁではなかったのですがね…」
「であれば、正気に戻すのでも構わない。だが、人間領域最大の、魔人領域の防壁たるバシェルがぐらつかれるのは困るんだよ。わかるだろ?」
地球で言えばバシェルは現代アメリカみたいな国。しかも、軽くしか資料を読んでいないが、中露がいないアメリカだ。穀物庫たるフーライナとか、宗教の総本山たるアークライン神聖国とか特殊な立ち位置の国はあるけど、国力は圧倒的だ。
そら、そこが揺らがれたら困る。
「ですが、もちろん。わかっていますとも。私とて王女に生まれた身です。最悪、私の手で父と姉を断頭台に送ります。それが、私の見せられる誠意です」
ルキィ様はまっすぐにカーチェ様を見つめて覚悟を表明する。カーチェ様は真っ向からそれを受け、じっとルキィ様を見つめ返す。それでも、ルキィ様は揺らがない。
「よし、ならばその言葉を信じよう。あぁ、クーデター計画とか立てて持ってくんなよ?漏れたら事だ」
「承知しております。ですが、外でこういう話をしている時点で…という感はありますが」
「それをいっちゃおしまいだぞ。そのために護衛に近衛騎士団と勇者様がいるんだろ?」
驚いたのか目を丸くするルキィ様。
「おいおい、言わなくてもわかるだろ。そこにいる方が勇者様だってのは。そも、シュウと言葉を交わしてたろ?」
「あぁ、なるほどです。ですが、カーチェ様、呼び捨てなさるのですね」
「呼び捨ててくれと言われたから頑張ってる」
カーチェ様、真顔だ。でも、言っちゃったしなぁ…。もう撤回できない。
「ちょうどよい機会ですねタクさん。今更ですが、自己紹介をお願いします」
「了解です。お初にお目にかかります。俺は矢野拓也と申します。そこの習ともども勇者をやらせていただいております」
タクの礼、めっちゃ様になってる。ルキィ様にしごかれたか? カーチェ様とブルンナも名乗り返して、これでお前誰だ状態は解消…されてないわ。
「カレン」
「りょーかい!はじめまして!ルキィ様にタクさん!ボクはおとーさんとおかーさんの子供の、カレンです!よろしくお願いしまーす!」
あ。二人とも思考停止してる。頭上に??? って書いてる。タクはともかく、ルキィ様のこういうシーンは貴重な気がする。
「え、あの、拾ったんですか…?」
「そうです。拾いました」
「拾ったんですか」
「はい。拾ったら孵りました」
「孵ったんですか」
事実を述べただけなのにルキィ様の混乱が余計に悪化した!
「えーと、あれか、お前らが拾ったのは卵かなんかだったってことか?」
「そう。蕾だった。なんか助けてって言われた気がしたから川から回収して、一緒にいたら」
「なんか生まれましたね」
「もー!なんかじゃないでしょー!二人がちゃんとあ「「ちょっと黙ってて」」」
二人でカレンの口を覆ったら、コクコクと慌てたようにうなずいてくれたから大丈夫だな。あ、駄目だこれ。タク、俺との付き合いが長すぎて、もう大体何があったか察されてるわ。どちゃくそに「はーん、なるほどね」みたいな顔してるもの。
いっそ煽ってこいよ! タクの性格上、一瞬だけ煽っても、純粋に祝福してくれるんだろうけどな!
「あ、なるほど。人ではないのですね。外見から判断するに…エルフですか?」
「ハイエルフだよー!」
「そうなのですね!「ただ、普通のエルフとの違いは、ボクに聞かれてもわかんないからー!」そ、そうなのですか…」
後で調べることの一つですね。それは。
「っと、脱線してしまいましたね。後、お話すべきこととしては、国としての賠償ということになりますかね?」
「だな。だが、一つ、手っ取り早いことがあるぞ。シュウやシキの了解がいるが」
俺らの了解がいる? …あぁ、なるほど。
「新興宗教の話ですか」
「あ、あぁ。さすがだな。その通りだ。だが、構わないのか?」
「私も構いません」
「俺もです」
後はアイリだけ…だけど、頷いてくれたし、問題なし。
「ブルンナからは勇者とばれたくなさそうという報告を聞いていたんだが、いいのか?」
「構いませんよ。既に勇者ということを前面に押し出してごり押しした後です」
「そうか。なら、ありがたく。ルキィ様、どうだ?」
「こちらとしては願ってもいないことです」
これで話はまとまった。後は…、
「待ってー。何を言ってるかさっぱりなんだけどー?なぜに分かり合えてるのさー」
「あぁ、ごめん。単純に予測できたからだね」
「予測―?てことは、さっき言ってた新興宗教を潰したのは、バシェルのおかげってことにするのー?」
「惜しいね」
「ですね」
その発想はいいところを行ってる。実際、その考えがよぎったし。
「どこが違うのー?」
「…それだと、結局、勇者を召還したバシェルが、勇者を顎で使ってることになる」
「ですね。アイリーンちゃんの言う通りです」
「…ルキィ様。アイリ」
アイリが言った瞬間、ルキィ様は軽く目を閉じて、優しく微笑んだ。アイリが俺らにここまで懐いていることが、嬉しくもあるけど、寂しくもあるんだろう。
「了解です。アイリちゃん。えっと、私たちの指示ってことにするのはよくないのです。勇者召還の名目は魔王の討伐。です。それ以外に故意に駆り出したというのは、私的利用と言われかねないのですよ」
「バシェルにとって、その批判は最も避けたいものだ。何しろ、この謝罪行脚自体が、勇者召喚陣の私的利用にまつわるものなんだからな」
だから、何でもいいから建前を用意して、その批判をかわす必要がある。
「フーライナでも許してもらうために国難の排除に協力いたしました。外ならぬタクさん達の力をお借りして。が、それはあくまでも我が国の近衛騎士団による助力です。臨時で勇者様方が所属されていましたが」
「苦しくないー?」
「ないよりましです」
ですよね。でも、ないよりはましなんだ。
「ですから、今回の場合は…何になるんでしょうか?お二人が自発的に動かれたってことに」
「するも何も、自発的に動いてくれてる。本当の話をぶっちゃけると、アイリがエルモンツィに似てるから狙われる可能性が高かった。だから、潰した。だが、それは避けたほうがいいだろ?」
「避けれるなら避けていただくほうがいいですね」
アイリがいくら気にしないといったって、避けれる悪意は避けたほうがいい。わざわざエルモンツィに似てるなんて言う必要はない。
「だよな。だから、話としては「うちで調べ物をしたかった勇者様が、黒髪で狙われる可能性があったから、潰した」になる」
「それは通るのー?」
「通させる。勇者様の恩恵を俺らも受けた。という結果論だがな。この結果論は誰にも否定できん」
「納得するのー?」
「それだけでなく、バシェルが普段よりも多く戦費を負担することも付けますから」
内戦がほぼ確実なバシェルにとって痛手なのは間違いない。けど、そのあたりはタクたちが補えるはず。
「それでもだめならー?」
「潰す。俺らでさえ、この手の裏の話は理解できてるんだ。これを理解できない馬鹿は必要ない」
カーチェ様ははっきりと言い切った。間違いなく、いたずらに騒ぐ奴らは潰されるな。
「なるほどー。疑問はなくなったよー」
「よかったです。ですが、私からも一つ」
? なぜかルキィ様がこちらを見ている。
「どうされました?」
「お二人は構わないのですか?この流れですと、若干、短気に見えなくもないですが…」
「そのあたりは脚色でどうとでもなるでしょう?」
「それに、別にその程度、構いませんよ」
四季の言う通り。実際はアイリに危機が及びそうだった。それが動いた理由。だけど、それは言えないから、
「家族に危機が迫りそうだった」
「その方向を強めていただけるといいと思います」
嘘は一切ないからね。範囲が広くなっただけで。実際、そうなったら俺らは動く。何も矛盾しない。
「承知しました。そうお考えなのでしたら、私からは何もございません」
「よし、ならこの場で話しておくべきことは終わり……じゃない。シュウ。シキ。夜にルキィたちの歓迎会があるんだ。そん時に出てもらってもいいか?ついでに新興宗教の話もしたい」
全員、反対はしてないね。なら、よし。
「了解しました」
「よし、これで今度こそ、終わりだな。解散」
「うぃ!」
「あ、ブルンナは説教な」
「ぴえん」
行動を予想されたのか、飛び上がる間もなく首根っこをがっしりとカーチェ様に掴まれててたなぁ。
「シュウ様達は、次はどうなさいますか?」
「ご飯食べてないので、まずそっちからですね」
「あー、なるほどです。でしたら、そのあと、お話しませんか?お久しぶりですし」
喜んで。タクとも話したいですしね。
「集合場所は…図書館にしておきますか。私たちの滞在場所は大聖堂ですが、お二人はおそらく、宿ですものね?」
「です」
「では、そのように」
了解です。さて、帰って朝ごはんを食べようか。
…あ、でも、この部屋からの正規の帰る道を知らないな。ブルンナがカーチェ様の寝室いつもぶち抜いていったから。…ドーラさんに聞いて帰るかぁ。




