48話 教皇猊下
円筒の部分を上がってきたところにある扉。そこに貼ってあるブルンナ宛であろう、ツッコミどころ満載の問題文。
『10人の悪い事をしたブルンナは姉にお菓子没収を言い渡されようとしている。しかし、慈悲深い姉はブルンナにチャンスを与えた。
姉「これから、ブルンナには円形に並んでもらう。そして、帽子を被せる。その後、適当に選んだ時間の後に合図をする。合図の時に帽子の色が分かったら来なさい。合っていたらお菓子を返す。合図は8回する。ただし、帽子の色を他のブルンナから教えてもらうとか、見るとかで確認することは禁止。もし、破れば永久にお菓子は没収。考えて解けるようにはするから、安心しろ」
この条件の時、3回目の合図まででブルンナは誰一人出て行かなかった。しかし、全員、無事に正解することが出来た。
問
何回目の合図の時に何人が出て行った?
ただし、ブルンナは全員、この条件で問題が解けるほど十分に賢いものとする』
「これ、解かなくても入れるの?」
「無理!」
さよか。でも、この手の問題って、やり方知ってれば解けるんだよねぇ…。
「まさか、二人も解けない!?」
「いえ、類題を知っていますので、解けます」
「あ、四季もなんだ」
「なら、答えをどうぞ!」
えぇ…。いいの?
「思いっきりブルンナ宛だけど?」
「前も解いたじゃん!」
「確かにそうですね。今更ですか」
「だね」
「「4回目に全員」」
声を揃えて言うと、ブルンナが何かを入力。嬉しそうな顔でえいやっと何かを押したと思ったら、悲しげな顔でこちらを見てきた。
「理由を言えって」
「え。俺らが言ってもいいの?」
「うにゃ」
いいんだ。それでいいのか? …いいんだからいいんだろうな。
「まず、この問いの肝は『考えて解ける』という点」
「考えて解けるということは、運ゲーではありません。運ゲーだと無限択…とまではいきませんが、その一文だけで選択肢は最大でも5以下になることがわかります」
「なぜに」
ブルンナは分かってない…というか、考えてないな。アイリ…は、考えてる?
「アイリ。分かる?」
「…ん。『考えて解ける』なら、少なくとも自分の被っている帽子の色が選択肢にないと駄目。…だから、自分以外の誰かが被っている帽子の色のうち、どれかが答え。…そういうことだよね?」
「正解」
帽子の色を知る方法は、他人が被っている帽子の色を見る以外に存在しないもの。
「何で5以下なの?」
「…10人のブルンナが…言いにくい。…ブルンナである必要性が皆無だから、人でいく。…10人の帽子の色は少なくとも組になってる必要がある。…10割る2で5。だから、最大で5」
「おー」
「正解です」
ちゃんとわかってるみたいでよかったよかった。
「この思考を全員がする。だから全員、帽子の色の最小の数は2個って認識を共有する」
「この認識共有は重要です。これが答えに繋がりますから」
「何で?」
マジでブルンナ思考放棄してるな。別に構わないけど…、後で怒られても知らないよ?
「帽子の色の数は最小で2個です。であれば、他の9人を見渡した時、同じ色が1個しかない帽子があれば、」
「その帽子を被っているのは自分って分かる。だって、同色の帽子は2個以上必ず存在するんだから。1個しかないというのはあり得ない」
つまり、帽子が1個しかないなら、その帽子の色が必ず自分の色だ。
「なるほ……ど?」
「…ん」
ブルンナとアイリの理解度に差がありそう。ブルンナ、首傾げてるけど平気か?
「あ、なるほど!」
わかったみたい。ぽん! ってグーで手のひら叩いてる。それを分かった時にマジでやる人、初めて見た気がするなぁ。
「でも、それで解けるの?」
「解けるよ。今の理屈から、同じ色が2色しかない人はすぐに自分の色が分かるからね」
「これで、1回目の合図でその人が出て行けます」
十分に賢いから、この思考は皆できる。そも、出来なければ、問題として成立しない。
「でも、今回は1回目で出て行ってないけど?」
「大丈夫です。1回目の合図が終わると、その場に残っている人全員に、『同じ色をした帽子は2個以下であることはあり得ない』ということが共有されますから」
「あ、さっきも出てきたやつ!」
そう、共通認識。
「2個以下であることがあり得ない。つまり、同じ色をした帽子の数は最低でも3個」
「であれば、周囲を見渡した時に、同じ色をした帽子を被った人が2人しかいないなら、その色が自分の帽子の色です」
「自分の色がその帽子じゃない可能性はないの?」
うん、いい質問だね。ブルンナ。
「ないよ。だって、1回目終わった後だよ?自分の帽子の色がその色じゃないなら、その2人が見る同じ帽子の数は1個のはず」
「十分に賢い人達なので、その時点で出て行きます。残っている理由としては、同じ色の帽子が2個見えたから以外にあり得ませんよ」
だからこそ、この問題は十分に賢い人じゃないと成立しない。出て行けない時点で破綻するから。
「なるほど!てことは、後は、帰納的に決まるんだね!2回目の合図で3人組、3回目の合図で4人組が出て行って…って、順に合図+1人が出て行ける可能性があると」
そうそう。
「…後は、数学?」
「だね。3回目までに誰も出て行かなかった。すなわち、4人以下の同じ色をした帽子の組はない。ってこと」
「そして、8回目までで全ての人が出て行ったなら、同じ色をした帽子の数は最大でも9です」
「5以上9以下の中で、10を割り切れるようにしようと思うと、5×2しかない。だから、4回目に10人全員!って、なる!」
「正解だ」
ブルンナが叫んだ瞬間、豪華な扉がバタンと開かれた。そして、ブルンナをゴッと殴ると、すごい勢いでブルンナを引き込み、再び扉が閉ざされた。
えぇ……。
「これはどうしたら…」
「さぁ……?アイリちゃん、わかります?」
「…わかるわけがない」
だよね。ごめんね。こんな意味不明な状況、知らないよね。
「申し訳ありません」
困惑していたらドアが開いて、そこから綺麗なジャンピング土下座をかましながら誰かが出てきた。
「えっと、何に対してなのです?」
「こちらにご案内したことです。この道と言い難い円筒はわたくしや、愚妹のような浮遊できるシャイツァーを得た教皇が緊急避難として使う場所なのです。そのため、この扉はわたくしの私室に繋がっておりまして、皆様を案内できるような部屋ではないのです」
なるほど。でも、そんなことよりも。
「あの、さすがに教皇猊下に土下座されるのは困るのですが?」
「ですね。お顔をあげていただきたく」
「はっ!失礼。名乗りがまだでした。わたくしは不肖ながらこの国の教皇を務めさせていただいております『カチェプス=ヨエハ=ヴェーラ=アークライン』と申します。お見知りおきくださいませ」
顔をあげてくださいって言ってるのに、余計に下がった。最初っから頭を床にぶつけるレベルだったのに、なんかもうめり込んでいきそうなレベル。
「あの、カチェプス様?」
「様なんて結構でございます。カーチェとお呼びください」
「「無理です。そんなメンタルはこちらにないです」」
「いえいえ、様なんて…」
あ。これ、不毛になるやつだ。アイリ……も無理か。露骨に「ごめん。助けを求められても困る」って顔をしてる。
「へい!姉さま!土下座してたって、話は進まないよ!」
「誰のせいだと?」
土下座しているのに、カーチェ様の言葉に籠ってる怨嗟がヤバイ。
「いやいや、正規のルートだと階段がめちゃんこあるでしょ?それはしんどい。だから、それを回避できるようにしたんだよ。ほら、二人とも、ありがたいでしょ?」
「一切言われてませんでしたが、ありがたくはありますね」
「だね。ただ、カーチェ様の私室に男である俺が入っていいのかっていう倫理的問題があるけど」
そういうのって、一番気をつけないといけないとこだろ? だって。
「勇者様だし、入って問題ないよ!むしろ正当性を考えるとあだだだだ」
カーチェ様がブルンナの頭を鷲掴みにして握りつぶそうとしている。…そんなの漫画くらいでしか見たことない。
「だから問題ないというのはこちらの理論だろうが。それに、既に勇者様は妻帯者だし、妻の側も勇者様だぞ。お二人に無礼だと思わんのか」
「二人が互いに!好きあってるから!冗談として!ちょうどいいって!思った!の!」
……「互いに好きあってる」かぁ。宿で四季の寝言を聞いた時からほぼ確信はあった。でも、ブルンナがそう言ったってことは、他の人から見ても、四季も俺を好きでいてくれてるってこと。
やっぱりいい加減、はっきりさせないと駄目だよな。
「てかてか、姉さま!ブルンナに構いすぎて、二人を放置してる!」
「っ!」
ハッとしたカーチェ様はブルンナをすごい勢いで、俺らが昇ってきた円筒目掛けてぶん投げた。そして、また完全な土下座に戻った。
…ほんとどうしよ。一向に進展がない。
「…ブルンナ。何とかして」
「だね。姉さま。勇者様が困ってる。土下座をしてるから、困ってる。そも、勇者様のが上位だって言うなら、勇者様のお願いを聞き届けるべきじゃない?」
言いながらカーチェ様の顔を覗き込むブルンナ。そんな彼女の顔を超怪訝そうな顔で見るカーチェ様。悪い意味で滅茶苦茶信頼されてるな。あれ。こいつならこういう場面で嘘つきかねんって。
でも、ブルンナはそんなカーチェ様の迫力に負けず、しっかりと目を見据えて頷く。それを受けて、カーチェ様はこわごわとこちらを見る。
「出来れば、話を進めていただきたいです」
「後、私達に敬語は不要です。教皇猊下に敬語を使われますと、私達には違和感があるのです」
四季がそういうと、カーチェ様は目を見開いた。
「えっと、先ほどのは総意でしょうか?」
「俺からもお願いいたします」
「…ん」
「かしこまりました」
カーチェ様はすーはーと深呼吸。そして、
「承知した。なら、オレの寝室を通って応接室へ行こう。構わないか?」
全部のメッキひっぺがすとかなりワイルドになるんですね…。あ。提案には問題ないから頷いておこう。
「行くぞ」
さっきまでのはなんだったのかって勢いで話が進む。
扉をくぐって寝室へ。じろじろと見るのも悪いからさっさと通過。でも、ここもやっぱり白と黒で、豪勢な天蓋付きのベッドがあった。
部屋を抜けると執務室的な部屋に出て、その隣の応接室っぽいところへ。
「適当なところに座ってくれ」
「どこでもいーよ!」
と言われても、変なところに座るわけにもいかない。カーチェ様とブルンナの前に座る。
この椅子もふっかふか。しかも、体が完全に沈み込んでしまうわけではなく、しっかりと体を支えてくれる。めっちゃ高そう。
「てか、姉さま、ずるいよ」
「何がだ」
「本性晒しても、ドン引きされてない!」
こっちの要請に応えてくださっただけだしね…。思ったより建前を引っぺがしてくださってるなって言う驚きはあるけど。
カーチェ様はさっきまで頭に「?」を浮かべていたけど、徐にブルンナの頭に手を伸ばす。そして、
「ちょっ、痛い痛い!」
思いっきり握りしめた。さっきも見たなぁ…。相変わらず、ブルンナは割と痛そうな顔をしているけど、じゃれあいの一環だろう。…でも、あんまりカーチェ様とブルンナは似てないな。
ブルンナの目と髪は青い。けど、カーチェ様は銀髪碧眼。そして、身体的特徴もかなり違う。ブルンナは小さいし、雰囲気は子供っぽいけど、カーチェ様は高身長だし、美人さん。そして胸が割と大きい。
シスターっぽい服を着られているけど、少し違和感があるくらいには。
「姉さま、放置、してる。放置してるからぁ!!!」
「っ。すまない」
ペコリ頭を下げるカーチェ様の横で、ブルンナがぜえはあ息を整えている。戯れにしては痛そうだ。
「みん…いや、すまない。名前を教えてもらえるか?」
え。名乗って…はないですね。
「森野習です」
「私が清水四季です」
「…アイリ」
名乗ると何故かカーチェ様が一瞬、「あれ?」という顔をされた。けど、何かを聞く前にその表情は消えてしまった。
「シュウ、シキ、アイリを招いたのは他でもない。あの糞どもを潰してくれた礼をしたかったからだ」
「いえいえ。それはこちらにもメリットがあることでしたので…」
ほんとに。ここで情報収集している間に、あいつらが暴発する可能性があった。その芽を摘めたってのは大きい。
「だとしても、こっちにメリットしかないからな。礼をしないって選択はねぇんだ。そこで、だ。何か欲しいものはあるか?オレらが出せるものなら何でも出すぞ」
何でもとおっしゃってくださってもなぁ……。
「私達、帰還魔法がありそうなところの情報を探しているのですが、それは禁書庫で事足りますよね?」
「だな…。封書庫にあるのは読んだら死ぬやつか、物理的に暴れる本とかだからな。そうでもなけりゃあ禁書庫でいいからな……」
ですよね。となると、本当に欲しいものがあまりない。
「あ、禁書庫や図書館を調べるのにまだいても構いませんか?一カ月はかからないと思いますが」
「構わん構わん。というか、一カ月と言わず一年で……あ」
あ?
「そういえば、バシェルのルキィ様がいるだろ?彼女がバシェル王国が特に用もないのに勇者召喚陣を使っちまった謝罪でうちに来るんだ。それに勇者様が同道してるらしいが、二会ってもいいのか?」
「構わないですね」
「ですね」
知り合いに仲の悪い子はいないし、知り合いじゃないなら嫌いもクソもないので…。
「なら問題ないか。…他に欲しいものはないか?んなもんでお礼にはならんぞ」
と言われましても……特に思いつくのがない。
「なさげだな。なら、ひとまず金で良いか?金はあって困らんだろ」
「ですね…。あ、後、人間領域から出ることも考えているので、長持ちする保存食があればという感じです。だよね?」
四季もアイリも頷いてくれた。うん、大丈夫そう。
「分かった。もし、欲しいものが出てきたら言ってくれ。どうせ金は用意すれば事足りるからな」
了解です。
「後は…なんかあるか?」
「特にないはず!解散しようぜぃ!さっきまで寝てたし!」
「…それなのに連れてきたのか」
「いやいや、二人が行くって言ったもん!ね?ね?」
めっちゃ焦ってる。放置したらどんな顔するんだろって気分になるけど、さすがにかわいそうなので、庇う。
「なるほど。だが、起きたばかりなのは変わりなし。ずっとオレと喋っててもなんだし、戻るで構わないか?」
「あ。それはお待ちを。アイリのシャイツァーに名前が出てきたのですが、文字化けしていて読めないらしいんです。読めたりしませんか?」
「ん?普通、読めないなんてことはないはずだが…。本人が読めないと読めんとは思うぞ?」
「瘴気の影響を受けているのではないかと思いまして」
「あぁ。なるほど。それなら、後ででも構わないか?今はオレの体調は万全じゃないからな」
二人とも問題なさげ。だから、こくっと頷く。
「じゃー、撤収するぜぃ!」
颯爽とブルンナが俺らの手を取って、何故か寝室経由で下に降りた。
今回の問題は別解がないようにしているので、本文中のものしか解答はないはずです。




