47話 大聖堂
っ……、よかった。今回も無事に意識が戻った。手や足の感覚はあるし、何かに縛られている感じもなし。よし、さっさと現状把握をしよう。
知ってる天井だ……。どう見ても宿の俺らの部屋。四季とアイリはすぐ横にいる。俺、アイリ、四季で川の字だ。二人ともちゃんと息はあるっぽいし、ぱっと見、汚れもない。
あんだけの戦闘の後なんだから、服は汚れているのが普通のはずだけど……。魔法でも使ってくれたのかな? 汗までは分かんないけど…、ベッドの上ということは、それも綺麗なのかな? ま、成果を考えると、服の汚れとか関係なしに寝かせてくれた可能性もあるけど。
「むぁ……」
あ。四季が起きた。可愛らしい小さな声をあげた四季は、ゆっくりと周囲を見渡し、俺と目が合うと頭を下げた。
おはよう。でも、まだアイリが寝てるもんね。出来るだけ静かにしてあげないと。特に今日はとても疲れているだろうから。
「お父さん、お母さん……」
!? 起き……起きてないね。寝言か。ごそごそと動いてたから、起きたかと思った。
今の、お父さんとお母さんって言葉はどっちを指してるのやら。俺と四季、今の親か、産んだ親か。アイリの性格的に後者はほぼないだろう。でも、心の中ってのは他人からは分かりにくいし、自分でも分からないところがある。だから、確定は出来ない。
「お父さん。お母さん」
と思っていたが、確定でいいだろう。今の言葉はちょうどアイリが俺と四季、それぞれの手にたどりついてガシッと握った時にこぼれたから。
これで泣いてたりしたら別だけど、本当に安心したような顔で寝ているし。本心を聞いてないから、勝手に思ってるだけに過ぎないけど、認めてもらえたような気がして嬉しい。
けど、がっちり掴まれてるから大きく動きにくい。起こしちゃうのは申し訳ないし…。かといって、もう一回寝るのは、なんか違う。気絶と睡眠は違うけど、今は眠くない。
てか、今、何時だ。戦闘は朝方だったから、さすがに一日寝てたってことはないと思うけど……。
ゴーン。
お。鐘の音。これで時間が……って、え。二回で終わり? あ。うん、てことは、あれじゃん。今は8時。一日寝てたパターン?
ガチャ
ドアの開く音にそちらに目をやると、ドアのところにブルンナがいる。ブルンナは露骨に安心したようにホッと息を吐くと、ペコっと頭を下げて出て行った。
え。出て行くんだ。あの子なら、勢いよく飛び込んできてもおかしくないと思ったのに。
「あ、おはようです」
「…ん」
「おはよう、アイリ」
さっきまで寝てたはずなのに、起きたね、アイリ。しかも、鎌まで取り出して臨戦態勢。
「大丈夫、ブルンナだから」
「…ん。様子を見に来てくれた?」
「そー!」
さっきまでの丁寧な感じはどこへやら。ブルンナは勢いよく扉を開け放って、叫びながら入ってきた。
「叫びながら入って来るんですね…」
「まぁ、大丈夫そうってのは分かってたし。二人は既に起きてて、アイリはまだだったけど、言葉を聞いてる感じ、平気そうだったし」
大声出すと頭が痛む可能性を把握してるなら、そこをとやかく言う必要はないか。
「って、それでも聞いておくね、調子はどう?ブルンナが運んだから、どこかに体をぶつけはしてないはずだけど…」
「え。ブルンナが運んだの?騎士さん達じゃなくて?」
「んにゃ。ブルンナもシャイツァーを持ってるからね!それを使えば余裕余裕。ブルンナのは、人の意識や人にかかる加速度とか、色んなものの向きを変えることの出来る指揮棒だからね!」
なるほど。それで俺らを浮かせて運んだのね。…そして、サラッとブルンナが急に出没する理由もわかった。バレない様に意識をブルンナ以外のところに向けさせてただけだ。
「…それがあるなら、わたし達に頼らなくても、偵察は出来たはず」
「このシャイツァー、ブルンナとの力量差がありすぎたり、対象が多すぎたりすると魔力消費量がえげつないことになるの。だから、敵の本丸に乗り込むとかは自殺行為にしかならないよ!」
なるほど。それなら仕方ないか。ブルンナの立ち位置でお客さんとして歓迎してもらえるかというと非常に怪しいし。
「って、調子はどうなのさ!話がそれてそこを聞けてない!」
「「大丈夫」」
「…ん」
「ならよかった。ご飯は食べれる?」
余裕で食べれるね。
「むしろ、頂戴。ていうか、どれくらい気絶してた?」
「半日より長いけど、一日より短いくらい」
なら、今は戦闘の次の日の8時くらいか。そりゃ、お腹空くわ。夜ご飯をすっぽかしてるわけだし…。
「了解了解!なら、いつも通り、ご飯を運ばせるねー!あ、姉様が会って欲しいって言ってるんだけど、朝食後に時間を貰えたりする?」
四季…はよさそう。アイリはいつも通りお任せの体勢。なら、
「うん、大丈夫。むしろ、そっちの都合でいいよ?」
ブルンナの姉=教皇猊下。で、あるならば、お時間取れるときで良いさ。
「それはこっちの精神が持たないので無理!」
「嘘つけ」
「ですね。勇者って分かっていて雑な対応してたじゃないですか」
ねー。それで精神もたないって言い訳は苦しくない?
「おのれ、あのころのブルンナ!でもでも、ああでもしないと明らかに二人は新興宗教、無視したじゃん!」
「最初から取り込まれるのがめんどくさいなって思ってただけだし…」
「ガン無視はしなかったでしょうね。というか、出来ません。書物を読んでいる間に暴れられる可能性がありましたから」
黒髪黒目を狙って犯罪が増えてるってのは、フーライナで聞いてたしね。がっちり囲われるのを避けたかっただけで……。
「おぉう…。ま、まぁ、いいや。えっと、そういうわけだから!食べ終わったらメイドに言って!メイド呼ぶときはそこに置いてあるベルを振ってくれればいいから!」
「了解」
「じゃ、よろしくー!」
そう言うとブルンナは勢いよく部屋から出て行った。
「あ!そだ!この部屋の修理は既に終えてるから!」
とだけ言うと、今度こそ本当に出ていき、入れ替わりでメイドさんが入ってきた。彼女は丁寧にご飯を置くと、一礼して出て行った。
修理……あ。そういや、この部屋、窓ぶち抜かれてたじゃん。え。あの損傷を修理できたの。どうなってんの……?
「…食べよ」
「だね」
「ですね」
気にしたら負けか。魔法だろうね。きっと、最優先で修理してくれたんでしょ。
ご飯はサンドイッチ。中の具の種類が豊富! コップには暖かいはちみつレモン。実に美味しそう。
「「「いただきます」」」
早速、一口。うん、美味しい。寝て起きてすぐってことを配慮してくれてるのか、味付けは少し薄め。辛いとか酸っぱいとか、その辺の味を避けてくれてるんだろうか。その配慮がこの具だけってことはないはず。その配慮しつつ、この種類用意できるのか…。
「普通にご飯を食べ始めてるけど、アイリ。アイリは大丈夫なの?」
「変な後遺症とか残っていませんか?」
「…ん。大丈夫。体にも精神にも異常はないし、むしろ、良い感じ」
そっか、それならよかった。
「けど、」
けど?
「…シャイツァーに名前が付いたみたいなんだけど、なんか変なの」
「「変?」」
具体的にそれはどういう…。
「…言葉で説明するのは難しい。…書くものが欲しい」
四季がファイルから紙を取り出し、アイリに渡す。俺のペンは……貸せそう。なら、貸そう。
サンドイッチを置いて、紙にペンで字を書いていく。途中、慣れていないのかめっちゃ苦労していたけど、無事に書きあがった。そこに書いてあるのは、
『呪■■■鎌 カ■■■・■■イズ』
という字。漢字が混じってるのも違和感あるけど、■の違和感が半端じゃない。
「…わかる?」
「わかんない」
「ですね。この四角はおそらく伏字ですね。何かが欠けているのだと思いますが…」
何が書けてるのか見当もつかない。
「…そっか、でも、害はないと思う」
「教皇猊下に見てもらっておく?」
聖杯で大規模浄化が出来るなら、そういうのも見れる気がする。
「…確かに、あの人なら見れるかな。…うん、お願いする。…二人も見てもらう?」
「かな」
「ですね」
アイリも含めて頼めるようなら、だけど。そも、俺は無理な可能性もあるしね。男だし。異なる性別の人は見れないとかあってもおかしくない。教皇猊下だもの。
教皇猊下を待たしてる可能性もあるから、ちょっと食べるスピードを上げてご馳走様。アイリが食べているのを待つ間に、センの様子を確認。
ご飯の間くらい待って一緒に行くとかで良いと思ったんだけど、アイリに「センもお腹を空かしてるかも」って言われたら行くしかない。…センはセンで元気そうなのはいいけど、本当にお腹を空かしていたみたいだし。
ご飯代わりにセンに魔力をあげて、部屋に戻ると既にブルンナが部屋にいた。
「おかえりー。アイリに呼ばれたから入ってるよ!」
「知ってる」
「何も言わずに入ったなら、アイリちゃんがそのことを言うはずですしね」
だね。言わないってことはちゃんと招かれたってことだろう。そも、今のブルンナがものすごく雑なことするかと言われると考えにくいし。
「うぃ。なら、姉様のところに行くぞー!」
一緒にエレベーターに乗って下へ。そして、まっすぐ図書館へ。「本読むの?」とばかりに降りてきたドローン達に手を振りながら部屋を横断して、併設されている大聖堂へ。
「大聖堂へいらっしゃい!どう?どう?すごいでしょ?」
入るなりテンションをあげて聞いてくるブルンナ。でも、聞きたくなる気持ちもわかる。それくらいすごい。大聖堂という名に恥じないくらい荘厳で神聖な気に満ちている。
大聖堂と言えば白というイメージだけど、この大聖堂の内装はシュファラト神の白とラーヴェ神の黒。その二色で構成されている。
でも、瘴気のように白と黒が汚くぐちゃっと混ざったような汚い印象はまるでない。何ものにも染まらない高貴な白と、何ものをも受け入れるような懐の深い黒。その二色が並び立ちながら、互いに引き合うように配置されている。
…いや、ほんとにすごいな。白と黒は真逆の色。しかも、薄い白とか灰色じゃなくて、純然たる白に黒。最悪、目が痛いとかになりかねないのに、そういうのが一切ない。調度品とかの効果かもしれないけど、配置が計算されつくされてる。
しかもここ、ただの通路でしかないのに。ここでこうなら、礼拝室とかどうなってるんだろう? っていうわくわく感が湧いてくる。
ブルンナはそんな廊下を迷わずずんずん進んで行く。図書館に人はいなかったけど、こっちには何人がいる。
全員、司祭っぽくて、綺麗な白と黒の服を着ている。どことなく偉そうな感じがするのに、皆さん、こちらに軽く一礼されると、少し嬉しそうな空気を纏って去っていく。
「むぅ、暇を見つけた人が来てるね…」
「うん?何で来るんだ?」
「え。マジで言ってる?二人は勇者だよ?勇者に会えるのってなかなかないんだよ?だって、勇者召喚されないと会えないんだから。そりゃ、会いたいでしょ」
有名人みたいなものかな? でも、なんか唐突な感じがある。
「腑に落ちないって?そりゃそうでしょ。どーせ、今までの道でも勇者って確定させてなかったでしょ?それの影響だよ。それなら、勇者の子孫かもだし。子孫ならたまにいるからね。勇者本人とは価値が違うのだよ!価値が!」
お、おう。何で若干、ネタに振っていくんだろう。
「それはわかりましたが、苦々しそうな顔をしていたのは?」
「ブルンナが?それはね、業務に支障が出ないかなって。チヌヴェーリとエルヌヴェイっていう、二大腫瘍を潰したでしょ?それでやることいっぱいあるのに…」
「ブルンナや教皇猊下は良いの?」
王族的立ち位置の二人のが絶対に忙しいはずだけど。俺らの相手をしてくれるんでしょ?
「いーの!ブルンナ達は!ほら、目的地についたよ!」
え。そう言われても……、ここ、ただの円形の広場だよ? 上の方まで続いているけれど、それ以外に何もない。
「こっから、上に行くの!ブルンナのシャイツァーならいけ……あ」
「「あ?」」
「ごめん、無理。よく考えたら、あれだった。人そのものを持ち上げるのって、力量差で魔力量消費がえぐくなるの。担架に三人乗せるだけでグロしんどくなったの忘れてた。てへっ」
可愛らしく言ってるけど、やらかしてることには変わりないんだけど。可愛いけどさ。
「…わたしの鎌使う?」
「何か出来たっけ?」
「…ん。わたしがあんまり好きじゃないから使ってなかったけど、鎌を浮かせることが出来る。…好きじゃない理由は、エルモンツィを彷彿とさせるから。…でも、お父さんとお母さんは、わたしを見捨てたりしない。…でしょ?」
アイリはしかりとした信頼の宿った目でこちらを見てくる。間違いなくmアイリは完全に俺らを受け入れてくれてる。きっかけが敵の攻撃ってのはなんかアレだけど、嬉しいことは嬉しい。
「…で、わたしの鎌は鎌を浮かせる。だから、鎌を持ってもらえば、浮ける」
確かに、出来そう。出来そうだけど…、
「ごめん、アイリ」
「さすがにその方法は怖いです。落ちそうです。主に筋力的な意味で」
「…ん。わたしもあんまりやりたくない。わたしなら自分の操作だからいいけど、二人だと失敗する可能性がある。…殺したくないし」
俺らもそれは嫌だな。主に心の傷になりそうって面で。
「ブルンナ。入れ物があれば浮かせられる?」
「もち!」
「了解。なら、」
「ですね!」
入れ物を用意しよう。シャイツァーは願いを反映する魔法。だったら、攻撃だけじゃなくて、何らかの物体を作り出すことくらい出来る!
やったことはなくても、それが出来るって言う感覚が、このペンにある。
四季から紙とファイルを受け取り、それを下敷きにさらさらっと。『籠』の完成。これを発動させれば。
「おー、これならいけそうだね」
「でしょ?」
気球の下に付いてるようなバスケットをイメージした。気球の下にあるやつが元なんだから、浮くのにちょうどいい。
さっさと乗り込む。でも、飛ぶ前に確認。思いっきり体当たり…は大丈夫。ジャンプしても平気。俺と四季が二人で跳ねてもOK。4人で跳ねても大丈夫。
「行けそうですね」
「だね」
「よっし!上に行くよー!」
ブルンナの声がしたと同時、バスケットが浮き上がる。何もない空間をゆっくりと上昇していくと、やがて目の前に大きな扉が出てきた。こんな方法でしか来れないところにこんな扉置く? …どう考えても構造バグってない?
「よっし到着!ここはブルンナか姉様しか開けられないんだ!」
そも、ブルンナしか来れないのでは? そんな心の中のツッコミはブルンナには届かず、彼女は扉に手をやろうとして
「ちょっ、姉様ァ!!!!」
絶叫した。ブルンナの後ろから扉を見てみると、扉にはどっかで見たような文字で問題が書いてあった。
『10人の悪い事をしたブルンナは姉にお菓子没収を言い渡されようとしている。しかし、慈悲深い姉はブルンナにチャンスを与えた。
姉「これから、ブルンナには円形に並んでもらう。そして、帽子を被せる。その後、適当に選んだ時間の後に合図をする。合図の時に帽子の色が分かったら来なさい。合っていたらお菓子を返す。合図は8回する。ただし、帽子の色を他のブルンナから教えてもらうとか、見るとかで確認することは禁止。もし、破れば永久にお菓子は没収。考えて解けるようにはするから、安心しろ」
この条件の時、3回目の合図まででブルンナは誰一人出て行かなかった。しかし、全員、無事に正解することが出来た。
問
何回目の合図の時に何人が出て行った?
ただし、ブルンナは全員、この条件で問題が解けるほど十分に賢いものとする』
何でブルンナが分裂してるんだろ……。




