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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
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46話 ヨギウ

 飛んできた一撃は伏せなくても、俺らの頭よりも高いところを通過する。



「アイリ!意識はあるか!?」

「ぐぅぅ……」


 返事もきついか! なら、



「「『『浄化』』!」」


 ぽうっと光がアイリを包む。だが、効果があるのかないのかわからない。鎌に振り回されるみたいに、アイリの周囲の床をガンガンと叩きまくっている。



「貴様!止めろ!それは味方ダ!」


 ヨギウが近づこうとした途端、接近を拒むように鎌が振るわれる。振るわれた鎌は巨大化して、壁を一周するように傷をつけたかと思うと、2 mくらいに小型化。その鎌先をヨギウに勢いよく叩きつけた。返事は出来なくても、こっちを認識はしてくれてるっぽい? なら、もう一度!



「やらせはしナイ!」

「邪魔を!」

「するなぁ!」


 俺が剣で切りかかると、スコップで流される。その間隙を縫って四季が突く。だが、ヨギウはそれも体をひねっていなしながら、くるり回転して蹴ってくる。それをしゃがんで避けると、頭上を鎌が通過。



 スコップと鎌が激突し、硬質な音が響く。受け流しきれていないヨギウ目掛け、四季が姿勢を低くしながら突撃。足を切り裂いてそのまま抜ける。



 バランスを崩したヨギウは受け止めきれず、スコップの上を鎌が滑っていく。その過程で、スコップを握っていた指が切り落とされる。



 隙あり。邪魔だ。吹き飛べ。『身体強化』して全力で腹を蹴る。勢いよく部屋の奥へ吹っ飛ばす。今のうちに。



「「『『浄化』』!」」


 また光がアイリを包む。



「…む、うぅぅ……!もっと、お願い!」


 こちらをじっと見つめてくるアイリ。その眼には確かに理性があって、救いを求めている。



「「『『浄化』』!」」


 もう一度! 



「がっ。がぁぁ!駄目ッ!」


 どういう状況か聞きたかったのに! またガンガンと床をたたき出した。



くそ、今のでわからなくなった。浄化は効かない? いや、アイリの言葉からして、効かないはずがない。そも、あの魔法が何かはしっかりとはわからなくても、色からあれが瘴気に由来しているとか、爆発したシャンデリアの性質から、あれが洗脳関係ってのは推測できる。



 が、分からない。今の状況でも、アイリはしんどそうだが、理性はある。まるで体が言うことを聞いてくれないよう。



 浄化は効いているが、タイミングが悪かったとかそういうのか? なら、上から流れ込んでる聖水をなんとか触れさせ続けてあげたい。



「四季。アイリを頼んでもいいか?」

「お任せを。習君の方が早いですからね。急いでください」

「勿論」


 さっと身を翻して梯子まで戻る。今更だが、爆発の影響でここの扉吹っ飛んでんな。だからどうしたって話だが。



 急いで道を駆け抜け、梯子へ。一段飛ばしで急いで登る。よっし! いてくれてる!



「ブルンナ!やっぱ一緒に来て!」

「え。説教回避してくれるなら」

「勿論!」


 この件に関しては任せろ。俺らの都合なんだしな。



「りょーかい!なら、行く!」

「ありがとう。急ぐから、担ぐぞ」

「ふぇ?」


 間抜けな声を出してるが…。ごめん。さっと飛び降りて底へ。そして、部屋へ戻る。



「ブルンナはその入り口のとこで待ってて!そこからアイリに向けて聖水をかけ続けて!てか、今更だけど、魔力は大丈夫か?」

「大丈夫!今日は物しか動かしてないから!」

「なら、頼んだ!」


 攻撃はそちらに行かないようにするから。



「四季!無事!?」

「勿論です。アイリちゃんがあの状況とはいえ、一対一プラス1にしかなりません。その上、アイリちゃんは私達の味方のままです。時折、えっぐい一撃がこちらを巻き込むように放たれたとしても、数的有利は揺るぎませんし」


 そっか。なら、よし。



「ちいっ、邪魔をするナ!小娘ェ!」

「え。ブルンナ?」

「らしいです!」


 ブルンナはやらせない。いや、誰も取らせはしない。俺も、四季も、アイリも、ブルンナも。誰一人落とさせやしない。お前とヨシウだけ落ちてろ。



飛びかかりながら、勢いよく振りかぶられるスコップ。それを剣とペンをクロスさせて受け止める。そこへ四季が攻撃…する前に、アイリの斬撃。



 鎌が真上から降ってきてヨギウを襲う。ヨギウはすんでのところでしゃがんで回避。そのせいで俺のところに鎌が落ちる。




 だが、拮抗は一瞬。すぐさま鎌が引かれた。



そして、こんなのやってる間のフォローは四季がしてくれたらしい。ちゃんと、俺の横を抜けられないようにタックルして弾き飛ばしてくれた。



「ちいっ!エルモンツィ!我らの同輩ヨ!我らの神に力を貸セ!」

「『断る』」

「即答だと!?」


 即答だったな。あれほどしんどそうにしているのに即答。分かってはいたが、四季の言う通り、アイリはまだアイリらしい。



「二重の意味で不完全だったカ!」

「それはどういう意味だ?」

「一つは魔法が不完全とかそういうのでしょうが、もう一つは?」


 ヨギウはさっさと吹っ飛ばさないといけない。だが、気になる言葉が出てきたなら、回収しなければ。ブルンナがいてくれているから、アイリの状況はおそらく、あれ以上は悪くならない。それどころか快方に向かうはず。



「所詮、エルモンツィは紛い物なのダ!やはり、我らが神に従うノハ、チヌカは、我らでなくてはナぁ!」


 叫ぶと同時、下層へ飛び降りるヨギウ。アイリもヨギウを追いかけて下に降りる。



「くかかか!よく来たナ!」

「ッ……!がぁ!」


 穴を覗き込むと、穴の底が土でできた花畑と化している。なんとなくだが、食虫植物みたいに真ん中に落ちてはいけない予感がする。その予感が俺らの脚を止める。



 それでも、アイリは落ちていく。そして、着地する瞬間、鎌を大きく振るって、一刀両断。斬られた花はたちまち、へにゃりと土に戻った。



 あの子を一人にしてはいけない。アイリにだけ、戦わせるわけにはいかない。その一心で足を動かし、飛び降りる。



「ブルンナは来るな!」

「守り切る自信がないです!」


 『身体強化』しながら着地。ノーダメージで降りられたが、即座に周囲から土がやって来る。



 走って回避…しようにも地面が波打っていて厳しいか! 魔法…を、使う前にアイリの巨大な鎌が振るわれ、土が動きを止めた。



 今のうちに安全なとこ……はないか。なら、



「ブルンナ!無理は言わないが、出来たら穴の上から下を覗いて聖水をかけ続けて!」

「無理!だから、これを!」


 ぽいっと聖杯を放り投げてくるブルンナ。マジかよ。折角、回収したのに。



 だが、ありがたい。くるくる回転しながら落ちてくる聖杯。それで聖水が周囲にぶちまけられる。



 うん? 周囲で土が蠢き始めているが、ぶちまけられたところだけ動きがない? とりあえず、回収しておこう。そして、中央から距離を取ろう。そこから土が湧いてきてる。



さて、ヨギウ的にはこの聖杯、どうしたいのだろうか? 普通に気にせずに押しつぶそうとしてきているが…。これって、俺らがここにいるからだよな? いっそ、しっかり確認するか。迫って来る土へ聖水をぶちまける。



 すると、土がぼろりと崩れ落ちる。間違いない。かけると崩れ落ちる。



 そして、アイリに斬られたり、聖水がかかった土はもう二度と動いている様子はない。であれば、距離を取ったあの穴を聖水で埋めてやれば、あいつ、攻撃手段がなくなるな?



「…ごめん!」


 えっ? アイリの声が響いて、呆けた瞬間、手元にアイリの鎌がやって来る。俺の手を傷つけないようにしたいという意思が感じられた一撃。だが、完全に制御は出来なかったらしく、俺の右腕をそこそこ切り裂き、鮮血が散った。



しかし、その一撃で聖杯が思いっきりかちあげられ、宙を舞う。



「「『『回復』』」」


これで俺の傷は大丈夫。その間も飛んでいっている聖杯は下を向き、どぼっと聖水が溢れ、アイリはそれを浴びに行った。



 だよな。やはり、アイリにも浄化は効果がある。というか、ないときつい。俺らに浄化を頼むよりも、手っ取り早く聖水を浴びないといけないほどに。



 ならば。やることは一つ。



「アイリ!」

「任せます!」」


 かなりぼかした発言。だが、アイリは意図を汲み取ってくれたのか、口を動かす。それはちゃんとした音にならなかったが、アイリの目は確かに「お願い」と言っている気がした。



 勿論だ。アイリは絶対に取り戻すし、ヨギウは沈める。



 攻撃は変わらず俺らとアイリに飛ぶ。上から何故か見ているブルンナの方には飛んでいかない。アイリは変わらず何かに振り回されるようにヨギウと戦っていて、攻撃は超大振り。さっき、聖杯をパクった時の繊細さは間違いなく例外だろう。



 ヨギウの指はいつのまにか再生していて、危なげなく渡り合ってやがる。



「がっぬぁ!」


 声がした瞬間、アイリの方から聖杯が飛んできた。返してくれた? マジか。確かに、そのほうが書きやすいが……。いいの? いや。いいのか。いいからあの子はそうした。ただそれだけ。



 ならば、俺がその信頼に応えるまで。



「どうぞ」

「ありがとう」


四季がファイルから取り出してくれた紙を、四季のファイルの上に押し付け、字を書く。



既に四季は肩で息をしている。だが、申し訳ないが休んでもらうわけにはいかない。聖杯を持ってもらって、攻撃を回避しなければ……。



 書くのは『浄化』。アイリがあの状況になったのはチヌカであるヨシウが自爆したせいで、あの地下はチヌカの手が入りまくったもの。であれば、浄化対象は間違いなく『瘴気』。ある程度それに絞って、浄化の効果を高める。ただし、完全に瘴気に狙いを定めない。万一、違う場合、完全に無駄打ちになる。



 紙に籠る魔力は四季のほぼ全ての魔力。俺の魔力と反発して、ペンの動きが乱れそうになるが、それを必死に押しとどめ、ペンを動かしていく。



 無理に逆らうよりも、ランダムな挙動の中、行きたい方向に行った時だけ、ペンをその流れに乗せる。そうやって、動かして……、



「きえぇぇえぇエェ!」


アイリが奇声をあげながら大きく鎌を振りかぶる。それを見た瞬間、二人そろってしゃがむと、俺らの頭上を鎌が通過していき、壁に激突して爆音をたてる。



「アイリちゃん!遠慮はいらないです!私達はちゃんと避けますから!」


 四季が言いたいことを言ってくれた。わざわざ超でかい鎌にしているのは、土を壊してくれてるから。なら、その一撃を避けるのは俺らの仕事。包み込むようにしてくる土を避けるより、アイリの一撃を避けるほうが容易い。



 『さんずい』完成。次。早く書きたいが、焦りは禁物。ペンが滑る。ちろちろと下からはい寄って来る土は、ブルンナがぶん投げてくれた聖杯の聖水で止められている。



 だから、攻撃の心配はあまりない。ただ、微妙に足場が不安定になることがあるから、ただただ手元に集中力を割けばいいってわけじゃないのが辛い。



 よし、これで浄の上半分が書けた。後、最後の一画。焦らず、慎重に、ゆっくりと降ろして……最後、ハネだけ。だが、それが書けない。強引に行くのは…



 ッ! 四季と一緒にその場でジャンプ。その下を鎌が通る。着地。さすがに紙からペンが外れた。最後のところに降ろして……、今!



 これで完成! と同時にまたジャンプ。アイリ、振り回されるみたいにぐるぐる回ってるな。……俺が書きあげるよりも、駄目になる方が早そうだ。



 四季……は、かなりきつそう。今の二連ジャンプでかなり消耗している。…なら、四季から聖杯を受け取って、中身を勢いよく吹っ飛ばす。



 ヨギウが妨害しようと土を飛ばすが、アイリは俺らの意図を汲み取ってくれたのか、容赦なく切り裂き、それを浴び、聖杯をキャッチ。



俺らの周囲の土を念入りに切り裂くと、聖杯を置いてヨギウに向けて走って行く。



 自分が辛い状況でも、ちゃんとアイリは俺らを護ろうとしてくれているらしい。なら、俺らもちゃんと、俺らの子供を解放しなければ。



 魔力が大量に消費され、俺もかなりしんどくなってきた。だが、そんな泣き言はねじ伏せる。目に入ってきた汗は我慢する。手脚の震えは強引にねじ伏せる。



 そんなことをしていると加速度的に辛さが増していく気がして、焦燥感もそれにつられるように増加する。だが、そんなこと知るか。失敗はしない。ここで失敗したら誰がアイリを、俺らの子を助けるんだ。



 化の左(にんべん)は完成。次は右。右上から、左下へ降ろすだけ。だのに、それがまぁ、辛い。しゃがんで……あ。今だ! しゃがむ勢いを利用して一気に走りぬける。行き過ぎないように気を付けて、最後の一画。



 その時、俺らの頭上を鎌が通り抜けていく。再度、立ち上がってペンを進める。がくがくと左右にぶれそうになるのをこらえて、正しい流れの時に一気に進める。



「行きますよ!」


 四季が声を張り上げ、回復してきた体力を振り絞って、聖杯を蹴り飛ばした。中に湛えられていた水がどばっと溢れ、アイリの方へ降り注ぐ。



 その途端、俺らの聖水の守りが無くなり、土が俺らを押しつぶそうと降ってくる。



 最悪の環境。だが、精神だけは極限まで研ぎ澄まされる。紙に籠っている四季の思いと、横にいる四季本人の思い、そして、俺の思いが寸分の狂いもなく一致したのか、一瞬だけ何の抵抗もなくなる。それを逃さず一気に右へペンを進め、払いあげる。出来た。



「「『『浄化』』!」」


 代償魔法で書き上げた魔法を発動させると、光が周囲を包んだ。







______


「「『『浄化』』!」」


 二人の声が響いた途端、部屋の中が光に包まれた。わたしの体を駆り立てていた破壊衝動がぺりぺりと消えていって、代わりに温かい気持ちが湧いてくる。



 …今、戦闘中なんだけどな。そんな文句が頭をよぎったけれど、それを言う気にならない。だって、この気持ちはあまりにも心地いい。



 わたしはこの気持ちを概念として知っている。知っていたけれど、与えられなかったもの。



おそらく、これは家族愛とかそういう言葉で識別される感情。それが与えられている他の子達を羨ましいと思ったことはない。そもそも、そういう感情自体が無かったから。



 …だのに、それがわたしに注がれているのが無性に嬉しくて、いつまでも浸っていたくなる。依存してしまいたくなる。今も、光はわたしを気遣ってくれている。破壊衝動は完全に消え去ってる。でも、わたしはまだ少しどこかが変みたい。



 光が「あれ?何で」って困惑している気がする。それが、どことなくお父さんとお母さんっぽくて、愛おしい。お父さんとお母さんなら、わたしを拒絶せず、温かく迎え入れてくれる。…なら、わたしもそれを受けてもいいよね?



「…ありがとう。大丈夫。それより、先に倒すよ」


 光が晴れる。ただの魔法のはずなのに、わたしの気持ちを汲んでくれたみたい。



 いた。ヨギウ。お父さんとお母さんに手を出される前に始末する!



 お父さん達が言っていたみたいにわたしがトドメを刺す! 足で床を蹴って勢いよく距離を詰める。



「ちっ、貴様!我らを裏切るというノカ!?」

「…わたしはもとから敵側」


 魔法が封じられているのか、スコップで殴ろうとしてくるヨギウ。振り下ろされるスコップを鎌で受け、手首をくいっと動かし、スコップを絡めとり、弾き飛ばす。そのついでに、柄の部分で胸を突く。



「わたしはアイリ。お父さんとお母さんの娘。勇者の娘が敵であるチヌカにつくわけがない」


 ぐいっと右に鎌を移動させ、柄で胸を切り裂く。そして、くるりと鎌を回して、ヨギウを縦真っ二つに切り裂く。まだまだ。攻撃を連続で重ねて、細切れに。回復を追いつかせはしない。



 何度も何度も鎌を振るうと、床にスコップが突き刺さる。そんなに斬ってもいないはずなのに、スコップもヨギウも砂のように消えていく。



 …これで終わりだね。お父さんとお母さんは…大丈夫そう。早く二人のところに…あ。駄目だ。無理な動きをしていたせいか、意識が……。

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