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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
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45話 ヨシウ

「我らが主ヨ!我に力を!」


 言うなり飛びかかって来るヨシウ。狙いは明らかにシャンデリア。白授の道具で壊すのに時間がかかるのなら、時間稼ぎをするまでだ。



「ブルンナ!このシャンデリアを聖水に漬けておけ!」

「階段の上に聖杯を置いて、その下にシャンデリアを置いておけばいいと思います!」

「りょーかい!それならすぐできる!」


 ぽいっと放り投げたシャンデリアをブルンナが魔法で受け取り、入り口の方に引っ込んでいく。



「ッ!邪魔をスル!」

「そりゃ、するさ」

「ですです。私達は、あなたに恨みしかないのですから」


 奥には絶対に行かせないし、何だったらここで落としてやる。



「アイリ!アイリはあれを殴れ!」

「同じ所ばかり殴っていれば、いつかは壊れるはずです!」

「…任せて。それは得意」


 真剣な顔で頷くと、アイリも階段の方へ身をひるがえしていった。ノサインカッシェラを倒したのはアイリだ。俺らより、それを成し遂げる力はあるはず。



「貴様ラ!我らが主からの恩寵品に何をするツモリだ!?許さんゾ!?」


 許さんはこちらのセリフ。だが、こうも「許さん」と言われると非常に鬱陶しい。否が応でもこいつにだけ注意が向きそうになるのを抑えつつ、こいつが階段のところに行けないように妨害する。



 こいつがやってくるのは単純な肉弾戦。魔法も何もないただひたすらに殴る、蹴る、避ける。それだけで、俺らの間を抜けようとしてくる。



 だが、抜けることにだけ集中していると分かっているから、やりやすい。油断すると俺らを倒すって発想に切り替わった時に死ねるから、油断はしない。でも、それを踏まえてもやりやすい。



「何故だ!何故、貴様らは我の邪魔をスル!?」

「チヌカ相手に慈悲なんてない」


 チヌカって分かった時点で、殺す以外の選択肢は消える。こいつらは存在していてはいけない。



「ですが、それ以上に、私達のアイリちゃんに手を出そうとしたことが気に食わないです」


 子供に危害を故意に加えようとされて、「はいそうですか」って許してやるような意味の分からん心の広さは持ち合わせてないんでね!



「「だから、お前(あなた)はここで殺す(殺します)」」


 ヨシウは素手で、俺らは武器有り。交差するごとに奴の体に傷が増えるが、どれも浅い。思い切って切断しきりたいが、下手に腕や足を断つと、その勢いで抜けられかねない怖さがある。



「我の邪魔を……するナァ!」


 一気に後ろに飛びのくヨシウ。ググっと足を縮めたかと思うと、すさまじい勢いでこちらに吹っ飛んでくる。



 飛んで来るヨシウ目掛けて、四季ともども剣を振り下ろして止める。わずかに拮抗するが、ヨシウは跳ねるように後ろに下がる。



「邪魔だ邪魔だ邪魔ダ!我の邪魔をするナ!」

「邪魔をされたくなければ死ね」

「さすがに地獄まではついていけませんからね!」


 四季と手を繋いで『氷槍』。空中では避けれないだろ! 



「ふんぬぅっ!」


 素手でぶん殴って強引に軌道変えやがった。火魔法にしておけばよかったか。…いや、この部屋だと駄目か。弾かれて上に行かれると火事になりかねん。



 着地したヨシウはまた真っすぐこちらに突っ込んでくる。…かに見せかけて、突然、勢いよく壁へ飛ぶ。そして、三角飛びの要領で壁を蹴り、俺らの後ろを抜けようとする。



 通らんよ。それは。一人で速度もそんなにない。そんなので俺ら二人が抜けるかよ。四季がファイルで行動を妨害。そこに俺が剣とペンで同時に腹を突く。



 ぐにゃっとした感触。勢いよく左右に振りぬき、さらに肉を断つ。



「邪魔をするナァ!我らが神の恩寵に!貴様ら如きガ、触れてよいモノカ!」

「その恩寵に触れさせることで、お前は人を操っていたんだろう?」

「だのに、触れるなとは……、最高に片腹痛いですね」

「貴様貴様貴様ァ!」


 ほんと、うるさい。うるさいが……、聞き逃してはいけない音は聞き逃さない。



「アイリ!ブルンナ!」

「戻っておいで!シャンデリアごとで構いません!」


 二人で一気にヨシウとの間合いを詰め、勢いよく床に叩きつける。衝撃で部屋の中心付近の床が抜ける。そのまま、落ちてろ。



「「『『氷槍』』」」


 氷槍は回避を許すことなくヨシウに突き刺さり、ぶち抜いた先……おそらく最下層っぽいところの床に奴を縫い付ける。



「ブルンナ!お前は後で別口から逃げて、騎士達を下げろ!聖水だけはこの部屋に流れるように!」

「後、シャンデリアをこちらへ!アイリちゃんも、です!私達から決して離れないように!」

「もー!わがままだねー!置いてく!」

「…ん」


 ブルンナは悪態をつきつつも、聖杯を置いて上へ戻る。そして、アイリもすぐそばに来る。



「アイリ!下見てて!」

「…ん」


これでよし。後は警戒。……。



「そこぉっ!」


 四季の声に従って、彼女が見ていた部屋の中央に振り返りつつ、ペンを投擲。ペンは音もなく部屋に侵入しようとしてきていたチヌカ目掛けて一直線。



 しかし、やつは手に持っていたスコップを振り回して俺の攻撃を弾くそこへ一気に四季とアイリが距離を詰める。



 その間に俺が『身体強化』で高速移動。チヌカの視線を切りながら、背後へ回り込む。大きくアイリが飛びのいた瞬間、後ろからペンを構えて突進。



 ぐさっと心臓のあたりに突き刺さり、衝撃でチヌカが振り下ろすスコップの挙動がぶれる。それを、四季がファイルで下から受け止め、背負い投げの要領で大きく加速させる。



二人がかりで大きく持ち上げ……、狙うは部屋中央に開いている穴。そこへ叩き落す!



「ガグッ。貴様らッ!」


 無視。そして、今なら使える。こいつの手の内は分かっていないが、どうせここでしか使えない!



「さぁ、アイリちゃん!私達も上に逃げますよ!」

「…え。何をする気?」

「こうするんだよ!」


 新しく紙を書いている時間はない。だが、既に書き切っている魔法ならいくらでも使える。道中でシャンデリアと聖杯を回収。俺が右手にシャンデリアを、四季が左手に聖杯を持ち、聖水を絶えずシャンデリアにかけるようにしながら、部屋を出る。




「「『『火球』』!」」


 扉を閉める前に、代償(・・)魔法として発動。街の中、ちょっとくらいの地下では使えない火魔法だが、あそこなら外に影響は出ない!



 紙がスッと消え、巨大な火球が出現。サイズは穴を通れるようにそれなりだが、その代わり、熱量は魔力量に比べてかなり高い。それをぽいっと山なりの緩やかな軌道で穴へ放り込む。



 部屋の出口、梯子にたどりついて、急いで上がる。登り始める前に巨大な『土槍』。超遅いスピードでゆっくり飛ばす。



 壁が置けないから、代用品。



やばいな。上がりにくい。 四季の持つ聖杯から聖水が落ちてくるから、それをシャンデリアにかけつつ目を塞がれないようにしないといけないから難度が……。



登りきるギリギリ。そこで、下の方からくぐもった音が響いてくる。ッ…、



「…大丈夫?」


 あぁ、ありがとう。一瞬、振動で落ちかけたが、アイリが引っ張り上げてくれた。無事に地下からは脱出。ここを閉め、外……



ドガーン!



は? 爆発? 何故……? だが、ここは大丈夫そう。かなり教会は頑丈らしい。代償魔法の火の球が炸裂しても、地下が崩落する様子も、火事になる様子も微塵もない。



「ちょちょちょ、なんか中心から煙が出てるんだけど!?」


 中心から? …なるほど。爆発の衝撃はほぼそこから逃げたのか。



「中央にはまだ行くな。おそらく、かなり高温だ」

「ですね。それより、アイリちゃん。ここでシャンデリアぶっ壊しましょう」

「…いいけど、ここで?」


 ほんとにここでやるの? とアイリの顔に書いてある。



「外に出ると、あいつらが外に出てきた時に余計な被害が出かねない」

「まぁ、ここでも似たようなものですが……」


 魔法が壁突き破って行ったら意味ないからな。そういう意味では地下ってのは結構、いい戦場だったんだが……。今、行くと熱で死ねる。



「…一応、ここが敵の本拠だよね?」

「あぁ。でも、一番下。あそこが何かやらかそうとしている場所だろう」

「そこに比べれば、ここはなんてことないですよ。礼拝場も、シャンデリアがなければ意味をなさないでしょうし」

「…了解」


 さて、壊すか。聖水に浸しまくっているから、なんとかなってくれないかなとは思うが……。



「…一部が欠けてる?」

「「どこ(どこですか)?」」


 俺らの問いに、アイリが指さす。確かに、シャンデリアの蝋燭(ろうそく)を灯すための台座。そこにあったであろう台座が1つ。ごっそりと消え去っている。



「これはアイリが壊してくれたんじゃないの?」

「…ううん。わたしが狙っていたのは、中央。全ての台座を繋いでいる根幹部分。こんな末端は殴ってない」


 じゃあ、何故? 分からん。振動を感じた時にシャンデリアに俺と四季がぶつかった……か? あるかもしれんが、俺らがぶつかったぐらいで欠損するか?



 現に今、俺らが触れたところで消えない…な。うん。他のところも一応、ぺたぺた。これは駄目。なら、これ。



「「「「えぇ……」」」」


 消えたわ。四季が触っても駄目だったのに、俺が触ったら消えた。もう1個……は駄目か。他のところは? うーん、駄目。全部駄目だ。四季も同じく。



 消えたところは隣り合わせの台座。その共通点……は一つあるな。たぶんだが。聖杯から出る水。それに触れまくってた部分だ。ここ。



 その条件なら、この台座もいけるはずだが……。俺も四季も無理。となると、これ、俺と四季で一個ずつとかか? アイリはやらせたくないが…。



「一回、ここをシャイツァーで殴ってみて」

「…ん」


 ガァン! と甲高い音が響いただけ。アイリは無理か。



「ブルンナも!」

「責任取れないが?」

「へーき!」


「へ」の時点で触るなよ……。またお説教案件では? 考察材料は増えたが……。とはいえ、また勇者限定とかだろう。たぶん。



いや、優先順位がおかしいな。さっさと壊そう。



 聖水が効果あるなら、シャンデリアの要にどばどばかけながらぶん殴ろう。



「てか、いつまで離れてればいい?」

「あいつら倒すまで……かな」


 あのチヌカ以外に、もはや戦えるやつはいないはず。チヌカの洗脳はあの聖霧で解けきったはずだしな。



「ま、それはいいんだけど、聖杯はいつまでいる?みんなが勇者だってのはわかってるけど、それでも、聖杯はこの国の象徴なので…」


 持ち去られたら困るか。…そういや、現地人のシャイツァーは瞬間移動とか出来ないんだったな。



「なら、ここから下に向けて聖水流しておいて」

「私達はまた、戦ってくるので」


 礼拝場のドアをドアの横から開ける。…熱気はだいたい空に逃げたか。天井に大きな穴が開いている。騎士達の包囲を突破するより、上から入ることを選んだか。



 よくあのサイズで音もなく入って……違うか。爆発で壊れたんだ。白い煙が出ているし、おそらく、やったことの見当はつく。



とりあえず、さっきまで戦闘していた部屋を冷やそう。開いている穴から『吹雪』。ゲームでは命中率70%しかないが、ここは現実。容赦なく下の部屋に吹雪が吹き荒れる。



 ここの演説台みたいなとこの裏……はフォローしなくていいか。ほぼ確実に下に行く通路。うん。やっぱ下に降りよう。あそこのが都合がいい。



 念のため、『風刃』。気休めだが、風で空気を循環させ、酸素を流し込み、二酸化炭素やらを追い出す。



 そして、下へ。さて、階段付近でシャンデリアの破壊を試み……来たか。あいつら、ボスっぽいなりして、浮遊魔法とかないのか。



 こっちはありがたいが、ご丁寧に道を通ってきたんだろうな。ここまで遅いと。



「貴様ら、よくもやってくれたナ……」

「挨拶もなしに、殴ってくるトハ、どういう了見なのダ?」

「敵に挨拶は必要か?」


 騎士でもあるまいに。ちっ、火球の影響は両方受けてないな。両方とも無傷。



だが、古い方──ヨシウの方はなんらかの損傷を受けている。が、傷跡からしてあれは火によるものじゃない。火だとかさぶたみたいになるなり、焼け焦げた臭いがするなりするはず。



あんな最初っから無かったみたいに綺麗に抉り取られたりしないし、体中に一定のサイズで散ったりしない。



「というかですね、そちらの名前を知らない方も、不意打ちしようとしてきたのでは?」

「していないガ?」


 うん? ……あ。そういえば、上から飛び降りてきたから、こっちから攻撃仕掛けたんだった。え。まさか、あの絶好の不意打ちチャンスをふいにするつもりだったと? 馬鹿では?



 何でそんな騎士道っぽいの重んじてんだ。いや、それはいい。ヨシウの傷の原因は? ……ま、ほぼ明らかか。さっきまでの戦闘でもあんなのはなかった。であれば、白授の道具──シャンデリアに損傷を受けたから。それしかない。



「…人の名を聞く前に、先に名乗れば?」

「我の名はヨギウ!我が主の復活を望むものナリ!」


 素直か。了解。なら、殺そう。



「「『『土槍』』」」


 魔法を発射。まっすぐ槍は飛んでいき、ヨギウに命中し…ない。今のは融けた……か?



「貴様!名を名乗レ!」

「名乗るほどのものではない」

「ですね」

「…ん」

「貴様ら、それでも騎士カ!?」


 騎士じゃないし、チヌカに名乗る道理もない。そして何より、



「「洗脳を仕掛けてくる相手に名乗る馬鹿がいるとでも?」」


 これに尽きる。名は呪術的に重要な意味を持つとはよく言われる。魔法なんてないあっちでそうなんだ。魔法があるこっちじゃどうなるかわからん。



「我らが神の御力に触れるだけダ!」


 典型的な「それはそれ。これはこれ」か名を名乗れってのは、馬鹿を引っかけるためと見た。だが、魔法を撃ってから、どちらも動いてないんだよな…。マジで「騎士道に反する」とか、思ってる可能性もある。



 そのくせして、やることが洗脳とかいう明らかに騎士道ではないもの。ちぐはぐすぎるんだよ。ヨシウはチヌカと看破されるまで名乗る気はなかったようだし。



「「名は?」」


 再度の問い。無視して攻撃する前に、答える気がないことを悟ったのか動き始めた。



 三対二。狭い部屋の中で踊るように武器を合わせる。決してシャンデリアは返さぬようにしつつ、上から流れてくる聖水に当て続ける。それがなかなかに面倒くさい。そして、その面倒くさいことをしながらも、穴の中から下を覗きこむ。



 やっぱりか。じゃないと爆発起きないよな。かなり深い穴が開いていて、かなり見えにくいが、水みたいなのがある。地下水を引っ張ってきて、それと火球が激突して水蒸気爆発起こしたか。



となると、ヨギウのスコップは地形操作か。対象は鉱物とかそのあたり。人の魔法でもお構いなし。そんなところか? 確かめるためにも、



「「『『土槍』』」」


 弱っているヨシウ目掛けて発射。すると、ヨギウが急いでその軌道に割り込み、槍を消滅させる。予想は正しいっぽい。が、土槍は今のが限度。これ以上は消えてしまう。



「次は仕留めます」


 四季の宣言と同時に二人で突撃。完全に意識がこちらを向いた時、こっそり移動していたアイリがヨシウを両断した。



「「キヒッ」」


 あ。何か知らないがやらかした。



「「アイリ(アイリちゃん)!」」


 叫んだ瞬間、気味の悪い笑みを浮かべていたヨシウとシャンデリアが爆ぜる。一切、衝撃はない。その代わり、いつもの汚い白と黒の光が周囲を覆って何も見えない。



「「アイリ(アイリちゃん)!」」


 再度、叫ぶ。だが、返ってきたのは苦しそうなアイリの声と、敵味方関係なく部屋を両断する大鎌の一撃だった。

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