42話 衝突
黒い集団がやってきた。先に動かれたのは癪だが、そっちのがありがたい。ノコノコ本拠から出てきてくれたんだ。ここでちょっとでも削る。
ただ……まだ何もされてないのに攻撃していいものかが分からない。ブルンナの反応とか見る限り、先制攻撃をかましても問題ないだろう。だが、市民に犠牲が出かねない戦いの火ぶたをこっちから切るのは、後々、市民感情がよろしくなくなる可能性がある。
目当てが俺らじゃない可能性もあるし。……正味、はっきりと意志の感じられる目でこっちを見てることを考えると、違うってことはないだろうが。
宿の隣の大聖堂。その前の広場は人気の観光スポット。だから、朝からそこそこ人がいたが、あいつらが異様過ぎるからか、どんどん離れて行っている。完全にどっかに行かないのは野次馬根性なんだろう。…巻き込まれても知らんぞ。
「あいつら、何がしたいんだろうな?ご飯食べれるくらい余裕ある時間に来るって。こういう時って夜に来るもんじゃない?」
「結界で解けないはずの洗脳が、解けてしまったからでは?洗脳系の能力ってかけたっきりのものもありますが、解かれてしまったかどうか術者が把握できるのもありますし」
…確かに。ブルンナは夜中に解呪作業始めたって言ってたよな? なら、
「その可能性が高そうだ。となると、あいつら捨て駒か?」
「かもですね」
「…その心は?」
? アイリならわか……あー。アイリは奥に居てくれてるから見えないもんな。
「教祖らしき奴がいません。白教祖が確定でチヌカ。そして黒教祖は分かりませんが、あんなパンフ渡してきている時点で、教祖がチヌカじゃないってのはないでしょう?」
「だのに、チヌカらしきやつがいないんだ」
「…なるほど。それなら、その可能性が高そう」
だよなぁ…。なら、やっぱさっさと潰すか? あっちが「襲撃されるかも!」って考えて、「準備を整えるために時間稼げ」ってポイ捨てしてる可能性が出てきた。
「煽ってさっさと手を出させる?」
「のがいいかもしれませんね。……まさかと思いますが、姿を晒すつもりですか?」
「そのつもり。パンフレット受け取った俺が出るのが一番でしょ?」
家族がいるって言ってる奴にあのパンフ渡してくる勇気というか、なんかよくわからんものを持ってるやつらに通用するかは怪しいが。
「あまりやって欲しくありませんが…。仕方ありませんね。お願いします。脇に控えてます」
すぐ納得してくれるのか。時間も押してるからか? いかん、考察はいらない。都合よく相手してくれた黒いシスターもいることだ。あの人を煽る。体を窓から出して。
「昨日ぶりですね!よくもあんなもの渡してくれましたね!」
「あれは我らが神の福音です!」
沸点低っ! 即座に射撃体勢取らせやがった! 詠唱開始してる時点で、遠慮はいらない。そして、黒いやつらにもっと遠慮はいらない。全力で黒いシスターへペンを投擲。
顔見知りだが、関係ない。白なら兎も角、黒は駄目だ。
狙い違わず命中。目のあたりに突き刺さったペンは勢いそのままに貫通。突き刺さる前に回収、再度
「放て!」
!? ちゃんとぶちぬいたのにふらつきすらしない!? 飛んでくる魔法は大聖堂の結界が阻んでくれてるが、あいつらもそれは承知のはず。
「「「我ら、破滅を望むもの」」」
早速か! 駄目って見切りをつけるの早いな!
「四季!」
「はい!」
代償魔法は火力が高すぎてここでは使えない。だから、それ以外の火力で沈める!
「「『落石』!」」
手を繋いで、集団の上に分厚く、重い、棘が生えた土の板を落とす!
「「「我らが魂を贄に大いなる破滅を!」」」
これでも駄目か! ペンで駄目だったから嫌な予感はあったが…、何で、全員、串刺しにされて地面に押しつぶされてんのに口だけは動くかな!
「「「『破滅』!」」」
「「『岩弾』!」」
巨大な質量を持つ物体を、高速で射出! …っ、駄目か。静かに飛んでくる黒い球体に効いてるように見えない! 着弾の音も無い。…呑まれるように消されてるな。
何をしようが駄目そうだ。聖魔法は効くかもだが、使いどころはここじゃない。退避!
後ろに飛びのくと、静かに大聖堂の結界を貫通した黒い球体が、これまた静かに石材をえぐって宿に侵入。ごっそりと窓周辺だけを抉ると、天へ消えていった。
撃ったやつらは……っと。
ガキン!
掲げた剣と何かが激突。硬質な音を立てる。
「…やらせ、ないっ!」
「助かった!」
「ありがとうです!」
やられた! 目が下に行ってるときに、屋根の上から侵入してきやがった!
アイリのおかげで不意を打たれなかったが、部屋に入り込まれた。
人数はこちらが不利。だが、アイリの身柄が狙いなのか、アイリに負担が集中している。そのせいで割とこっちが自由。嬉しくない状況ではあるが、活かさない手はない。
アイリも夢中になって、背中を向けてる黒服にペンを投擲しつつ、剣を片手に一気に間合いを詰める。
別人から飛んで来る蹴りをかがんで回避。蹴ってきた奴へ向きを変え、抉りこむように胸に剣を突き立てる。そして、『身体強化』。勢いよく右へ刃を抜けさせる。
そして、左手で四季の手を取り、『風刃』。見えない刃が今まさにアイリに切りかかろうとしている奴の腕を斬り飛ばす。
数拍置いて、アイリが鎌を強引に横に振り払い、二人の胴体を切断。
見てないところで四季も二人くらい殺してくれたから、これで全滅。
「無事か?」
「…ん。お父さんもお母さんも、その武器の使い勝手はよさそうね」
だな。ちゃんと斬れた。胸を突いた時も、滑らせた時も、抵抗が無かった。思い通りに歯が滑るのはマジで楽。硬いと動かなくて、つんのめることもあるが、それがない。
「無事ー……ぃ?」
勢いよくブルンナが外から飛んできた。結界が破壊されるのを見て、慌てて飛んできたんだろう。なんかちょっと怯えたような顔をしているが。
「遅刻だぞ」
「あ。ごめん」
怯えるのがマシになるかと思ったが、逆に酷くなった。何故に。
「ごめん。責める気はないから」
あいつらは潰すが。
「てか、下のはちゃんと死んでるか?」
「下?」
見てないのか。なら、見に行くか。壁が無くなったから、『身体強化』しながら飛び降りる。
……ちゃんと死んでるな。魂を捧げると言った通り、魂を捧げてしまったのか、しわっしわになって。自分を捧げてやることが攻撃とか、その精神が分からん。自分が絶対に助からないとかいう状況でもないのに。
「うっわ。えっぐぅ……」
目線をブルンナの方に向けると「うげっ、やっちゃった!?」みたいな顔して慌てて口を手で押さえた。
「いや、怒らないから」
「ですです。先ほどから変ですよ?」
何でどうでもいいようなことで、怒られると思ってるの? ブルンナはそんな脅える質じゃないでしょうに。むしろ、怒られるかもだけど、やる時はやる! そんな子でしょうに。
「えーと、うん。二人が怒ってるから……」
「そりゃね。手を出されたんだから怒るでしょ。それも俺らの娘に」
俺自身ならまだ許す。だが、四季やアイリは駄目だ。
「大事なものに手を出されて、黙っているほど人間出来てないんですよ。私達」
危害を加えようとするんだから、逆撃される覚悟はあるだろう? ……怯えが酷くなってんだけど。
「…ブルンナ自身が怒られてるわけじゃないけど、怖すぎて委縮してる。怒ってくれるのは嬉しいけど、緩めてあげて」
あ。なるほど。余波で怯えているのか。意識すれば出来るけど……、こんくらいかな?
「ふぅっ」ってブルンナが一息ついた。さっきまで息もできないくらい、追い詰められてたの? 貧弱すぎない?
「普通、無理ですからね?」
敬語。完全には無理なのね。
「完全に殺してしまっていますが、よかったのですか?」
「構わないよ。黒いのは目が生きてた。多少、影響されているにしても、もとから死にたがりだ。なら、死なせてやっても構わんだろ?」
加減する余裕がないともいえるが。聖魔法を撃てば、あいつらもちょっとはマシな思考が出来たかもしれない。が、解いたところで、あいつらの根底は変わらんだろう。見た限り、黒は死にたがりの集まりだ。
「それよりブルンナちゃん。騎士達はどうなっているのです?呼びに行ってくれたのでしょう?」
確かに。来るのが遅すぎる。呼びに行ってくれた時間を考えると、もうついてもおかしくはないはずだが。
「お姉ちゃんが……」
? ブルンナの目線の先は……大聖堂か! そちらを向くと、大聖堂入り口からわらわらと人が出てくる。
やがて、すっごく偉そうな人が出てくると、周りの人がピシッとかしこまり、中心にいる人が軽く一礼。……国と宗教のトップが頭下げるのか。
「勇者様!騎士の皆様!この国を、世界を、お願いいたします!」
だから遅かったのか。きっと出る出ないでひと悶着あったんだろうな。だが、少なくとも俺らの行動は大々的に正当化される。
騎士と行動しているだけでも十分なのに、勇者の名声と教皇のお墨付きをもって。戦闘で発生しうる損害の悪感情をある程度引き受けてくれるつもりなんだろう。そんな滞在しないつもりなのに……。よくやってくれるよ。
「んっん゛ん゛!お姉ちゃんが出るのに、ブルンナがちゃんとしてないわけにはいられないよね!」
ちゃんと切り替えてくれるらしい。お姉ちゃんのこと信頼してんだな。
「二人とも!号令いっくよー!」
「「「出陣!」」」
同時に号令をかけ、騎士を引き連れ、街を駆け抜ける。ほんと、ブルンナもやるときはちゃんとやるんだから。
一人で号令かけなかったのは、俺らがブルンナ達の下にいるって思われたくなかったからだろう。だが、
「お姉ちゃんは寝込んでんじゃなかったっけ?」
「国を回すことは出来るよ!ただ、他の癒しの仕事に差し支えが出るの!助けられたはずの人が助けられなかった……なーんてことが起こりうるからね!」
なるほど。それは重大だ。なまじ普段なら助かったはずなのに、助からなかった。人間はこういう悪い方の変化はずっと覚えがちだから。助けられなかった人の遺族が心の弱い人なら、教皇の超絶アンチになりかねん。
「天ty」
やっぱそう来るよな。突然飛び出してきた奴の突進を受け流して壁に叩きつける。四季が足で手を思いっきり踏みつけ、手に握った武器を離させる。そして、俺がトドメに思いっきりぶん殴って気絶させる。
「洗脳された市民が襲ってくるぞ!」
「私達は無力化だけするので、後処理はお任せします!」
「みんなー!騎士団の名誉にかけて、任された人も、襲ってきた人も出来るだけ傷つけないであげてね!」
今はブルンナの指示で問題ないな。ちゃんと戦力になりうるのは教会につめてるだろうし、騎士達と市民は格が違いすぎるから、ちゃんと手加減してあげられる。……無理めな強い奴がいたら諦めるけど。
「死ねぇ!」
二階からモノを投げるって選択は賢いが、言っちゃダメだろうに。降ってきた皿とかを回避。
「うおおおー!」
窓を蹴り破って、窓の一部をへし折り、その破片を握りしめて飛び降りてくる市民。蛮勇が過ぎる。
「まっかせてー!」
ブルンナの声に判断を迷っているうちに、俺らの前にすすっと出てきて、右手に持ったタクトみたいなものを振るう。
すると、みるみるその人は減速して、空中で静止した。
「後はお願い!」
「了解」
攻撃出来る能力ではないのな。空中でじたばたしている人の手からガラス片を弾き飛ばして、良い感じのところをぶん殴って意識を飛ばす。
「…綺麗に気絶させたね」
「ただの脳震盪だけど」
頭を打てば誰でも起こりうるやつ。脳は重要臓器だから、あんまやらない方がいいんだが……。即座に黙らせる方法としては優秀。この世界には魔法もあるし、地球に比べれば、安全性は高いだろう。
ま、駄目でも、腕を貫いて家にはりつけの刑にされるよりはマシだろうから、我慢してほしい。
無力化した人を任せてさらに進む。家の中から延々と妨害を試みようとしてくる人、普通に飛び出してくる人、家の奥から頑張って色々投げてくる人。数は少ないがそんな人たちにぽつぽつと妨害される。
だが、黒も白も正規兵……って言っていいのか分からんが、そういう人が見当たらない。
「さて、もうすぐ本拠だが」
「黒に遠慮はいりませんからね!」
黒は消し飛ばす。
「え。待って。ひょっとしたら捕まっている子がいるかも……」
「チヌカ相手にそれは無理」
ここまで余裕で、黒の正規兵も自爆したから余裕に見えるかもだが、チヌカ相手に手なんざ抜けない。
白に配慮してあげるんだから、黒に配慮は要らない。
「待って待って!なら!おねーちゃん!」
「「え?」」
姉? 教皇猊下ならさっき、見送りに……えぇ……。
後ろを振り向くと、騎士の隊列が割れて、そこから静々と女性が歩いてくる。さっき見たばかり。見違えるはずがない。教皇猊下。その人だ。
「先ほどの状況下では不可能でしたが、今ならば私の魔法が使えます。どうか、彼らにも慈悲を」
白は兎も角、黒に慈悲は必要かね? あいつらは間違いなく、自分の意志でアイリを依り代にエルモンツィを復活させ、そして周りを巻き込んで死のうとするロクデナシどもだぞ。
「ちょっと耳かして」
ん? ブルンナ? どうした? とりあえず、要求に従うか……。
「ぶっちゃけ、どうでもいい。けど、ちゃんとチヌカを始末したか見れるの?それで?」
……無理だな。地下施設が崩落でもされて、探索不能領域が出てしまうとそれで終わり。そこにいられると潰せない。それは駄目だ。チヌカは潰しきらないといけない。
「わかりました。ですが、貴方の魔法は何ですか?」
「一度発動すれば、聖魔法を帯びた聖水。それが私のシャイツァーより1日中滾々と湧き出る『聖泉』です」
不足はないでしょう? と言わんばかりの不敵な笑みを見せる教皇猊下。
「神敵がいるぞ!殺せ!」
教会が見えるところで教皇猊下が出てきたからか、教会から突撃してくる信者共。
「騎士達!お姉ちゃんと勇者様を守るよ!」
「「「おう!」」」
「というわけで、よろしく!」
え。迎撃してくれるのはありがたいけど、何で教皇猊下の妹が先陣切ってるの? 教皇猊下も頭抱えておられるぞ……。
「申し訳ありませんが、急いでくださいませ。この水は少量でも構いませんから、飲ませてください。それで効果が発動いたします。聖杯は置いておきますのでご随意に」
言うなり教皇猊下は無造作に聖杯を置いて、距離を取った。これなら教皇猊下に遠慮はいらない。
まさか、今日、書くことになるとは思わなかったが……、そういうこともあるか。四季から魔力のこもった紙を貰って、ファイルを下敷きに字を書く。
後が控えているから、あまり魔力は使えない。だから、普段より書きにくいが、全力全開に比べると書きやすい。
いつもに比べれば少し強い抵抗をねじ伏せ、なだめすかしてペンを動かして……。完成。
書き終えたのを見た四季が伸ばしてくれた手を取って、
「「『霧』!」」
作ったばかりの紙を代償に今、魔法が発動した。




