39話 白と黒の教会
どーんとそびえたっている建築されたばかりのはずの両教会。だのに、なんか両方とも色がおかしい。
白も黒もどっちも、白に黒を強引に混ぜようとしたけど、混ざっていないというか、黒の上に白を重ねただけというような、そんな汚い灰色で着色されている。
そして、それは多分、以前森で戦ったリブヒッチシカを相手取った時にも見たもの──瘴気──と一緒。正直、これで確定と言いたいところだが……。
俺が外から見ただけで分かるものをブルンナが気づけていない。いや、気づいているのかもしれないが……。であるなら、一切、そういう話は出ていないし。何ならそれを根拠に攻め込むとかしていないのがおかしい。
で、あれば、これだけでは証拠不十分ということだろう。うーん、どうしよう。変ってわかってるところに、むざむざ突っ込むのは馬鹿だが……。
正直、チヌカが絡んでいるなら潰さないという選択肢はない。先に叩き潰さないとこっちに飛び火しかねない。なら、巻き込まれたくないもくそもない。俺らが勇者って言って、協力要請してしまうか?
いやでもなぁ、それで万一、違いましたーとか、笑えないし……。
なら、行くか。手を出されないようにするための手は打ってある。それを間違いなく伝えるだけ。なのだけど、行きたくなった。なんか白と黒のシスターっぽい人らが言い争いをしてる。どっちが先に勧誘するかの争いか?
接近し……たら、両方言い争いしながら来るのな。
「この人は私達のところに来るんです!」
「いえ!我らが神のところだ!ほら!神と同じく黒髪ではないか!」
黒髪って認識出来てるのに、手を掴んで強引に引っ張ろうとするのね、君。怖いもの知らずというかなんというか……。てか、それを聞いてるはずの白い方も白い方だ。思いっきり引っ張ったまま。
こっちもこっちでヤバイな。でも、黒い方とはなんとなくベクトルが違うような……。断言はできないけど。てか、
「あの、離れていただけますか?私、これでも妻帯者なんですよ」
公式には。だけど。……ちゃんと気持ち伝えてないから、私的には恋人ですらないんだけど。いい加減、進めないとマズいよなぁ。
……黄昏ている間に離れるかなと思ってたけど、効果なし。そんなんしてるから信者増えないんだよ。ベクトル違いでも、両方ぶっ飛んでるのは変わんないな。
「妻帯者だから離れろって言ってんでしょうが」
「「ぴえっ」」
ふぅ、全く……。どういう神経してるんだろうか。やっと離れてくれた。これじゃ、対策も効くかちょい不安になるぞ……。
軽く震えてるな。なら、一回目で聞けよ。
「さて、どちらも見学したいんですが、大丈夫ですか?ただ、あまり時間は取れないのですよ。妻も|この国の結構偉い知り合い《ブルンナ》も、ろくでもないから止めとけって言って、すぐに帰ってこなかったら軍隊送り込む!って言うので……」
言ってないけどね! でも、ガチで時間すぎても帰らなければ、普通に騎士団送り込んできそうではある。
「なっ……。では、手早く済ませましょう」
「で、あるな。言い争いは時間の無駄である。ここは我らからで構わぬな?」
「えぇ、構いませんよ」
? やけに物分かりがいいな……。さっきは全然ダメだったくせに。違和感しかない。
「では、我らのところへ行くぞ」
敬語が中途半端な黒いシスターに手を引かれ、黒い教会の中に。中は割と普通。ロビーみたいなところがあって、その奥に礼拝堂みたいなのがある。左右にある道は……、
「右が宿舎で、左が食堂だ」
「男女で分けたりされないのですか?」
「あぁ。礼拝堂から行けるところにも宿舎はあるぞ。男女は分けてある。余計なトラブルなど必要あるまい?」
ニヒルな笑みを浮かべる黒いシスター……長いな。黒い人でいいか。なーんでこんなわけ分からん宗教に引っかかってしまったのかね。
地面を見ていると、思いっきり適当に埋め立てましたみたいな部分がある。
「そこが気になるか?そこはかつてあった建物には地下があったらしい。しかし、我らは使わない故、埋め立てたのだ」
「なるほど……」
ふぅん。『身体強化』しないと分かりにくいけど、思いっきり、カーペットをずらしたような跡があるんだが。
「そんなところはどうでもよかろ。礼拝堂へ行くぞ」
本丸であろう中もやっぱり普通。一般にイメージされる教会と色合いと一点以外はそんな大差ない。その一点がデカすぎるんだが。ステンドグラスみたいなところの代わりに、人を虐殺しまくるチヌリトリカの絵が描かれている。
超悪趣味と言わざるを得ないが、ほぼ黒一色の絵なのに、エルモンツィっぽい奴の上にだけにさも「神々しいでしょ、どやぁ」とばかりに白があるのはどうなんだろうな。まぁ、正確に言えば外で見たような汚い白だが。
「お祈りされて行きますか?」
「いえ、さすがに適当な信仰心でお祈りするのは良くないでしょう」
実際のところは、たまに神社で参拝するとき、礼法忘れるくらいには適当だが。形だけでもお祈りなんざしてやるものか。
「あの台座は何なのですか?」
「あれか?あれは勿論、教祖様が立たれるための台であるな!」
「やけに高いですが?」
どう考えても土台になってる部分から考えると、2 mくらいはある。人の姿なんて見えないぞ。あれ。
「立たれるための台であるぞ?神に近いところで祈りを捧げるのだ!」
あ。なるほど。前提が違うのか。あの台の上にカンペとか置いて読むんじゃなくて、アレの上に立つのか。あー。それっぽい台もあるな。上に行くための。
「いい加減、こちらにも来ていただきたいです!」
「チッ」
普通に殴りこみに来るんだ。喧嘩になるから止めとこう見たいな不文律があると思ってたのに。ないんだ。
「仕方あるまいな。では、我も付いてゆく。最後に冊子を渡したいのだ。それくらい構わんだろう?」
「ちっ……。目障りなことはされませんように。さっ、行きましょう」
人を殺せそうな声を出していたのに、一転して、猫が甘えるような声になった。しかも胸を押し付けてくるし……。こいつ、学習能力なしか?
黒い人でさえ「マジかコイツ」みたいな顔してるのに。
どうせこれ、何を言っても無駄なんだろうなぁ……。とはいえ、
「分かっているあなたは別ですので」
「分かっておる。じゃが、分かっておったが、こいつ、狂っておるな」
あなたも人のこと言えないので。他の人から見たらどっちも狂ってるから安心して。口調安定してないし。
ぐいぐいと引っぱられた白の教会。だけど、ロビー部分はそっくり。色合いだけを反転させたらこうなるんだろうなってすら思える。
「へっ、相変わらず悪趣味だこと」
「そうですか?」
「そうだよ。この下の盛り上がりとかどうなってんだよ」
それ、あなたのところにもありましたよー。
「?そんなものありませんよ?」
「けっ」
え。マジか。黒い人は言い訳だと思ったみたいだが、この白い人、ガチで言ってるぞ…。
「右が宿舎で、左が食堂です」
「そんなところまで同じたぁな!」
「ご安心を。こちらは鉄の結束がありますから、宿舎は男女で分けたりしません」
安心できる要素がない。普通だと分けられている方が安心するんだが。……まぁ、こういう宗教施設だと教祖や上の幹部に一般信者(ガチで信じてる人)が逆らえなくてっていうのがありかねんから、そんな関係ないのかもだが。
「そしてこちらが私達の聖堂です!」
めっちゃ自慢してくれているけれど、ここも向こうと色変えただけって印象。白が黒になっただけ。ただ、その色は汚い。
しかもこっちも無駄に教祖が立ちそうなところが高い。
「こちらも上に乗るのですか?」
「えぇ!中央にでっぱりがありますでしょう?お祈りの際はそこから光がぱーっと出まして、綺麗なのですよ」
「まともに祈れよ」
「最初は仕方ありませんでしょう?今は大丈夫ですわ」
下から出るミラーボールみたいな感じか? 構造的には向こうもほぼ同じだったから、黒くてよく見えなかったが、あちらにもこれがあったと考えるほうが自然。
だが、黒い人の言い方的に、あっちでは光は出ないっぽい? …白の教会で白い光が出るなら、黒では黒い光が出てるのかもな。尤も、この推測も両方の教会は同じチヌカがぶっ立てたって前提だが。
「さ!私どものところはこれで終わりです!お土産にこれを持って行ってくださいまし」
「我らのも取ってくる!」
持ってきておけよというのは野暮なツッコミになるんだろうか。
「はぁー。これだからあの死にたがり共は……私達を巻き込まないでいただきたいものです。ねぇ?」
んなこと言われても知らん。あ。そういえば、
「他の信者の皆さんはどこにおられるのです?」
白でも黒でもこの二人しか見なかった。宿舎があるのに…。
「え?あぁ、お務めですわ。あちらでも同様でしょう」
「聖堂にいないのに?「持ってきたぞ」「凡愚な割にお早いこと。では、お渡しいたしましょうか!奥様がお怒りになられても困りますし」
マジかコイツ。覚えてるくせにさっき、色気でごり押そうとして来てたのか。黒い人も本日三度目のドン引き。
思いっきり口を開いてる。顎が外れないか心配になるレベルで。
「こちらが私どものです」
「これが我らのだ。では、入信を考えてくれよな!」
「考えてくださいませ!」
手に押し付けるように渡されると、押し出される感じで後ろ向かされた。帰るつもりだったからいいが……。
礼拝堂に誰もいないのにお務めって何だ。滝行でもしてんのか。
正直、放置していい違和感ではない気がするけど……。このパンフのがやばいな。こんなん渡していいのかってレベルで汚い白と黒がまとわりついてる。絶対これ、読んじゃダメなやつ。
さっさと合流しよう。時限爆弾みたいに爆発されても困る。
「やっほーい。どうだった?」
「またいきなr……」
このパンフレット、明らかにやばい奴だよな。盗聴の魔法とかかかってるとマズいよな……。
「どったの?」
何も言わずに口を塞ぐ。非難がましい目で見られるけど、真剣な目で返すと、納得してくれたのかコクコク頷いてくれた。
筆談……はしようにも紙がない。四季と合流すればいけるけど、ちょっと厳しい。四季なら絶対に、出会い頭に俺の名前を呼ぶ。
折角、心の中で何て読んだらいいんだって思いながらも、名乗らずに済ませたのに、それは避けたい。
? ブルンナが走って行く。なんか閃いたみたい……あ。あぁ! そういえば駐屯所あったな。そこから紙を取ってきてくれるのね。おー。早い。入ったらすぐに出てきた。
紙頂戴! って言って速攻でもらってきたな。多分。
さっと紙を貰って……もらうと書けないな。このやばいパンフをブルンナに渡したくないし。手放すと駄目なパターンかもしれないし。あ。紙を持っててくれるのね。ありがと。
身長差がある上に、他人の手で支えてもらっているから、上下動がひどい。びっくりするくらい書きにくい。でも、書けた!
『この本、明らかにヤバイんだけど、わかる?』
それを見て、余白にすらすらとペンを滑らせるブルンナ。やっぱ、自分の手だと書きやすそうだな。
『わかんない』
ちっ、駄目か。なら、
『かけられている魔法を調査する魔法や道具の類は今、使えるか?』
『出来る。ちょっと待ってね』
そういうとブルンナはどこからか棒を取り出してつんつんとつつく。多分それ、シャイツァーだよな……。
『魔法がかかっているか否かしか分からないけど、かかってた』
うん? かかってた? 何で過去形?
「ブルンナのこれだと、魔法がかかっているかどうかを調べることしかできないんだけど、ちょっとつついたら感触が一気に変わった。だから、かかってた。今はかかってない。どう?感じた違和感はどうなってる?」
あ。ほんとだ。ただのパンフになってる。白と黒の汚いのもないし……うん? ってことは、あの教会が白と黒の汚いのを帯びてるってことは、現在進行形で魔法がかかっている最中ってことでは?
「違和感はなくなったが……、それなら、あの教会自体に魔法がかかっている可能性が高まった」
「あー。そりゃかけてると思うよ。人払いとかね。それよりも、ちょっと弄って魔法を消しちゃった方がマズいかな。やっちゃったけど、魔法を消せるってことだから」
それはそう。だから行動に移される前に叩き潰さないといけない。
「それって証拠になる?」
「魔法がかかったままで、調べてみた時にそれが変ってわかればって感じ。失敗したなぁ。こういう調べられたら霧散するような魔法を固定化する魔法もあるのに!」
「これだけだと?」
「ブルンナと何でもないシュウの主張だけだと薄い」
了解。であるなら、勇者であればいいわけだ。四季と話してから言うかは決めるが……、まぁ、否はないだろう。
さっさと歩いてギルドへ。そして、二人が待っている場所に。
「習君!無事でしたか!」
部屋に入った瞬間、突撃してきて、体をぺたぺたと触ってくる四季。
「えーと、どうしたの?あそこに行った。それ以上に慌てている気がするけど?」
「あっ、ごめんなさい。ですが、習君。あいつらは駄目です。潰しませんと」
至極真面目な目で四季はそう告げた。




