38話 次の行動は?
「というわけでして、お渡しできる情報は以上です。ほんと、ブルンナ様と同じ情報しか渡せておりませんでしたでしょう?」
「でしたね。ですが、裏付けは重要です」
「です。いくらブルンナちゃんと雖も、私達にとっては謎の女の子でしかありませんでしたから」
四季がそう言うと、ブルンナが視界の隅で「そんなことないでしょ!?」って言ってる。そんなことあるんだよ。今の今まで、名乗りはしたけど、身分は明かしてなかったでしょうが。
まぁ、俺らも身分も明かしていない。だから、そこまでするのは良くないかもって考えたのかもしれないけどさ。雰囲気でわかるとはいえ、高貴な身分って確定したらより誘拐されやすくなるしね。
尤も、「またですか……」みたいな顔されている受付嬢さんを見る限り、ただの趣味っぽいけど。
「何か他に御用がおありでしたら承りますが?」
「特に「あ。待ってください。次をどうするか考えたいので、少し場所を貸してください」あー。そうだね。貸していただけますか?」
「ブルンナ様の依頼人に対して否はございませんとも。どうぞご自由にお使いくださいませ。邪魔になりませんよう、退出しておりますが、何かありましたら「ブルンナが行く」のは勘弁してくださいませ。そこに鈴が置いてありますので、それを押してください。私が参ります。それでは、ごゆっくり」
見事な一礼を決めると受付嬢さんは退出。後に俺らだけが残された。
「さて…と。まず、ありがとね、四季。次の行動をちゃんと決めてなかったね」
「いえいえ。行動を決めていませんでしたのは、ここの情報次第という面がありましたから。むしろ決めていないのが正常なのです。でも、これから決めませんと」
「だね。決めよっか。アイリ。大丈夫だろうから座りな」
「…机のそばに置いておいても?」
言いながら武器をそっと指し示す愛理。
「勿論」
目に入るところに置いておかないと不安だもんね。それ。
にしても、鎌もシャイツァーなのに小さく出来ないと不便だ。ちょっと扱いに苦慮しているのを見るとそう思う。
護衛ってわかる用&アークラインでは斧っぽく見えるように偽装してるけど、小さくなると外れちゃうって問題があるとはいえ……ねぇ。
といっても、自分を護衛って定義しているアイリとしては、武器がないと駄目。だから、小さくしてても、俺らが襲われてるなら武器を使おうとするはず。そうなったら、確実にバレて俺らに迷惑がかかるかもしれない。それは望まないだろうからね……。
とか考えてるうちにアイリは俺と四季の対面に座った。ブルンナの横でもあるから、変なことしようとしたら殴る気でいるんだろうな。
「で、どうするのさ?」
「さらっと混じってくるのね、ブルンナ」
「文句ないでしょー?」
「まぁ、ないけどさ」
だから、座ってても何も言ってないわけで……。でも、一言くらい言わせてもらってもいいよね?
「さて、これからどうするかということですが……」
「直接、見に行ってしまう?一回」
「え!?危険だって言ってるよね!?」
うるさっ。ブルンナ、声が大きいよ……。俺でもそう思うってことは、アイリはもっとやばそう……だけど、アイリはあんま表情に出てない。誤魔化すのに長けてるせいだろうなぁ。
「危険は危険だけど…」
「一切の情報なしに、絡んでこられる方が面倒です」
だよね。そっちの方がやばい。襲ってこられるなら返り討ちにすればいいだけ……まぁ、口で言うのは簡単だけど、絶対一筋縄ではいかない。でも、だとしても、
「奴らが本気で俺らを襲いに来るときの方がマズい」
「何でさ」
「「何で」もブルンナちゃん、私達がここで常駐しているのってどこだと思っているのです?」
「え?そんなのうちの宿だよね?問題ないでしょ?」
「だからですよ」
わからないって顔のブルンナ。アイリは分かってそうだね、聞いてみようか。
「アイリは分かる?」
「…宿は防御が厚い。そこに突撃しようとするなら、何らかの算段があるはず……ということで良いよね?」
「うん、そう言うこと」
俺らと全く同じ考え。そもそも、宿があるのは貴族街。大聖堂で貴族街と平民街が繋がっているとはいえ、物理的に壁がある。挙句、宿は大聖堂の隣だから、大聖堂を守る兵力もある。
突撃するなら、それを破る算段があるってこと。であれば、待ちの姿勢でいると思わぬ方法で後れを取りかねない。
「あー。そっか。確かにそうだね」
「所詮は新興宗教とか言わないんだ」
「ブルンナを誰だと思ってるのさ!?」
「「ブルンナという生き物」」
「人間とすら思われてない!?」
いや、人間とは思ってるよ。ただ、行動が謎いからねぇ…。教皇猊下の妹が取る行動じゃないよねって行動をとりまくってるのも原因。
「まぁ、俺らがブルンナをどう思ってるかは置いておいて」
「置いておかないで!?」
「嫌です。そして、あなd「え、本当にそのまま進行するの!?」しますよ」
うん。するよ。だって、ブルンナだもの。
「ブルンナの扱い方が酷すぎる件。そっちが、所詮云々って振って来たくせにー!」
「だってどう考えてるかなんてトレースできるし。「そもそも新興宗教に良いようにやられてるんだから「所詮」じゃないでしょ!」でしょ?」
「それを分かってるなら何で聞いたの!?」
「ブルンナちゃんだからです」
「何でシキが答えるの!?」
四季だからだよ。…いや、この答えはちょっと違うかな? まぁいいや。
「さすがにここで所詮って言いだすようだったら、お姉さんに言っとかないとなって思った」
「結局、まともに返してくれるの!?」
「え、知りたかったんじゃないの?」
「知りたかったけど……。うがー!」
ガシガシと頭を掻きむしるブルンナ。禿げるよ?
「…神出鬼没なせいでちょくちょくペースかき乱されてるから、その復讐だと思う」
「あ。なるほど」
納得するんかい。その通りだけどさ。よく読んだね、アイリ……。
「さて、真面目な話をしますと、そいつらチヌカの可能性があるんですよね…」
「ん?何で?」
「フーライナでチヌカが出たから、k「ふぁっ!?嘘!?」嘘なんて言わないよ?実際にこの目で見たし」
「ふぁー!!!」
うるさっ……。けど、うるさいのよりもブルンナの安否のが気になる。だって、今、思いっきりアイリにぶん投げられて、首筋に鎌が添えられてるから。
偽装しているから、あのままでは切れないだろうけど…、思いっきり叩きつけさえすれば首の骨が粉砕される。
「何で抑えられてるの?」
「…襲おうとしたから」
「いや、してないから。そりゃ、ちょっと詰問するために首を掴もうとは思ったけどー」
ブルンナにされても全然怖くなさそうだなー。ブルンナ小さいし。…といっても、アイリと同じくらいの150 cmはあるけどさ。
「アイリ。離してあげて」
「です。よく考えてみればちゃんと言ってなかったような気がしますね」
「よく考えなくても聞いてないよ!」
そっか。それはごめん。…でも、確かに思い出してみると『チヌカ』ってはっきり言ったことは無かった気がする。
「チヌカっていう神話生物の可能性があるかなって。新興宗教かつ、信仰対象がチヌリトリカとエルモンツィ。そんな人類史に名を残す奴らを信仰する変な奴らが教会建てれたってのも、チヌカだったら不思議はないだろうし」
信者全員人間だったら、教会建てるお金を工面する時点で辛い。しかもアークラインの壁の中とか地価絶対高いところに建てられるようなお金を集めようと思ったら猶更。どっかで絶対、違法行為で足がついて、その時点でお縄にかけられる。
だけど、リブヒッチシカみたいな訳の分かんない魔法を使えるならグッとハードルは下がる。
「なら、その場合、怪しいのは白い方かな?あっちの方が相対的に評価いいし」
「比較したときに好印象を与えるためってことですよね?おそらく正しいでしょうが、」
「両方とも、チヌカの支配下だろうさ」
多分だけどね。
「何でさ。エルモンツィはチヌカのいた時代よりも後のやつだよ?それを冗談でも崇めるなんてことは…」
「するんじゃない?奴らの最終目的はどう考えても2000年前に大暴れして封印されたチヌリトリカ解放。そのためならするだろうさ」
「ですね。信仰するといっても、1番信仰するとは限らない……というある種の詭弁も使えますから」
ほんとに信仰心が篤い人なら、そんな詭弁すら使えないだろうけれど……。なりふり構ってる暇なんてないはずだから。
「なるほど」
「そういうわけで、危なくても一回、見に行っておきたいと思うわけなんだ」
「え?」
「「え?」」
何でそんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてるの?
「あ。あー。そうだった、そうだったね。そういう話の流れがあったね…」
「何で忘れてるのさ」
「忘れるようなことを延々とぶち込んでくるからだよ!」
結構おちょくって脱線したもんね。仕方ないかもしれない。
「ま、というわけで行きたいんだけど。ブルンナはどう思う?俺と四季で行くべきか、アイリも連れて行くべきか、絶対、四季が許してくれないけど一人で行くべきか」
「ブルンナに聞いてくれるなら、ブルンナも一人じゃ行かせないから、安心して」
だよねー。一人だとそのまま拉致られる可能性まであるもんな。だけど、
「仲間がいて、ちょっとここの様子見てくるって言って来ましたって行っても駄目かな?」
それだったら、凶行には及ばないと思うんだけど。だって、ここに行くって言ってるわけだし。
「あー。なるほどです。それなら……」
「え。何でシキはそれで納得するの!?」
「そりゃ、俺と同じように考えてるからだよ」
「だからなんで、シュウが答えるの」
同じ考え方してるだろうから……ってのはさっきも言ったじゃん。
「まぁ、アイリを連れて行かないのは分かるよ?だって、黒髪で長柄の武器を持ってるもん。認知される方がマズいよ。今更だけど、アイリ。それを置いておくことは出来ないの?」
「…ん。無理。これはわたしの存在意義」
俺らはアイリを娘と思って接している。けど、まだアイリとしては俺らの娘というより、近衛ってところに存在意義を置いてるから…ね。護衛として働けないのは認めないさ。
死ぬかもしれないって言葉ではこの子の気持ちを変えられない。とうにアイリはこの世界はクソだって思ってしまってる。かつて自殺していない以上、「何者でもないまま死にたくはない」とか、何かの願いはあると思う。けれど、今のアイリはルキィ様から離れたとはいえ近衛。生まれて初めて他人から求められた近衛として、役目を果たして死んだ。そう思えるならば、死を厭いはしないだろう。
「じゃあ三人は駄目だね。それじゃ、何で二人も駄目なの?」
「二人だとアイリを見てる人がいない」
「え。ブルンナがいるけど?」
見てくれる気はあったのね…。だけど、
「悪いけど、俺か四季じゃないと駄目」
「です」
ブルンナにはアイリの事情──実はアイリの目は黒じゃなくて赤で、武器はシャイツァーの鎌──って喋っていないから。最悪、そこら辺をフォローできるようにしておかないといけない。
ブルンナに事情を話すのは論外。ブルンナという個人を信用できても、教皇猊下の妹としては信用できない。結構、親しみやすい態度を取ってくれているとはいえ、モロに国政に関与する人物。非情な決断をしてこないとも限らない。
「……はぁ。分かりました。非常に、非常に不本意ですが……。習君。最初に行って来てくれますか?白いのを見たら一度帰ってくる。そして、1時間以内に帰ってくる。それだけは約束してください」
やたら強い目で念押ししてくる四季。もちろ……って、うん?
「最初は?」
「えぇ。習君が見たものと、私が見たもので違うかもしれませんから。私も行きます」
「考え方が似通ってるならどっちが行っても変わらない気がする。ブルンナはそう思う」
それを言ったらおしまいだよ。ブルンナ。……はぁ。確かにめっちゃ不本意だ。まだ告白すらしてないけど、好きな人を単身、危ないところに行かせるなんて。
だけど、やっぱり今の情勢で見に行かないという選択肢はない。
「分かったよ。約束する。だけど四季も」
「勿論です。私が言ったことは守りますとも」
「あ。心配しないでも、あいつらが来るまでは女性が一人で歩いても問題ないくらいに治安は良いからね!」
今は駄目なんかい。いやまぁ、明らかにアイツらのせいだろうけど。ほんと、要らないことしかしやがらないな。
「ブルンナ。道案内を頼んでいいか?」
「もち。あ、でも、あまり近くまではいかないよ?」
「元から、そこまで要求するつもりはなかったよ」
だって、ブルンナレベルの人が直接行ったら、俺らも怪しんでる人みたく見えるじゃん。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃいです……あ。この部屋、借りていてもいいんですよね?」
「もっちろん!ブルンナが言っとくよ!」
「あ。それを聞くの忘れてた。ありがと、ブルンナ」
「ありがとうございます」
……何で目を見開くのさ。
「二人が感謝した……だと!?」
「普通にちょくちょく言ってると思うけど」
「です」
割と心外。ブルンナがアレ過ぎて言いそびれてるかもだけど…。少なくとも宿と図書館を案内してくれた時は言ったはず。…多分。
「確かに。まぁいいや。行こ。あ、お馬さんは置いてくよね?」
「そりゃね」
馬車で来てるのに、馬だけ持ってくとか怪しすぎるし、徒歩で良いよ。それなりに広いって言っても、そんなに距離ないし。
ブルンナに連れられて歩くことしばし。目的地近辺に到着。なんかこの辺だけ、雰囲気が悪い。
「ブルンナはここまで!ここ、駐屯所ね!見てくれだけなら、白亜と純黒で綺麗なんだけどねぇ……」
「了解。ありがと」
警戒対象がいるからか、駐屯所も結構、物々しい。見張ってないように見えて、見張ってます! とかそういう感じ。
で、肝心の教会はさらに壁に向かって歩いたところにある。だいたい、50 mくらい? 駐屯所の最上階からなら普通に見えると思う。
真っ白いシスターっぽい人と真っ黒いシスターっぽい人がガンを飛ばしながらも、勧誘しようとしてるのか、入り口のとこに立ってるな。声をかければ相手してもらえ……、うん? あ、これ、ほぼ確定だ。白も黒も両方とも、おそらくチヌカが関わってる。




