34話 情報収集
「ブルンナ。神話関係の本って禁書庫にあったりしないか?」
「うん。あるよ」
「見てもいいか?」
「ガチでやばいのが置いてある封書庫は駄目だけど、禁書庫ならいいよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
……あれぇ? 超あっさり終わった。そう思ってるのは俺だけじゃない。だって、四季もアイリも目を丸くしている。
「もー、なんでそんなに目を丸くしてるのさ、ブルンナが即座に許可を出したことがそんなに意外?」
「意外だからそうなってるんだけど?」
「ですね」
「…ん」
「わーお、容赦ないね」
だって、ブルンナだし。
「けど、そう言われる心当たりはあるよね?」
色々とね。勇者じゃないって言ってるのにやたらと疑ってきたり(まぁ、実際勇者だから合ってるんだけど)、勝手に馬車に乗ってきたり……。
「えー、わっかんないなぁ」
「嘘つけ」「嘘ですね」「…嘘」
俺らの声がぴったり重なった。可愛らしく言っても無駄だよ? 以前、心底うさんくさい丁寧口調を見ちゃってるから、うさん臭さがにじみ出てきてる。
「がーん。どうしたらいいのさ」
「普通にしてればいいと思う」
四季もアイリも同意してくれた。そうだよ、普通にしてればいいんだよ。ブルンナは。
「変に狙って対応しようとすると、急激にどうしようもないうさん臭さが出てくるよ?」
「えぇ……。でも、ブルンナ、公式行事の時は余所行きの口調で喋ってるけど、なんも言われたことないよ?」
「身分高いっぽいからなぁ…」
身分高い人に「違和感しかないですね!」とか言えないだろ。しかも貴族社会。余計にそう言ってくる人は少ないと思う。
「お姉ちゃんとは「似合わないね!」って互いに爆笑しあったことはあるけど……。むむむ…、ま、いっか!お姉ちゃんはズバズバいうから、今皆に言われてるくらいの致命的さだったら指摘してくれてるでしょ!」
ブルンナは一人でしきりに頷く。自己完結させてるなぁ。
「早速、禁書庫に行く?準備があるなら待つよ?」
四季の方を見ると、コクっと頷いた。アイリ……も同じ。
「準備はないから早速行こう」
「りょーかい!」
元気よく言ってとっとこ走って行くブルンナ。さっさとついてこいってことだろう。
「アイリ、悪いけど蕾を見ていてやってくれ」
「…ん。言われなくとも。二人も頑張って」
「「ありがと」」
手を振るアイリに見送られながら、エレベーターで下へ行って、昨日と同じように図書館に。
「ものどもー。禁書庫行くぞー!」
入ってくるなり寄ってきたドローン達に、ブルンナが声をかけると貴族区画と平民区画を遮る壁のところから、頑丈そうなドローンが一機飛んできた。
「よし!来たね!禁書庫に行きたいって言ってるのはこの二人。あ、でも、もう一人増えるかも。アイリって言うんだけど、その子にも許可出してあげて」
ドローンはブルンナの声に反応するように、体についているライトをピカピカと明滅させる。
「これでよし。二人とも、アイリちゃんも入れるようにしといたけど、初回は二人+アイリちゃんで来てね。以降は別にどっちでもいいけど」
「それで判別できるの?」
「うん。出来るよ」
勇者がいて、魔法があるからか? 発展するところは発展してるなぁ……。
「で、肝心の禁書庫の位置なんだけど、教会の方からしか入れないんだよね」
「あれ、この機械が待ってるところじゃないの?」
「キンショコマモルクンね」
ネーミングセンスェ……。明らかに「禁書庫守る君」だよな? 超安直なのはもう、ホントルクンもあったから諦めよう。だとしても、何で禁書庫まで付けてしまったのか。マモルクンでよかったじゃん……。
「ホントルクンと何が違うの?」
「こっちは禁書庫の門番。ホントルクンみたいな動きはしないよ」
「門番なのに門の前にいないのですか?」
四季が思ったこと聞いてくれた。門番だったら禁書庫の前にいるべきでは?
「禁書庫の入り口を出現させる装置がそこにあるの。入り口はそこに出てこないんだけど」
「「あぁ、なるほど」」
それなら納得できる。その装置を作動させなきゃ現れないなら、そこを護っておけばいい。出てきた入り口に入れる人は限られた人だけ。そんな感じだろう。なかったらセキュリティ死んでるし。
「というわけで、開けてくるのだ」
ラジャーとばかりに腕を顔をの前に動かした後、飛んでいく門番ドローン。動きがめコミカル。あれを作った勇者はどこに力を入れてるんだろうか。
あ、戻ってきた。音も何もしてなかったのに。ちゃんとなってるのかな?
「よし。じゃあ聖堂の方に行ってだね……」
宿から一番ところ目指して移動。聖堂に繋がる扉の付近、視線が直接通らないようにか作られている仕切りの横を通って聖堂…には行かない。仕切りの裏で止まった。
「じゃあ、その仕切りのところに立って。そんで、キンショコマモルクンの手を掴んであげて。そんで…あ。ごめん。シキ。ちょっと手を取らして」
「構いませんが…」
差し出された手をブルンナがそっと取ると、床が揺れ、視線が徐々に下に下がっていく。え。待って。まさかこれ……、
「「エレベーター?」」
「おー。さすがだね。そうだよ。エレベーターだよ。これはキンショコマモルクンに禁書庫に行きたい許可のある人を伝えて、その人たちがキンショコマモルクンと手を繋いでる時だけ動くんだ」
いちいちキンショコマモルクンって正式名称で言うのね。勇者様が作ったものを略すなんてとんでもない!? とかそういう感じかな?
「関係ない人が近くにいた場合、どうするのです?」
「魔法で降りれないだけ。変なことしそうな人だったら、ホントルクンに捕まって投獄される」
えぇ……。てか、ホントルクンそんなことまで出来るの? あれ、本を掴むことしか出来なさそうだけど。
「処刑じゃないだけ優しいと思う。投獄先は聖堂の地下牢だね。これと似たような感じで労まで行けるの」
一瞬引いたせいか、ブルンナが解説してくれる。確かに、この世界の文明レベルだと、即死刑にしないだけ、温情なのか。
「はい、到着」
禁書庫の中はほぼ想像通り。想像と違うのは机が目につくところに置いてあるくらい。それ以外は「日の当たらない/当てられない書物の保管庫」という感じ。ほとんど隙間なく本が押し込められているせいか、地下にあるせいか、少し息苦しい。
「えっと、禁書庫では上とは違って、本は自分で取りに行って。本は勇者様の世界で使われてる分類法に従って分けられてる。けど、場所が分からないなら、ホンノイチワカルクンがいるから、その子に聞いて」
これ言うの三回目だけど、言わせて欲しい。ネーミングセンス! 何で全部を名前にしてしまうのか。ワカルクンで良いじゃん。
「わかるだけで取ってはくれないのですね?」
「仕様でね?えっと、見せた方が早いね。折角だから、神話を。神話神話……」
言いながら全然違うところを見ているのはワザとなのだろうか。思いっきり手前に書いてある分類表記だと、神話は左になってる。ブルンナが探してるのは右だ。
「えーと、ブルンナちゃん?神話はここにあるみたいですよ?」
「え?あ、あー。ごめんごめん、やらかしちゃった!」
てへぺろと舌を出すブルンナ。可愛らしいけど、やっぱ胡散臭い。俺らがボタンを押すことを狙った? いやでも、違うかな? ここに来て、ボタンのあるものいっぱい見てるから「今までの流れ的に」でごり押せるから…。
「というわけで、欲しい本がある棚が、他の棚に潰されていたらこのボタンを押して。人が棚の間に居たら動かないから注意ね。万一、動いてきたら棚の下を蹴って。それで止まるから。まぁ、押しつぶされる前に止まるけど」
了解。これも勇者が作ったやつか。エレベーター以外の勇者由来の施設、ここに偏ってるなぁ…。聖堂にはもっと勇者の遺産があるのか、当時の勇者か王が情報を重視したか。どっちだろう?
考えていたらボタンがおされてウィーンと棚が動いて道が出来る。そして、見やすいように明かりがともる。
「そんで、欲しい本があったら、勝手に抜き取っていいよ。読むときは机で読むと楽。試しに机の上に持ってくね?あ、驚かないでね?」
悪戯っぽく笑うと本を抜き取った。特に驚くようなことは…あ。なんか本の後ろについてる?
「そう!まぁ、触ろうと思うわなかったら触れないけどね」
試せとばかりに本を俺らの方に持ってくるブルンナ。…うん、確かに触れないな。眼には青い鎖みたいなのが見えてるのに。不思議だけど、魔法だしなぁ…。
「で、これを机の上に置く。魔力を流してやる」
鎖にひかれて本が戻っていくね。当然、本が引きずられているわけじゃない。ふわふわ浮いてる。
「そんで、関係ないとこのボタンを押す」
え? そんなのしたら戻す棚がふさがる……えぇ。本棚や本を貫通していった…。
「これで戻る。言わずもがな、外に持ち出そうとしたら勝手に戻るし、故意だったらホントルクンに捕まる!飲食は専用スペースがあるから、そこで。ホントルクンに頼めば取ってきてくれるし、そこに本は入れないようになってるよ。トイレは上に戻ってね」
「ホントルクンに頼んだら上の本を持ってきてくれたりしないの?」
「するよー」
了解。なら、基本的にここでいいか。
「どうあがいてもヤバイ書物のある封書庫はここの奥にあるけど、そもそも入れないようになってるから安心して。そんで、戻りたいとき、トイレに行きたいときはキンショコマモルクンに声をかけてるか、ここに階段があるからこっち使って」
「じゃあ、何で入る時、階段じゃないの?」
階段あるならそっちでよくない?
「管理が面倒だかららしいよ。この階段の出口は向こうからは見えないし、入ることも出来ない。そんな感じだからね。あ。そうだ。正直いらないだろうけど、念のためこのバッチを渡しとくね」
ブルンナから渡されたのは白を基調にした高級感のあるバッチ。中央に白い人と黒い人みたいなのがいる。
「それに描いてるのは黒いラーヴェ神と白いシュファラト神ね!忘れないうちに魔力を流しといて。…うぃ。これで無くしても大丈夫!一番上のやつだから壊さないでね!」
「なんてものを渡してるの?」
「阿保がいたらめんどくさいでしょ。それの対策。図書館にいる時はつけといて。でも、外に行くときは外してね」
「「わかってる」」
これを付けてる=国賓待遇とかそういうのだろう? そんなの新興宗教勢力からしたら敵でしかない。情報収集に不都合だ。
「うぃ。じゃ、言わなきゃいけないのは…ないね!じゃあさらば!」
ブルンナは一瞬で消えた。いつものことだけど謎すぎる。
「じゃあ、本を読んでいこっか」
「ですね。では、協力して読んでいきましょう」
さて、今日は一日でどれだけ読めるかな。
______
「…昼食の時以外、夜ご飯を食べる今まで戻ってこなかったけど、進展はあった?」
「帰還魔法はやっぱりありそうってのと、」
「その場所をピックアップ出来た…ことですかね」
今日のところはそれくらい。
「…判断した根拠は?」
「ラーヴェ神が愛の神ってのと……」
「…のと?」
……あれ? もしかしてこれだけ?
「…二人とも?」
どうしたの? と言わんばかりの目でこちらを見つめてくるアイリ。
「そんくらいしかないんだよね」
「で、ですが、ありそうなところの候補は何点かありましたよ。人間領域のモノは西光寺君たちが探してくれるでしょうから、それはパスしますと……、あぁ、メモがあるのでそれを見せますね」
だね。そっちの方が分かりやすいと思う。
一つがエルフ領域にある『世界樹』。これは明確に神の手が入っていることが分かってる。
一つが魔人領域にある『シャルシャ大渓谷』。情報が全然なかったけど、こっちも神の手が入っているらしい。
残る二つは獣人領域。一つが『ニッズュン』。人間領域と魔人領域を隔てるファヴェラ大河川の水が溜まってできた湖。その湖底に白と黒の街が沈んでいるらしい。
もう一つが『大穴』。名前はこれ以上なかったが、こっちも大渓谷と同じく、神の手が入っているらしい。
「…なるほど。これらには行かなきゃ駄目だね。他……はないよね」
「ですね」
「なかったな」
「…やっぱり」
人間領域と他の領域は交流が断たれている。そのせいでかなり情報が薄い。けど、そんな中で伝わってるこれらの場所は、かなり期待できるだろう。
「人間領域はあるし、ピックアップもしてあるけど」
「南なのですよねぇ…」
その名も聖域。それっぽいけど、めっちゃそれっぽいからこそ、誰かが行ってくれると思う。
「…なるほど。他には?」
「他…」
あるにはあるけど…ね。
「…わたし絡み?だとしたら何回も言うけど気にしなくていい。共有してくれないと新興宗教にどう対応していいかわからない」
四季と顔を見合わせていたら、察された上に気を遣われてしまった。…いい加減、俺も四季もこの辺りは割り切らないと駄目かもしれない。難しいが。
「正解。エルモンツィの話だ。だけど、特に情報はない」
「それこそ私もアイリちゃんも知っている情報でしかありません。あいつは大量殺人者でしかありません。それこそ、このアークラインで新興とは言え崇められる理由が見当たらないのです」
それが最大の問題。よくある「信じることによって大災害からは自分は逃れられる」なんてものでもないと思う。だって、信じる対象はただの殺人者だから。
災害を崇めて、鎮めようという信仰は日本にもある。というか八岐大蛇は水害の象徴という説もあった。
だけど、その場合、ここでやる意味が分からない。挙句、問題になっているからもっとよく分からない。少なくともエルモンツィの犠牲者が多かったのは、資料を見る限りバシェルとその南…エルツェルだったかな? だ。討たれた場所は分からないが、鎮めるためならそちらでやるべきだ。
「…確かに分からないね。チヌリトリカは?」
「それも変わらないね。2000年前に侵攻してきて討伐された。それだけだ。だからこっちの神も謎」
問題を起こす意味が分からないし、崇めるなら別のところでやる方がいい。そんなもの。だから。
「チヌリトリカを信奉してもおかしくない人物……チヌカが関わっているのかもしれない」そう言おうと思ったけれど、やめた。言ってしまえば、実現してしまいそうだし、四季もアイリもその可能性にたどり着いているから。…まぁ、フーライナでチヌカを見たしな。
「…明日は?」
「少し実際に見てみようと思ってる」
「ブルンナちゃんを信じていないわけじゃないですが、一方の意見を聞くだけというのは危ういですし」
まぁ、確実に黒だから、見た結果白になった! ってのはあり得ないと思うけど。ブルンナ達が気づいていないものがあるかもしれない。
「…ん。ならわたしもついていく」
ありがと。となると、明日、蕾だけお留守番か。
…さて、他に共有することもないし、昨日と同じく、魔法を書いてやることやったら寝ますかね。




