33話 続図書館
ブルンナの声に応えて出てきた子……推定ドローンを見てみる。構造は単純。本体っぽい箱の周りに四基の翼が付いている、地球で見慣れた形だ。
地球でもドローンは新しめの技術だったはずなのだけど。バシェルの図書館といい、こっちと地球の時間の流れは全然違うっぽい。
「この子が本を取ってきてくれるの!」
どうやって……って、本体の下部分から腕っぽいのが二本生えてる。これでうまいこと取ってきてくれるんだろう。あぁ、だから本を5階くらいまでの高さまで保管してもいいのね。この子らが取ってきてくれるから。
「「よろしくね」」
声をかけると嬉しそうにホバリングしながら左右に体を揺らすドローン。結構、愛嬌があって可愛らしい。
「本の管理とかはどうしてるの?」
「ずっと取り出されてない本とかありますと、場所を取って邪魔ですし、この子達ですと、掃除とかしにくそうなのですけれど」
「その辺はだいじょぶ。ここにある本は全て情報としてまとめられてるの」
またドヤ顔。本を取るのは基本、このドローンになるからこの子らが取った本の情報を集積する……とかいう感じだろうか。面倒だな。多少、見る本に気を付けておかないと、また勇者だって思われるかもしれない。
「掃除はね、それ用の子がいるの。専用の場所があるから見えないけど……」
? 専用の場所があるから見えない?
「本棚を直接、掃除しないの?」
「ほこりが溜まりそうなのですけど」
というか、絶対溜まる。それにこの構造だと、湿気も溜まりそう。本が駄目になる一方では?
「あぁ、汚れとか湿気とかから守るための障壁が本棚に張られてるから大丈夫。この障壁を通過出来るのはこのホントルクンだけなんだよ」
ホント……あぁ。ドローンの名前か。壊滅的にネーミングセンスが死んでる。
「勇者様が作って、勇者様が付けられた由緒正しき名前だよ」
微妙な顔してたからか、そんな補足をくれた。過去の勇者さん、もうちょいまともな名前を付けるか、いっそドローンで通してあげて……あ、危ない。当たり前のように勇者が作ったって思ってたけど、勇者じゃない可能性もないこともなかったんだよな。口にしてなくてよかった。
「本の掃除はこのホントルクンが掃除の必要になった本を適宜、専用の場所に持って行って、ホンイジルンが綺麗にするの」
名前ェ……。このイジってたぶん維持だよな? 弄るの弄じゃないよな? 一応、どっちでも通じそうではあるけれど!
「適宜ってことは、本に飲み物をこぼした時とか?」
「うん。ホントルクンが動くよ」
ほぼ自動で維持管理されてるのね。勇者の遺産活躍しすぎでしょ……。
「ここを使うときの決まりはありますか?」
「だいたいは貼ってるから見てもらった方が早いよ。ほら、机の上見て」
図書館利用のルールって紙が思いっきり置いてあるね。日本の図書館みたい。
紙の内容の遠回しな部分を取っ払えば、騒ぐな。走るな。暴れるな。本を取る時はホントルクンに頼め。本は大事に扱え。壁向こうは一般エリア。面倒を避けるために極力行くな。かな。
「他には何かある?」
「んー。特にな……あ、ルールはないけど、施設の説明がいるね。えっと、トイレはあっち。で、おやつとかお茶の類はあそこね」
「飲食禁止じゃないの?」
こぼしたら速攻で本、汚れるぞ? 場合によっては駄目になる。
「基本、複写してるからね。一冊くらいなら平気。後、飲食可はこっちの領域だけだもん。貴族だったら汚しても賠償できるでしょ?」
確かに。コンセプト的には、貴族にはそこそこ快適に本を読む空間を提供する。ただし、しくじったら弁償しろよ。一般には、ちょっと決まりで縛るけど、賠償しなくて済むようにだから我慢してね! と言う感じだろうか。
「あぁ、あそこのお茶とかおやつは基本、無料だよ。さすがに常識的な範囲で飲み食いする限り。だけど」
「だろうね」
全部持ってくとかそんな常識はずれなことしでかしたら、お金を請求されても文句は言えない。
「で、おやつ食べた後は手を洗って、ちゃんと乾燥させてから本を読んでね。まぁ、その辺の注意書きはお菓子とか置いてるところにあるけども」
絶対に目に入るようにしてるから、「知らなかった!」は通用しないと。
「説明は終わり。座る場所は自由で良いよ。決めろって言うなら宿のそばの机を押す」
「「何故?」」
「あんまり人は入ってこないだろうけど、人が入ってきた時の導線の邪魔にならないから。トイレとお茶とかで立ち歩くときは別だけど」
じゃあ、そこでいいかな。早速、椅子を引いて座る。
……うん、ふかふかだ。長時間座って本を読んでいても疲労がたまりにくいような作りになってる。
「あれ?横に並んで座らないの?」
「横に並ぶと本を積む場所が減るでしょ?」
「この子たちがどの本を読んだか記憶してくれそうですが、積んでおいた方が私も習君もどの本を読んだか瞬時に把握できるので」
そっちの方が得。普通、本を積んだままにしておくのは迷惑極まりないからしないけど、今は人が少ないらしいし、ホントルクン……もといドローンが動いてくれるから、許されるはず。
「ところでどの本を読むの?」
「とりあえず神話かな」
「ですね」
アイリに聞いたけど、アイリはその経歴からかめっちゃ雑だったし、詳しく知っておきたい。
「神話だったらブルンナが語れるよ?」
「どれくらい?」
「二人が望む分を完ぺきに」
そういって目を閉じるブルンナ。……? あ、あぁ、ウインクか。下手くそ過ぎて全然わからなかったわ。にしても、完ぺき……ねぇ。すっごい嘘っぽいけど、ワンチャン本当かもしれない。微妙なラインを突いてきたなぁ。
「ごめん、見栄張った。嘘。二人が期待してるっぽいここの本を網羅してる!とかふざけたレベルじゃ喋れない」
黙っていたからか、申し訳なさそうに言うブルンナ。だよね。薄々そんな気はしてた。最初から言うなという言葉はぐっと呑み込んどこう。
「アークライン教の教えとかラーヴェ神にまつわる神話のアークライン神聖国の公式見解的なのは聞いても大丈夫?」
「もっちろん。というか、それを喋れないとブルンナの立つ瀬がない。で、えーと、神話からでいい?」
うん。お願いする。
「了解。と言っても、たぶん聞きたいだろう神の記述はあんまりないんだよね。2000年前、初代の教皇が残したのは、『チヌリトリカとラーヴェ、シュファラト神の激突は、神界のみならず、こちらにも影響を及ぼした。人間はシャイツァーという神の力の一端を獲得し、チヌリトリカ配下、チヌカと激突した。激化する戦闘に伴い、大陸中の国家が父母であるウシャール=カーツェ=サザンと、シャリア=コーエルミア=サザン率いる夫妻が、アークライン統一王国を建国、それとともに姓をラーヴェへと改めた』あ、質問は待ってね。後で出るから」
うん、わかってる。アークライン統一国と今のこの国、アークライン神聖国の関りは? の答えは後で出てくるって。
「『戦いは激化したが最終的に、二神はチヌリトリカを打倒した。しかし、最後のあがきによって、人々の心に不和が生まれ、統一王国は崩壊した。父母は南に逃げたが力付き、ラーヴェは二人の愛を認め、世界樹を作り出した。私は家族で唯一生き延び、崩れた国の一部をまとめ上げ、アークライン神聖国として生まれ変わらせた。私がそれを完了した頃には子供を望めなかったため、最も信頼するものに次代とこの国を託した』……ね?神様のことあんまりないでしょ?」
「「だね」」
「あ、一応、補足しとくと、この戦いってのが俗にいう神話決戦。サザン夫妻とラーヴェ夫妻は同じだけど、ラーヴェのが有名。まぁ、ギルドとか通貨の発行とか色々やったのは統一王国の頃だし」
!? 補足されてるのは勇者ってバレた……わけではなさそう。単純に、この国の人じゃなければ間違えやすいから補足しておいてあげよう。みたいな雰囲気を感じる。
「何でアークライン神聖国にしたのかは知っていますか?」
「それはアークライン教の公式見解とほぼ同じ。公式見解が、シャイツァーは神の力の一翼。だから、神様に感謝しよう!っての」
中身薄い! 俺を含めた大多数の日本人にいそうな「神様だから敬っとこう」ばりに薄い! キリスト教とかイスラム教みたいなガッチガチの聖典あるのかと思ってたのに。……いや、聖典の中身を超要約してくれたのかもしれない。
「あ、これ、聖典の要約とかじゃないからね。少なくとも初代教皇はこれしか残してないよ。他は後でペタペタ足した」
足していいのか。……足したのが残ってるってことはいいのか。きっと、神聖国にする上で足りない宗教的儀礼とかなんだかんだを付け加えたんだろう。
「あの、神聖国にした意味はどこにあるのです?今の話からですと、わからないのですが」
「それは簡単。既に強い国が出来てた。から、それに対抗するよりは、再統一を目指す野心を捨てて、神様に感謝するだけの権威ある国にした方が生き残れる。終わり。」
めっちゃドライ。でも、確かに無理な時は無理って諦めちゃえば、生き延びやすいといえば生き延びやすい。
ちょうど、日本の戦国期の朝廷と足利家を見ればわかりやすそう。朝廷は力ないの自覚してたから、下手に反抗せずに権威のお墨付きを武力持ちにあげて生き延びた。けど、足利は力ないくせに反抗して潰された。まぁ、朝廷は朝廷自身が権威あるけど、足利家の権威は朝廷に保証されたモノって違いはあるけど。
「ここでの宗教的権威って、統一王国を打ち立てて、ラーヴェ神にもその愛を認められた夫妻の娘だから」
「で、いいのですよね?」
「うん。そんな人が神様に感謝しようって言ってたから、瞬く間に世界に広まりましたとさ。めでたしめでたし」
うん、めでたしめでたし……じゃないでしょ。
「初代教皇と今の教皇様の間に、血の繋がりないのによく攻められませんでしたね?」
「在位期間とかはよくわからないけど、国作ってから死ぬまでの5~60年間、国政に関わってたみたいだし、頑張ったんじゃない?」
寿命長いな!? 昔の人ってことを考えるとびっくりするくらい長生き。……いや、2000年前だと150才くらいまで生きたとかいう記述のある人がいたな。それを考えるとおかしくない……のか? わからん。
「他に何かある?」
「今のところは」
「ないですね」
「んにゃ。じゃあ、ブルンナは引っ込むね。眠たくなったら勝手に部屋に帰ってくれていいよ。あ、変な人が来たらぶん殴ってくれていいよ」
超野蛮! あ。突っ込む前にまたブルンナが消えてしまった。
「えっと……」
「気を取り直して本を読みましょう」
「だね」
早速、ドローンに頼んで本を取ってきてもらおう。ブルンナが嘘をついているとはまるで思わないが、神話の本を。
公式なもの……というか初代教皇から見た神話を聞いたから、他の面からも見てみたいし。
「あ、四季」
「はい、どうぞ」
頼む前に紙をくれた。
「ありがと。俺もペンを分けてあげられればいいのだけど…」
「気にしないでください。メモ用に筆記用具は持ってきてありますから。最悪、借りれるでしょう」
それもそうだね。じゃあ、読みますか。
ドローンが持ってきてくれた本を『身体強化』で目を強化。見開き2ページをまとめて目に入れたらすぐにめくる。それを繰り返しながら気になるところはメモを取っていく。そうやってすぐに読破して、次へ。
同じことをして読破。さらに次。そのまた次……、とかやってたらトイレに行きたくなってきた。これを読み終えてから……あ、鐘の音。
夜遅いからか音が遠慮がちな気がする。この鐘の音も魔道具なのだろうか。にしても、ゴーンの回数が多いな。多分、9の鐘。22時だ。割と良い時間。途中の本をさっと読み終えて、
「四季」
「はい、何でしょう?」
集中してるから駄目かと思ったけど、反応してくれた。有難い。
「もう9の鐘みたいだから、戻る?」
「ですね。寝る前にちょっとまとめて共有したいですし。切り上げましょう。これの返却、よろしくお願いしますね」
ドローンに返却をお願いして、メモを持って部屋に戻る。やることやったら四季と一緒に情報整理。
「…結局、何冊読んだの?」
「俺は10冊」
「私は13冊くらいですね」
四季に負けた。ま、四季の方が読むの得意そうだし、仕方ないよね。二人の合計読破巻数は二時間くらいしかなかったこととか、本の厚さとかを考えると上々でしょ。
「…よくそれだけ読めたね」
「最初にブルンナから話を聞いてたしね」
重複部分があれば飛ばせる。それで大幅に時間が削減できる。とはいえ、今日、ブルンナの話以外に分かったことは、ラーヴェ神が勇者召喚陣を作ったということくらい。
これだけだけど、これはいい情報。愛の神が用意したものなら、理不尽なお願いされた時の対策として、帰還魔法は用意してくれてそう。……アークライン以外どうでもいい! というならまぁ、アレだけど。多分大丈夫。
「…明日はどうするの?」
「明日も一応、本を読むかな」
「まだ神話関連を全部あたれてませんからね……」
帰還魔法陣をラーヴェ神が作っている可能性がある以上、帰還魔法の話も神話に出てきている可能性が高い。
「…勇者に読まれるとマズいって禁書庫にある可能性は?」
「否定できないな」
「ですね……」
というか、その可能性の方が高そう。開架書庫に置いておかない気がする。禁書でも見せてって言ったら許可は貰えそう。だけど、新興宗教潰してくれたらいいよ! とかになりそう。
「一応、聞くだけ聞いてみようか」
「推測通りの展開になりそうですが……、やってみますか。後、街に出る前に、問題の新興宗教についても知っておきたいので、その関連も調べましょう」
だね。ということは、
「明日やらなきゃ駄目なのは、神話調べと、禁書閲覧許可を取れるかの確認、そして、新興宗教の情報を得る。でいいよね?」
「はい。異論はないです」
「…ん。わたしは明日も蕾とここで待ってる」
了解。
「行きたいなら言ってね?」
「…わかってる」
ならよし。じゃあ……、
「いい時間だし、寝よっか」
俺の声に二人の返事が返ってくる。じゃ、寝ますか。三人でベッドに倒れこんで、おやすみなさい。




