31話 宿
一応、みんな馬車から降りて、暗いところを潜り抜けると、何事もなく街の中へ。
周囲の建物は美しい白亜の石造りで、どことなく荘厳さが漂っている……のはいいのだけれど。明らかにここ、外部から人を招いていい場所じゃないと思う。街は計画的に作られているっぽいから、スラムがありそうな雰囲気は一切ない。だけど、何で壁の隅?
左にも後ろにも壁がある。モロに壁に日光が遮られていて暗い。のに、スペースがもったいないからか、建物が日中ですら影の中にありそうなくらい壁に近いところまで建てられてる。
建物は雰囲気的に倉庫っぽいけど……。圧迫感がすごい。
そして、ブルンナどこ行った。あの子ならこんな風に色々考えてる俺らを見て、「ふっふーん!どうだ!すごいでしょ、ブルンナ達の街はー!」とか言ってきそうなものなのに、また姿が見えない。
宿に連れてってあげる! とか言ってたはずなんだけど。
「習君。聞こえますか?」
「あぁ、聞こえてる」
きっと四季が言いたいのはガシャンガシャンと言う音のことだろう。たぶん騎士さんが走っているのだろう。なんで走っているのだろう?
足音は一つ。何かを追いかけている風ではないし、騎士隊が運動しているというわけでもなさそう。
「巡回?」
「…なら普通は走らない」
だよね。急用があれば走るだろうけど、巡回って歩いてやるイメージがある。ひょっとするとブルンナが開けた道を使ったことが知らされたから、案内に来てくれようとしてる……とかか? ありそうだけど、口ぶり的にブルンナ自身が案内してくれるっぽかったから、違う気がする。
「おっと、皆様、こんにちは」
クイッと角から出てくるなりそんなことを宣う、割とがっちりした若い男性の騎士さん。一瞬、驚いた顔をされたから、俺らがここにいることは知らなさそうね。
「「こんにちは」」
「…ん」
一応、頭を下げながら挨拶。アイリは俺らの影から頭を下げるだけ。ブルンナの前ではもはや無意味だけど、人見知りの演技を継続するらしい。
「えっと、皆様、何故こんなところに?」
「知り合いが迷子になったので探してます」
本人がいれば「違うよ!?」って言われそうだけど、どっかにいったから迷子で良いだろう。
「そうなのですか!奇遇ですね、私も迷子を捜しているのです」
「…白い鎧を着てるから、アークライン神聖国の騎士団……『神聖騎士団』。軍事力兼治安維持力」
あっちでいう軍隊と警察が一緒になったようなものね。ありがと、アイリ。こっそり教えてくれて。
「騎士団が迷子探しをするのですか?」
「普通はしないのですが……。まぁ、色々あるということで」
普通はしない。って時点でほぼ答え。間違いなくやんごとなきお方。そして、俺らの迷子もやんごとなき人(推定)。
ぼかしているからその正体を尋ねようとは思わないが、たぶん探している人は同じ人。何やってんだ、ブルンナェ……。
「探している方はどんなお姿ですか?私達の探すついでに探しますよ?」
「む、むむー」
悩むのね。そこは断るものだと思ってた。俺らが怪しい人の可能性もあるのに……。
「…基本、街に入れるなら悪い人じゃない」
だったら新興宗教で騒動になりかけたりしないと思うんだけど。
「…確かに」
「よし、内緒ですよ?」
話すんかい。アイリが確かにって言ってるのに話すんかい。外からはやたら厳重だけど、中はがっばがばなの? ……日本みたいだぁ。
「背丈が150 cmくらいで」
ブルンナも150 cmくらいだな。
「金髪碧眼で、」
ブルンナもだ。
「可愛らしい容姿をした方です」
抽象的要素は参考になるのだろうか……。まぁ、なるか。ある程度、共通のイメージがあれば、怖そうな人って言われて、可愛らしい人を思い浮かべたりしないから。
うん、で、やっぱり思った通り。探し人はもしかしなくても、ブルンナだ。まさか、姿を消したのはこの人がいそうだったから?
「あの、一応、馬車の中確認させていただいても?」
「構いませんが……」
「そういうのって、探し人の情報を伝える前にすべきでは?」
俺らの馬車の中にいないか見たいのなら。誘拐してないからいいけれど、もし、俺らがブルンナを誘拐していたなら、この人ぶっ殺して即座に逃げる可能性があるんだから。
なんかハッとしてるし……。大丈夫なのだろうか、この国。
バツが悪いのかそそくさと後ろに回って、馬車の中へ頭をイン。数秒待機して、
「わかってましたけど、いませんね!」
でしょうね。俺らも探してるんですから。
「では、これに……あ。あの、お父様、お母様」
一気に深刻そうな顔になった? どうし……って、ひょっとして、視線、アイリの方に向いてる……?
「最近、小さな子……特に、黒髪の子が誘拐や誘拐未遂にあっていますので、ご注意くださいませ。それでは、」
ペコっと一礼するとまたガシャンガシャンと音を立てながら走っていった。
「…若干、アレな人だったけど、お父さんとお母さんの地雷を回避していったね……」
地雷て。いや、確かに、「その子、黒髪ですよね?」とかから始まったら、「罵倒でもする気か!?」って身構えただろうけどさ。
今みたいなのなら、その身構えもないよね。
「…その身構えが、致命傷になりかねない人が多い」
とかいわれても、よくわかんないからなぁ……。
「ぷはー」
声のした方を見ると、なんかブルンナが馬車の中から這い出てきている。
「ブルンナ。さっきの人、探しているみたいだけどいいの?」
「うん?いいのいいの。今のブルンナはちゃんと仕事でここにいるの!だから誰に憚る必要もないの!」
必要もないなら隠れる必要もないんじゃない?
「みんなして、隠れる必要ないんじゃない?って目で見ないでよ!説明、面倒くさいじゃん!「またこいつ、嘘ついてる……」って思われたくないもん!」
「思われるくらい逃げだすなよ……」
「ですねぇ……」
「…違いない」
心の中で思うだけでも良かったけど、敢えて口に出してやる。
「む、むむー、うがー!」
がしがしがしっと頭を掻くブルンナ。賢そうに見えても、やっぱりまだ子供ということなんだろうか。前のお澄ましした顔と比べれば、だいぶ、年相応に見え……違う。お澄ましした顔が変なだけだわ。俺らと接触したときのがきっと素。
「てか、何で馬車の中なの?」
さっき俺らに怒られたはずだが。
「さっき許されたから、いいと思った!あと、離れすぎずに隠れるには都合がよかった!」
眩しいばかりの笑顔。とりあえず、
「いったー!」
四季と二人して仲良くデコピンしとこう。若干、気に入らないけれど、さっき許したのは事実だし、聞かれてたらたぶんOKだしたし。
なんかのたうち回ってる。痛そう。だけど、魔法を使ってるのか、服に汚れは一切ついてない。
「え、待って。ただのデコピンなのに割と痛いんだけど!?」
知らんがな。それより、
「どうやって隠れてたんです?」
「え!?無視!?」
するよ。とはいえ、大体想像つくけれど。魔法を使って、最初は馬車の中に。騎士さんが後ろに回った時に前から這い出てきて、いい感じに視界に入らない場所をキープしていたんだろう。
魔法が使えるのにいちいち、姿を隠す理由が謎だけど。あぁ、魔力の消耗を抑えたいのかな?
「よっし、ふっかぁつ!」
とか言いながらジャンプしてくるくる回りながら馬車の屋根の上に。なんか微妙にウザい。撃墜してやればよかったかな。
「ひどっ!?ま、まぁ、気を取り直して宿に行くよー!あ、馬車の中に入っても?」
今回はちゃんと取るのな。
「いいよ、行こう」
「ですね」
再度、馬車に乗って進む。……なんかやたら時間をかけた気がする。
左手に見える壁に沿って、街を進む。ある程度壁から離れると、白い建物が太陽光を反射してますます輝いて見える。ともすれば眩しすぎると思えてしまうだろうが、その辺り、ちゃんと配慮されているらしく、眩しくはない。
魔法でなんとかしてるか、黒く見えないように頑張りつつ程度の光を吸収させているんだろう。よくやる。
俺らの内心を読んだのか微妙に得意げなブルンナの顔が地味にウザい。
「!?え、えっとね、人、あんまりいないよね?」
話そらすのヘタクソなの!? ま、まぁ、確かにあんまりいないけど……。貴族街なら普通では?
「いないよね!」
必死か! そこまでするなら得意げな顔をしなけりゃよかったのに。しゃあない、のってあげよう。
「いないね」
「何故なのです?」
「今の時間、基本的に貴族は働いているから、大聖堂にいるからだよ!」
なるほど。あぁ、だから通る人はめっちゃ高そう! って服を着てる人があまりいないわけだ。
「てことは通ってる人らは使用人さん達?」
「か、御用商人だねー。あ、御用商人は、貴族専属の商人って意味ね」
そんなニュアンスなのは理解してる。
「貴族の家に訪問して、必要なものを売るの。使用人たちは休暇貰って、家に帰る人達だね」
「住み込みじゃないのですか?」
「その辺はマチマチ。でも、最長でも1カ月に2日くらいはまとめて休みとって、家に帰るよ」
長いよ。ひと月は長いよ……。
「あ、待って。着いたよ!ここ!ここが宿だよ!」
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるブルンナ。え? マジで言ってる? 嘘をついてるわけでは……ないね。マジか。マジなのかぁ……。
大聖堂に隣接するやけに豪華な建物。それが今回泊まる宿なのね。下から見上げる感じ、プチ宮殿と言えそ……いや、隣にサクラダファミリアっぽい大聖堂があるから感覚がおかしくなってるだけでは? 小国とかなら普通に宮殿でも通用するんじゃ……。
「ドヤァ」
もろに口に出してるブルンナがうざい。でも、そう言いたい気持ちもわかるというジレンマ。
「すごいのは、見た目だけじゃないんだよ!さ、まずはお馬さんを畜舎に連れて行こう!」
さすがに一緒には行けないのね。了解。
正味、合図しなくてもわかってるだろうけど、鞭を打って合図。するかしないか、そんなぎりぎりでセンが進みだす。……暴走してるように見えないように。そんなポーズでしかないけれど、当たる前に動いちゃ意味ないでしょうに。
ガラガラ音を立ててやたら大きな建物の横へ。
「とうちゃーく!」
この割かし豪華な建物が畜舎なのね。場所が場所なら普通に人が住んでそうなレベル。
「どう?アークライン神聖国らしいでしょ!」
「確かにな」
「ですね」
畜舎まで豪華なのはブルンナの言葉が全てだろう。アークライン神聖国。神聖と言う言葉の、清廉で、荘厳。そんなイメージを守る。そのためにここまでしてるんだろう。
なんてったって『国一番の宿』だ。その国の顔と言ってしまっても、過言ではない。一番が外見的にアレだと、侮られかねない。
となると、中も……。うん、だよね。清潔感がすごい。さすがに一面真っ白ではない。それだと落ち着かない。
けれど、床には暖かそうな黄金色の石? が敷き詰めてあって、壁もまた同様。それらが落ち着いた高級感を演出している。
動物たちが入るスペースとの間には水路が通されていて、明確に通る場所と部屋が分かたれている。けれど、部屋の中が汚いというわけではなく、ここも綺麗だ。
「入れ替わりが多いから掃除しやすいのでしょうか……」
「それもあるかな。ここで飼ってるわけじゃないから、いなくなったら掃除できるもん。でも、それより、定期的に動いてもらってて、かつ一回に世話しないといけない子らの数が少ない影響の方が大きいかな?」
普通の畜舎でも掃除はしておられるけれど、数が多い。掃除はたぶん、その子らを放牧なりで外に放り出してるときにしか出来ない。
でも、ここなら別の場所に移ってもらって、その間に掃除……とかが出来ると。
「ご飯は何を上げるの?」
「その子のお気に入りをあげることになってる」
この子、食べるの魔力なんだけど。しかも俺らの魔力がいいっぽい。
「ブルルッ、ブルルン、ブルルルルゥ」
「心配、しないでも、いつもどーり!」と。カモフラージュ的に草食べとくと。了解。
「馬車は?」
「こっちで預かるよ。あそこに置いとく」
指さす先には周囲の雰囲気と溶け込んだ、なんの変哲もない空間がある。
「あそこに何かあるのです?」
「何もないよ?盗難防止用のあれこれは建物自体にかかってるもん。不安なら自分で追加で付けてね!」
マジで? セキュリティ甘くない?
「…ここ、貴族街にある最高級の宿だよ?」
あぁ、なるほど。貴族外にあるからお客もそれ相応。それに手を出すとか極刑不可避……と。その事実が既に抑止力か。
なら、いいか。……そもそも、普段から馬車、預けきってる。それにたぶん、何かあればセンが飛び出してくれる。
「あ、荷物はこっちで運ぶから、すぐ必要なのだけ出してね」
了解。なら、蕾を回収……しようと思ったら四季が既にしてる。
「俺が持つよ?」
「いえ、大丈夫です。私でも持てるので、私が持ちます」
何を言っても変わってくれない気がする。…なら、いいか。
「いい?じゃ、宿いくよー」
ブルンナの先導に続いて廊下を進む。途中、一回だけ折れると、壁と床が落ち着いた橙から、少し優しめな、でも荘厳さのある白にパタッと切り替わる。境目を通ると、上と下から優しい風が吹きつけてくる。
「とーちゃーく!」
なるほど。宿と畜舎は繋がってるのね。一回折れ曲がったのは、この待合場所から直接、畜舎が見えないように。そんな配慮か。ということは、さっきの風は獣臭さがこっちに来ないようにってのと、服についてるかもしれない獣臭を落とす。そんな役割がありそう。
あ、正解っぽい。自慢げにブルンナが語ってるもん。
「む、あんまり驚いてない……?」
「そんなことないよ?びっくりしてる」
「ですね」
「…ん」
びっくりしてる(魔法で獣臭を消してることに)だけど。風で匂いが来ないように……ってのはあっちでもあった。効果はないよりマシ。そんな感じだった気がしなくもないけど。
アイリが驚いてないのは謎。ルキィ様の付き添いで似たもの見たことがあるのかな?
「ぐぬぬ……なら、これならどうだ!」
てってこ走り出すブルンナ。何と競ってるんだろうか。害がないからいいけど。
ブルンナが走っていったのは部屋の隅。そこで何かをエイヤッと押す。
「ふっふっふ驚くがいい!」
腕組みしてるブルンナが言い放つと、ポーンという地球で聞きなれた音が響き、キュルキュルと目の前の壁が横に移動していく。
まさかと思って上を見上げてみると、数字が書いてあって、ちょうど1のところが光っている。
えっと、これは……。
「どうだ!勇者様の世界にあるといわれるエレベーターだよ!すごいでしょ!」
マジか。マジでエレベーターなのかぁ……。
お読みいただきありがとうございます。
誤字や脱字、その他何かあればお知らせください。




