ある主従の会話 その1
「で、あんたなんであんなことしたのよ」
「?」
バシェル王城の玉座の間。常ならば王しか座れないはずの椅子。そこに夜の帳が下り、話す二人以外誰もいないとはいえ、女が座り、その前に男が跪いている。
「あれ?ほんとに心当たりないの?」
「あればすでに申し上げております」
豪華なシャンデリアは起動されておらず、きらびやかな天井を彩る装飾品と化し、差し込む月明りだけが部屋を照らす。
「あれ?暗殺者を差し向けたのって誰だっけ?」
「それは私ですが…?」
「そう!それだよ!」
我が意を得たり!とばかりに立ち上がる女。だが、男は戸惑うだけ。
「なんで!そんなこと!してるの!?」
「あなたが召喚された当日にやれとおっしゃられたのですよ?」
「え?」
「あなたが召喚された当日にやれとおっしゃられたのですよ?」
「おぉう…」
手を頭に当て、天井を仰ぎ見る女。だが、すぐに立ち直る。
「なんで?」
「あなた……我が主、チヌリトリカの復活に要する力を回収するため。と」
「え?」
「あなた……我が主、チヌリトリカの復活に要する力を回収するため。と」
「いや、天丼はいいから」
ぷんすか怒りながら言う女。それを見て男は本当に主が忘れていると思ったらしく、詳細な説明を始める。
「あなたが蘇る「死んでないよ」……あなたが自由になるために力がいる!とか言ってましたよ?」
「言ったような、言ってないような。でも、封印?…んん?感触的には寝てるだけなような。でも、起きるには何かが邪魔なような」
「たぶんその邪魔が封印ですよ」
ポンと手を叩く女。男はなんだか話しているだけなのにしんどそうだ。
「なるほど。この子の肉体は勝手に借りてるだけなわけだから、本来の姿に戻るには本体がいる。その力を取り戻すために勇者を襲えといった。そんな感じ?」
「わかってるじゃん!」という思いが男の胸に沸き上がったが、気合で押し殺して頷く。
「でも、アタシがそう判断したのって何?」
「知りませんよ」
男はそのあたりの話を女からされていない。だから、こう答えるしかないのだ。
「でも、あなたもおkって言ったってことは、何か根拠があったのよね?その根拠ってどっから北の?」
「先の大戦を生き延び、陰に潜んでいた私が……あれ?少しお待ちを……」
ぼそぼそと何かを言う男。女は待っている間暇なのか、手をわちゃわちゃさせて遊んでいる。
「えっと、これで間違いないはず。えぇ、私が2000年かけて集めた情報です」
「なるほど」
自力で集めた情報なら確度は高そうだ。女はそう判断した。
「で、えっと、力回収に暗殺者だっけ?」
「そうですよ?」
「自分の国の暗殺者を減らして力回収するくらいなら、他の国に送り込んだ方がよかったかなぁ」
「はぁ?」
いまさら言われても困る。男はこの気持ちでいっぱいだ。
「この子と関係が希薄な子とかいるから、正味、その子くらいならいいかなって思ったような気がしたんだけど」
「気がした」という言葉に男は気づいたが無視した。疲れるから。
「今になって対象の名簿見たの。そしたらさ、ひどすぎて草生え散らかしたわ。なしてあの鬼畜眼鏡と化学馬鹿に、敵対者絶対心へし折るマン、ウーマンいるところに送っちゃったのか。ってね!いや、あの子らも殺人経験出来ていいかもしれないけどさぁ」
「え?え?」
よく理解できていない男。知りうることのできない地球の話ばかりされているのだから当然だ。だが、女は置いてけぼりにして話を進める。
「あぁ、わかんないか。前から順に西光寺賢人、その姉、薫。そして森野習に清水四季。帰還魔法捜索隊だっけ?それ作っていったでしょ?送れた暗殺者って何隊よ?」
「1隊のはずですが」
「あ。駄目だわ」
やらかした!とばかりに頭を抱える女。
「1隊って基本5人。うん、送ったところで何ができるのよ。あいつら組んでるならシャイツァーなくても凌ぐ」
「この国の暗部とはいえ、近衛ですが…」
暗に彼らも精鋭であることを伝える男。だが、女はそれを鼻で笑う。
「無理よ。そもそも、帰還魔法「捜索」隊って言っているんだから、捜索前提よ?戦いに向かない子とか、戦いが好きじゃないことかいるでしょうが、『捜索』するために何人か戦える子いるに決まってるでしょ?さっきの4人が駄目でも、その子に壊滅させられるわよ。てか、勇者舐めてどうすんのよ」
送れと最初に指示を出したのは女のはずだが、いつのまにか男が主導で出したようになってきている。だが、両者ともそれに気づかない。
「勇者ってそこまで強力でしたか?」
男の声に女は不思議そうな顔をする。
「あれ?勇者は強い……ってのは地球のサブカルの影響?でも、たびたび召喚されてるのよね?」
「はい。ですが、守る対象が多ければどうにもならないかと」
「そりゃそうね。で、攻撃できそうな子って誰がいる?」
男は少し視線を宙にさまよわせ、記憶を掘り出してから答える。
「西光寺姉弟でしたかね?」
「ミリ単位しかなかった希望が0になったね」
男は反応しない…というより出来ない。どう反応していいものかよくわからないのだ。
「一応、モリノ?とシミズ?は同行していないようですが?」
「こっちの犠牲者増えるだけじゃねぇか」
「えぇ…」
名前を挙げられても、その人を知ってる人にしかわからない会話をされて男には判断できないのだ。
「てかてか、勇者にも殴りかかる暗部って何よ」
「だから指示出しても捜索隊に襲い掛かったのが1隊なんですよ。隊に同行しない勇者がいればそいつを狩れるように暗部を展開させてましたし…」
「国の指示より勇者信仰かぁ……。カーッ!つっかえ!この仕事辞めたら?」
「私に言われましても」
「だよね」
男はぐっと「じゃあいうな」という喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「そもそも、あなたの器を呼ぶのに召喚陣使っちゃったので…、王と第一王女ぐらいしか勇者暗殺に賛同してないのですよ?そりゃ、空気読んで動きませんよ。だいたい、私がその二人を支配下に置いてから、第二王女が「私が怪しい」と踏んで、情報を重視して暗部の掌握を強めているのですよ?」
「ド有能で草」
男は「草」って何だろうと思ったが、聞いても理解できない気がしたので流した。
「第一王女より第二とるべきだったんじゃない?」
「第一は今、私の術中にあるのであれですが、そうでなければ有能でしたので」
「笑うしかないねー!」
密室に響き渡る女の笑い声。男は誰かに聞かれやしないかとびくびくしている。
「まぁいいわ。復活しようと思ったら力もいるような気がしないでもないけど、適当に封印の鍵を殴ってもいけそうだし。勇者に対する出撃命令は私にとってありがたいのよね」
「だから出したのですが」
「えらい」
かなり雑だが女に褒められた男は少し嬉しそうだ。
「で、襲撃かけます?」
「取れないでしょ。やめとこ。人殺す経験積んで、人魔大戦で人間大優勢になられても困るでしょ?……サクッと山賊くらいぶち殺しそうだけど」
「えぇ……」
ドン引きする男。男はチヌカであるが、人間の常識もある。だから、ただの人間──それもついさっきまで平和なところにいた人間が、そう簡単に「殺せる」とは思えないのだ。
「そういえば、リブヒッチシカが何やら隣国で暗躍しているようなのですが?」
「ん?リブロース?」
「リブヒッチシカです」
「んんー?」
盛大に首をかしげる女。
「まさか、覚えておられない?」
「ま、まっさかー。あぁ、思い出した。あたしが作ったやつか。適当でいいよ。適当で。勝手に生きていけるさ!」
「ですが、引き寄せることで戦力になるのでは?」
「一人で生きていけるだろうから無問題!というか至極どうでもいい」
「それは……あんまりでは?」
男の言葉に女は口角をあげる。
「いいね、いい。実にいい!ワタシに意見する型破りなところが実にいい!あの辺の初期型とは違うねー!」
「私はあなたに意見できるように作られていますから。それより、ひどいのではありませんか?」
「ひどくないよ。放置で良いでしょ。第一、呼んでどうすんのさ。絶対、チヌカって露呈するぞ?あんたとリブロースとうちで突破できるわけないじゃん。わたしの班を全部、迎撃に回しても勇者はあっちのが倍はいるぞ?圧死するぞ。あたしは死にたくない」
口調は適当でも、リブヒッチシカが増えたところでチヌカということが露呈して終わり。その言葉にはある程度の説得力がある。
「呼んで、突撃させる分には構わないけどね?あいつの設計思想突飛すぎてやばいし」
「それはあなたが作ったからでは?」
「どういう意味?」
「そのままですが?白地から出てきて戦争吹っ掛けたのはあなたでしょうに」
女は目を丸くする。
「そうそ……、あ……れ?そうだっけ?……そうだったかな」
「どうされました?あなたがここに攻め込んできたのは確かですよ?」
「違……わない?むぅ…」
あーやめやめ!と叫びながら立ち上がる女。
「じゃ、なんか疲れてきたから、寝る。後処理よろしく」
男を一切見ずに部屋から出ると、かなり大きな音を立てて戸を閉めて去る。
「ちょっ…、暗くしているのに、そんな爆音を立てたら意味がないじゃないですか」
大きなため息を吐いて急いで掃除する男。掌握できている人数は少ない。ゆえに、ばれないようにやる必要がある。だから、男は一人でこの部屋の痕跡を消さねばならないのだ。
明日、人物紹介を投稿して1章連続投稿はおしまいです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。楽しんでいただけましたら幸いです。




