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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 勇者召喚とフーライナ
30/93

出立 side タク 中

タイトル通り前の話の続きでタク(矢野拓也)視点です。

 だから、そのためなら、何だって。



 とは思った。思ったよ。でもさぁ。なんだってあんなことになるんだ。



 ルキィ様のお願いが「フーライナで暴れてる猪をバシェルの力だけでぶち殺してこの功績で許して!」っていう「功績さえありゃええやろ」とかいうどっかの独断専行やらかす腐れ軍人並みの思考だったことは置いておこう。



 だから、俺らにやってほしいことが「その猪の殲滅」であることは、いいだろう。



 …たとえその発想のせいで「勇者連れて他国に無断で軍事行動とかありえんでしょJK(常識的に考えて)」となるかもしれなくても、置いておこう。



 一応、猪はバシェルに来てて被害が出てるみたいだから「早くしてくれないから!」とかいう言い訳はできる。



 ルキィ様もそのことくらいは織り込み済み…だといいなぁ。昨日の惨事が俺のその信頼を揺らがしてる。



 まぁ、昨日酷かったのは俺以外の大体だけどな。



 なんでああなったのかマジでよくわからん…!頭が痛い。



 メンバーは俺と、光太、天上院さんとルキィ様と近衛。普通なら暴走する面々じゃないんだが。



 道中、何かテンションが上がるようなことはなかったはずだ。あって精々が休憩中に俺と光太が軽く手合わせをしたときに、ちょっと俺らが怪我したくらい。

 

 

 光太と天上院さんが二人の空気を作ってしばし蚊帳の外にされたのはたぶん関係ない。さすがは『常華高校の非リアが選ぶ!え!?嘘!?あの二人付き合ってないの!?ランキング』に堂々殿堂入りしただけあるというべきか。

 

 

 それ以外、ここ『リヴィレスト』までは何にもなかった。三日野営したけど何もなかった。

 

 

 暗殺者でもいてくれれば、俺らが人を殺せるかどうかの試金石になったのだが…。いないものは仕方あるまい。正味、出来たらあんまりやりたくないしな。

 

 

 それで宿について、猪対応にフーライナ第二騎士団がうごうごしてるって聞いて、偵察しようってなったんだっけ。



 功績を取りたいけど焦って壊滅したら馬鹿でしかない。この点ではルキィ様は大丈夫って言える。



 だから、ルキィ様の護衛に残る一部近衛を残して偵察に行ったんだったか。



 近衛は誰が行くかを決める手法にじゃんけん採用。負けたやつが偵察。負けたやつは大号泣してたっけな。確か「ルキィ様と一緒にいたい!」だとか「アイリーンとかいうやつがいなくなって、絶好の機会なのに!」とか呪詛を漏らしていたような。



 …なるほど。近衛がおかしかったのは平常運転か。



 で、偵察。ちっこい猪ども…『プロスボア』をぶち殺しながら探索。目的地は最近、森の中に突然出来たとかいうあからさまに怪しい『コーシュリスティヌの丘』。



 ハエや蚊と違ってプロスボアは猪だから体格がいい。プチっとつぶせるものじゃないから、戦えなくなるかもと微妙に危惧していたが、そんなことはなかったな。



 さすがに斬った当初、手に残る「生き物を斬りました」という感触は愉快なものではなく、思い出したいものでもなかった。でも、やらなきゃ駄目だしな。



 腐っても俺らは魔王を倒さないと駄目なグループ。きっと人型をしているであろう奴を打倒しなきゃならないのに、猪に立ち止まってはいられない。

 

 

 ……俺の場合、偵察成功させてルキィ様の点数を稼ぎたいという不純な動機があるのは否定できないが。



 件の丘に到着したら、なんか穴が二つあって、そこから猪がちょくちょく出てくるのを見た。明らかに猪の大量発生の原因ってのがわかった。けど、もうちょい情報が欲しいと思って、近づこうとしたら鹿が来た。



 ぴょんぴょんと跳ねる鹿がプロスボアから逃げていると、丘が動いて、穴の下から出現したデカ猪に一口で喰われた。丘=生き物の時点で俺らだけじゃやばそうだから撤退。



 その偵察情報を聞いて目を輝かせたルキィ様が士気を上げるために宴会を企図して、早速開催。



 宴会に出てきたのは豪華な料理。人類の食糧庫という別名に違わず、豊富な農地から得られる新鮮な野菜や果実群、広い牧場から得られる取れたてのお肉やチーズ。



 開催が急遽決まったはずなのに、全員が満足できる量が出てきたのは、すごいというしかないな。



 ……あれ?何か抜けてる?



 糞どうでもいいような「猪斬り殺したのに、その当日に猪の肉だすんかーい!」的なのを思ったのは覚えてるのに。



 あ。飲み物がないのか。俺は麦茶とかジュースだったかな?ジュースが美味しいのは言うまでもないけど、麦茶もいつもよりなんか美味しかった。



 俺はそうだけど、みんなが飲んでたのは………あ。あぁ。お酒か。S(エス) A(エー) K(ケー) A(エー)、お酒。



 割と強いお酒が出てきてみんな見事に酔ったのか。



 光太と天上院さんは酔ったせいか、



「雫、好きだ」

「ふふふ、わたくしも好きです…」


 とか言って人の口に砂糖をねじ込むような雰囲気を作って無事寝落ち。

 

 

 だけど、それを見たせいで「(国王や第一王女がおかしくなった原因を作ったであろう)医者死ね」だとか「なんで俺が酔ってないんですか!?」とかの謎絡みをしていたルキィ様が方向転換。

 

 

 アイリーンちゃんに会えないことへの不満を漏らしまくる機械と化した。そしてそれを見て、明らかにルキィ様に恋慕の気持ちを持ってる近衛共も狂った。

 

 

 …そんな流れか。流れだったなぁ……。思い出さない方がよかった感。

 

 

 誰も思い出さずに闇の中へ流した方がよかったんじゃないだろうか。

 

 

 特に近衛。ルキィ様の会いたいは「恋人に」とかじゃなくて「庇護下にある可愛らしい生き物に」のはず。だけど近衛のは割とガチな恋愛感情っぽい。自由にすればいいと思うけど、バシェルに……というかこの世界にその手の理解はあるのだろうか。



 そもそもルキィ様の好み的に諦めた方が建設的だと思うのだが。



 だって、ルキィ様の好みって恋人選定でなければ「小さいもの。庇護したくなるもの」だぞ?アイリーンちゃんは150 cmくらいと日本人的に見れば低身長ではないが、ルキィ様よりは低い。



 けど、近衛たちは近衛だからか身長が高い。その上、鍛えているから体が引き締まっていて強そう。で、致命的なことに役職がルキィ様の守護。



 庇護したくなるものが好きなルキィ様にとって、彼女らは庇護してくれる人。思いっきり逆だ。その上、俺と同じでいいとこ見せたいのか普段はしっかりしてるっぽい。余計に駄目だ。



 ん゛ん゛っ!思い出さなくていいことを思い出してしまったが、大丈夫なのだろうか。偵察の報告を聞いて、「準備を早急に整えて、大丈夫そうなら今日中にでも手柄をかっさらいに行きますよ!」みたいなことをおっしゃっていたのだけれど。



「矢野様。おはようございます」

「おはようございます。ルキィ様」


 あんだけ昨日酷いありさまだったのに、ルキィ様の顔色はよさそうだ。いつも周囲を固めている近衛が壊滅的にいないけど。



「進捗どうですか?」

「進捗駄目です」


 駄目ですか。



「近衛が潰れたからですか?」

「それもないこともないのですが、増援が到着していないのです。着いた瞬間に投入して、無傷で勝てる相手ではなさそうでしたから」


 ですね。ちゃんとぶつかったわけではありませんが、あいつはきっと強敵です。



「ですので」


 今まで見てきた中で一番綺麗な笑顔でこちらを見てくるルキィ様。あぁ、ものすごく嫌な予感がする。



「可能であれば。でいいのですが、現有戦力だけで威力偵察をすることは可能ですか?」


 頼りにしてます!と言わんばかりのキラキラした目と、期待に溢れた目。このお方が好きではなくても男なら頷いてしまいそうな顔。



このお方に一目ぼれしている俺が拒否できるはずもない。



 「えぇ、任せてください。出来るだけ情報をかき集めてまいります。大船に乗ったつもりでいてくださいよ」


 行くか。望月達の助力も欲しいが、大丈夫なのだろうか。



「生きてる?」


 ノックしてみたけど返事がない。寝てる?時間はもう8時のはずなのだが。もうちょいだけ強くたたいてみよう。それでだめなら本格的にやばいかもしれない。



 ドンドンドン!



 結構強めにドアを叩く。



「おーい!無事か?無事じゃなかったら踏み込むぞー!」

「「無事ー(無事ですわー)!」」


 おぉ、同じ位置から返事が返って来たぞ。



 当然だけど。「同じ部屋にぶち込んでしまって」と言ったのは俺だったはず。



 ……あれ?全然焦った声が聞こえてこない。好きな人が起きた時、真横に何故かいたらものすごく慌てる自信があるんだが。ほわい?



 一応、部屋の中はどったんばったんしてる感じはある。けどこれ、どう考えても、朝の身支度をしている音でしかない。そんな音が鳴っているのに声が一切聞こえない。



 え゛。まさか「覗かないでくださいねー」とかそういうの一切なく、暗黙の裡にお互いのあられもない姿を見ないように調整しながら着替えられる系?もしくは、互いの艶姿に反応しない系?



 後者はないか。ということは前者。そんなことが出来る奴なんざ俺は知ら……あ。あー。習と清水さんは怪しいか?見たところ波長が合いそうだったし。意識しちまうと駄目だろうが、意識しなけりゃ、機械的に片づけていきそうだ。

 


「お待たせ」

「ご用件は何ですの?」


 二人ともしっかりきめて出てきた。



「昨日はお楽しみでしたね」

「え?あ、あー。うん。あれはやらかしたね…」

「ですわ…」


 定番の煽り?が効かねぇ!無敵かよ。



「やらかしたのに大丈夫なのか?」

「雫さんがいるから…」

「ですわ。一晩寝ますと流石に頭が回ってきましたので、魔法を使って回復することが出来たのです。…昨日、何をしでかしてしまったのかは闇の中ですが」


 すげぇな。天上院さんの魔法。だが、昨日の惨状は覚えてないっぽい。

 


「昨日、何があったか聞くか?」

「ん?いいや、何かやらかしてたら死にたくなるし」

「思い出せなければなかったのと同じことですわ!」


 思い出せなくても事実は事実としてあるんだよなぁ。傍で見ていた人がいたらそれはもう立派にあったことだぞ。



 本気で要らなさそうだから黙ってるけどさ。二人がそれでいいならそれでいいだろ。



「で、要件なんだが、あのデカ猪に威力偵察してきてほしいらしい。行けるか?」

「うん、行けるよ」

「行けます。が、威力偵察した結果、なし崩し的に本格戦闘とはなりませんか?」


 確かに、その可能性は十分にある。十分にあるが、



「たぶん大丈夫。むしろあいつをあの場所から引っぺがす方が大変だと思う」

「その心は?」

「俺の見立て」


 すまない。根拠はこれしかないんだ。



「そっか。じゃあ、行こうか」

「ですわね。矢野さんがそうおっしゃるのであれば、大丈夫なのでしょう」


 なんかめっちゃ信頼されてる。有難いが…、いいのか?



「いいよ。いい目をしてるってのは噂で聞いてるもの」

「ですわね」


 さよけ。なら、これ以上聞くのは無粋。突撃だ。







______


 昨日の丘に無事到着。相変わらず穴…というか鼻からプロスボアが落ちてきてる。



「正面はたぶん危ないよね?」

「でも、威力偵察なのですから正面…顔のように見えるところが一番急所でしょう。攻撃が通るかどうかの確認は必要なのではありませんか?」


 二人の言うことは尤もだ。となると、



「前後を同時に殴れるような攻撃ない?」

「ん?んんー。待って。えーと…、わかんない。ごめん」

「同じく。ですわ」


 そっか。なら俺がやろう。適当に呪文を作ってぶっ放す。



「じゃ、やるぜ?ある程度サポートできる位置にいてくれ」


 コクっと頷いたのを確認して詠唱。



「『我が魔力を糧に、燃えよ我が双刀!炎よ、刃から出でて龍と為れ。いでよ、我が眼前の怨敵を喰らいつくす双龍!『ツインフレイムドラゴン』!』」


 双刀の先端から火が飛び出して龍を二頭形作る。一匹は丘の向こうまで飛んで行き、もう一方は飛んでいる間手持無沙汰なのか、炎を燃え上がらせながらくるくるその場で回転する。



 そして、見えなくなってしまった龍とタイミングを合わせて咆哮。だが、丘は無反応。多少、反応してくれればよかったのだが、無反応かよ。



 激しく燃え盛りながら丘へ突撃。正面の龍は穴へ突貫。鼻水のように出てくるプロスボアを焼き尽くし、炸裂!

 

 

 したけど。あんまし通ってる気がしねぇ。もうちょい奥を狙うか、高温空気で気道焼きを狙えばいける?



 とりま、現状、全然通らん。



「望月!鼻の奥狙えるか!?」

「了解。タクは?」

「俺は一回、適当に斬りつける!」


 後ろに行った龍の攻撃は見えねぇからな。こっからじゃ。だが、効いてねぇ気がする。



 『身体強化』!天上院さんがプロスボアを落としてくれるから、心配ない。

 

 

 刀を突き立て…ることすらできん。かってぇ!



「『僕の魔力よ、僕の聖剣に力を与えて、何物をも貫く矛の力を!『グングニル』!』」

 

 俺の後ろで光太の呪文が完成。一条の光線が突き刺さる。おぉ、なんかちょっと痛そう。だが、



「撤収!」

「硬くて通常の攻撃は通じない。中を殴ると流石に出てくるけど、ちょっと痛そう程度。これでいいのかな?」

「ないよりはマシでしょう」


 疑問に思える戦果だが、撤退するほかない。今の手持ちじゃ潮時だろう。



 あのデカブツの動きはのっそりしていて遅い。体高10 mくらいあるしな。だから余裕で逃げ切れ…、



「ギチッギチチッ!」


 なんで異世界でばねを思いっきり縮ませたような音が?しかも発生源はデカ猪。



「ッ!避けろ!」


 全力で『身体強化』。俺らがさっきまでいたところを超でかい猪が通り過ぎる。



 あいつの足がバネみたいになってるのかぁ……。そんなのありかよ!?



 だが、



「あいつがいなくなったところ確認するか?」

「しよう!」

「えぇ!」


 なんかどいてくれた。この好機は逃せない!



「じゃあ、俺が一番近いところにいるから、」


 再びのバネが縮められるような音。距離的には明らかに光太や天上院さんの方が近いのに、狙いは俺。



 なるほど。巣には絶対に見られたくない何かがあると。見てやろう。



 魔力を全力で回す。ついでに詠唱。



「『我が魔力よ、刀に宿りて燃え上がれ。我が望むは推力。他に仇なさぬ天に羽ばたく火の力を…『噴炎』!』」


 周りを燃やすことのない、されど勢いだけはすさまじい炎が刀から吹き出る。この勢いを使って…!

 

 

 奴がいなくなったせいでぽっかり空いた穴の上を通る。穴は大きいけど…、せいぜい直径30 mくらいか?

 

 

 だが……、何かがあるかと思ったけど何もないっぽい。穴の近くにいた俺を狙った理由がわからん。攻撃なら光太のが通ったはずだが?

 

 

 光太や天上院さん達なら…と思わないでもないが無理。激おこでいらっしゃる。撤退!



「光太!天上院さん!森を出てくれ!俺も急いで出る!」


 狙いは変わらず俺。全力で足を曲げて力をためていらっしゃる。

 


 その軌道だと失敗したら思いっきり穴に落ちるのだが、どうでもいいらしい。



 そら来た!だが、当たるかよ!消費魔力を一気に増やす!刀の推進力および、体の防御力を爆増させる。



 では、さらば!デカ猪は上昇してくるが、勢いを得る手段が足で地面を蹴ることである以上、空中で加速することは不可能。すれ違いざまに背中確認!



 案の定、無傷。はぁ。



 悠々森の中へ飛び込み、そのまま森の外へ!そして合流!



「滅茶苦茶するね…」

「言うほど滅茶苦茶じゃない。原理で言ったら水で浮く遊びの火版だが、機械を使ってるわけじゃなし、出力は安定してる。崩れることがないから安心安全だぞ」


 実際の機械でやったら不調が起きて左右の出力が狂って墜落…とかありそうだが、これは魔力量さえ確保できてりゃいいわけだ。



「とりま、帰るぞ。これでルキィ様が作戦を立ててくださるだろう。それを聞いて行動が変わる」


 少なくとも俺らだけでごり押しとか、数は力戦法は通用しなさそうだが、どうなるかね。

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