出立 side タク 前
タイトル通りタク(矢野拓也)視点です。
とりあえず、訓練所に行くか。こんな朝っぱらだというのに、既に訓練所からは音が聞こえてきている。勤勉なことだ。
ここから見えるな。いるのは二人。同類のはずだが、誰だ?片方は男子。さわやかイケメンで腰に帯びた剣は、まさに勇者。
もう片方は女子。肩まで伸びた黒髪が良家のお嬢様って雰囲気。
男子の身長は171 cmくらいで、女子は156 cmくらい。身長差はちょうど15 cm。理想の身長差だ。あ。あぁ、思い出した。
望月光太と天上院雫さんだ。
「雫さん。ちょっと止まって。誰かいる」
「え?あら、ほんとですね…。って、あれは矢野さんではありませんか?」
「ん?あぁ、ほんとだ。タクだ。おーい!遠慮なく入ってきなよ」
男女二人のところに突っ込めと?ハードル高けぇなおい。
「いいのか?」
「構わないよ。ねぇ?」
「ですわ。一緒にトレーニングいたしましょう」
そうかい、なら有難く。にしても、
「よく俺の名前覚えていたな?昨日ちょっと喋っただけだろ?」
俺と彼らは昨日が初対面。しかも、習を見守っていたせいで眠くて、付き合いがちょい雑になってたはずだが。
「そりゃ、代議員だったからね」
「ですわ。後、家の関係もありますし」
そういえばそんなことを聞いたような。直接か噂かわかんねぇけど。
どっちにしろクッソ失礼だな。俺。せっかく言ってくれたのに。確か……。
「旧華族でしたっけ?」
「ですわ。今時、はやらないでしょうに」
「それでもちゃんとするのが雫さんらしいよね」
「ある程度そういう目で見られますから。やらずに恥をかくのは嫌なのです」
まじめだ。でも、望月も似たような立場だったような。普通に聞いたことのある苗字だぞ。
「僕は僕…なんて言えたらかっこいいのかもしれないけれど。…うん、やることはきっちりやってるからグチグチ言われないだけさ」
「光太が頑張っているからですわよ」
「かな?ありがとう。雫さん」
爆ぜろ。
おっと、危ない。カップルのようなやり取りに怨念が湧き出るところだった。これで付き合ってないらしいんだよなぁ。謎。
「口調はこれでいいのか?」
「いいよ。友達なんだから」
「ですわ。それより、こちらもこれでよろしいですか?」
「あぁ、もちろん」
よほど変じゃない限りとやかく言わないさ。
「にしても、なんだって急に僕らを分割したんだろうね?」
「大方、これ以上勇者に逃げられないようにだろ」
西光寺班と、習に清水さん。合わせて15人がとっくに魔王討伐という目的から離脱してる。「これ以上は!」となるのも道理だろう。
「班分けは顔も合わせずに決まってしまいましたし」
「たぶん残りが一緒にいたからだと思うぞ。例えば、『臥門芯』、『旅島順』、『蔵和列』。こいつらは幼馴染だ」
そして、蔵和さんが芯にベタ惚れしてる。し、逆もまた同様。リア充だが、芯の心労はえぐいだろうから爆ぜろと言えない。
「で、『百引晶』、『羅草愛』、『神裏瞬』『久我謙三』も幼馴染だ。ほんとは『有宮文香』が加わるんだが」
「彼女は帰還魔法捜索隊でしたわね?」
そう。彼女は植物を育てる力…だったはず。戦闘もできそうだけど、俺らみたいな火力は期待できない。だから渋々あっちのはず。
「残りが確か、『青釧美紅』、『座馬井条二』、『律』の兄妹でしたか?」
「そのはずだね」
俺は彼らに直接の面識はない。…し、くっそ申し訳ないことに思い当たる節もない。どんな人だ?
「座馬井兄妹は賑やかな人達だよ。」
「ですわね。関西弁でよくしゃべっておられます。そして双子でない兄妹でもありますわ。青釧さんはそれを眺めていらっしゃいます。この方たちも幼馴染ですわ」
「ありがと」
知らないオーラを察してくれたのか説明してくれた。双子じゃない兄妹で同学年かぁ。珍しいけれど…、妊娠期間は目安十月十日で、産褥期は1,2カ月。
ちょっと早産気味になりそうだけど、あり得そうだ。そして、
「二人も幼馴染だよな?」
コクっと頷く二人。やべぇなこのクラス。
「幼馴染、身内率が尋常じゃないね」
「ですわね。臥門さん達、百引さん達、青釧さん達、わたくし達。そして西光寺さん達……15人ですか」
「天上院さん。俺と習…、『森野習』も幼馴染なんだ」
俺と望月達が面識ないってことは、習もないはず。フルネームで言っとかねば。
「となると、30人のうち、17人が高校入学以前から面識があるってことだよね?」
「うちの高校、難しいはずなのですけどね」
常華高校は難しいどころか、府内最高レベルの進学校だったはずだが。
「みんな、頑張ったんだなぁ…」
「だねぇ…。他に出てない幼馴染とかは?」
「わたくしは知りませんわ」
「俺も」
確定17人。多分増えないだろうが、めっちゃ多い。
「今気づいたけれど、僕らが目覚めたときに目覚めなかった人、全員幼馴染持ちだね」
「え?確か…百引さん、青釧さん、蔵和さん、森野さん、清水さんでしたっけ?」
「そのはずだよ」
だな。そして今、気づいたが習がいなけりゃ見事に女子ばっか。
こいつらに共通項あるのか?
……わからん。てか、青釧さんを知らねぇんだから、判断しようもねぇ。せめて俺がいた時に起きてくれていれば、よかったんだが。原因不明ならどうしようもない。
いない間に決めたことに粛々と従ってくれた事実に感謝せねば。
「とりあえず、いい機会だからシャイツァー紹介しておこうかな」
「ですわね。一緒に戦うならば知っていなければ不便ですものね」
「だな。……一応聞くが、ほいほい他人に教えていいものじゃないって聞いてるよな?」
コクっと頷く二人。ならいい。
「じゃあ、腰折ったから俺からな。俺のは双刀。炎を操るのに特化してる」
「剣道を習っていたんだっけ?」
「あぁ。だが、よく知ってたな」
ほぼ初対面なのに。
「まぁ、色々有名だったから…。僕は『聖剣』だよ。呪いを解くのに使えるらしいよ。「で?」って感じなんだけど…」
聖剣なのに言い方がひどい。めっちゃ勇者っぽいのにー!
「ロマンはあるけどさぁ…。実際、「で?」じゃない?「魔王=邪悪」とは限らないんだよ?一応、攻撃用聖属性魔法を使えるらしいけど」
聖かぁ…。
「なんか不死者特攻って感じがする」
「でしょ?」
少なくとも魔人は不死者ではない。そうなるとたぶん光で焼くだけになるわけで。
俺の火とあんま変わんねぇ気がする。
「その点、雫さんのがマシだね」
「ですわね。わたくしのは『聖杖』ですわ。光太の剣の攻撃性能が減った代わり、回復能力が上がった感じですわ。蘇生は不能ですのでご注意を」
「回復が使える光太?」
あ。思わず声が出てしまった。でもこれ、かなり失礼じゃね?
「気になさらなくていいのですよ?事実ですもの。気になるというのであれば…、わたくし達のメイン火力として頑張ってくださいませ」
「だね。頑張れメイン盾!」
!?光太!?
「盾は無理だぞ!?出来て回避盾!てか、天上院さんは火力って言ってるのに、何でお前は盾扱いすんの!?」
「冗談だよ。冗談。それよりちょっと、訓練しよう。もちろん、当てないでね?」
え?別に構わないぞ。だが、武器がないぞ?まさかとは思うが、
「シャイツァーでやるのか?当たったらただじゃ済まないぞ?」
「そうだけど、緊張感をもって戦うのって大事だと思うんだ」
「わたくしの魔法の発動が間に合う怪我であれば、回復できますわ。ご安心くださいませ」
発動が間に合う怪我であれば。…ね。首ちょんぱとか、心臓ぐさーとか、ショック死とかは無理ってことだよな。
「一応聞いておくが、剣の扱いは習ってるよな?」
「タクと同じで剣道だけどね?」
「なら、いいか」
いや、いいのかわかんねぇが。言っている以上は大丈夫なはず。俺の見立てでは光太は出来ないことを根拠もなしに出来るとは言わない。
適度に距離を取って刀を手に握る。互いに頷いた瞬間、訓練開始。
一気に距離を詰め、首めがけて刀を振るう!だが、光太はさっとしゃがんで、逆撃に剣を振るってくる。
甘い。俺の刀は二本ある。左手に持った刀で切りつけ…ッ!剣を左手の刀に当ててきやがった!?鍔迫り合いに持ち込む気か!?なら、俺のが不利。片手だからな。
さっと諦め手を放して。おぉう、こえー。放してなかったらそのまま押し倒されてた。
だが、武器は武器。誰も武器を絶対使えとは言ってない!
足で蹴り飛ば、ってお前、その体勢からでも蹴ってくるのかよ!
足の裏同士が激突。微妙にいてぇ。が、気にするものか、右の刀で足をもら
「あぁ、皆様、ここにいらっしゃいましたか」
!?突如訓練所の外から飛び込んでくるほっとしたような声。訓練中止。言葉からして俺らを探しておられたっぽいし。
「どうされました?」
「少し面倒なことになりまして…。ここではあれですのでついてきてくださいませ」
了解です。
「念のために回復しておきますわ。『………………魔力の………』…終わりましたわ。どうです?」
恥ずかしいのか、途中の詠唱がほぼほぼ聞こえなかった。けど、回復したはず。
「恥ずかしいなら詠唱しないほうがいいんじゃない?」
「で、ですが無詠唱では消費魔力が増えてしまうではありませんか」
確かに。俺は別に恥ずかしさはないから気にならんけど…。天上院さんも、頷きまくってる光太も苦手っぽいな。
「適当に詠唱するのは勇者の特権だったろ?なんか恥ずかしくないモノにしとけばいいじゃん。神様の名前使わせていただくとかさ」
露骨に二人とも嬉しそうな顔してる。まさに「天啓を得た!」といった感じだ。
そんな話をしていたら部屋に戻ってきたな。促されるままにソファに座る。
……うん、光太と天上院さんは二人で座るにはちょっと狭いソファを詰めて一緒に座るのな。何故これで付き合ってないんだ。
「お話とは何です?」
「城にばかりいては満足に戦えるか怪しい。そんな主張がありまして、適当な組合の依頼を解決してくるようにとのことです」
ん?んん?ということは、
「強制的に戦って来いと?」
「ごめんなさい。そうです」
うわぁ。だが、言ってることは一理ある。魔王討伐に行くなら人魔大戦に従軍するってこと。その時に戦えなければ足手まといにしかならない。
だが、強制か。すごいな。
「時期は?」
「3日後です。私も頑張って引き伸ばし工作をしたのですが、あまり聞き入れてもらえませんでした」
「いえ、お気になさらず」
だな。光太。だが「あまり聞き入れてもらえませんでした」…ね。聞き入れてもらってさえ、俺らが召喚された4日後に出立だ。つまり、ルキィ様がいなけりゃもっと早かったってこと。いったい何を焦ってやがる。
「東西南北四方向に分かれて行くことになっているらしいです」
「分け方はどうなのです?」
「既に出来ている小集団で。だそうです」
俺は望月と天上院さんと。だな。構わないが、
「どこに行くかはみんなと相談して決めますの?」
「いえ、勝手に決めていますね」
マジですか。むぅ、城の各施設も小集団ごとにされている感がある。豪勢に使わせてもらえているとは思うが、小集団同士を会わせたくないのか?とも思えてくる。
会って人数が増えると突拍子もないことをすると思われているのかね。前科はあるが。
「方角は?」
「皆様は北ですわ。わたくしと同道をお願いいたします」
北か。習達の向かった方角。たぶん、あいつらに害が及びにくいようにルキィ様も北へ行ってくださるのだろう。だが、
「城から離れて大丈夫なんです?」
「ここの王様たちの様子がおかしい」と言っていたのはルキィ様。そんな彼らを放って国政を預けて平気なのです?
「大丈夫ではないのですが…。やらない方がマズいので」
苦虫をまとめて百匹くらいかみつぶしたような苦い顔。何がそんなにマズいんでしょう?
「あれ?言いませんでしたか?いえ、いい機会です。もう一度でも言っておきます。勇者召喚陣は100年に一度しか使えないのです」
なるほど。となると、やらなきゃならないことってのは、
「謝罪行脚」
「だね」
「ですわね」
「さすがです」
項垂れるルキィ様。その気持ちもある程度は理解できる。勇者召喚は100年に一度だけ。だのに、その切り札を10年に一度の頻度で起きる大戦争に投入しようとしている。
大戦の被害は馬鹿にならないだろうが、これまでも切り抜けて来たモノ。今回もうまくいくかはわからないとはいえ「もしもこれから100年の間、勇者召喚陣なしに切り抜けられないような大災害が来たらどうしてくれんの!?」となるのは当然だろう。
「それだけではなく、勇者の皆様は戦闘力がありますので…」
あぁ…。
「人魔大戦終結後にでも侵略しに来るんじゃない?」
「と思われている……というところだと推測いたしますわ」
「です」
疲れ切った顔で頷くルキィ様。ですよねー。しかも、今回は勇者の数が普段より多いらしい。ひょっとしたら「戦争中にこっちに回してくるんじゃね?」と思われても仕方ないだろう。
信頼を稼げていればそんな心配はされないだろう。
でも、王がおかしいらしいし。根回しもなしに突飛なことをしだした王を信用できるわけがない!となるのは残当。
「そういうわけで行く必要があるのです。南は後回しです。殴りかかってきたら潰します」
過激。でも、仕方ないのかね?こっちの王もアレだが、人魔大戦が控えたこの時期に殴りかかってくるのは人間にとってひどい裏切り。潰すのもやむなしと判断してもおかしくない。
「後、皆様に謝罪したいのですが、我が国の暗部がサイコウジ様たちに襲撃をかけたようです」
謝られてもなぁ…。俺らは前々から「動きを止めたいけど、無理です。ごめんなさい」的なことを聞いている。だから謝られても心苦しいだけ。それより、
「何故、報告が来たのですか?」
「だね」
「ですわね」
「は?」
あれ?通じない?
「西光寺達ですよね?」
「はい。襲撃に失敗した暗部が一名だけ帰って来たようです。傷一つ付けられなかったといっていたそうです」
何故だ?何故西光寺達が一人だけ逃がした?普通、あいつらなら殲滅するはず…。あぁ、警告か。「もう送ってくるな!」っていう。
「ルキィ様、そいつ、ひどい死に方すると思うので見ない方がいいですよ」
「え?あ。はい。ですが、」
「#&E“!+*?W」
おぉう、タイムリー。
「死んだな」
「だねぇ」
「ですわね」
今更だが、望月達が頷いているのは、代議員つながりで面識あるからか。「まぁ、あいつらならそうするよね」という信頼のなせる業。要らない信頼である。
「であれば、隠滅されないうちに動く必要があります。失礼いたします」
俺らが止める間もなく、ペコっと頭を下げて出て行かれるルキィ様。わざわざグロ画像を見に行く必要もないだろうにとは思う。けど、これも王族の務めだろうか。
______
「そろそろ出発だよね?」
「ですわ」
「だな」
なんだかんだで出発日。俺らの用意は出来たのだけど、ルキィ様が……、
「矢野様!」
とか思っていたら来られた。走らなくてもいいはずなのに、走ってきている。
「ごめんなさい」
!?ルキィ様にジャンピング土下座された!?ナンデ!?ナンデ!?俺に好きな人を這いつくばらせたい欲望なんてないのに!?
「ルキィ様、タクが混乱してる」
「説明をしてくださいまし」
「北方の暗部の一部隊と連絡が途絶したらしく…」
あぁ……、
「習らとかちあいましたか」
コクっと頷くルキィ様。でも、それは仕方ないことでしょうに。
習は俺の親友。それが襲われたのは少し業腹ではある。でも、手をさんざんに打ってくださったのは知ってるのですよ?だから、
「立ってください。それはあなたが謝ることではありません。というか、足、大丈夫ですか?」
「ご心配なさらず。王女ですから」
王女ならジャンピング土下座しても膝にダメージないと?滅茶苦茶すぎやしませんかね。
「そ、そんなことより、ほんとによいのです?」
「えぇ、仕方ないでしょう。むしろ」
「何です?」
「暗部が可哀そうだな。と」
「!?」
驚くルキィ様の横でコクっと頷く望月達。あれぇ?
「お前らって習と直接面識なかったよな?」
「うん。でも、」
「清水さんは知っていますもの」
なるほど。……んん?
「その話したっけ?」
「昨日してもらったよ?」
「ですわ」
まじか。うわぁ、ごめん。何話したかロクに覚えてねぇわ。申し訳ない。
「え?何故そのような反応なのです?」
「だって、あいつらが手を出されて許すわけがないからですよ。背後関係わかってますから、甚振らずに首ちょんぱ。ですかね」
背後関係が分からなければ尋問するだろうけれど、わかってるなら必要なし。サヨナラ!
「あの、そちらの世界は世紀末かなにかですか?」
え?そんなことは…。あぁ、そっか。そうでした。
「アイリーンちゃんがついてくださっていたのでしたよね。だったらその子がやっちゃいますか」
さすがにペンとファイルではその子よりは戦闘能力がない…って、暗部の方が普通、戦闘能力あるよな。
「大丈夫かな」
「だね」
「ですわね」
「今更過ぎません!?」
俺は長く習といるせいか感覚ぶっ壊れてますから。望月達は知りませんけど。
「やはり世紀末…」
「ではないですよ。単純に、あいつらの性格からしてそうなんだろうと思っただけですし、俺も似たようなもんですよ」
「僕も、」
「わたくしもですわ」
この世界に召喚された時点で覚悟は決めた。俺の知り合いの討伐班も遅かれ早かれ決めているだろう。
たぶん、これだけの速さで決められる俺らは異常なんだろう。でも、これが俺ら。仕方ないよな。
「出発直前なのですが、皆様、皆様の力を私にお貸しください」
ペコっと頭を下げるルキィ様。
「勿論です」
「僕も、」
「わたくしも助力させていただきますわ」
内容を聞かないうちから承諾した俺らに驚いたのか、目を丸くするルキィ様。二人は知りませんが…。少なくとも俺は、惚れたあなたの力になりたい。
だから、そのためなら、なんだって。




