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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 勇者召喚とフーライナ
28/93

出立 side 西光寺賢人

タイトル通り西光寺賢人視点です。

「サイコウジ様、準備は出来ていますか?」

「「はい」」


 俺と姉が同時に答えると、何故かルキィ王女様が「あ…」という顔をなさる。



「失礼いたしました。ケント様、カオル様」

「まとめて呼んだからと言って気分を害したりしませんよ」

「そもそも私達は双子。ひとまとめに扱われることの方が多い」


 俺は西光寺(さいこうじ)賢人(けんと)で、姉は西光寺(かおる)。だが、二人まとめて呼ぶときは基本、西光寺姉弟。下の名前でいちいち区別したりしない。



「それより、姉の口調の方が問題でしょう」


 何故、姉は王女様に失礼な口調で喋ってるんだ…。



「私達は勇者で、それなりに地位?的なものがあるのだろう?であれば、相応にふるまう方がルキィ様にとってもよいと思うのだが?だが、今、それはいいだろう」


 よくはないだろう。が、姉のことだ、どうせ聞きやしない。



「我々に声をかけたのは、我々が帰還魔法捜索隊の先導者であり、出発の準備が整っているかの確認をしたいから…という認識でよろしいか?」

「はい。揃っていらっしゃいますか?」

「弟」


 はいはい。見ればいいんだな。捜索隊の定員はクラスをきっちり半分に分けたから15人。俺らを抜いたら13人。いるか?



 馬車の中は、ひーふーみ…9人だな。後4人。そのうちの一人、狩野(かのう)絵里(えり)は馬車の上で絵を書いてて、有宮(ありみや)文香(ふみか)は、御者に声をかけている。



が、残りは……いないな。



「姉、二人いないぞ」

「誰だ?」

「待て」


 馬車の中は…、面倒だ。名乗らせるか。



「二人いないから名前順にフルネーム頼む」

(あかつき)治南(ちなん)います」


 次……んん?何故誰も…あ。あぁ…、



「『朝昼夜(あさひよ)翠明(すいめい)』はそのままでいい。寝かしておけ。必要な時は叩き起こせ」


 基本的に寝てるからな、こいつ。シャイツァーが寝袋なのはなんともこいつらしいとしか言えん。



大宮(おおみや)恵光(えこう)いるぞ」

久安(くあん)基秀(もとひで)いるよ」

鮫波(さまなみ)(しょう)


 暁からこいつらは全員男子で…、



赤鉾(せきむ)諭志(さとし)

鷹尾(たかび)智哉(ともや)います」

葉蔵(はくら)波翔(なみと)…」


 こいつらも男子。



羽響(はねひびき)芽衣(めい)います」

豊穣寺(ほうじょうじ)咲景(さかげ)いるぞ」


 この二人が女子。



陽上(ようじょう)和昭(かずあき)もいる」


 こいつは男子。外の二人は女子だが、男女比率がひどいな。

 

 

 3年になって初めて自己紹介した面々がいるが、一人はわかった。



「姉。森野がいない」

「だな、ついでに清水嬢もいない」


 清水嬢?誰だ?



「清水四季。だ。ひとりで実験してたら手伝ってくれた」

「姉」


 ジト目が止められない。一人で実験するなとあれほど言ってるのに、またしたのか?



「安心しろ。清水嬢がいたからした。それだけだ」


 実験室には一人じゃないと?ほぼ屁理屈だぞ姉。その白髪の原因を忘れたのか?



「まさか。この髪は姉が一人で実験していた時に失敗した結果の産物。死んでもおかしくないような失敗だったのに、髪の色素の全滅と、記憶領域の一部欠損で済んだ。それは忘れるものか」


 その一部欠損のせいで興味のないことは速攻で忘れるようになってるのだから、「忘れた」ってほざかれるかと思ったが、そんなことはないか。



 それはそれで「何故やった」としか言えないのだが、



「やらずにはいられなかった」


 姉。天才みたいなことを言うな…、実際、化学に関しては天才だが。失敗してるじゃないか。



「それはともかく、森野氏と清水嬢か。痛いな」

「ともかくで流すな。だが、姉。まだ来る可能性が…」

「あるが、時間切れだ」


 だな。せわしなく鐘を鳴らす塔が動いている。間もなく鐘が鳴る。



「ま、あの二人なら何とかするだろう。ルキィ王女。お元気で」

「色々便宜を図ってくださりありがとうございました」


 頭を下げて、さっさと馬車に乗り込んでしまった姉に続く。うん、アイツら以外は全員いるな。

 

 

 では出発。鐘の音とルキィ様にだけ見送られながら街を出る。



「姉は御者台に行く」

「俺も行こう」


 走っている馬車から御者台にどうやって……、なんだ、普通につながっているのか。



「御者。これを飲むといい」

「え?あぁ、ありがとうございます」


 姉が渡したのは試験管。中に入っている液体は無色透明。だが、あれはただの液体ではなく、姉がシャイツァーで色々弄った産物であるのは確定だ。



 おそらく敵味方識別の薬だろう。有難いことだが、俺的には姉にあのシャイツァー──試験管立て──を渡すこの世界の神の正気を疑う。



「ふむ、こいつは大丈夫そうだな」

「何を飲ませた」

「ちょっとしたものだ。にしても」


 馬車をじろじろ見る姉。



「男女で分けるために馬車二つにする気概はなかったのかね、あの王は」

「なかったからこうなってるんだろ」


 仮にあったとしても御者が二人必要になる。この御者はたぶんルキィ様の子飼いだから、問題ないのだろう。が、もう一台増えた場合、それもルキィ様の子飼いに出来るか怪しいだろう。敵になりうる人物が増えるくらいなら、こっちのがマシだ。



「寝るときはどうする?」

「女性陣が中で良いだろ。賊が湧いて出た場合、狙われるのは女子だろう?釣りをするわけじゃないんだ。手間は減らすに限る。大宮がいるから男子も地面に直に接する、野ざらし…ということはない。心配無用だ」


 あいつなら俺ら全員が入れる雨風をしのぐ建物くらい、立ててくれるだろうよ。何だったら、有宮に頼んでもいい。あいつならそれっぽい植物を出してくれるだろう。



「にしても、二人がいないのは痛いな」

「さっきも言ってたな。森野はわかるが清水さんもか?」

「あぁ。さっき言っていた、手伝ってもらった時の感覚だがな。弟よ、彼女は森野氏の同類(・・)だ」


 森野の同類……か。それは痛いな。



「あの二人が同じクラスだったら姉らが代議員をしなくて済んだかもしれない優秀だと思うぞ」

「俺らが代議員なのは「姉弟でひとまとめにしておくのが楽」という高校側の意図も感じるがな」


 主に姉の暴走防止用に。勝手に化学室の備品を使われるなら代議員にさせて「模範的な行動をとるように」と首輪を付けて自由使用許可出しておく方が楽だろうさ。



 にしても、森野がいないのか。

 

 

 あいつは俺や姉がいないときに代わりに引っ張って行ったり、足りないところを補ってくれたりした。正味、まともな攻撃戦力が俺と姉しかいない捜索隊のリーダーになっても、森野がいれば勤め上げられる…と思ったのだが。当てが外れた。



「そして、弟よ。話すか?」

「心構えをしてもらうために話した方がいいんじゃないか?」


 勝手に召喚しやがったくせに、魔王討伐に動かない帰還魔法捜索隊を討ち取ろうとする動きがあるってことは。



「理由は?」

「うちは帰還魔法捜索隊と銘打ってはいるが「勇者だからと強引に戦いに向かないシャイツァーなのに戦場に放り出されるとか、性格が優しい奴らが無理やりでも戦わないといけないとか、そういうくそったれな状況を避ける」というのも目的の一つだろう?全員が全員、戦いに備えられているわけではない。パニックを起こす可能性は無きにしも非ずだが…、覚悟無しより、強制的でもある方がいいだろう」


 どっちが幸せかなんて知るべくもないが。



「そうだな。パニくるなら姉が薬をくれてやろう」


 そっちのがやばそうだが……、大事の前の小事か。



「賢人君!黒づくめの怪しい集団が来てる!」


 鷹尾か。あいつのシャイツァーは確か……『双眼鏡』だ。サバンナとかにいる動物を見ることが夢だからか、ものすごくよく見えるらしい。

 

 

 見間違いって線はあるまい。



「説明前においでなすったか」

「だな。御者、馬車を少し止めろ」

「朝昼夜を叩き起こせ。後、少し派手になる。覚悟を決めろ」


 すまない。まさかこんなに早く来るとは思ってなかった。心の準備に取れる時間がない。



「一応、話せそうなら話すか?」

「姉に任せる。俺は魔法を組む。おい、朝昼夜は起きたか!?」

「たぶん起きたよ!どうすればいい?」

「防御障壁を張らせろ!」


 眠りを邪魔されたくないからか、あいつのシャイツァーの能力は障壁による防御。どこまで広げられるかは知らないが、馬車を覆えれば十分だ。



 よし、覆えているな。足りないのなら俺が張らなきゃ駄目だったが、その手間は省けた。

 


「おい、そこの」


 !?もう、追いついてきたのか。馬車を止めたからか?



 それより、姉が雑すぎる!どんな声のかけ方をしてるんだ!?



 さっさとこちらも魔法を完成させねば。俺のシャイツァーは『全能の魔導書』。大そうな名前がついている割に、発動にはパズルを解く必要がある。



難易度はそこそこだがすぐに解ける。よし、後はこの三角形をはめ込むだけ。



 姉に視線を送る。



「お前らは私たちの敵か、否か」


 姉ェ……、ほかに聞き方はなかったのか。



「敵だよ!」


 敵も敵だ。何故無言で襲ってこないのか。まぁいい。



「『毒沼(ポイズネススワンプ)』」


 最後のピースをはめ込み発動。

 

 

 彼らが立っている地面がぬかるみ、突如現れた毒々しい見た目の沼にポトンと落ちる。程よい深さの沼と、それに含まれる麻痺毒が敵の動きを阻害する。痺れていれば魔法も撃てないだろう。詰んだな。



 ついでに、自殺も防ぐ魔法を展開するか。



「『自殺防止結界アンチ・スイサイドエリア』」


 これでよし。



「これから尋問する。見たくないやつらは馬車内にいろ」

「俺が光と音、臭いを遮る結界を張る。中からなら絶対に見えない」


 見たいなら外に出てもらう必要があるが、そんな稀有な奴はいない。さっさとパズルを完成させて…っと。



「いけたぞ。これで俺の魔力が尽きるまで大丈夫だ」

「さすがだな。ところでこの毒どんな毒だ?」

「知らん。魔導書が引っ張ってきた。麻痺毒ってことくらいしかわからん」


 自分で魔法を組めるわけではない。どうやら過去や現在に存在する魔法を引っ張ってきているだけらしい。ただ、今の魔法は行動阻害を主眼にしているから死にはしないだろう。顔が沼に沈めば別だが。



「そうか」


 姉よ。「ちっ、せっかく生の素材が5個も手に入ったのに、コンタミったか?」とか小さい声で言うなよ。中の奴らに聞かれたらドン引きされるぞ。



「まぁ、いいか。さて、貴様ら。貴様らの中にどこから来たとか今の段階で喋りたい奴はいるか?」


 これは尋問なのだろうか。直接聞く奴があるか。襲ってきた黒服たちには確かな敵愾心がある。



「よろしい。さすが国家の犬といったところか。最低限の訓練は受けているようだ。では、君。これを飲みたまえ」


 有無を言わさず試験管を口にねじ込み、流し込む。

 

 

 軽く黒服が溺れかけているように見えるが無視。口が空になってから試験管を口から外す。瞬間、激しく震えだし、わけのわからない言葉をひたすら叫ぶ。そしてやや落ち着いてきたころに、この世のものとは思えない声をあげて、沼に沈んだ。



「存外、コンタミの影響はなさそうだな?あれはああなるのか」


 納得するように独り言を漏らす姉。



 姉は天才だ。興味のあることは口に出しさえすれば、覚えられる。いうなればあれはノートを取っているようなモノ。



「喋りたくなった臆病者はいるか?」


 喋らせる気はあるのか、姉。何故臆病者とか言うんだ。



「いないか。諸君は勇敢だな。その蛮勇を誇ると良い。君、これをくれてやろう」


 抵抗できない黒ずくめの一人にまた薬を流し込む。が、何も起きない。



 飲まされた本人はおろか周囲の黒ずくめも、多分俺も、不思議そうな顔をしている。



「なぁに、安心したまえ。君は勇敢だ。何もしなければ死にはしない」


 ことさら黒い笑みを浮かべる姉。それを見た彼は毒のトリガーをひいてしまったらしい。耳と目を塞ぎたくなるような死に方をして沼に沈む。



 魔法を使っておいて正解だった。友人たちはこれを見ず、聞かず、臭わずにいることができるのだから。



「あぁ、あれはああなるのか。少し想定外だな」


 淡々とメモを取り続ける姉。姉の興味は薬効と被験者の身長、体重、年齢……といったデータにしかなく、被験者の経歴なぞすぐに忘れるだろう。

 

 

 あぁ、なかなかに狂ってる。かくいう俺も。だが。俺にそれを憐れむ気持ちは毛頭ないからな。

 

 

 覚悟の上だろう。騎士でもない暗殺者。闇に生きるものらしく闇の中で死ね。姉を殺そうとしてきたものにふさわしい末路だ。



「後、3人だな。さて、喋りたくなった無能はいるか?」


 それでもなお無言。実に美しい。だが、無意味だ。どっちにしろ搾り取られて殺されるのだから。



「よろしい。諸君は有能だな。では、君。そこの君だ。これを飲め」


 慣れた手つきで試験管を口にねじ込み、沼から引き上げる。横たえた黒ずくめに薬をかけ、沼の泥と毒の影響から解放する。



「帰ってよろしい。あぁ、死にたいならかかって来るといい。…む、では、達者でな」


 走り去る黒ずくめを満足そうな顔で見送る姉。命拾いしたな。この場では。



 後、数日の命。満喫するといい。



「御者にあいつのその後の情報を伝えてもらえるよう、電報を頼まねばな。さて、そろそろ飽きたぞ諸君。というわけで君らには選択肢をやろう。見た目は同じだが…。一方はすぐに死ぬモノで、もう一方は長生きできるモノだ」


 これ見よがしに二人の目の前で試験管を揺らす。



「隊長っぽい君には、こっち長生きできるものだ。ほら、飲め。で…、君。君は死ぬといい。飲んだな。では、さよならだ」


 選択肢とは一体何だったんだろうか。だが、すぐに死ぬモノを飲まされた彼はそれを思う間もなく沼に沈んだ。



「さて、君。しゃべるかい?」


 わざわざこちらの言葉で『自白薬』とラベリングされた試験管を手に持って問いかける姉。



「喋らない場合これを飲ませるしかないのだが……。さっきの薬を飲んでいるときにこれを飲むと、君だけじゃなく君の大切なものにさえ害が及ぶぞ」


 残された隊長格らしき彼に選択肢などあるはずがなかった。







______


「ふむ。やはり王の命令か。ありがとう。飲め」


 姉は殊更に優しく新しく作り出した薬を飲ませる。



「では、”Good(よい) night(眠りを)”」


 姉の言葉が空に吸い込まれ、同時に彼もこと切れた。



「姉。さっきのはなんだ?」

「向こうにあるものを弄ったものだ。こっちにもあるかもしれんが、姉は確認できていない。弄ったのは塩素や、青酸カリ、ヤドクガエルの毒…だったか?帰らせた奴に飲ませたのはフグ毒とサソリ毒をいじったやつだ」

「フグとサソリ?あぁ、イオンチャネルか…」

「その通り」


 フグとサソリは、ある特定のイオンチャネルを開く、もしくは閉じる毒を持っているのだったか。どっちがどっちかまでは知らないが。



 イオンチャネルは生体のナトリウムや、カリウム等のイオンの流れを開閉によって管理するもの……らしい。詳しくは知らないが、それが開きっぱなし、もしくは閉じっぱなしになると死ぬ。



 うまいことやれば、効果を打ち消しあって死ぬ時間を遅らせることできる。実際に日本でやったやつがいたはず。なんだかんだ有能な日本の警察が捕まえたらしいが。ともあれ、



「うまく混ぜたわけか」

「うむ」

「遅延で効く毒を作ればよかったんじゃないのか?」

「かもしれないが、面白くない」


 そうか。なら仕方ないな。面白くないならやったところで忘れそうだ。



「あの自白薬は?」

「隊長に飲ませたのは帰らせた奴に飲ませたのと同じ。あれは確か…フグ毒を少しばかり無力化する。感覚的には…6時間後くらいか?それくらいにサソリ毒の影響が出る、隊長に最後、飲ませたのはサソリ毒の無効化だ」


隊長が死んだのはフグ毒のせいと。



「サソリ毒の効果は?」

「知らない方が幸せだぞ?そら」


 にっこり笑って俺の腕を引っ張る姉。程よく距離を取ると毒沼に試験管を投げ込み、沼を丸ごと燃やし尽くす。



「埋めるのは任せる。姉はシャイツァーをいじる」


 ん?穴を作ったのは俺。片付けるのは当然だが、まだ弄るのか?



「試験管に何か薬品を入れて出す。薬品は元の世界のを弄れる。それが姉のシャイツァーだよな?」

「あぁ。だが、どこまでできるか不明だろう?限界を知りたい。そういう意味では、意味があったな。あいつらも」

「そうか。それは何より」


 試験管立てを渡したのは許せないが、子供のように目を輝かせている姉を見れるのは悪くない。



「弟も調べておけよ?シャイツァーに聞くだけじゃ十全に把握できたとはいえんぞ。使ってなんぼだ」

「了解。で、埋め終わったわけだが」

「パズルを片手間で解いたのか。さすがだな。では、御者に頼んで進むか」

「あぁ」


 いろんな魔法を解除、再び馬車は動き出す。



 惨劇の痕跡はなく、目撃者は俺と姉だけで、俺も姉も覚えておく気はない。



 だから誰も、彼らの末路を語ることは出来ないのだ。

『コンタミ』

“Contamination“の略。使用分野によって意味が変わりますが、一般的には「何かが汚染されていること」を指します。



 化学分野では「想定物質以外の物質の混入」を意味します。大発見につながる可能性もありますが、大体は実験結果がおかしくなる原因にしかならないので、忌み嫌われます。



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