27話 蕾
「どうしたらよいのでしょう」
「俺らに聞かれましても」
「嘘はついてないですよ?」
「わかっています」
頭を抱えたり、口から魂っぽいのが抜けそうになってたりと、忙しそうなフランソーネさん。まぁ、原因は俺ら…いや、違うな。俺らの話なのだが。
「聞きたいと思っていたのはわたくしですし、来てくださった皆様を招き入れたのもわたくしです。ですが、こんな話聞かされますと寝れないではありませんか」
ですよねー。俺らが今日、迎撃したのはボロス率いるアロス軍団と、チヌカたるリブヒッチシカそれに、そいつが変じたノサインカッシェラ。
ボロスとアロスは死体がそこらに散らかっているから確認は容易。だけど、リブヒッチシカはノサインカッシュに食われて何も残ってないし、ノサインカッシェラはもともとが光だったからか何もなし。唯一証拠になりそうだった核らしきものは俺と四季の間に置いておいたら消えて、どこにもない。
チヌカは神話に出てくる存在。この世界にとっては白地から侵攻して来たらしい仇敵。そんな重要そうな存在が湧いて出たのに、それを示すものは俺ら家族の証言のみ。
詰んでるね。
いくら証言者の俺らが黒髪で、勇者信仰があるといっても、信用されるかどうかはかなり微妙。
2000年前は前すぎる。地球で言えば、西暦20年とかそのあたり。ギリギリ、イエス・キリストが生まれてるレベル。地球だったら文字通り神話の時代。「そんな時代の遺物が出てきましたー」なんて信頼されないほうが当然という感じさえある。
「えぇと…、どうしたらよいのでしょうか。魔物が湧いていた異変と絡めればなんとか…、なるのでしょうか?いえ、それよりイベアのフランシスカ王女…は呼べるわけないですわね。というより、そもそも呼べても無理やりお三方に受けさせるわけにもいかないですわ」
何故ここで、フランシスカ王女という人名っぽいものが出てきたのだろう?独り言っぽいからそれに突っ込みを入れたりしないけれど。
フランシスカ王女様は心を読むとか嘘をついているか否かの判断が出来るのだろうか。
「仮にフランシスカ王女を呼べて、受けていただけても馬鹿は馬鹿ですし…。「王女の妄言では?」とか抜かす輩が「さすが、武の第一師団。よく考えられておりますなぁ!」とか言いそうですわね」
あぁ、やっぱりフランシスカ王女様は嘘を見分けるとか、心の中を読めるとかそんな感じっぽい。でも、それを他者に伝える手段は己の言葉だけ…と。信じさせるのは難しそう。
証拠のない過去の出来事についての言及に嘘偽りないことを証明するのは不可能に近い。
フランソーネさんも大変そうだ。彼女が言ったのはすごく貴族っぽい言い回し。直接罵倒せずに、遠回しというところが正に!ってところ。「考える」に「武」なんて誉め言葉は基本使わないだろうから。
「所詮、脳筋の浅知恵。どんだけ金積んだんだ?」が翻訳か?イベアも馬鹿にしているような発言なんだけど、言う奴いるのかな。いるんだろうなぁ。
「ん゛ん゛っ!失礼いたしました。とりあえず、アベスとボロスなる魔物の報酬は出せると思いますわ。振り込みがまだの分がありますので、そちらに引っ付くことになるかと。残りは…」
「微妙ですよね」
さっきまでの独り言を聞いている限り。
「はい。リベールを筆頭とする我ら第一騎士団は大丈夫でしょう。が、王や残る貴族たちがどうなるかわかりませんので…。イベアにはフランシスカ王女という方がおられまして、その方は心を読めるシャイツァー…、『真想天秤 ハリヴ』の使い手ですの。その方に心を見せていただいて、確認していただければ確実に出るかと」
件のフランシスカ王女様は心が読める方でしたか。人間不信になりそうですね…。
「ですが、私たちが会えるか怪しいのでは?」
「そこは我々の名で依頼書を書いておきますのでご安心を。あぁ、強制ではありませんのでご心配なく。ただ、受けていただけますと、王や有能な人物は軒並み信じてくださりますので、繰り返しになりますが、確実に報酬が出ます!」
騎士団が王女様への依頼書とか書けるのですね。フーライナ第一騎士団の名は伊達ではないということか。
「聞き取り調査へのご協力ありがとうございました。後は我々にお任せください」
「「はい、お願いします」」
さて、宿に帰るか。忘れずにお話前にフランソーネさんに頼んで買ってもらった、アイリの目薬の素材を受け取っておかねば。
「さぁ、やけ酒ですわ!リベールがいれば押し付けられるのに、押し付けられませんし、アレムがいなくて寂しいですもの!仕方ありませんわよね!」
部屋からなんか問題発言が。寝れないって言ったはずなのに、やけ酒とかしていいの?それに、やけ酒したら明日来るだろうリベールさんに仕事が回るのは確定では?
「やけ酒と言っていますが、コップ一杯飲めば止まりますのでご安心ください。あの方々は大勢で楽しく飲むことを好まれますので、なんやかんやで仕事します」
それならリベールさん、アレムさん。この3人は引き離しておいた方がよいのでは…?
「仕事で仕方なしなら兎も角、強制すると暴発しますので…」
なら仕方ない…のだろうか?謎。まぁいいか。アイリの待ってる宿に帰ろう。
_____
フランソーネさん、アレムさん、リベールさん。フーライナ第一騎士団三人衆とでもいうべき人達の誰にも見送られることなく『メドニエス』を出発。
とはいえ、見送りはなくとも、死にそうになってるフランソーネさんや、フランソーネさんに会いたくて死にかけてるアレムさん、走り回らされたのか馬が可哀そうになってるリベールさんには街中で会えた。し、リベールさんに俺らがいなくても大丈夫か聞いてみても、大丈夫って言ってくださった上、詳しい道まで教えてくださったから平気だろう。
後はお任せ。処理がどれだけ早く済むかは未知数だけれど、あの人たちならアベス、ボロスの件が宙ぶらりんになることはないだろう。
「ブルッ!」
「分かれ道だね。教わった通り川沿いの道に行って」
「ブルッ」
俺ら三人を乗せたセンは軽い足取りで分岐を国境の街『ハラフリコス』目指して北西に進んでいく。
分岐先の道は川沿い。川の名前は知らないけれど、ずっと先まで見通せる。すごく長閑で気持ちがいい。
馬車じゃなくて、三人でセンに乗っててよかった。馬車だと全員で綺麗な光景を楽しめない。
昨日、念のため傷ついた『回復』を使い切って、朝晩で色々書いた。けど、要らなかったんじゃないかと思えるくらい、のんびりしている。
まぁ、書かなくてよかったなんてほざく気は毛頭ないけれど。これまでの道ものんびりしていたはずなのにプロスボア、ビイ、アロスに襲われているもの。
とりあえず復活させたのは『火球』、『旋風』、『回復』×2と『浄化』それに『土槍』と『ウォーターレーザー』の7枚。また襲われない限りは十分。
「…美味しい」
「そう、よかった」
「遠慮せずに食べてくださいね」
「…ん」
アイリが食べているのは俺らがセンを仲間に加えた時に作った飴。これまで何度も食べていて、目新しいものではない。
だけど、昨日起きてから時々、口の中に放り込むときに幸せそうに言ってくれている。アイリと距離を詰められたように感じられてうれしい。
そんなアイリの目の色は、買ってもらった素材で調合した目薬のおかげで俺らと同じ黒。こっちも素敵だけれども、もともとの澄んだルビーのような赤の方が綺麗で、可愛らしいと思う。
…そんなことが出来るわけがないから言わないけれど。でも、目薬だと不便が出るかもしれないから、魔道具は買いなおした方がいいだろう。鞄が盗られて材料がなくなった!なんてことは起こりうるのだから。
「あれ?習君。今、誰かに呼ばれませんでした?」
「え?呼ばれた?呼ばれたって誰に…」
[助けてー]
なるほど。これか。
「…どうしたの?」
「声が聞こえるのです」
[助けてー]
まただ。でも、アイリもセンも不思議そうな顔。二人には聞こえていないらしい。いや、そう判断するのは早計だろう。聞こえているといってもかなり小さい。もう少し大きければ聞こえるかもしれない。
[助けてー]
助けてって言われても…発信源はどこだ。周囲の様子は全然変わらない。見通しのいい平野と川があるだけ。盗賊はもちろん、小さな穴、ちょっと子供が隠れられそうな小岩すらない。そんな場所でどこにいるんだ。
[助けてー]
「声は大きくなってきてます…よね?」
「だね」
間違いなく声は大きくなってきている。ということは近づいてきているはず。でも、収穫期のはずなのに、主要街道から外れているからか前も後ろも人影はない。
[助けてー]
でも声は確実に聞こえているし、大きくなっている。謎…ん?前にも後ろにも人影がなくて、助けを求める声が近づいてくる?となると、川か!?
けど、誰もいない。だのに、声は聞こえてくる。
川には何もないわけではなくて、一応、俺や四季が抱えられそうな蕾がドンブラコと流されてる。え。まさか…あれなの?あれなのか?
[助けてー]
うん、あれだね。四季と顔を見合わせているうちに蕾が俺らの横を通った。その瞬間、声が遠ざかっていくような感じになった。あれで間違いない。
「セン。あれを追って!」
「ブルッ!」
センは速い。から急がなくても流れる蕾に並走するくらい余裕。で、
「どうやって助ける?」
「私たちの魔法は攻撃系ですから、川の一部を凍らせて捕まえるのが良いのでは?」
「だね」
というか、それしかない。のだけど、残念ながら『氷』系は書いていない。
「アイリ悪いけど」
「…準備は出来てる」
おぉう…。既に伏せてくれてる。
「ありがとう」
紙を渡してくれる四季と台になってくれるアイリに感謝を込めて、紙の上でペンを滑らせる。魔法は適当に『氷弾』。小さな氷の弾をたくさん撃つ魔法。いろんな場所を狙って籠を作るにはちょうどいいだろう。
ささっとペンを滑らせ、『氷弾』っと。完成。
「四季!」
「はい!」
いつものように手を繋いで発動。川めがけて氷弾を無数に撃ち出し、蕾の進路を凍らせる。
ツボのような形にした。入り口部分から中に入ってくれれば、氷の壁があるから絶対にどこかへ流されない形。そして、ツボは流れに直角な蕾があったところと同じ位置から形成させたから、ほぼ確保出来たも同然で…うん、いけそうね。
そろそろ座礁しそう。濡れずに捕まえられるよう、ツボと岸を氷でつないである。そこを通れば助けられる。
「セン。止まって。俺が取ってくる」
「習君、私も行きます」
「いや、ここは俺が行く」
めっちゃ危険とかなら嫌だけど四季も連れていくけれど、助けを求めていた蕾を取りに行くだけ、危険はあまりないはず。
一応、氷を歩くのが危ないくらいだろうか。それくらいなら俺に行かせてほしい。見栄を張らせて欲しい…のだけど、駄目そうね。待たせると蕾が可哀そう。
やりたくないけどガン無視するか。俺のが走るのは速いし、四季は賢い人だから「こないだろう」と思っている俺がいるところにわざわざ来て、二人で川ダイブ!なんてことはしない。
一瞬、唖然とする四季が伸ばす手をひらり回避して氷の上へ。蕾はちゃんと止まってる。
予想より軽くて川に落ちる…とか、重くて腰が…とかは避けたい。重さ把握のために両手でつかんで、少し持ち上げようとしてみる。
…うん、この程度なら余裕。『身体強化』すら要らないだろう。…まぁ、安全のためにするけど。
さっさと岸へ。少し不満げな四季は…どうしよう。
「習君…」
「氷が冷たいから、ずっと触れっぱなしだと可哀そうでしょ?」
「た、確かにそうですが…。むむぅ…あまり納得がいきません」
とか言いながらも四季はタオルを渡してくれる。蕾をわしゃわしゃ拭いてやると、どことなく嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。
「代償魔法じゃないんだから、一人なら平気でも、二人取ると落ちるかもだよ?」
「そ、そうなのですが…」
納得いかないみたい。
それも仕方ない。俺が行くか、二人で行くかは俺と四季の主義の対立。俺は四季にたまにはいいところを見せて、彼女に楽をさせてあげたい。けれど、四季は危険なところには一緒に突っ込みたい…という。円満に収まるのは無理だよ?
「わかってるのです。習君の考えていることもわかってはいるのですが…、こう、何と言いますか…。少し言いたくなるのです。ま、結果論ですが何事もなかったのでよしです。もっと危なそうなときは絶対に一緒に行きますから」
念押しされなくてもわかってるよ。そっちは曲げないさ。やばそうなら四季だけ逃がそうとか考えずに、一緒に立ち向かって突破すればいいだけのこと。
「…で、この子は何なの?」
「さぁ?」
「謎ですね」
[助けてー]とか言っていた割に、今は無言。何か伝えたそうな雰囲気はあるけれど、言葉になってない。
「もう悟ってるだろうけれど、この子が助けを求めていた子なんだけど」
「声は聞こえてましたか?」
首を横に振るアイリとセン。ほんと、この子はなんなんだろう。
「こう見ていると蓮に似ているような気がしますね。下はどうなってるのでしょう」
「俺が持つから、見る?」
「重くないですか?」
「『身体強化』があれば余裕」
四季でも余裕…かはわかんないけど、持てるはず。アイリは体格的に強化があってもきついかもしれない。
とりあえず持ち上げて…っと。
「どう?」
「蓮の蕾だけを茎から切断すればこんな感じ…というところでしょうか。ただ、茎と繋がってたらしき部分は自然に取れたような印象があるので、無理やり落とされた感じはないです。私が持つので習君もどうぞ」
ありがとう。落としそうには…ないね。そのまま屈伸を何十回と出来そうなくらい安定してる。
……うん、見てみたけど、四季が言ってくれた以上の情報はないね。あぁ、でも、茎と繋がって他っぽい部分は綺麗だ。絵画で蓮の花を見た時の中心にある黄色いものみたいなのがある。おそらく、これ一個で完成されてる。
「…わたしも持たせて」
「重いので気を付けるのですよ」
「…ん」
覆いが付けられてぱっと見、鎌には見えない鎌を地面に突き刺し、蕾を持つアイリ。アイリも150 cmくらいはあって、そこそこ大きいはずなのだけど、蕾はアイリの顔や肩を隠している。割と大きい。
「…むぅ。重いね」
「うん。なかなかの重さ。具体的な数値はわからないけど」
「何かと比べられればいいのですが、適当なものもありませ…」
四季?
「何故アイリを見て固まっているの?」
「なんとなく、アイリちゃんだったら同じくらいの重さな気がしたので」
「…持つ?いいよ?」
蕾を地面に置いて万歳するアイリ。そんなアイリの脇に四季がスッと手を差し込んで持ち上げる。持ち上げられたアイリは無抵抗にプラーンとなってる。
…なんかネットの画像で見た猫っぽい。かわいらしいけど…腕が差し込まれているところに体重がかかって痛くないのだろうか。
「ありがとうです。で、蕾…アイリちゃんとトントン…はないですね。蕾のほうが幾分か軽いです」
「そうなの?」
「…試す?」
万歳して待機するアイリ。昔だったら頼んでから初めてこの態勢になってくれただろうに、今は自分からやってくれてる。こういう細かな心を開いてくれたっぽい動作がすごく愛らしい。
「試してなんですけど、アイリちゃんを基準にしようにもアイリちゃんの体重が不明ですよね」
「確かに」
そもそもこの子の体重ってどれくらいだ?身長は150 cmくらい。…このくらいの女の子の平均体重なんて知らないぞ?
「日本人の平均身長的に考えるとアイリちゃんは小学校高学年か中学くらい…。体重は43くらいが平均だったと思うのですが」
「…たぶんもう少し重いよ?…前に50くらいって言ったような」
確かに言ってた気がする。そして今なら、一杯食べてるし、動いてるからその分筋肉がありそうだから、妥当そうにも思えてくる。けど、
「それで確定?」
「…ではないと思う」
そっか…。基準がわからなかったら四季の言うように、比べてもあんまり意味がないか。
というか、平均を考えたとしても所詮日本の女の子の平均。ここは日本じゃない。一致しない可能性は普通にあるというか、さっきの会話からして一致しないだろう。
「アイリちゃんよりお米の袋一つ分…あぁ、10 kgほど軽い気がしますが…、だから何?ですよね?」
「うん」
重ければセンに乗せられないという問題はあるけれど、このサイズだと最初っからセンに3人乗りという選択肢は消える。誰が持っても邪魔だ。
「仕方ない、馬車出すか」
「ですねー」
御者はセンが賢いからしなくても平気ではある。けれど、それではかっこが付かないからアイリに見てもらいながら四季と交代しながら進んでくか。
「今日中に『ハラフリコス』につけるかな?」
「…たぶん。馬車だと移動速度が落ちるけど、夜には着くはず」
ありがと。野営はせずに済みそうだ。
「…何かそこで買う?」
「ないです…よね?」
「うん、ないはず」
必要なものはこれまでの街で買ってある。だから、
「宿くらいじゃないかな?」
「ですね」
「…懸命。国境抜けてもすぐに街があるわけじゃない」
せっかく街についたのに夜ご飯だけ食べて野営とか意味わかんないしね。
「朝になったら国境を抜けるかな」
次の国は『アークライン神聖国』。世界最大の図書館があるらしき、この世界最大の宗教の聖地。そして、少し今はきな臭い国。だけれども、俺らなら何とかなるだろう。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
1章本編はここまでです。
閑話5話と人物紹介を毎日18時に投稿しまして、連続更新は終了です。




