26話 戦い終えて
センがめっちゃ喋るので、途中フリガナのところがあります。
体が冷たい…けど意識は無事戻った。周囲の様子……
「ブルルッ!」
は確認しなくても「大丈夫!?」って言ってしきりに顔を舐めてくるセンがいるから大丈夫だろう。たぶん。まぁ、変な音もしないし。
「大丈夫。見張りありがとね」
「ブルルッ!」
「いーよー!」と鳴くセンの後ろには俺らの馬車が。馬車を護る…ってのもちゃんとしてくれたのね、そっちもありがと。
「ん」
「ブルッ!」
横に移動してしきりに舌を動かすセン。四季が起きて、俺と同じ目にあっているのだろう。
「おはようです。セン。習君…も起きてますね、おはようございます」
「うん、おはよう四季」
「あの、習君?」
ごめん。四季が何を言いたいかはわかってる。なんでこっち見ないのってことでしょ?でもなぁ。
「四季、悪いけど先に下を見て?」
「下…えっ、あっ。あの…恥ずかしいのですが」
「だから顔をそらしてるの。着替えてくれると嬉しい」
俺を見てるなら俺の惨状も目に入るはずなのだけど。何故、自分は無事だと思ったんだろう。
幸いにも攻撃は受けても掠るだけ。腕やわき腹はともかく、胸とか足の付け根付近とかは無事。
でも、雨は止んだけど、まだ乾いていないせいでピトッっと服が貼りついてて、ところどころに肌色が見える。好きな人のそんな妙に艶のある姿を見せられるのは目に毒だ。
「着替えますね?で、習君も着替えてくださいね?」
「わかってる」
四季と同じく俺もヤバイ。男のあられもない姿とか需要がなさそうだけど、四季も寝言で俺が好きって言ってくれてたし、|俺と同じ理論《好きな人の妙に色気のある姿》で駄目なんだろう。
「着替えたいのですが、問題が」
「アイリがここにいる……ことだよね」
こくっと頷く四季。
理由は謎だけど、アイリがいるのは俺と四季の間。屋内で寝るときなら俺と四季が気恥ずかしいから挟まってもらっていたけれど、ここは外。
護衛の立場を重視しているアイリが、センがいるとはいえ、こんなところにいるのは珍しい。
しかも幸せそうな顔で俺や四季に体重を預けている。嬉しいけれど、俺らはもちろん、着替えなきゃだめだし、アイリも疲れていたからか着替えておらず、俺らと同じように服がべとべと。着替えさせてあげないといけない。
「俺が運b「いえ、私がやります」了解」
四季が言葉に割り込んできた。やるって言ってくれているならお願いしよう。同性の方がいいだろう。
「じゃあ、馬車に運んであげて。馬車の中で着替えて。俺に四季が着替えてからでも服を投げてくれれば助かる。そこらへんで着替えるよ」
「馬車の中に仕切りを作った方が…」
「いいよ。俺は男だし外で良い。出来るだけ早く二人をびしょ濡れから解放させてあげたい」
魔法でなんとか…は残念ながら出来そうにないし、ついたてを組み立てるとなると時間がかかりすぎる。
「…むぅ。優しさを有難く受け取っておきます」
目をそらしているうちに馬車に入ってもらって、体を隠した四季から服を貰って、着替える。
服をくれた時間からして、着替えてからでいいって言ったのに着替えてないっぽい。しかもこの着替え、濡れてない。めっちゃ頑張ってくれたか……考えるのはやめよう。
「セン。ちょっと手伝って」
「ブルッ!」
ありがと。こっちに来てくれたセンの上に着替えとタオルを置く。そういえばこの子、雄雌どっちだ?女の子の気がするけど…、種族違うし、いいか。
ボロボロになった服は脱ぎ捨てて、
「ブルッ!ブル、ブルルル、ブルルン!」
え?「待って!それ、乗せても、いいよ-!」って?
「濡れるよ?」
「ブルルルー!ブルルルン、ブルルル!」
「だいじょーぶ!捨てるより、いーでしょ!」…ね。確かにそうだけど…。
「ブルル、ブルルル!」
「水は、払えるよー!」…と。うん、そこまで言ってくれてるなら拒否し続けるほうが悪いか。脱いだのを乗せて、四季がつけてくれているタオルで体を拭く。
うへぇ…本当にびしょびしょ。タオル一枚でぎりぎり足りるかどうか。
でも、拭いてみたら何とか一枚で足りた。後はちゃっちゃっと着替えて終了。濡れた服やタオルをセンから取って、
「ありがと。セン」
「ブルルーブルルルン!」
「どーいたしましてー!」だね。ありがとう。
鳴いたセンはちょっと俺らから離れて、全力で体を振るう。俺の服で濡れた水分が一気に綺麗になった。
「習君。着替えは終わったのでこっちに来てほしいのですが」
「ちょっと待って」
早くない?四季だけ着替えてアイリが着替えてない…とかいうボケはないよね?
「二人とも着替えてる?」
「ます。ドライヤーの魔法作成と乾かし、お願いします」
「了解」
それならためらう必要はない。四季から紙を二枚受け取ってちゃっちゃと『温風』、『冷風』作成。なんとなくだけど、普段よりも魔力消費が多いから、気絶して1日以上経ってる……なんてことはなさそう。
「先にアイリちゃんから済ませましょう。えっと…、私がアイリちゃんのやりたいのですけど、いいです?」
「いいよ?というか頼んでいい?」
髪への気配りは明らかに俺より四季の方がうまくできる。
「はい、お任せください」
寝ているアイリの頭の下へ膝を入れて膝枕。それからいつも通り丁寧にかつ迅速に髪を乾かす。
「よし、完了です。習君。今日はこのまましてもらっても?」
「いいよ」
アイリを膝枕したままというのは初めてだけど、あんまり勝手が変わらないから問題ない。せいぜい、長い四季の髪を乾かすときに、風がアイリに当たらないように持ち上げてあげた方がよくなるくらいかな。
「アイリちゃん、そろそろ話してくれますかねぇ」
「話してくれる……とは思う。でもさ、四季。俺らももうちょっとアイリの方に踏み込むべきだったかもしれない」
少しだけ積極的に。話したくなったら話して。で放置しすぎるのは、逆に話そうとする意志を奪ってしまうかもしれない。
強制的に言わせることは絶対に避けたいけれど、これまで色々あったアイリにとって、自分のことを話すのは勇気のいる作業のはず。こっちから話題に乗せてあげることで、多少なりとも話しやすくなるかもしれない。
「そう…ですね。習君も同じ意見なら怖がる必要はありませんか。ちょうどいい塩梅が難しいですが、聞いてみましょう」
「だね。で、終わったよ」
「もうですか。ありがとうございます」
ちゃんと綺麗に乾かせた。濡れただけで洗っていないから、お風呂上がりの時ほどの艶はないけれど、黒いしっとりした髪が四季の優し気な印象とよく合う。
「で、どうしよう」
「どうしましょうか」
お腹は空いているようで空いていない。明らかに寝すぎた弊害。
馬車で移動してもいいけれど、アイリが寝ているから出来るだけ揺らしてあげたくない。し、せっかく、俺と四季の間で寝てくれていたんだから、近くにいてあげたい。
「ブルルッ!」
「お話しよー!」って?
「出来るだけ小さめの声ならいいですよ。…いいですよね?」
「うん。いい…というかお願い」
センは俺らが寝ている間、見張りをしてくれていたから、何があったか把握しているはず。むしろ聞きたい。
「ブルル、ブルルル」
「何も、なかったよー!」って?そっか。ありがとう。でも違う、そうじゃない。確かに心の中で「センなら見張り中何があったか把握してるよね」的なこと思ったけど、それだけで終わられると困る。
「ブルルルル、ブール。ブル、ブルルル、ブルルル、ブルルー」
確かに。えっと、じゃあ…。
「馬車と、センが見た戦闘のお話をしてほしい」
「ブルッ。ブルルー、ブルルルッ、ブルルル!ブルルルッ、ブルルルル、ブルルルッ!」
見りゃわかる情報しかない。抽象的に聞きすぎたか。
「何か取られた雰囲気とかありませんでしたか?」
「馬車のドアが不自然に開いてたとか、荷物が走った以上にぐちゃぐちゃだったりとかは?」
「ブルルルッ!」
そっか。後でしっかり確認するけど…多分、大丈夫だな。こんな森の奥までわざわざ人は来ないだろう。
というか、よく見りゃ馬車の一角に全部袋積んでる。
「戦闘は?」
「ブルルルルッ、ブルルッ!ブルルルー、ブルル、ブルールルッ、ブルルッ!」
了解。
「ブルッ!ブルー!」
得意そうな顔になってちょっと距離を取るセン。えいやっ!と首を振るとセンの頭の上に光の角。
「新しくできるようになったの?」
「ブルッ!ブルル、ブルルルルー、ブルルッ!」
また頭を振り上げると、センの周囲に光の壁が。
「角が攻撃用で、光が防御用ですか?」
「ブルッ!」
勢いよく頷くセン。
角は明らかに魔法的な何かで作られているけれど、硬そうだ。頭以外から生やせるなら、センだったら既に見せてくれてるだろう。だからたぶん生やせるのは頭からだけだろう。
「突進して頭は平気なの?」
「ブルッ!」
平気なのね。魔法だし、そのあたりはうまく誤魔化しているのかな?
「壁はどのように使えるのですか?」
四季の声を聞いてセンは壁を全周、前にだけ。後ろだけ。下だけ…と、色々な出し方でポンポン出していく。見る限り展開範囲や場所は任意っぽい。でも、いかなる時も同時に二枚以上展開してこない。必ず、一度消してから再展開している。だから、最大展開数はどんな壁であれ一枚なんだろう。
「その壁に俺らは触れる?」
「ブルルー」
駄目なのね。
「センの味方認定されているとすり抜けちゃうのです?」
「ブルッ!ブルルッ、ブルルー、ブルルルー!」
味方じゃなければ問答無用で通れない…ぽい。でも、その場合、
「壁が地面にめり込んでいるときに進もうとしたらどうなるの?」
「ブルルッルー!」
でっぱりがあったら強引に押して行っちゃうということか。
小さいでっぱり程度なら強引に押し通していけるのは便利だろう。でも、失敗してがっつり地面にめり込んでるときとかに動かしちゃうとゴリゴリ魔力削られそうね…。
「魔力消費はどんな時に?」
「ブルルルー、ブルルーブルルッ!」
展開、維持に魔力を使わない…なんてなんとも都合のいいことはないか。それに被弾もあるのね。
「被弾の判定は敵がべたーって張り付くのも含む?」
「ブルッ!ブルルッ、ブルルー、ブルル、ブルルッ!」
石を投げつけられるのと、石を弱めに押し付けられるのでは、前者の方が辛そうね。…後者の時間が長けりゃ後者のが損害が大きくなるのだろうけど。
「ソーネ!馬車が!」
「ありますわね!そして、あの馬車は…」
む。聞きなれた声。でも、これってフランソーネ夫妻では?別れたはずなのに何故。
「いろんなところで見たことがありますね!」
「ですわね!」
「俺らの馬車ですね!」にはならないのですね。
「む?白馬がいますね」
「ですわね。あのお馬さんは……どこで見ましたっけ?」
「忘れましたね」
「ブルッ!?」
「というのは冗談です。センですね」
お馬さんの区別はつくのですね。騎士さんをやっているだけあるというべきだろうか。
「シュウ様!シキ様!いらっしゃいませんか!」
「いましたわ!」
返事する前に荷台がぱかっと開かれる。聞く意味…と思ったけど、俺らの安全のためか。周囲の状況が状況だ。血だらけで倒れている可能性もあった。
「「こんにちは」」
「「こんにちは」」
大きかったお二人の声が小さくなっている。寝ているアイリを見て配慮してくれたのだろう。…そんな配慮が出来るなら何故1の鐘に突撃してきてしまうのか。
「また、ですか」
「また、ですね。遺憾ながら」
何で面倒くさいやつらと遭遇戦しなきゃならないんだ。しかも雨中で。
「雨雲の一部が消えうせたので見に来てみてよかったですね…」
「ですわね…。お話を聞きたいので先に『メドニエス』…に行っていただくのはやめたほうがいいですわよね?」
「ですね。消耗されているでしょうから。ええと、殲滅は済んでいますか?」
どうなんだろう?木は切除してボロスは殺した。リブヒッチシカは討ち取ったし、ノサインカッシェラもまた同様に討伐しているはず。だけど、アロスや万一、リブヒッチシカが他に魔物を作っていればわからない。
「残っているとしたらこまごました奴だけですか?」
「もし残っているならそうだと思います。確証はないですが」
「了解です。なら、ソーネ」
「かしこまりましたわ」
二人は互いに会釈。そして、アレムさんは颯爽と馬で駆け出して行った。
「さ、皆様、参りましょう」
「え。いいのですか?」
流れ的にフランソーネさんが『メドニエス』にまでついてきてくれるんだろう。こんな場所まで来てしまっているから場所が分からない。案内してくださるのはありがたいけれど、アレムさんが走って行ってしまえばここには誰も残らない。
「二人しかいませんもの。仕方ありませんわ。要人救助と援軍要請…それで手一杯ですわ。残党がいた場合、犠牲が出てしまいそうですがそれはそれ。致し方ありませんわ。可能ならば全て救いたいですが、わたくしたちの手はそこまで大きくありませんもの」
犠牲が出うることは承知の上ですか。なら、そのご厚意に甘えます。
「御者はわたくしが致します。お三方は休んでいてくださいまし」
ありがとうございます。
「さ、セン。ちょっと右に行ってくださいな。わたくしの愛馬、シルドを横につなぎます。二人とも仲良くしてくださるとうれしいです」
微笑ましいフランソーネさんの声と、カチャカチャという金属音。準備が出来て一言俺らに声をかけると馬車がゆっくり動き出す。
アイリを撫でながら凹凸の多い道を馬車で運ばれていると、路面状況に似合わない心地よい揺れが襲ってくる。さっきまで寝ていたのに、耐えられない。おやすみなさい。
______
「おはようございます。習君」
「…おはよ」
「ん?あぁ、おはよう」
見事に寝てしまった。
「二人が運んでくれたの?」
明らかに今いる場所は馬車の中ではない。ベッドがあるし、部屋もそこそこ豪華だ。
「いえ、私も寝ていましたし…」
「…同じく」
となると、フランソーネさんが運んでくださったのか。しかも机の上にお納めくださいって、ご飯がたくさん置いてある。
「疲れてるだろうから…」と配慮してくれたんだろうなぁ。俺らの話を聞きたいだろうに。感謝しながら頂いて、あとで報告に行こう。ちょっと暗くなってきているけど、大丈夫なはず。
「俺を待ってくれてたんだよね?食べちゃおう」
「私も起きたてで待ってないので気になさらず」
「…ん。…その後、話、いい?」
勿論。
食べながらではないところにアイリの話の重要性がうかがえる。嬉しいことに俺らが距離を詰めようとしたのと同様、アイリも詰めようとしてくれているのだろう。
いただきます。ついでに、アイリがしたい話以外は聞いてしまおう。
「ノサインカッシェラはどうやって倒した?」
「…二人がボロスを討伐したときに放った『浄化』が中央の核に傷をつけてたみたい。…わたしやセンから受けた傷の回復と、こっちを攻撃したいがための腕の増殖、伸長とかで瘴気を出しすぎて、耐えきれなくなってきたところを突いた」
なるほど。オーバーヒート?させたのね。なら、
「殴りまくったのあんまり意味なかった?」
「…わかんない。出しすぎて目に見えて駄目っぽくなったところを思いっきり殴ったら、すぐに歪んだ。…みんなでボコった蓄積がなかったとは思いにくい」
わかった。ありがとう。やっぱり起死回生の手段!みたいなのはないかぁ。
相手の自爆を待つのは、こっちが一点突破しようと同じところを殴りまくるのと時間がめっちゃかかるという点であまり変わらない。硬い敵をスムーズに突破できる手段が欲しくなってくる。一撃で突破できるのが最善だけど、それが駄目なら、削りきるのを早くするために手数が欲しい。
「…あ。二人とも。体は大丈夫?」
「平気だよ?」
「同じくです」
多少怪我をしたけれど回復で治っているし、倒れたのは魔力切れ。寝て起きたら治るもの。
「…ノサインカッシェラの核?を二人が吸収したっぽいのだけど」
「「ふぁっ!?」」
核を吸収!?なんで!?ナンデ!?
「…わたしが寝る前に二人の間においておいた核がなくなってたから、そう思ったのだけど…、違う?…何かが持ち去ったというのはあり得ないよ。…眠かったけど、わたし、ちゃんと見てたし、その時に奪うやつはいなかった」
「蒸発した可能性は?」
肉体を失った核はこの世にとどめ置くものがないと消える…みたいな。
「…むぅ。かもしれない。消えたところを見たわけじゃないから。…それはともかく、ほんとに平気?変わったことはない?」
変わったこと……は特になさそう。一応、四季のファイルとペンをぶつけて…。あ、あぁ。変わってるね。
「微妙に強くなってますかね?代償魔法の再使用期間が4日に」
「さらに同系統魔法がある時の魔法作成時必要魔力がちょい減って、紙を使い切った時の、同系統魔法使用時消費魔力量も減ってるね」
「…強いの?」
さぁ?微妙な気がする。本当に「ちょい」だし。かさんできたら聞いてくるだろうけれど、そんな状況になりたくない。
強くなるのはうれしいけど、重すぎる代償魔法使用後の魔力消費量増の方を何とかしてほしい。
「…これくらいかな?」
喋り切ったアイリは食事に集中し始めた。これからの話に思いをはせているのか雰囲気が緊張している。声をかけたいけれど、何て言えばいいのか分からない。
とりあえず、心の中でご馳走様。少し居心地が悪いけれど、大人しく待っていよう。アイリの声で状況は動くのは違いないから。
______
「…ご馳走様でした」
アイリが言った瞬間、緊張が弛緩する。そして俺らが何かを言う前に流れるようにお皿を机の上に置き、地べたに座り、
「…ごめんなさい」
土下座で深々と頭を下げる。
「アイリ。顔をあげて」
「です。何に対して謝っているのか薄々予想はつきますが、こちらも悪いのですから」
踏み込まない方がいいと思ったから踏み込まなかった。けれど、そのせいでアイリに俺らがアイリに興味がないと思わせてしまったかもしれない。しつこくなりすぎない程度に、興味があると伝える必要はあったと思う。
「こっちこそ、ごめん」
「すみませんでした」
アイリの対面へ行って、土下座する。
「…え、わたしに配慮してのことだからいい。頭上げて。それより、土下座させてごめん」
また土下座しそうなアイリの頭を手で止める。無限ループに入るのはごめんだ。キョトンとするアイリを二人で抱き上げて、ベッドの上へ。
「ここは全員、悪いということにしておいて、」
「アイリちゃん。まだ私たちが知らないこと、教えてくれますか?」
「…ん。でも、二つくらい。…一つはこれ。『死神の鎌』」
俺らに撫でられながらアイリが言葉を紡ぐと、鎌がふよふよと浮遊する。
「日本語?」
「…ん。日本語。理由は知らない。出来ることはこれだけ。…浮かせて終わり。一応、このまま何かを斬れるけれど、わたしが手に持って斬る方が強い。…使い道は穴の中に落ちた時に、鎌に掴まって復帰するとか、投げた鎌、帰ってくる鎌の軌道を弄るくらい」
穴を上がれるのは楽そうだけど…、手が使える人間用っぽい。センを運ぶのは無理そう。
これを言い出せなかったのは…。
「『エルモンツィ』のせいか」
「…ん。無数の浮いた鎌で殺しまわったらしい。浮く鎌は地雷」
だよね。アイリの容姿で、浮く鎌という恐怖の象徴。わざわざ要素を重ねる意味はない。
「…もう一つは呪い?のことなんだけど…。…聞いてる、よね?」
聞いてるね。
「言い出せなくてごめん」
「ごめんなさい」
「…構わない。知ってて受け入れてくれてたのね。ありがとう」
「解呪、する?」
アイリに俺らが呪いのことを知っていると知ってもらった今なら、解呪を試みられるのだけど。
「…勘になっちゃうけれど、解かないほうがいいと思う。…ちょっと不便だし、…二人に迷惑かけちゃうけれど…、いい?」
勿論。それくらいならなんとかなるからね。アイリがそうしたいならそうすればいい。
「…ありがと」
「あの、アイリちゃん。目はどうしますか?」
俺らはそのままでも構わないのだけど。
「…誤魔化した方がいいかな。二人に迷惑かけちゃうだろうから。少し面倒くさいけれど、目薬がある。6鐘くらいで効果がなくなっちゃうけれど、二人に知られた今なら、そっちでも問題ない」
寝起きに赤目を見られるリスクはあるけど、見るのなんて俺らくらいだろうしね。
「…悪いけれど、材料を買ってきてくれない?」
勿論。それくらいお安い御用。
「…ありがと。材料は…読み上げるからまとめておいてくれると嬉しい」
「了解です。あ。フランソーネさんとかの相手は私達だけでしましょうか?」
「…お願いする。体調が悪くて寝ていることにしておいてくれると嬉しい」
わかった。じゃあ、アイリの目薬の材料をメモって…、フランソーネさんを探すか。時間、大丈夫かな…。




