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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 勇者召喚とフーライナ
22/93

22話 雀

 とりあえず、



「「『『旋風』』!」」


 渦巻く風で飛んでくる何かを叩き落す。これで風より先には通らない。今のうちにセンには離脱してもらえ、俺らはあの高い木に近づくことができる。



 風の中から響いてくる音はぐちゃ、どちゃ、ボキッ…と、およそ木の枝や土塊を放り込んでいるとは思えないモノ。当初は純白であった渦巻く風は赤い液体や肉塊を大量に包含し、徐々に深紅に色づく。

 

 

 風が消えると同時、巻き込まれていたものは解き放たれ、地面にどちゃぐちゃと音を立てて落ち、森を赤く彩る。



 どうやら飛んできていたのは敵らしい。俺らのように魔法を放ち、それを飛び道具にしている…というわけではない。正真正銘、敵自身。正直、見ていて気持ちのいいものではない。



 敵の本懐は俺らを殺すことだろう。それを遂げさせる気はさらさらないが、風の後ろには俺らも、センももういない。だから、風のあったところに飛び込んだって無駄死に。だのに飛んできている。考えることが分からない。



 飛んでいる敵の数が多すぎて、着弾地点に俺らがいないことに気づいていない…わけではないだろう。俺らがいないことには気づいている様子。証拠に着弾地点が少しずつ広がってる。



 この場で立ち止まる気はない。が、変に音を立てると集中砲火を受けるかもしれない。し、飛んできた敵は地面に深く突き刺さっていて、すぐには動けそうにないが生きている。殺しておくことで後顧の憂いを断っておきたい。

 

 

 のだが、後からやってくる敵が突き刺さっている敵を貫き殺すということが起きている。



 自分も後でそうやって死ぬかもしれない。それが分かっているはずなのに、この自分の命を掃いて捨てるような攻撃が続行されている。

 

 

 気に入らない光景ではあるが、好都合ではある。まだまだあの木までは遠いから、殺しに行かなくても始末してくれるのも、着弾の音で多少の音を隠してくれるのもありがたい。



 始末されないやつも出てくるだろうが、あいつらの形を見る限り大丈夫だろう。



 見たところあいつらは体の小ささや、姿は一部を無視すれば雀に似ている。だが、地面に突き刺さり、あまつさえ味方さえ付き殺せるような鋭く長い嘴があるという点で雀と異なる。



 そして雀のように飛ぶための羽はない。あるにはあるが、モモンガのように滑空して飛距離を伸ばすことに主眼を置いているように見える。

 

 

 ……ロクに羽を開いた雀を見ていないが。ほぼ100 %が体にペタッと沿わせることで、流線形を作って突撃してきている。



 足は何かにつかまるのに便利そうな鋭い爪がついている。どれだけ振り回されようとも落ちなさそうではあるが、歩くには向かなさそう。地面に降り立ったが最後、思いっきり食い込んで抜けなくなりそうだ。



 だからあいつらにはあの状況から助かる方法がないと言える。羽ばたいても、飛べない。羽を地面に押し付けても、あれでは抜ける前に折れるだろう。足はばたばたさせたところでしっかり突き刺さっているから、バランスが崩れることはない。



 ……列挙してみる見事に突き刺さってから復帰する手段がない。ほぼ死を前提にした突撃と言える。変な生き物だ。



 !冷たっ!?



 思わず天を見上げると、木々の隙間に黒雲とそこから降ってくる大量の雫が見える。



 雨だな。アレムさん達に言われていたからついに降ってきたという感じ。さっきの冷たさは雫が一滴、首筋に落ちたせいらしい。

 

 

 もはや土砂降りになっていて、どこに落ちたか判断するべくもないが。見た感じ、当分やみそうにない。



 雨の音でこちらの音がさらに隠れる。多少動きが雑になってもいいのはいい点だろう。



 が、気温はまだそれほど高くない。濡れれば体力を奪われる。しかも、足元は森で整備されていないから、雨が降ればたやすくぬかるむ。



 …デメリットの方が大きそうだ。



 だが、気にしていられない。あまり足音を立てないようにしつつ森を駆け抜ける。



 あいつらの狙う範囲は相変わらず徐々に広くなっているけれど、最初に比べれば着弾地点は俺らより遠ざかった。うまいこと隠れていけば、このまま気づかれずに近づき、こちらの射程内にあの木を入れられる。



 最初は晴れていたが、遠すぎてよく見えなかった。今は暗すぎて見えない。せめてどんな姿をした木なのか確認しておきたいのだが。



 ピシャーン!



 落雷まで来るか。だが、雷は高いところに落ちる。このあたりで一番高いところはただ一つ。あの木だけ。



 顔をあげて木を見ると、再度の落雷。高い木の上に落ち、周囲を明るく照らし出す。



 今だ、魔力を目に!『身体強化』!



 !?見たくないものが見えた。いや、きっと気のせい。



 ピシャーン!



 再びの落雷。俺らが見ている木を見間違えようのないほどまばゆく、はっきり照らす。



「…全部、敵だね」


 だな。木だと思っていたものは木ではなかったらしい。木のように見える「何か」だ。

 

 

 木なら幹にあたる部分は土、岩、木…と統一感がない。おそらく、その辺にあったものを拾って混ぜ合わせ、直立させただけなのだろう。とはいえ、雷の直撃にもどうにもなっていないから、うまいことアースとかがあって衝撃を逃がしているのだろう。



 木の枝に見えたものも、幹と同じように統一感のない材料で構成されている。



 だが、問題は木の葉。葉に見えたものは飛んできていた、そして今も飛んできている雀。若々しい木らしく大量に生い茂っている葉。あれが全部雀だ。



 見ているだけで憂鬱になる。だが、靄が集まっているのは頂点付近。アベスと同じものならば、それを潰してやれば終わるはず。



 靄の中心にあるモノは……、物体じゃないな。ちょこちょこ動いているから生き物。あれは…大砲を二門ほど背負っているようだが、太った雀のように見える。



「グルアアアア!」


 どうやら見つかったらしい。見た目は雀なのに声は全くかわいくない。そして、やってくることも。



 アイリがスパッと鎌を振るえば、勢いよく飛んできた雀が鎌に断ち切られる。だが、先のようにぐちゃっと潰れるのではなく、飛んできた勢いも合わさり、すっぱり両断されて落ちる。



 少し遅れてアイリに切られた敵よりも勢いのない雀が着弾。柔らかくなった地面に雨が降る前の雀よりも深く突き刺さり、その穴に水が流れ込んで窒息している。



 どのみち、この状況では飛んでくる雀の末路は死。だが、それでもあのデカ雀は気に入らない。



「アイリ!早い雀はあまり真っ向から受けるなよ!」

「あのデカ雀…ボロスはアロスを弾にしてきてます!」


 ボロスにアロスね。(arrow)のように飛んでくる(sparrow)でアロス。そいつらを打ち出す(bow)の雀でボロスかな。割とわかりやすくていい名前だろう。



「…ん。二人も真っ向から受けないでね」


 わかってる。俺のペンは短すぎる。投げて撃墜するならともかく、受け止めようものなら、殺せても死体がそのまま飛んできてお陀仏だ。



 四季のファイルなら広いから受け止められるが、失敗したらヤバイ。



 アロスは木の枝もどきをグイっと俺らと逆側に折り曲げ、限界に達したときに戻る反発力を射出力にしている。速度は速く、枝の上にいるアロスが一斉に飛んでくるがよけられないほどではない。



 ボロスに撃たれるアロスはかなり速く、見てから回避はほぼ不可能。動き続けることで当たりにくくする。

 

 

 直線的な動きなんかしようものなら偏差射撃のいい的。適度にランダムに動く。



 が、やはりちょっと森という戦場は良くない。路面状況、木々の制約でとれる行動が限られる。



 ボロスの射撃は時たま弾切れで射撃が止む。そうなるとボロスは手近にある枝をへし折り、口に流し込む。そうするとなぜか、肩にある大砲っぽいものにアロスが装填される。



 枝がへし折られると、枝が上へとスライド。一番下の枝があったところから新たに生えてきて、葉が生えるようにアロスがぬるっと生えてくる。



 そんなのを見せられているから、一番安直な方法──魔法で飛んでくるアロスを迎撃する──が出来ない。おそらく、アロスの生産はアベスと似た機構だろう。



 ボロスの周りに靄が存在している現状、アロスを量産できるだろう。この状況では紙をじゃんじゃん使ってしまえば、こちらが先に枯渇する。だから、軽い切り傷くらいは許容するしかない。



「…お父さん、お母さん、血が」

「切られたら出るよ」

「私達にも血が流れているのですからね」


 ま、アイリが言いたいのはそういうことじゃないだろうが。



「大丈夫。これくらいで騒ぎはしない」

「そもそも異世界召喚されて、異世界で旅をする…という時点で、怪我をすることくらい織り込み済みです」


 だからアイリには気にせず戦ってほしい。少なくとも、戦闘経験豊富なアイリの気を散らすようなことはしない。



「ボロスに打ち出されるアロスくらいに傷を負ったら心配してほしいけど」

「…死んでるよね、それ」


 死んでるね。ボロスに打ち出されるアロスはアロス自身が飛んでくる速度よりも速い。だが、その代償か、何かに激突したときにその衝撃に耐えきれない。



 激突した瞬間、嘴が砕け、頭が破砕され、首が折れる。そのまま胴、足まで砕けて原型さえ残らない。それがボロスに打ち出されたアロスの末路。

 

 

 助かるにはネットにうまいこと絡まるなり、豆腐を数キロメートル突き破るなりして減速できないと駄目だろう。



「そんな状態にはならないようにするさ」

「許容できる怪我は軽いものまで。重傷でも『回復』で回復できるとはいえ、体力を失いますからね」


 この状況で回復をあてにして突っ込むのは愚の骨頂だろうから。



「ッ!アイリ!」

「ん!」


 突然軌道を変えたボロスに撃たれたアロスを、鎌で強引に叩き落すアイリ。それで生じた隙を、



「「『『岩槍』』!」」


 アイリを背後に隠せるくらい太い槍を射出することで潰す。



 さっきまで直線に飛んできていたアロス。さすがにいきなり方向転換できるようになったわけではないはず。現に普通に飛んでくるアロスは変えて…、って、一部だが変えてきやがった!



 アロスの一匹をペンで上から頭を貫き殺し、四季が俺を狙ってくるアロスをファイルで止め、失速して地面に落ちたアロスを踏みつぶす。



「「『『風刃』』!」」


 四季とつないだ手に握られた紙。そこから風の刃を発射。俺らに当たりそうなアロス共を一網打尽に。そして残った勢いで後続のアロスも真っ二つに。



 今の攻撃を回避したアロスは後続含めて0。…何らかの条件付きの技的なものを使っているのか?



 何でこのタイミングでやりだした?軌道を変えるアロスと変えないアロス。その違いはなんだ?

 

 

 俺がペンを投げても、四季がファイルを投げても、激突して死ぬ奴ばかり。避けられるなら避けれb、



「四季!」

「ッ!」


 ファイルに激突して地面に落ちたアロスがわずかに白く輝き、四季の胸めがけて飛ぶ。四季を押して回避させて…ッー!



 押した手に思いっきり突き刺さった。だが、今はこいつよりも…!



「『火槍』!」


 四季はバランスを崩しているから、いつものように二人で撃とうとすると間に合わない。牽制に一撃放ち、何とか立て直した四季とつなぎ、



「「『『火球』』!」」


 巨大な火球を発射。火球はアロスを焼き殺し、雨を蒸発させて視界を遮る。



 今のうちに移動。ついでに『身体強化』した右手で突き刺さったアロスの胴を握りつぶし、嘴を引き抜いて捨てる。



「「『『回復』』」」


 怪我の回復は一瞬。だが、貫かれていたのを見たからか、痛みが消化しきれていないのか地味に痛い。



「大丈夫ですか!?」

「…大丈夫?」

「大丈夫」


 戦闘続行に支障はない。だが、今ので方向転換の種は割れた。



「見るべきは速度か」

「のようですね」

「…説明」


 アイリがわかってないのはこっちを見てなかったからだろうか?この子なら見てたら気づくだろうから。



「ボロスに撃たれたアロスも、自分で飛んでくるアロスもよく見れば発射直前に白く光っています」

「白く光るのは魔法。木のしなりやボロスによる発射の時期、角度に合わせて発動することで猛スピードを得ている」

「…その魔法の使う時期をずらしてると?」


 みたい。さっきまでは発射のタイミングで使っていたようだが、ただの高速弾幕では俺らに対応されてしまうから変えてきたらしい。



 あいつらの魔法は任意の向きに一定の速度を与える魔法。俺らに当たるように現在の速度と足される速度を鑑みて、速度を得る向きを調整しているだけのように思える。



 口で言うのは単純だが、実際にやるとなると厳しいだろう。

 

 

 最初に加速していないから遅いといっても、それでも十分早く、それに伴い飛翔時間は短い。ましてや、俺らに当たらないと判断してから激突するまでとなればさらに時間はない。そんな数瞬の間にベクトルの足し算をせねばならないのだから。



「最大のミソはあの魔法を使えるのはおそらく一度きりというところでしょう」


 俺らの代償魔法のように一回使ったら強制的にしばらく使えない……というものではなく、単純に魔力が足りないのだろう。



 回避するのに使わないのはそのため。使って避けてしまえば俺らに当たらないことが確定する。だったら死体でも俺らに直撃する方がいいという考えだろう。まさに狂気。



「…なら、最初のアロスが飛んでくるかもしれない?」

「かも。けど、それは考慮しなくていい」


 雨が降ってなかった時のアロスは生きている。が、どうせ抜けない。そして、乾燥していたとはいえ、何度も何度も突撃するものだから周囲に比べれば深くなってる。雨で水が溜まって窒息するさ。



 種がわかれば向きが変わるアロス、変わらないアロスの区別はつく。喋る余裕が出来るが、ちょくちょくさばききれず、かすり傷を作っていくのが鬱陶しい。



 時折、小癪にも魔法を使わずに俺らのかなり前にわざと突き刺さって、それからこっちに飛んで来ようとするアロスがいる。



 あいつらはろくに歩けないから、木から降りて歩いてきていいポジションに来てから強襲……ということはできない。が、変なところに飛んでいったアロスが、突然下から飛んでくることの鬱陶しさといったらない。



 失敗したのか森の木に突き刺さっている奴もいるが、ダメもとで木を貫通したらその向こうに俺らがいるということもある。だから大変なことには変わりない。



 尤も、そういうやつらはかなり幸運な部類。たいていの木にぶっ刺さったやつは俺らが通りえない位置で突き刺さっている。魔法を使っても変な向きでこっちに飛んでくるだけ。すぐに撃墜できる。



 もっと哀れなのは深く突き刺さってしまったアロス。ダメもとで魔法を使ったら嘴が折れて、絶命。魂の入っていない空っぽの体だけが飛んでくる。



 攻撃が上下になったせいか、たまに敵の攻撃が上下で思いっきりかち合って、片方が貫かれて死ぬ上に、明後日の方へ飛ぶ…ということもある。



 とはいえ、そういう間抜けな事例は全体から見れば少数。油断すれば死ぬのには変わりがない。



「…今更だし、助かるのだけどなんでそんなに二人は戦えるの?」

「さぁ?武術習ってたからじゃない?」

「!習君、私もなのです」


 だからちゃんと回避できるのね。



「…わけないでしょ。普通、習っただけでこんな速さの攻撃、致命傷を避けながら避けられるわけがない」

「けど、俺らは」

「いけていますよ」


 かなりきついが。不整地の森ってだけで大変なのに、雨のせいでぬかるむし、たまにアロスが下から飛んでくるし、外れたアロスが地面を更に凸凹にするし、挙句血肉をぶちまけて滑りやすくするし…と色々重なっているが。



 回復が必要な傷は手貫通以外受けずに済んでいる。が、必要なさそうな傷はたくさんある。長袖長ズボンだったのに、半そで半ズボンになりそうだ。



「…なるほど。二人の世界は常に争いがあるんだね」



 何故そうなるの。アイリにはちゃんと平和な世界だって言ったでしょ。…周辺の国の気分次第で一瞬で戦争に突入しかねないが。



 さて、そろそろいいだろう。もうかなり近づけた。



「「『『岩弾』』!」」


 まずアロスどもを駆逐。



「「『『ウォーターレーザー』』!」」


 アロスがいなくなったところを一気にぶち抜き、ボロスがいる木に命中させる。



 今ので与えられた傷は少し。雷に耐えられているだけはあるということか。



「ギャグラアアア!」


 ボロスが不快そうな声を上げて、動かなかった癖に枝をへし折り、頬張りながら一気にこちらに降りてくる。



「…二人とも!?」


 アイリの声に若干、非難の声が籠ってる。降りてきて彼我の距離を縮めたうえでの連射。こっちがさばききれなくなるのは目に見えている。が、相手がそんな行動をとった時点でこちらの勝ちだ。



 降りてきてくれたおかげで、代償魔法で木もボロスもまとめて殺せる。



「四季!」

「はい!」


 紙を書いているような時間はない。だが、今使っている紙もそこそこ魔力を込めた紙。数回使った今であっても、この距離ならば射程を切り詰めれば十分だ。



「「『『風刃』』!」」


 言葉を叫んだ瞬間、四季と繋いだ手の中にある紙が消える。そして厚い巨大な風の刃が左下から右上…ちょうど/(スラッシュ)の形になるように出現。



 ボロスが撃ったアロスも、木から直接飛んでくるアロスも、下に落ちて機会を窺っていたいたアロスも、射線上にある森を構成する木も、悉くが切り裂かれ倒れ伏す。



 狙われたボロスは自分が狙われたことを悟ったのか、狂ったようにアロスを発射してくる。大砲が焼き付きそうな速度だが、着実にボロスに当たりそうな刃を削る。



 そして周囲のアロスも、ボロスを護るために突っ込んで死んでいく。だが、無駄だ。



「「『『ウォーターレーザー』』!」」


 代償魔法で駄目押し。ボロスの直前に迫っていた刃の中央を穿ちぬき、ボロスを貫通する。それを上に振りぬき、ボロス、木を縦真っ二つに切り裂き、雲までも切る。



 そして残されていた風の刃が着弾。一切の抵抗なく木を切断し、雲に追加で切れ目を入れる。



二つの魔法で木は完全に上下に切断された。斜めに切られたことによって木は滑り落ちるように崩れ落ちる。



 ボロスは既に落ちた。残るはアロスだけだが、やつらは飛べない。だから彼らに出来ることは木の崩落につられて落ちていき死ぬか、破れかぶれに魔法を使ってこちらを狙うだけ。



 なのだが、あれほど遮二無二こちらに飛んできていたアロスは、ボロスが落ちたからか無気力になっていて、されるがまま。



 上から落ちてきた木に無抵抗にプチっと押しつぶされている。



 崩れ落ちるまで近づけないが。まだ終わっていない。瘴気──白と黒が交じり合ったようで、灰色ではない気持ちの悪いもの──はまだ残っている。あれを始末しなければ終われない。



 直ぐに周囲の雲が空を覆い隠してしまうだろうが、今は魔法の余波で陽の光が届く。明るくなったからボロスが見つけやす……いた。あの気持ちの悪い靄を帯びているから存在感は抜群。ボロスがどこに落ちたかを見ていなくとも、速攻で見つかるほどの存在感。



 殺す前に少しだけ。『身体強化』で、よく体を観察する。こいつは……あぁ、あった。足のところに例の黄色みを帯びた気持ちの悪い白黒色の鎖がある。さて、



「「『『浄化』』!」」


 靄を帯びているから浄化して消し去る。どうせ一度では足りるまい。連続で、



「「『『浄化』』!」」

「あぁァアー!」


 !



「ぐっ…」


 アイリを弾き飛ばし、二回目の『浄化』が着弾する前にボロスの死体から何かを抜き取っていく影。



「「『『回復』』!」」


 よりもアイリ優先。回復を飛ばして、彼女の傷を癒す。アイリへの攻撃は単に進路上にいたから邪魔だったというだけ。本気の攻撃ではなさそうだったからこれで回復してくれるはずだが…。



「アイリちゃん?」


 ?四季の心配そうな声にチラリとアイリの方を見ると、アイリはなぜか下を向いたまま。



 うつむくアイリの顔の下。目を凝らしてみてみると、壊れたコンタクトレンズのようなモノが落ちているのが見えた。

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