21話 別れ
さて、朝方の紙作成は終わった。四季やアイリと喋るのも楽しいけれど、あの二人は朝風呂。やることもないから現状の確認をしておこう。
昨日は一昨日の行動でトヴォラスローグル湖のアベスが掃討されていることを確認した。食糧庫が危機的状況に陥って勇者であるクラスメートが駆けずり回る羽目になる可能性は消せたはず。
だから、これまでどおり召喚された国であるバシェルから離れながら、獣人領域を目指せばいい。のだけど、西に猪が残っているらしいからどうするか聞いておこう。バシェルの横だからとっとと出たいけれど、こいつも放っておくと面倒かもしれない。
次は紙の確認。昨日から今日の朝にかけて書いた分は増えたけれど、念のためにさっき消した『回復』と『湯』は減った。その結果、
一度も使っていない紙が、『回復』が3枚。『浄化』、『火球』、『火槍』、『ウォーターレーザー』、『放水』、『風刃』、『旋風』、『岩弾』、『岩槍』が一枚ずつと、一回だけ使った『氷槍』が一枚。戦闘に使うことをはなから考えてない『温風』と『冷風』がある。
戦闘に使う前提で作った魔法は合計13枚。一直線に飛ばす系の魔法は『線』より『レーザー』の方がイメージしやすかったから変えた。英語にすることで画数増えそうだけど、机の上で書くならあんまり変わらない。
こいつらは込めた魔力量からして3~4回で消えるはず。たいていの場合は威力を優先して強めに撃つから3回と見た方がよさげかな。
そして、代償魔法に使っちゃったのは『浄化』と、『冷却』と、『火球』。どれも使ってから一日ぐらい残る、同系統魔法使用時の魔力量増大とかのめっちゃしんどいペナルティのある期間は既に過ぎた。
代償魔法に出来ない期間は『浄化』が今日の昼くらいまで。水と火系が四日後の昼まで。やっぱり五日は長い。
さっき『回復』と『湯』を使い切ったことで、その系統の魔法威力減、魔法作成時の魔力消費増加というペナルティはあるけど、代償魔法に比べたら弱い。だから平気のはず。
えーっと、忘れ物もなさそう。よし、現状確認ともども、身の回りの整理も終わり。いつでも出発できる。
「習君。あがったので髪をお願いします」
「了解。アイリは…もう四季が乾かしてあげてくれてるね」
アイリの髪は乾いていて、綺麗な黒髪になってる。さっさと四季もやってあげないと。『温風』、『冷風』の2枚を携え、いざ乾燥。これも今日の晩くらいには書き直しかな。
『温風』からの『冷風』。ずっと触っていたくなるくらい気持ちのいい髪だけれど、丁寧に迅速に。任せてくれている期待は裏切れない。…これでよし。
「終わったよ」
「ありがとうございます」
どういたしまして。
「そろそろ2の鐘ですが」
「だね。今日はどう来るかな?」
手を変え品を変えやってくるフーライナ第一騎士団の面々。…アレムさんとフランソーネさんに巻き込まれてるだけだから面々は失礼か?…まぁいいか。気にしないで。
今日はどう来るのか。それが少し楽しみだ。6時に扉を連打したことは許さないけど。
「鐘の音…って言ってるしりからノックの音が鳴ってますね」
「どうぞー!」
部屋の鍵は既に開けてある。だけど、ノックが止まない。そもそもあの二人ならノックする前からドアを押してみて、開いていたら踏み込んできそうなんだけど。何故来ない。
…ん?聞こえてきている方向が違う?後ろ? …なるほど。そうきましたか。
お二人は窓にペタッと張り付いている。本格的に何やってんでしょう。せめて第一騎士団の長として威厳ある行動をとるべきではないでしょうか。
「…とか思ってるなら開けるなり、撃墜するなりしようよ」
確かに。6時でも危ういのに8時なら普通に目撃されそうだ。さっさと鍵を開けよう。
「どうぞ」
嬉しそうにはにかんで入って…こない。ふむ。二人が張り付いているのは俺らの部屋の窓。ここの窓は内から外へ思いっきり開くタイプ。開いたらプラーンってなるのを嫌がっているらしい。
今更過ぎませんかね。というかそれが嫌なら、
「一個下に降りて、俺らが開けてから戻ってこればいいのでは?」
「下の人に迷惑はかけられません!」
俺らにはいいってか。違うだろうけど。どう考えても下の(知らない)人だろう。
「では、どうするおつもりです?」
「えーと…、」
「リベールです!」
「開いてます」
俺らが最初アレムさん、フランソーネさんがやるだろうと予期していた通り、壊れそうなくらい勢いよく開け放つリベールさん。その顔に窓に張り付く二人を見るなり青筋が浮かぶ。
「馬鹿やってないでちゃんとしろ!」
ドスドス歩いて行って一点の躊躇もなくリベールさんは窓を勢いよく開け放つ。お二人は「キャー」って楽しそうに窓に揺られたけれど、すぐに壁と窓に思いっきり挟まれて「ぐえっ」って潰れたカエルみたいな声を出して落ちる。
「まともに相手しなくていいです」
「あ。はい」
あれはまともなのでしょうか。それはともかく、
「引き払える準備は出来たのですが、」
「手続きはどこで?」
「あぁ。それならこちらが勝手にやっておきます。それより昨日お話していた報酬が用意できました。受け取り…の前にご飯ですね」
ですね。ご飯を食べてから伺…えるかと思ったけれど、団長夫妻がいるから駄目では?さっさと行こう!って引きずられそうな予感。
「同感です。防ぐためにまた縛りますか…」
そのあたりはお任せします。
肩を落として階段を下るリベールさんとともに階下へ。彼が外に行くのを見送って食事場…に行くとアレムさんとフランソーネさん仲良く座っていて、いかにも対面に座ってほしそうな顔をしている。
「先回りですか?」
「「はい!」」
元気な返事。落ちたのにまるで堪えてなさそうだ。あの高さから落ちたら大人でも死ねるのに。さすが異世界。
「何故?」
「上がったらリベールと鉢合わせしそうでしたから!」
「ですわ!」
めっちゃいい笑顔。そして正解である。野生の勘でもあるのだろうか?
「後、宴会していてもお二人とあまり話せた気がしませんので」
「落ち着いて話したいなと思いましたの」
なるほど。こっちが潰しにかかってばかりだったせいですね。少し罪悪感がある。お酒を勧めてきそうな様子もなし。付き合おう。
お二人のところに三人で並んで座ると、料理がすぐに運ばれてくる。宿の人、ご苦労様です。そして俺らが拒否った場合はどうするつもりだったんだろう、この量。アイリのことを念頭に置いてくれてるのか大量だぞ?
気にしたら負けか。いただきます。
「第一騎士団の皆様は次、どこへ行かれるのです?」
「王都…『キパエリフ』へ戻ります。そこで王へ色々報告いたしませんと」
「…『キパエリフ』は『トヴォラスローグル』の西。わたしたちは北へ行きたいから、一緒に行っても次の分岐で別れる」
了解。ありがと、アイリ。
「皆様はどちらへ?」
「俺らは『アークライン神聖国』へ向かうつもりです」
「もし目的が観光や大図書館、『イベア』への通過が目的ならおやめになる方がよいかと」
珍しくまじめな顔で忠告してくださるアレムさん。その横にいるフランソーネさんも同じく顔が険しい。
「何故です?」
「今、あの国では今、謎の新興宗教2つ対立のせいで治安が多少悪化しているようですわ」
アイリに聞いたところによると、アークライン神聖国はこの世界の宗教…、しかも浸透度が地球のキリスト教やイスラム教以上の宗教『アークライン』教の聖地だったはず。何故そんなところで新興宗教なんて出てきて、挙句、治安が悪化してるんだ?あぁ、でもアークライン教は宗教の多様性を認めていたような。
「衝突していても、被害は彼ら以外に出ていないらしいのですよ。彼らが被害を訴え出ない以上、あの国は動けません」
あぁ、そりゃ動けませんか。世界最大の宗教の聖地で、他の宗教も認めている。下手に動くと宗教弾圧ととられかねませんものね…。
「ある程度苦情がたまれば潰しに動けるでしょうが」
「それまでは様子見せざるを得ませんの」
なるほどです。出来たら避けたいけど、
「他に道ってある?」
「…急いで獣人領域に行きたいんだよね?」
可能であればね。苦情がこれば動けるとはいっても、いつ動ける状態になるのかわからない。それまでフーライナで時間を潰すくらいなら、獣人領域目指して行きたい。
「アイリちゃん。確認なのですが、さっき話に出てきていた大図書館とは何です?」
「…人間領域最大の図書館。…人間領域でここにあって他にない本はあっても、逆はない」
情報を得るには最高の場所だな。やみくもに他の領域に突撃するくらいなら。そこである程度の情報を得てから行った方がいいってレベルに。
「…待ってる間捜索隊の面々に迷惑がかかるとか、…イベアの通りやすさ、ほか領域のことも考えると、行った方がいいと思う。…二人は武力があるし、万一の時はわたしが守るから」
アイリは自分の力に自信があるから言っているというよりは、護衛対象の俺らの思考とか実力を踏まえて言ってくれてるっぽい。
「もし俺らの事情を抜きにしたら?」
「…近づかない方がいい。けど「ここでのんびり待ってみたけど無理そうだから、帰還魔法捜索隊に合流する」というのよりは危険が低い」
あれ?そっちの方がほとぼりが冷めて合流しやすくなりそうだけど。違うのね。
「…帰還魔法捜索隊の方も襲撃を受けてると思うけど、どうせ戦えないと高をくくって撃退されてると予想。…矜持を考えると中部を抜けて南部に行く途中に襲われる。…あと、フーライナは隣国で、食糧庫で、ファヴェラ大河川に接している国。時間が経ってくると人魔大戦に備えて隠密が入ってもおかしくなくなってくる」
となると進んだ方がマシか。進んで危ないところにはいきたくはないけれど、一応、俺らは貴族に見える。しかも勇者の血族の。そんな奴ら相手に過激なアプローチはかけてこない…はず。
「迂回してイベアに行くのは?」
「…非推奨。アークラインを経て獣人領域に一番近いイベアの王都『スポルト』に行く道は無理のないところにオアシスがある。…けど、迂回路は慣れてないと厳しい」
ありがとう。ならやっぱりアークライン経由イベアルートだね。
「ごめんなさい。やっぱりアークラインに行きます」
「いえ、謝らないでくださいませ。安全を考えるのは良いことですから。おそらく皆様であれば大丈夫だと思いますが…」
「無理はなさらないでくださいませ」
ありがとうございます。
「となると…むむぅ。次の分岐でお別れですね…」
「そうなりますね」
「仕方ありませんわね」
あれ?この二人なら別れたくないから着いてきて!っていうかと思ったけど、そんなことはなかった。そりゃそうか。腐ってもフーライナ第一騎士団の団長夫妻。そのあたりはわきまえておられるか。
ちょっと失礼だったかもしれない。
「お二人は王都に行った後は、西の猪の討伐ですか?」
「まさか。いくら私達第一騎士団が最高戦力とはいえ、過重労働です」
「わたくし達が東に関わっている間に、第二騎士団が対処に取り掛かっておりますわ」
そりゃそうでしたね。戦力は第一だけではないのだから、使えるなら第二、第三を使いますよね。
「ですのでそれが終わると私達は北方でアベスの影響を調査することになるかと」
「第二が駄目だった場合、南の蜂に備えていたのに獲物がいなくなった第三がいますからね」
おぉう…第三騎士団の人たち、ごめんなさい。
「謝罪する必要はありませんよ」
「民に被害を出さないことが我ら騎士団の本分。その本分が達されるのであれば、要らないでしょうよ」
ですよね。ならいいか。
「あ。そうでした。忘れないうちに」
アレムさんが懐を漁って取り出したのは銅のカード。ん?これって…。
「ギルドのカードですよね?」
「しかも私たちの」
「です」
登録したばかりだったからカードは石だったはず。昇格したのだろうけど、石の次は鉄のはずでは?
「鉄は飛ばしました」
「蜂を三人で壊滅させておられますし、アベスの討伐も大活躍。どう考えても鉄にしておいていい人材ではありませんので」
なるほど。とはいえ…ギルドでまともに活動する気はない。まともに使うのは銀行くら…あぁ、後、困窮して来た時に仕事を受けるくらい。恩恵はなさ…いや、あるかな?
四季が読んだ本にはギルドが出来たのは約2000年前、大陸が統一されていた時に出来たとあったらしい。から、他の領域でもわかりやすい力の指標として使えるかもしれない。そういう意味では有意かな。
…人間ってだけで超絶敵対されなければ。だけど。
「それはともかく、何故お二人が持っているのです?」
俺らがこれを渡したのはリベールさん。彼が管理ガバガバそうなこの二人に渡すとは到底思えないのですが。
「持ってきました!」
いい笑顔で親指をぐっと立てるお二人。リベールさんならちゃんと隠しておいてくださったはずなんだけど、この二人の直感的なものはすごいから考えるだけ無駄か。
「リベールさんが困るのでは?」
「大丈夫大丈夫」
「書置きでも残してきましたか?」
「いえ?」
不思議そうな顔でこちらを見るお二人。お疲れ様ですリベールさん。
「だって彼ならそろそろ「あ!いた!」ほらね」
この雑さも彼らのリベールさんへの信頼の証なのだろう。あまりうれしくない信頼のされ方だけど。
「もしかしてと思いましたが、もしかしましたか…。ちゃんと返せているようで何よりです。無くしていた場合、お三方にあわせる顔がないですからね」
「私達が無くすわけがないでしょうに」
「ですわ」
胸を張るお二人。それを見て頭が痛いとばかりに眉間を抑えるリベールさん。お疲れ様です。実際、この二人が大事なものをなくすとは考えにくいのも、反論しにくい原因。
「で、ではカードの返却は完了ということで、報酬ですね。馬車の中に積んでおきましたが、確認なさいますか?」
「食べ終われば、お願いいたします」
「かしこまりました。では、わたしも食事を済ませてきます」
リベールさんは食事もとらずに走り回っていてくださったのね。本当にお疲れ様です。
「アレムさん。いつかリベールさんに刺されても知りませんよ?」
「大丈夫です。働きに見合った給料と待遇は出していますよ」
「我が第一騎士団は一を冠する武の象徴。わたくしたちがいる以上、第一騎士団団長、副団長にはなれないのは少し可哀そうですが…。第二、第三の団長、副団長への推挙は出しているのですよ?」
マジですか。リベールさんがいるからうまいこと回ってる感があるこの第一騎士団。だのにリベールさんを外へ出すようなことをするとは。
「私達も鬼ではないですからね」
「有能な人物は上に上がるべきですわ。尤も、今の騎士団長は第二も第三も有能なのですが」
「私たちは第一が武を重視する騎士団でなければ…はい」
後は察しろと。
まぁ、ちょくちょく気遣いできるけどそれでフォローできてるか怪しい雑さがありますからね…。うん、この先は口にするのが憚られる。
さて、ご馳走様。後はアイリを待ってからセンのところへ。かな。部屋に置いたままの荷物は今のうちにでも頼んでおけば馬車に積んでくださるだろう。
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「こちらが目録です。ただし、アベス討伐のものだけです」
センのところに行って…と思ったけれど、宿の待合所?的なところで渡された。裏に回ると邪魔だからかな?
「アベスのだけなのです?」
「はい。アベスはわたし達が依頼しましたから、報酬を出せるように準備をし、皆様の功績も査定する準備は出来ていました。が、蜂は遭遇戦なので、功績分の評価が困るという感じですね」
過少だと「けち臭い国」になるし多すぎると「なんであいつらにあれだけだすの?」になるからか。
「正直、わたしとしてはさっさと出せという話なのですが。少ないよりは多い方がいいでしょうに。ですが、皆様の場合、他にありましたよね?」
フーライナに来た時に倒した分と情報料ですかね?
「です。その査定終わってないからそっちにまとめて許してもらえ。的な判断があるようで。その分、色は付けるのでお許しを」
色を付けるくらいなら最初から出すべきでは?と思わないでもないけれど、リベールさんに言っても仕方なし。
「そしてこちらが報酬です。わたしたち第一騎士団との共同だったので報酬は小金貨30枚です。蜂の方はもう少し高くなると思いますのでご期待ください」
通りすがりの冒険者三人に300万。結構高額だけど…、アイリが黙っている以上、適正なのだろう。
「なのですが、報酬を入れるために準備しましたこの袋。時間経過百分の一、容量は皆様が持っておられる馬車くらいという代物なのです。が、お値段は小金貨20枚」
高い…のか?冷蔵庫でだいたい 10万くらい。馬車は標準的な冷蔵庫の8個くらいの容量がある。そして、冷凍庫で凍らせたら食品は割と持つけれど、生とはいえなくなる。そういうのを考えると、生鮮食品でも100日くらいは持つようになるその容量の袋が200万。安いのでは?
「申し訳ありません」
「いえ、むしろそのお値段で良いのですか?」
貴重なもののはずですよね?それを200万で渡しちゃっていいのです?
「皆様ならいいのです」
「それにどうせ経費です」
「ですわ」
「です」
第一騎士団のトップの面々がいい笑顔で言っていいことじゃないでしょうに、それ。
「経費で落とす分、しっかり仕事はしますのでご安心を」
「でなければ、騎士団なんてやっていられませんわ」
ですか。ならば有難く。
「中身はすぐに食べられるもの…ということでしたので、サンドイッチが主です。他にはスープと時間のかかる煮物系ですかね。大量に入れましたので諸々含めまして材料費で小金貨5枚です。明細は目録に。残りの小金貨は4枚を口座に。残り1枚を、大小両銀貨に両替しておきました」
両替までしてくださったのですね。さすがリベールさん。ありがとうございます。
「では、そろそろ出発なされますか?」
「ですかね。やることもありませんし…」
「では、行きましょう!」
「ええ!」
あぁ、やっぱりそうなりますよね。でも、リベールさんが驚いていますけど?
「団長?」
「安心してください。ちょっくら王都に行って仕事をしてくるだけです」
「報告が終わったら戻ってまいりますわ。皆様はつかの間の休息を楽しんでくださいまし!」
「では、行きましょう!」
とっとと出て行ってしまった。
「いいのです?」
「騎士団全部が報告に行って、その間北方の見回りをしないというのは効率が悪いことは確かです」
ならいい…のかな。
ま、俺らは俺らの用意をしよう。時空系の鞄は互いに干渉するらしいから、時間の止まる鞄に100倍遅くなる鞄を入れるのは不可能。だけど、この二つを手に持ってセンに乗ることはできる。
けど、馬車のがいいか。今更だけど馬車に慣れておかねば。最初は御者台には三人で乗るし、街中で馬車は邪魔だから、外に出てからになるけれど。
「遅いですよ!」
門にたどり着いた途端に投げかけられる言葉。ついていくとは一言も言ってないです。
泣かれそうだから言いませんが。
そわそわしておられる二人にせかされているみたいだけど、気にせずセッティング。
「では、リベールさん。これにてさよならです」
「ですね。お元気で。さようなら!またお会いできるを楽しみにしています!」
リベールさんの声に三人そろって返事。センに合図を出すとセンが歩みだし、街が後方へ遠ざかってゆく。
「あ、そうでした。アベス討伐で水を大量に蒸発させましたが、まだ雨は降ってませんよね?いい加減降ってくるはずですのでご注意を」
「わたくしたちと別れた次の分岐をまっすぐ行くとアークラインなのですが、右に行って街に行って一、二泊なさることをお勧めしますわ」
街を出る前に行ってほしかった……。けれど、言ってもらっても行動は変わらなかったはず。その情報をもらえるだけ感謝しよう。
とりとめもない話をしていたらもう分岐。名残惜しそうなお二人に別れを告げてその先へ。
「…どうするの?忠告に従う?」
「従う」
「同感です」
雨が降ってる中を走りたくはない。し、あの二人、なんだかんだでセンが異常に早いことを知っているはず。だのに、それを言ってくれてるってことは、従うほうがいいだろう。
「…ん。わたしも同感」
全員同じ意見。じゃ、森を突っ切る街道を通って次の街へ。ちょくちょく人の手が入っているようで高さの揃った木ばかr…んん?
「四季、あれ見える?」
「あれですよね。習君もですか…」
「…わたしも見えるよ」
「ブルッ!」
センも見えると。全員が見えるなら見間違えではなさそう。アレムさん達が言うように天気が悪くなってきたのだろう、頭上にかなり大きな雲がある。
それはいい。雨を考えるとよくはないけど仕方がない。
が、魔物領域でもなく、手入れもされている森っぽいところで周囲よりも明らかに高い植物があるのは問題だろう。そしてその頂点があの気持ちの悪い靄を帯びている。
四季…も靄が見えているらしい。であれば確定でいいだろう。あれは気のせいではない。
「!」
アイリが突然立ち上がって袋に入ったままの鎌を振るう。グシャリと肉が潰れ、硬質な骨が断ち切られる音が鳴って、肉塊が鎌にはじかれて地面に落ちる。
が、アイリの攻撃は一度では終わらない。
「セン!下がれ!」
「馬車を護ってください!」
叫びながら三人そろって御者台から飛び降りる。
「ブルルッ!?」
「みんなは?」と、俺らは、
「あの靄をやる!」
「こんなに距離があるのに狙われたのです。ここで叩いて禍根を断ちます!」
発生源が何かは知らない。けれど、あれはこの世に残していてはダメなもの。突然ではあるけれど、準備が出来ていないわけではない。余計に厄介なことになる前に……潰す。




