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[改稿版] 白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 勇者召喚とフーライナ
20/93

20話 駆除後

 眼が覚めた……のはいいけど、上下左右柔らかいものが覆ってる。上と右はふかふかで、下は柔らかいけどしっかりした反発があって、左……、このもちっとした感触は。



 眼を開けて左を見ると、俺に引っ付いてアイリが寝ている。やっぱり人肌だった。



 しっかりした布団の上で寝れているということは、アイリが何とかしてくれたらしい。ありがとね、アイリ。



 アイリが引っ付いているのは珍しい。けど、俺らを寝かした時にほぼ隙間が出来ず、寝たら自然にこうなる…という感じだったのだろう。だから奥に四季が…と思ったけどいない。トイレだろうか?



 目が覚めたけれど眠くない。今の時間は…、部屋は常夜灯で照らされてるだけで、日光はカーテンに遮られているか、そもそも登っていないかで入ってこない。このままじゃ太陽を見て、時間判断することさえ出来ない。



 出来るだけ起こさないように気を付けて布団から出て、そろりそろり窓際へ。カーテンと窓の隙間に顔を潜り込ませ…、



「「わっ」」


 カーテンの向こうに四季がいて、びっくりして声が出てしまった。



 四季も同じく声を出していたけれど、それ以上出してしまわないように口を手でふさぐ。落ち着いてきたら、シーっと指を口の前で立ててから四季はゆっくり寄ってくる。なんだか小動物っぽくて可愛らしい。



「おはようございます。習君」

「うん、おはよう」


 大きな声にならなくて済むように、かなり至近距離で交わされる挨拶。俺がちょっと近づけばキスが出来てしまうくらいの距離なのだけど、四季は気づいているのだろうか。



 とはいえ、俺にそんな気概はない。やるにしても好きだと伝えてから。



 少し四季に下がってもらって、体を完全にカーテンの間へ。そして俺らの腰くらいの高さからある窓へ二人して向き直る。



 視界の隅で四季がちょっと残念そうな顔をした気がする。けど、暗くてよく見えなかった。何しろ、室内の明かりはカーテンで遮られているし、外の明かりは全然ない。辛うじて地平線の彼方が白んできているだけなのだから。



「太陽から判断するに今は5時くらいかな?」

「おそらくは。まぁ、日本で4月くらいと仮定すればの話なのですが」


 だねぇ。日の出日の入りは季節、緯度によって変わる。夏は早くて冬は遅い。夏なら6時は明るいのに、冬だと真っ暗とかよくあること。それに日本は冬でも日は登って沈むけれど、極圏(高緯度地域)では白夜で日が沈まないことがある。



 まぁ、この話も地球の話。地軸の傾きとかの前提条件が変われば当てはまらない。そもそもこの世界が星…球なのかも怪しいし。一応、地平線があるから球っぽいけど。



「丸一日気絶…はたぶんないですよね」

「たぶん」


 体の感じ的に。「ずっと同じ姿勢のせいで体が痛い」ということがないもの。



「それでも、昨日の昼前から今までだから」

「3/4日は寝てそうですね。そりゃ眠くないわけです」


 だね。このままぼーっと外を見ていてもいいけれど、



「紙、書かない?」

「ですね。昨日のでだいぶ使ってしまいましたし…」


 今あるのは代償魔法を使った代償──同系統使用魔力倍加、発動魔法威力半減、作成魔力倍加(一日かけて徐々に回復)──がえぐすぎたから元気な『氷槍』。と、2回くらい使った『回復』と、『湯』だけ。



 全然足りない。



「『湯』はお風呂に使えば消えちゃうから、お風呂までに水系?は作らないと駄目で」

「『回復』も使う機会があると困りますから作らないと駄目ですね」


 となると、優先するべきは水と回復の二系統。この系統分けもあってるかわからないけど。



「さすがに明かりがないときついから」

「アイリちゃんが起きてからですかね」


 それまでは二人並んで窓から外を見て居よう。







______


「…何してるの?」


 カーテンが突然めくられたと思ったら、めくった犯人であるアイリが白い目でこちらを見ている。



「二人で並んで外見てた」

「です。明け方は特に綺麗でしたよ」


 今は地平線から完全に出てきちゃっているから、明け方の徐々に明るくなっていく荘厳さとかそういうものはない。けれど、街の外はさすが人類の穀物庫というべきか、収穫期を迎えた野菜が大地を埋め尽くしている。



 みずみずしい葉の青、トウモロコシっぽい作物のひげや小麦っぽいものの小麦色、大きな実をつけるトマトの赤。それらが日に照り付けられ、風にさらされてゆらゆら揺れる様は自然の恵みを感じさせられる。



「……天然」


 ボソッと何かを呟くと空を仰ぎ見るアイリ。そこから空を見ても天井で、流れる雲とかを楽しむ余地はないはずだけど。



「…はぁ」


 溜息つかれた!?



「…ん。おはよう」

「「おはよう(おはようございます)」」


 挨拶は大事…だけど、話を仕切りなおすのに使われた感が。



「…体調は?」

「平気」

「ですね。昨日…昨日でいいのですよね?はどうでしたか?」

「…昨日でいい。ここは『トヴォラスローグル』。…前止まったところと同じ宿。無事に終わったよ。そこら辺の話はアレムやフランソーネがするはず。…さすがに襲撃かけてこないと思うけど」


 アイリが言ってる途中に固まった。気持ちはわかる。だってあの二人なら俺らが気絶してようが遠慮なく突っ込んできそうだもの。



「紙でも書こうか」

「ですね」


 1の鐘(6時)はさすがに来なかった。けれど、2の鐘(8時)は怪しい。今はだいたい7時くらいのはず。さっさと書いておいてしまおう。







______


「これはどういう状況なのです?」

「察してください」


 案の定、2の鐘(8時)に襲撃して来たけれど、来たのはアレムさんとフランソーネさんではなくてリベールさん。超申し訳なさそうな顔をする彼に案内されて駐屯所的な場所に入ってみれば、なんか飾りつけをしている二人。



「あっ、来ましたか!まだ完全ではないのですが…」


 「完全になってから呼ぶべきでは?」という言葉は呑み込んどいたほうが幸せなんだろうなぁ。



「では今から、昨日の祝勝会の開催を宣言いたします!」

「いえーい!」


 あれ?まだやって…いや、この人らならしないか。この人らがそこそこ人望があるのはこういうところで気が利く?からだろうし。



「全員揃っているのですか?」

「勿論です!私たちが目覚めてから、お二人の気絶からの復帰は今日の朝方だろうと聞いていたので、集めてます!」


 「朝から飲んでて大丈夫なのだろうか」とか、「アベスはどうなの?」とか「氷はちゃんと融けたの?」とか聞きたいことはあるのに、さっさと音頭を取って飲み始めてしまう二人。放っておいてリベールさんから聞こう。



「はい、わかっております。わたしが(・・・・)お相手します」


 ありがとうございます。ではその前に、



「アレムさん!フランソーネさん!気絶していたのでお酒は遠慮します!」

「ですので、お酒を勧めるなら別の人にお願いします!」


 話をかき乱す存在にこっちに来るなアピールをしておく。もし俺らがお二人の部下だったらアルハラアルコールハラスメント並みの勢いでお酒をごり押ししてくるだろうけれど、俺らは彼らの支配下にない。はっきり拒否しておけばこっちには来ないだろう。



 端っこの方の椅子に座らせてもらって、朝食代わりに料理を食べながらまじめな話を。



「まずお聞きしたいのですけれど、アベスは全滅したのですよね?」

「全滅していました。そこはご安心くださいませ」


 ですよね。フーライナ第一騎士団長夫妻の正気を疑う必要はなさそうでなによりです。



「湖を凍らせて壁とか作りましたが…あれはどうなのですか?」

「撤収時点では残っていましたが…一応、わたしたちの代わりに街の門兵などが見張ってますので大丈夫でしょう」


 思いっきり魔法が残っているのに大丈夫と言えるのでしょうか。



「お二方のお使いになった魔法がどういうものかわかりませんでしたので。「あの氷がお二人の命を外に表出させたものである」場合、マズいですから…」


 あぁ、そりゃ融かせませんね…。地球だったら氷が出来る条件は温度を下げまくるか、ある一定温度以下であれば圧力を下げてやるかの二つくらい。だから氷を融かしてしまっても、氷を作った俺らに悪影響があるわけがない。



 けれど、こっちだと魔法がある分、作り方も様々で安直に動けないと。



 言っておくべきだったかもしれない。けど、シャイツァーがどんな効果を持っているかは言って歩くものではなさそうだしなぁ…。



「お二人が目覚められましたから、あれの心配は…」


 どうなんだろう?



「いらないですよね?」


 めっちゃ心配そうに聞いてくるリベールさん。えぇっと、待ってくださいね。四季のシャイツァーとこっそりぶつけて…、



 うん、大丈夫そう。温度を下げて凍らせたものではあるけれど、俺らの魔法がもたらした副次効果だから俺らの魔法の範疇らしい。



「後で消していきますね」

「はい。お願いいたします」


 リベールさん達がここにいるということは大丈夫なのだろうけれど、あれのせいで氾濫とかは本当に勘弁願いたいですからね。



「アベスの報告に移りますね。アベスは湖の中心の穴がやはり巣だったようです。穴以外の湖の底では怪しいものは観測されませんでした」


 それはよかった。あれ以外に何か別のものが…とか洒落にならない。あ、でも、



「靄はどうでした?見えましたか?」

「叫んでいらっしゃったものですよね?我が騎士団に常駐している聖魔法の使い手が見たようで、そのことからお三方が見たのは『瘴気』かと思われます」


 『瘴気』…ね。「嫌な感じがするもの」を表すにはいい言葉ではないだろうか。



「一応、ご説明を。瘴気の発生原因は様々ですが、主に死体を放置していると発生するもので、良いものではありません。聖魔法で消せます。あの湖にあったのはおそらく…」


 トヴォラスローグル湖中央の穴。あそこが流れが死んでるから溜まりやすかった…のでしょうね。



「思われている通りかと」

「籠?の中に黄色が混じった瘴気があったのですが、そのあたりはどうですか?」

「先の者も含め、誰も確認できていません。あ、ですが、底に残っていた瘴気は片付けました」


 なるほど。それなら…、



「氷を消すのも含めて一度、湖に行った方がいいですかね」

「お願いいたします。黄色い瘴気はおろか、娘さんから聞いた籠?の破片のようなものも発見できませんでしたので」


 マジですか。粉々に爆散したと言われればそれまでだけれど、あれだけ硬かった籠が粉々になるなど想像できない。



「あ、後ですが、娘さん、頑張ってくださいましたよ」


 リベールさんの言葉に視界の隅でアイリがビクッっと体を跳ね上げて驚いてる。



「お二人が気絶してて不安でしょうに気丈にふるまっていらっしゃいました。比較するのもおこがましいですがあのバカ(団長夫妻)よりまともでした。気絶しているお二人を安全に降ろして、お馬さんに指示を出して蹴られないようにして、お二人に被害が行かないように壁を背にして、全周に気を払う…という完ぺきな態度でした。声をかけながら近づかなければわたしも斬られていたかもしれない…それくらい真剣にやっておられました。その後は恥ずかしいのか、うって変わってお二人の陰に隠れてしまいました。が、羞恥を押し殺してしっかり伝える姿、実に健気でお二人が気絶していたのが残念でなりません」


 つらつらとシャイなアイリが頑張ってたよ!と伝えてくださるリベールさん。



 でも、ごめんなさい。それ、演技なんです。この子、人並みに羞恥心はあるでしょうけれど、必要なら羞恥心なんてペイって捨てれる子なんです。ちゃんと動いてくれたのがすごいというのは同意いたしますが。



 近衛だから当然とは言いたくない。この幼さできっちり出来るのはすごいこと。だけど、やっぱり幼いままでいられなかったことに対する憐憫的なものがないわけではない。とはいえ、憐憫を持つこと自体が失礼かもしれない。



 あぁ、やっぱりこれを考え出すとループする。放り投げよう。アイリが申し訳なさか、羞恥からか演技からか、どれかわからないけれどかわいそうなくらい小さくなってるからそろそろ止めよう。



「あの」

「あぁ、すみません。ごめんね?」

「…ん」


 よし、止まった。聞かなきゃいけないことは、



「というわけで依頼達成です。報酬のお話です」


 あ。そういえばそれがありましたね。



「全部お金で良いですよね?」

「すぐに用意できるのであれば、食糧をある程度欲しいのですが、」

「出来ればすぐに食べられるもので」


 すぐに食べられるといえばレトルト系。新鮮な食糧が一杯あるであろうフーライナでお願いすることではないかもしれないけれど。



「お任せください。人類の食糧庫としての意地を見せてやります。新鮮ですぐ食べられる…あ。ごめんなさい。新鮮ということは腐りやすいわけで。時間が止まる、もしくはゆっくりになる鞄などはお持ちですか?ないのであれば、時間操作系の鞄をお付けする必要が出てきてしまい、報酬目減りしてしまうのですが…」


 お金や食料を大量にもらうより、時空操作系の鞄をもらった方がいいような気がする。貴重っぽいし、獣人領域とか目指す俺らには食料や水のストックはあればあるほどいいのだから。…うん、四季やアイリも同じ考えっぽい。では、



「鞄ごとお願いしてもいいですか?」

「はい!お任せくださいませ。用意に時間がかかってしまうので一日ほど待っていただいてもよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 トヴォラスローグル湖を見ないといけないし、朝方に『回復』、『岩槍』、『風刃』、『岩弾』を作ったとはいえ。まだ足りないから作らないといけませんので。



「さて、お仕事の話は終わりにしましょうか。主役のお三方を混ぜないわけにもいきませんしね」

「さすがに朝からお酒を飲むわけにもいきませんが」

「参加させていただきます」


 苦笑いするリベールさんに促されて、朝から軽く酔っている夫妻の方へ。また潰してもよさそうですね。では、潰しますか。







______


「さて、無事潰せましたね」


 俺らが主導したことだけど、無事って言われてしまう団長夫妻ェ。



「一昨日はお酒で潰れて、昨日は魔力切れで気絶。今日も潰れる。これでいいのですかね」

「わたしにもわかりません。が、お三方のおかげで手柄は上がってるのですよね。蜂が潰れたことの報告とアベスの巣の壊滅で」


 だから潰れていても大丈夫!とばかりに遊んでいる。そんなわけはなさそう。絶対普段通り。他の騎士さんたちが潰れたのが確定した瞬間、お仕事モードに戻っているもの。



「団長たちが潰れたので、わたしが(・・・・)湖まで同行します」

「湖まで同行することで仕事が減るということは…」

「団長じゃないのでないです。むしろ増えます」


 ですよねー。お疲れ様です。団長の仕事は彼らでなくとも出来る分は騎士団総員…主にリベールさんが片付けてるんだろう。時折、わたしが(・・・・)と我が強くなるのはせめてもの手柄アピール。



 不憫。



 それはともかく、馬小屋からセンを出して、また三人乗りで湖へ。今更だけど、馬車を買ったのにほぼほぼ使ってない。ま、まぁ病気のときとかに横になれるから…。



「お疲れ様です!」

「あぁ、お疲れ。異変は?」

「ありません!」


 湖の様子は静かなもの。俺らが凍らせた氷が邪魔な以外、ちゃんと機能しているらしい。底の方は凍っちゃっているけれど、底が凍ってしまった分、流れがとどまらずに済んでいるのかスムーズに流れてくれている。



「ひとまず外周を見て、それから中ですかね?」

「お三方に任せます」


 ではそれで。湖にファヴェラ大河川から水が流入する流入口へ。ぱっと見大きいと思った通り、案外時間がかかったから、魔法でごり押して通る。



 書いた紙が消えるまで『冷却』を打ち込めば、代償魔法を使った翌日でもなんとかなった。



 昼食を挟んで、流出口の少し下方にある橋を渡り、出発点に到着。

 

 

 ぐるっと巡ってみても外側には何もなし。ちゃんと見てくださってるから当然だろうけど。瘴気はもちろん、黄色い瘴気もなし。



 次は氷の橋の上を通って穴へ。調査しながらではあるが、湖のほとりっていう風光明媚な場所で、こうやって家族三人でセンに揺られるというのはなかなか気持ちがいい。



 湖が一部凍ってるとか、生き物が死に絶えていていないというちょっと残念な点はあるけれど。



「そういえば、湖は復活するのですかね」

「心配なさらずともトヴォラスローグル湖固有の種類はいませんので、ファヴェラ大河川上流から流されてきた魚や、湖から出ている川を遡上してくる魚。それらが住み着けばもとに戻ると思います」


 なら結構すぐに復活するかもしれない。湖は流れがとどまりやすい場所。急流に住む生き物でもなければ安住出来るだろう。…あ。でも、先に水草とかが生えなおして隠れ場所を作らないと食べられるだけになってしまう。そう考えるとやっぱりすぐではないかもしれない。



 それはそれとして、橋のコンディションはどうなのだろう?



「セン、足場の感触はどう?前と変わらない?」

「ブルッ」


 変わらないらしい。水を凍らせて作った橋なのに、よく一日も持つよね。



「あの。お馬さんは穴に入らずに待っていただけると」

「ブルッ!?」

「引き上げられませんので…」


 あぁ…。どうやって上がったんだろうって思ってたけれど、人力で引き上げてくださってたのね。



「失敗したら危ういですけど、出る手段はありますから、このままいきます」

「ですか。では、わたしの馬はここで待ってもらうことにしますね」


 リベールさんは馬から飛び降り、馬の脚にくるくる紐を巻き付けて壁から湖の底へ垂らす。よろしくねといわんばかりにお馬さんをぽんぽんと叩くと、氷壁から飛び降りる。センも遅れず続いて、穴のそばへ。



「さすがにこの位置でも何もないね」

「ですね」


 底に溜まっていた瘴気はほぼ浄化しているんだから、この位置で見えちゃうわけがないといえばないのだけど。



 アレムさんが掘ってくれた螺旋スロープを下る。一歩、また一歩と下へ下がっていくけれど、やはり瘴気はなく、最下層…穴の底についてもまた同じ。『身体強化』をしながら穴の底をなめるように見ても瘴気、黄色い瘴気、虫籠の破片らしきものもない。



「謎は残りますが、アベスは完全討伐されたと結論付けてもよさそうですか?」


 ですね。何もないのだからそう言うしかない。



「よっし!では早速帰って報告いたしましょう」

「の前に、氷を融かさないと駄目ですよ」

「あ…」


 少し恥ずかしそうに頬をかくリベールさん。あの二人に比べれば落ち着いているリベールさんがそうなるって時点で、フーライナにおけるアベス被害の大きさがよくわかる。



 穴から出て、壁の下へ。リベールさんはあらかじめお馬さんの足に巻き付けておいた紐を辿って上へ。俺らは、



「「『『氷槍』』」」


 そこそこ頑丈で持続時間の長い槍を紙から射出。氷の壁は代償魔法で作ったもので、めっちゃ硬いけれど、俺らの魔法でできたもの。刺さる地点の氷だけを少し融かして食い込ませるくらいなら出来る。



「さ、セン。行って!」

「ブルッ!」


 喜色にあふれたセンの鳴き声が響くと、センの足が地面を蹴って助走して、跳躍。氷の槍に着地、踏み砕きジャンプして次の槍へ。危ないどころか軽快に登りきる。



「すごいですね、その馬」

「すごいでしょう、この子」


 自慢の子なんです。さて、湖畔にまで戻って、



「全部一気に融かしてしまっても大丈夫ですか?」

「川が一時干上がることによる悪影響とかありません?」

「はい、ありません。まだ復帰宣言は出ておりませんから川の水を用いている場所はないはずです。思いっきりやっちゃってください」


 それはよかった。四季と手をつないで、『消えろ』。



 口には出さず念じただけ。だけどそれだけで氷を形成していた水諸共霧散する。



 最初は融かそうかと思ったけれど、あの水にはアベスの毒が混じってる。であれば全部消しちゃうほうがいいだろう。



 湖の水は突如出現した空白めがけて一気に流れ込み、流出する水が止まる。中心付近で水は激しくうねり、底にある穴を満たしていく。

 

 

 時が経つにつれ、中央に出来ていた渦の界面はどんどんもとの湖面の高さに近づき、小さくなっていく。それとともに、流出する川の水量も回復していく。



 渦が収まるころには生物がいない以外は何も変わらない、もとの穏やかな湖に戻った。



「これにてアベス掃討作戦は完結です。お疲れさまでした」

「「お疲れさまでした」」

「…お疲れ」

「ブルッ」


 見張ってくださっていた門兵さん達もリベールさんに敬礼。そして、俺らは一団となってトヴォラスローグルへ戻る。帰ったらまた魔法を作ろう。

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