6話 冷静沈着(キャラ説明 金田薩春)
「やっぱり狂ってるよ…お前ら…」
焉武は一言だけ口にした。話を聞いていると、薩春が研に騙されている事が明らかだった。まず研が薩春に話した内容と、焉武に話した内容が完全に逆である事。研は焉武に対して、被験者はただのモルモットだと言っていた。なのに薩春に対しては、敬意を評していると言っている。この時点で既に矛盾しているし、死んだ人間の人数や名前を全て覚えていると言っていたが、焉武に話をしている時はかなり曖昧だったし、犠牲者の名前も一言も言っていなかった。簡単に言うとこの男は騙されている。そして利用されている。
「俺は…あの男を許せない…。お前とは違うんだ…」
たとえ人類の為というのが本当でも、罪なき人の命を簡単に奪う研を焉武は許せなかった。
「そうか…。残念だよ」
「…お前…本当は人を殺す事に抵抗があったんだよな…」
「あぁ」
「1つだけ聞かせてくれ。どうしてあんな屑に忠誠を尽くす…。あの男は人を殺しまくっているんだぞ」
紫色の蒸気のように出ているオーラを見せながら
「知っているさ。俺は人を殺したい訳じゃない。逆だ。人を殺したくないんだ。人が死なずに済む方法があるのなら、その方法を俺だってしたい。しかし今さっき話しただろ?研さんから教えてもらった…。甘い考えだけでは何も変わらない…変えられないんだと…」
グッと拳を握り締めて
「俺は出来る事ならお前を殺したくない。それが俺の真意だ」
「そうか…。はぁ…」
大きなため息を吐いた。そのあと深く息を吸い、深く息を吐いた。自分の手を見た。真っ赤な炎が出たり消えたりする。
「なぜなら…お前の様な人材が欲しいからだ。どうだ!俺達の仲間になるのは?」
「……」
「俺だって姉を殺された。家族を殺されたんだ。だが研さんの考えを信じた。お前も研さんを信じてみろ。今は怒るでいっぱいかもしれないが…いつかは……」
「俺は…お前の様に馬鹿になる事は出来ない…。あの男を…信じるなんて事は絶対出来ない」
全身を真っ赤な炎で包ませた。その勢いは凄まじく、危うく3mほど離れている薩春の所にまでその火の手は伸び触れそうになった。火傷を負わないよう、すぐに焉武から離れた。そして横にいた管理人を逃してあげた。
「お前らの自分勝手な考えにはもう飽き飽きだよ…。どんな理由があれ、俺は罪の無い人を殺すような奴らを許す事は出来ない…」
「そうか…残念だよ…。その能力は様々なことに使えそうだから、君なら人類の為に多大な貢献が出来ると思ったのに……」
「俺は殺人鬼になるつもりはない。テメェらみたいなenemyとかいう、ふざけた悪人になるぐらいなら…俺は自分が死ぬ方を選ぶ…」
目の前のドアを蹴った。最初はドアの真ん中に焉武の足の跡がくっきり出来ただけだったが、次第にその部分が明るく光り始めて、遂に大きく穴が開いた。大きさ的にはネズミぐらいしか通れなさそうだが、熱を集中して一点に集めると鉄を溶かすレベルにまで熱くなることが分かった。しかし……
「はぁ…はぁ……」
ぐらっと体が傾いた。
(くっ…ドアの強度が高い場合を考えて、熱を高める為に力を込めたが、体力の消費が比例して大きかったか…。取り敢えず…あの研とかいう奴を殺すまでは…)
ここに来るまでの壁を破壊する時に使った、腕を炎の塊にして勢いだけで壁を破壊する方法もあったが、自分の能力がどんなものなのか、どんな事が出来るのかを知る為、敢えて違う方法をとった。考えていると首に何かが貫通した。全身を炎に変えていたので、触れられる事は無かった。
「研さんを本気で殺す気なら…俺はお前を逃すわけにはいかない……」
「…そうか……」
ガシッと首を貫通している手を掴んだ。素手で直に薩春の右腕を握り締めた。
「能力バトルをしている時は、敵の能力には注意しておきな。無防備に敵に触れるなんてご法度だぞ」
掴まれた手を放そうとせず、冷静に喋りかけた。
「俺の能力は触れただけで、相手を殺す事が出来る!!」
「そうか…やってみろよ…」
焉武は鮮やかな赤色の目をほんの少しだけ、薩春の方へ向けた。
「殺食!!」
先日クリーチャーを殺す時に使った技を使った。凶暴な人食いの菌を繁殖させて、対象の全身を食い尽くす危険な菌。この菌に感染した者はこの世から消滅する。感染したら死ぬという面では何者にも例外は無い。
「俺の能力は最強だ!!」
「お前は言ったよな…敵の能力には注意しなって…。お前自身も警戒した方が良いんじゃないのか?かなり無防備だぞ…」
焉武は全く動こうとしない。それどころか直に掴んでいる薩春の右腕を手離そうともしない。逆に強く握り締める。
「!?」
「そんな事は分かってるさ…。お前が最初に俺を攻撃してきた時…。俺は避けた。あの時は奇跡だった。お前が襲ってきたのが分かって、取り敢えず体を下げて避ける事を優先したから避けられた。本当に運が良かった」
「何をのんびりと…」
「そして俺は考えたんだ。なぜお前が手で触れる事だけを優先して攻撃してきたのかを。殴ったりしようとした手じゃない。明らかに触れる事だけを想定した動きだった。なぜなのか…」
嫌な予感がして、必死に首を貫通している手を抜こうとした。しかし焉武が全く手を離そうとしない。
「俺を本当に攻撃したいのなら、あんな動きはしないはずだ。俺が素人だから舐めてあんな攻撃をしたのか?」
掴まれている部分が熱くなってきた。
「ぐっ!!」
「いや。お前は話を聞く限り、何事にも本気で取り組む奴だ。素人の俺と戦う時にも、あまり舐めたりしないタイプだろう」
淡々と話を進める焉武。
「手を放せ!!」
「まぁ聞けよ。お前の話を聞いてやったんだ。次は俺の話を聞け」
冷静沈着な態度だった。全然動揺もしていない。不意打ちしようと襲ったのに、全然狼狽えていない。それどころかまるでこっち側が罠にかかったかの様な感じだった。
「俺はその時こう考えた。お前は触れるだけで人を殺したり出来る能力を持っているのだと。勿論あくまで予想だ。なんの根拠もない仮説だ。触れるだけで終わるのなら、無駄に力を入れるよりも、力を抜いて触れるだけに専念する方が無駄な動きをしなくて済むし、その分スピードも出せるだろうしな。それで一応納得は出来る」
「どうして…どうして……俺の能力が効かないんだ…」
右腕を掴んでいる焉武の手が菌にまったく蝕まれていなかった。明らかに不自然だった。今までなら少なくとも、薩春の腕を掴んでいる右腕1本は消滅しているはずだ。
「そしてお前が話している間。お前が手から紫の煙的なのを出してくれていて、色々と考えられたんだ。意外と抜けてる部分があって助かったよ…」
「!?」
「おかげでだいぶん考える事ができたよ。お前が俺を説得する為か分からないが、結構長く話をしてくれている間に、その紫のやつを見て色々と考えることが出来たよ。もしかしたら菌やウイルス的な何かだってな。そして即効で効果を出す事が出来る物かもしれないという予想も立てられた。なぜなら触れた後の事は、特に何も意識していなかった様子だったから、触れたらそれで終わりの攻撃。勿論毒系のやつである事も1つの予想として立てていたが…まぁどっちでも同じと思ったけどな…」
「なんなんだ…お前は……」
明らかに普通ではありえない冷静さと思考回路だ。普通なら突然拐われて、身体を改造されて、体を男から女に性転換されて、更に両親を殺されて、ミュータントにもなったら、パニックになって細かい事など考えられるはずがない。こんな人間は見た事が無かった。過去に変身系自然型ではなくても、様々なミュータントがこの施設で誕生した。その時は皆パニックになっていた。自分だってそうだった。
「どうして…そんな冷静に対処出来るんだ…」
「今の俺はあの男に…」
焉武は手をそのままに顔だけ動かして、薩春の方を見た。
「復讐したいだけだ」
焉武の真っ直ぐで決意ある眼差しに圧倒されてしまった。
金田 薩春 男性
年齢 22歳・誕生日 3月8日・血液型 MB型
身長 172cm・体重 64.6kg
能力 生物の体を蝕む菌を繁殖させる能力(状態異常系)
能力説明
両腕から薩春以外の生物を骨の髄まで蝕む菌を繁殖させる事ができる。触れた敵は服をも喰われてしまい、跡形も無く姿を消し死ぬ。触れるだけで終わりなので、主人である研さえも近寄る事を躊躇する毎日。
ステータス評価(1〜10まで。偶に例外あり)
体力 4・精神力 6・破壊力 5・スピード 6
知能 5・能力の射程 4・反射神経 5
説明
千田 研の直属の部下。事故で両親を亡くし,それから姉と共に暮らしていたが,過去に研の実験に巻き込まれ,最後の家族である姉も殺されてしまう。最初の頃は恨んだが人類の為と言う(嘘)研の言う事を信じ、真摯に研究を続けている研の姿を見て、信頼するようになり、そのうち尊敬する様になった。能力は確かに強力ではあるが、それ故に隙を作ってしまう事があるのが傷。自分自身は人類の為と思い活動している事から、中身自体は良い人である為、自分の部下は大切にする様にしており、部下からの信頼も厚い。