5話 金田薩春(キャラ説明 華山焉武)
(父さん母さん…ごめん……)
焉武は母の死体と一緒に炎の中へ入った。
(あれ…?)
しかし何故か熱さは全く感じなかった。死んだから感じないのかと最初は思ったが、目を開けると自分は炎に囲まれていて、母の死体も骨になっていた。それなのに自分と自分が着ている服は燃えていない。
(あれ…俺ってこんなに胸…デカかったか…?)
手を見ると、指が細くなっているし、腰にはしっかりとくびれがある。それに足も細くなっているし、髪も腰ぐらいに伸びている。そこでようやく気付いた。
「ま…まさか俺…女に…?」
手をグッと握り締めた。すると手が真っ赤に燃え始めた。
「うわっ!?」
力を緩めると、手の炎が消えた。しかし燃えた手には火傷の跡が全く無い。
「何が…起きてる…」
『オッドアイの人間が能力を持ったら、変身系自然型能力者になるのではないかと』
研の言葉を思い出した。使い方は分からないが、とにかく全身に力を込めた。すると腕や足などから、炎が出てきた。熱さは全く感じない。
「くっ…まぁ予想は出来ていたが…使いこなせていないからなのか…炎を出すだけで…だいぶ体力を消費させるな…」
炎を止めた。ガクッと疲労感が焉武を襲う。しかしこんな事を今はしている暇はないと、己を心の中で鼓舞して、立ち上がり再び全身から炎を燃え上がらせた。炎は激しく燃えて、火葬する為に燃えていた元の炎よりも、その勢いは強かった。
「許さない…アイツを…絶対に!!」
焉武は火葬する場所から出て来て、止まっているベルトコンベアの上で止まった。そして自分の炎で周りを照らして、よく見渡した。すると壁にはカメラが付いていた。
(アイツは俺を見ているのか…いや…。アイツじゃないのかもしれない…もしかしたら、ただここを管理している奴なのかも…)
こうなったらこの力で無理矢理脱出してやる。と強く思った焉武は、手に力を集中させて、拳を握り壁に向かってパンチするように振った。すると、手から大きな炎が出てきて、壁に穴を開けた。
「ぐっ…!」
フラッときたが気合で踏ん張り、開けた穴に入って行った。
次から次へと壁をぶち壊し、そして遂に1室に辿り着いた。そこには2人の男が居た。
「やっと見つけたぞ…。ここが管理室か?運が良い…早めに見つかって良かった。いちいちこの建物を破壊しながら、探すのはめんどくさいから…本当に早めに見つかって…良かった…」(もしあのまま能力を使っていたら…体力が……保たない…)
この時には既に息も絶え絶えだった。元々体育会系じゃないので、体力はそんなに無いし、女性になっているから、尚更元の体よりも多少は体力が落ちているのだろう。今焉武は憎悪と殺意だけで、己の炎を燃やして立ち上がって動いている。
「てめぇら…本当に許さない…。許せない…。絶対に…俺がこの手で…テメェらを…ぶっ殺す!!!」
父と母を殺した恨みは時間が経つにつれどんどん膨れ上がっていた。それに比例して、手の炎の勢いも増す。その炎を2人に飛ばした。
「くっ!!」
しかしギリギリで2人に避けられた。
「ぐっ…」(今はこんな所で無駄に体力を使ったら駄目だ…。あの研とかいうクズを殺すのと、この建物から脱出する為に…残さないと…)
そう考えていると、男が1人焉武に触れようとしてきた。
「侵食!!!」
「!?」
間一髪避けられた。触れられただけでもマズイと直感で判断したからだ。
「お前…まさかとは思うが…。昨日の被験体の奴か?オッドアイで右目が赤色の…」
処理場の管理人が震えながら言った。それを聞いて、薩春が焉武に向かって言った。
「やっぱり…そうか…。俺がお前を死体処理場へ運んだミュータントだ。名前は金田薩春」
「お前の事なんて今はどうでも良い…」
「お前が初めてだよ。俺の攻撃を避けたのは。柔道か何かやってたのか?」
「…黙れ…。あの男は……研とかいうサイコパス野郎は何処にいる…。今お前と話している時間は無い…」
段々とぼーっとし始めた。このままだと復讐以前に、逃げる事すら出来ない。
「教えろ…アイツの居場所を…今何処にいる…どこなんだ!!!」
「お前!!研さんに対してアイツだと…?誰のおかげでミュータントに……」
管理人を薩春が黙らせた。
「まぁ今の時代ミュータントを嫌う人は多いし、研さんが君にしたことを考えれば、殺したいと思うのも無理は無い…。だがなその力は誰のおかげで手に入ったのか…。それを考えろ。その能力だったら使いこなせるようになれば、応用が効いてなんでもできる様になるんだぞ?時が来たら、お前は研さんに感謝する事になる」
「……」
話を聞くだけ時間の無駄だと思い、研を捜す為に取り敢えずこの部屋から出ようとした。薩春は話を続けた。
「もう過ぎた事は忘れろ。俺だって姉さんを研さんに殺されたんだ…」
「!?」
『姉さんを研さんに殺されたんだ…』
この一言に反応した。そして薩春の方を見た。
「じゃあ…どうして…。家族を殺されたんだろ?…お前を見ていると、あのクソ野郎を尊敬している様な…どうして…」
話に食い付いた所を見て、薩春は自分について更に話し続けた。
「最初は憎んださ。研さんの事を。お前みたいに『殺してやりたい!姉さんを殺すなんて…許せない!』と思っていたさ」
薩春の手から紫色のオーラが出てきた。
「だけど研さんは俺に教えてくれたんだ」
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研は実験に失敗し、そのまま暴走する事もなく死んだ姉の映像を薩春に見せた。薩春にとって姉は唯一の家族である。
「貴様!!よくも!!よくも!!!姉さんを!!殺してやる!!テメェが作ったこの能力で、テメェをぶっ殺してやる!!」
右手から紫色の煙を出して、研の顔面を掴もうとした。研はポケットに手を突っ込んだまま、全く動かなかった。だが薩春が研に触れる、その前に無防備だった腹を殴られた。
「ぐふっ!」
「怒りで周りが見えなくなってるよ?」
更に右頬を殴られた。薩春は壁に叩き付けられた。
「何が起こったんだ…。アイツの両手はずっと、ポケットに突っ込んだままなのに…」
「これだけは教えてあげるよ。何か得るためには、それ相応の犠牲が伴う。君は姉の命と引き換えに、その力を手に入れたんだ。私のおかげでね。その力があれば君を虐めていた奴らだって簡単に殺せるんだよ?」
当時の薩春は虐められていた。ある時は靴を隠され、ある時は姉が作ってくれた弁当を床に叩きつけられたりなど。虐めなんて物は、いつの時代になっても無くなることはない。いつの日かやり返してやりたいと思っていた。
「その身体の傷…虐められているんだろう?私が実験を始める前から、それ程の傷を負っているのは正直初めてだよ」
「うっ…」
薩春は腕の傷を隠した。
「私の仲間の中には傷を治すタイプの能力。援護系と呼ばれている能力を使うミュータントが居るんだ。そいつに頼めば、その傷を治す事が出来る」
研は笑顔でそう言った。そして話を続けた。
「どうだい?その姉の命と引き換えに手に入れた能力…いや。君のお姉さんが君に与えたその能力を使って、君を虐めていた奴らを殺すんだ」
薩春の腕を掴んで、腕の傷を薩春にわざわざ見えるようにした。そしてニヤリと笑って
「そしてこの世界を変えよう。今世界は変化している。ミュータントが現れ、世界はどんどん変わってきている。正直過去の事ばかり見ていたら、この時代の変化に対応なんて出来ない」
「なんなんだお前は…俺の姉さんを殺した事を……なんとも思っていないのか…?」
「これだけは言わせてもらう。さっきも言ったが、何かを得るには相応な物を犠牲を伴わなければならないんだよ。そりゃあ誰も犠牲にならない方法があるのなら良いんだが、時代の変化というのは早いものでね。甘い考えで乗り越えられるものでは無いんだよ」
研は一旦薩春から離れた。そして机の上に置いてあるパソコンの電源を入れて、その画面を薩春に見せた。
「こ…これは……」
「私の研究によって亡くなった人達の名前だよ。私も人の子だ。人を殺すことに対して、何も思わないと言えば嘘になる。だからせめて彼らの名前をこうして残しているんだよ。合わせて1582人。そして私は全員の名前を覚えている。犠牲になった者に対しての尊敬の気持ちは忘れた事はない」
「尊敬…?」
「あぁ」
研はパソコンを置いて、机の上に腰掛けた。
「よく勘違いされるが私は悪意で実験を行なっているのでは無い。将来の為を思って実験を行なっているんだ。彼らは人類のために犠牲となった英雄だと思っている」
「人類の為…?」
研は薩春に笑顔を見せた。
「そうだ。君のお姉さんの名前もしっかりと覚えている。金田 彩葉」
「…」
「私はサイコパスな殺人鬼ではない。人類の為活動をしている研究者だ」
「……」
「過去の事ばかり考えるな。未来の事だけを考えろ。まぁどうしても私を殺したいのなら、かかってくるが良い。しかし私を殺せるんだったらの話だがな」
研の考えを聞いて薩春の考えは変わり始めた。今の事ではなく未来を見ていて、しかも自分の為という訳ではなく、人類の為に行動をしている。確かに研は姉の彩葉を殺した。恨んではいる。しかしただ無駄殺しなのではなく、未来のための犠牲だと考えるとまた違ってきた。しかもさっきのパソコンのデータを見て、研の本気さも分かった。
「俺は…どうすれば…」
姉の事を考えると今すぐにでも、研を殺したかった。しかし人類という広い括りで考えると、今彼をここで殺す事は未来への希望を破壊する事なのかもしれないとも思い始めた。
「そうだな。私の仲間にならないか?」
「仲間…?」
「あぁ」
その時の研は机から降りて、壁にもたれ座っている薩春に手を差し伸べた。
「私だって1人で何か出来るわけでは無い。何人かの協力があって活動している。しかしそれでもまだ人手が足りない。何せ規模が大きいからな。君が人類の貢献をしたいのなら、多くの人の為行動したいのなら手を貸してくれ」
「だがお前は…」
まだ悩んでいる薩春の手を握り、薩春の目を見て言った。
「私の目標が果たせたら私を殺せ」
「!?」
「君に私を殺す権利を与えると言っているのだ。目標を果たし終わったら、君が私を殺せ。どんな方法でも良い」
「本当に…」
「あぁ。だが目標を果たし終えるまで待って欲しい」
「……。だけどあなたに協力するという事は…俺も殺人を…するという事に…」
「そういう事だな。しかし人類の為だ。君の力が欲しいのだ」
笑顔で薩春にもう一度研は言った。
「私の仲間になるのだ。金田 薩春。人類の為に」
「人類の為に…」
薩春は立ち上がり、研の目を真っ直ぐ見て言った。
「分かりました…。俺は…人類の為に協力させてもらいます」
「それで良い」
薩春はその時から研に協力する事にした。そして側で彼の必死さを見ていると、尊敬の気持ちも現れた。研は確かに人を殺している。マッドサイエンティストでもある。世の中では批判されている。しかし研の話を聞き、世の為に必死に活動していると知っている薩春は、ここまで世の為に真剣になっている研を見ると尊敬する気持ちも出てきた。
(この人は…本気で人類の為…人の為を思って行動しているんだ)
段々と恨みは無くなり、薩春は本気で研に忠誠を誓うようになっていった。人類の未来の為に…。
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「研さんは人類の為に活動している。今は分からないだろう。俺だって最初は分からなかった。正直信じてなかったよ。最初の頃は…だが近くで見ていると、研さんの思いが本気だと知ったよ」
「……」
「君の境遇は俺に似ている。だから話した」
薩春の話を黙って聞いた。それで出た焉武の感想は1つだけだった。
「やっぱり狂ってるよ…お前ら…」
IPGのキャラ説明
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華山 焉武 男性→女性
年齢 17歳・誕生日 8月1日・血液型 B型→MB型
身長 171cm→162cm・体重 62kg→52.4kg
能力 身体を炎に変える能力(変身系自然型)
能力説明
実体の無い炎へと身体を変身させる変身系自然型能力。手に入れたばかりで現段階では、炎を拳の一点に集めて放射したりする技ぐらいしか無い。
ステータス評価(1〜10まで。偶に例外あり)
体力 2・精神力 9・破壊力 7・スピード 4
知能 8・能力の射程 2・反射神経 7
説明
オッドアイである事以外は、ただの男子高校生であったがenemyの組織に捕らえられ、人体実験を行われミュータントとなった。そして性別が女性となった。能力は変身系自然型と言われるタイプで、炎化している間は物理的攻撃は一切効かない。しかし体力の消費が激しく、現段階では最大限の力を行使する事は出来ない。精神力はかなり高く、どんな状況にあっても冷静に考える事ができる。見た目は右目がとても鮮やかな赤色。男の時は典型的な日本人のような感じで、髪は黒色で左目も黒色の目だった。女性になると何故かハーフ的な見た目となり、赤色の髪の毛になりロングヘアーとなった。左の目はそのままである。手足が細くなり、身長も小さくなって身軽にはなったものの、身体の全てが変わってしまった為、まだ身体に慣れていない。なお血液型だが両親は両方ともA型であるのに対し、焉武はB型である。一応焉武はその事を不思議に思い親に聞くと、両親は非メンデル性遺伝という極稀に、通常では考えられない血液型遺伝子を持つ子が生まれるという現象である事を教えられ、両親の子であるという事を口頭で言われ、それ以降その話をする事は無かった。昔からヒーロー的な存在であるIPGに憧れている。趣味はゲームである。