3話 焉武の死(IPGの単語説明集No.7〜8)
『ぐぅぅぅぅ!!!』
父の場合は母とは違い血は身体中から出ていたが、爪が伸び始めたり、歯が伸びたり、身体の形が変わり始めた。
「父さん…?」
「父親の場合はクリムゾン化の暴走。まぁ簡単に言うと怪物化したんだ。自我を失い、ただの化け物になったんだよ。ああなってしまったら、もう助けようがない」
父親は肌を黒色に変色してしまい、目は真っ赤に。更に舌も長く伸びて、もう人としての面影を完全に失ってしまった。
『ギャァァァァ』
『あらら。また失敗か…まぁ良い。コイツらの息子さんの方は期待出来そうだ…。オッドアイ…もし彼がミュータントになり、変身系自然型の能力を得れば、私の考えが正しい事が証明される…』
モニターのムービーが切れた。
「私は昔から自分が気になった事は調べ尽くしたいという人間でね。今回のオッドアイのミュータント=変身系自然型が事実なのかというのも、私が気になったから調べているんだ。まぁその為には金がいるから、こういう人工血液を作っては、高値で売ってるんだがね」
「ふざけるな!!!!」
焉武は怒鳴った。
「ん?」
焉武は手が千切れても構わないと思った。手を無理矢理抜こうと引っ張る。
「一体それで何人の人を殺してきたんだ!!!身勝手な考え、行動で何十人の罪のない人を殺してきたんだ!!」
「んー1000…2000は超えてるかな?しかし、人が次の段階に進むには犠牲が必要なんだよ。犠牲なくして次の時代は開けない。人類の歴史を思い返してみろ。何か節目を迎え、革命などにより時代が変わる時、必ずと言って良い程戦争などで死人が大量に出る。それと同じさ。人の突然変異が起きて、ミュータントが現れてから十数年が経っている。時代は次の段階へ進もうとしている。恐らくミュータントの中から指導者。つまりリーダー的な者が現れ、世界の状況は一変すると思う。私はそんな未来を見越して今のうちに、ミュータントについて知りたいんだよ。次の時代に進んでも適応して、生きていく為にな」
まるで都市伝説的な事を語り始めた研。焉武には理解出来なかった。そんな何の根拠もない想像が本気で起こると信じ、その本当に起こるか分からない事の為に人を簡単に簡単に殺す。
「お前にとって人の命は何なんだ…」
「道具の一種。モルモットのようなものだよ」
そう言うと焉武の点滴の管に取り付けてある、液体を止めてる金具を外した。外した途端M-1567が体内に入っていく。
「あがぁぁ!!!グッッ!!!」
これまで感じたことの無い痛みが、焉武の体を襲った。焼けるような痛み、爪を剥がされる痛み、視界が段々と暗くなっていく。頭も破裂するのかという痛みだった。
「さぁどうなるのか…楽しみだな。私の期待に応えてくれるのか。またそのまま死ぬのか…。どちらにせよ君は、私の研究材料として役に立つ」
「ウググ!!」
目の色が段々と赤色に染まり出した。
「あーこの感じだとクリーチャー化しそうだな。期待はしてたんだが…。仕方が無い。もう少しM-1567を改良しなきゃな」
その時痙攣していた体が止まった。心臓と呼吸を確認したが止まっていて、目を見たが瞳孔は開いていた。
「クリムゾン化もせず死亡か。まぁ良い。他にも実験台は居る」
焉武の顔を見て
「君は素質がなかったみたいだ…。残念ながら。あと運もね」
そう言うと研はこの暗い実験室から出て行った。それとすれ違いで他の男が入ってきた。
「また失敗ですか?」
「研究に失敗と犠牲は付き物だ。その時諦めるか、続けるかで道が決まる。私は決して諦めない」
研は焉武の死体を指差した。
「後片付けを頼むよ。この部屋が臭くなる前に」
「はい」
「頼んだ。死体はすぐ臭くなるからな。いつもの死体置き場に捨てておいてくれ」
「分かりました」
男は焉武の死体を見た。
「心肺停止に…瞳孔は開いている。確実に死んだなコイツは」
焉武を担いで、研究室から出た。
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男は実験台となり、死んだ者達の死体が複数転がっている場所に着いた。IDカードを機械にかざすと、ドアが自動で開いて中に入り、そこに焉武を放り込んだ。
「よし。やっぱりここは臭いな。早くこの死体を燃やしたいな。次燃やすのは…明日か」
燃やす日が書かれている紙をポケットにしまった。死体は定期的に燃やされる。その日にちは研の仲間全員に配られていて、その日は危ないので近付かないようにしている。
「ん?」
死体処理場から出ようと振り返ったその時、死体の山からガサッと物音が聞こえた。
「なんだ?」
死体に近付いて、もしかしたら生きている奴がいるのかと思い、注意深くその音の原因を探した。
「グルルァァァ!!!」
「クリーチャーか…。殺し切れて無かったのか」
男がクリーチャーと呼ぶその怪物は、大きな口を開けて男を喰おうとした。
「殺食」
男は襲ってきたクリーチャーを躱して、顔面を殴った。するとクリーチャーが苦しみだし、殴った顔面からどんどん消えていき、完全に姿を消してしまった。
「全く処理係にこの件知らせないとな。俺じゃなかったら死んでたぞ」
ガサッとまた音がした。再び死体の山を見た。
「まだ居るのか?死に損ないが…」
手をボキボキ鳴らして、死体の山を片っ端から見て行った。
「……」
一つ一つ見ていく。しかしどれもただの屍だった。
「この男は研さんが死んだと判断していた。心肺も停止してたし、死んでるのは確実だろう」
そう言って、焉武を蹴って仰向けにさせた。
「オッドアイか…。可哀想に…オッドアイじゃなければ、殺されなかったのにな」
男のポケットが激しく震えた。スマホを取り出した。
「はい。分かりました。今向かいます。あと死体処理場でクリーチャーが1体生きていました。はい。大丈夫です。俺が殺しておきました。あぁ今回失敗したあのオッドアイの少年は、何も変わってませんよ。完全に死んでます」
一応スマホを左手で持ちながら、右手の平を焉武の左胸に当てた。その後口元にも手を近付けた。
「確認しましたが死んでます。ではそちらに行きますので。分かりました」
スマホを切って、機械にまたIDカードをかざしてドアを開き、死体処理場を出て行った。
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No.7
クリムゾン
人や動物以外の生物に変身した姿の事。怪物の様な見た目をしており、クリムゾン化した場合殆どが自我を失ってしまう。かなりの精神力を持っている人間はクリムゾン化しても、暴走しない場合がある。クリムゾン化した場合、その個人の能力や身体能力が通常時より爆発的に上がる。クリムゾン化する能力は変身系のみとされている。
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No.8
クリーチャー
クリムゾン化して暴走している時の状態を表す単語。基本的にクリムゾン化の暴走によって生まれた怪物は、クリーチャーと呼ばれている。