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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十五章
99/163

一、

 生徒会室の机を、碧と拓真以外のメンバーがぐるりと囲む。拓真の席に拓真はいないが、室内のスクリーンに拓真の肩から上が映像で移されている。一水(かずみ)の魔法で顔や髪も整い、服装もラフではあるが人に見せられるものだ。

「皆には迷惑を、いや、心配をかけて申し訳ない」

 スクリーンの中の拓真が頭を下げる。

 それをれが回復を祝うと、拓真の表情が緩んだ。

「で、本題というのは」

 さっそく本題に入る。

 寝込んでいたため、さっき受けた報告以外のことを拓真は知らない。だが、この場に碧がいないことから察しているようだ。

 朗報ではない、と。

 最初に答えたのは一水だった。

「あの学生を石像にしたのは碧ではないか、という噂が、とても広まっているそうなのです」

「な?!」

「意見箱にも、そんな内容のものが入ってきています。弦矢」

「はい。拓真さまが体調を崩された次の日から、碧さんが彼を石像にしたのではないか、という話が頻繁に耳にも意見箱にも入ってくるようになりました」

 風の噂、とはよく言ったものだ。風の属性にある弦矢やさらには、そういった噂がちらほらと聞こえてくるらしい。

「意見箱の中身も、碧さんを犯人扱いする内容が多く寄せられています」

 弦矢は暗い表情をし、ほのかがぐっと唇を噛みしめ俯いている。尊敬する碧を犯人と考える意見を最初に見つけたのは、回収係を引き受けているほのかだったのだ。

「なぜ、そのような話が」

 拓真がひとり言のように呟く。と、一水が答える。

「マンドラゴラです」

「マンドラゴラ?」

「はい。碧は、火の領に生息するマンドラゴラを採取しています。マンドラゴラは身体を麻痺させ動かせなくする毒性を持ち、使用や調合などは資格のある者にしか認められていません」

「碧さんは資格を持っているから、ということか。だが、薬草学でも使われていたと思うが」

「薬草学では必要な分しか配賦されません。人間一人を石化するほどの量には、薬草学で使われたすべてを集めても足りないのです」

「持っているとしたら、管理を任されている碧さんだということか」

「学生たちの間では、そういうことになっています。石化はマンドラゴラに限ったことではありませんが、講義で使用された時期と重なったことで、疑念が確信になってしまったようです」

「採ったときは私も一緒だったのに!」

 拓真と一水のやりとりに、がたんと大きく音を立てて椅子から立ち上がり、ほのかが割り込む。碧が疑われていることがよほど衝撃なのだろう。瞳が潤んでいる。

「ほのかさん、落ち着いて。碧さんがやったと決まったわけではないのですから」

 さらがなだめでほのかを席につかせる。


 学生を石化した犯人が碧である、イコール、碧が“影”である、という結論に至ってしまう。

 操られている、と考えられなくはないが、“影”を退ける力のある碧が操られるとは考えにくい。碧が“影”だとは考えたくもない。今までどの事件でも、碧の力添えがなければ、解決しなかったのだから。

 でも今は、そうも言ってられない状況だった。碧に白羽の矢が立ってしまった以上、悪い影響が学内へ及ぶ。すでに、碧が“影”だ、とか、学園から追い出せ、といった攻撃的で決めつけ型の意見が寄せられている。今後もどんどん増えるだろう。

 今日から碧は拓真の看病も終え、通常業務に戻る。拓真につきっきりだったため彼女にこの噂は伝わっていないはずだが、すぐに彼女自身耳にすることになるだろう。学生からの視線は鋭くなり、行動に移す者もでてくる可能性が高い。

「学生たちへの対策としては、前よりも徹底した護衛をつけることを考えています。すでに知れ渡ってしまった噂を止めることはできません。ひとりでいる時間をできる限り減らします。こちらの目的としては護衛ですが、碧を疑う学生から見れば、監視に見えるはずです。その場しのぎではありますが」

 拓真が寝込んでいる間、看病をしていた碧も会議には顔を出していない。学生の目に入ることも少なかった。その間に、噂への対応を話し合ってきたのだ。今日の集まりは、拓真に現状を伝える意図はもちろんだが、残りの守護神メンバーに対する確認、念押しの意味もある。

「噂は止められない。ですが、私たちで、碧の疑いを晴らしましょう」

 一水の声掛けに、皆、神妙に頷いた。


 報告を受けた拓真は、通信を切った。画面は真っ黒になる。心が痛む。

 ふと時計を見ると、もうすぐ午前十一時。ベッドの隣にあるサイドテーブルには、碧が用意してくれた昼食と夕食、薬が置かれている。昼食の時間には少し早いが、ゆっくり休め、という碧の言葉を思い出して、早お昼をとり寝ることにした。

 温めた皿を手にとる。碧が自分のために作ってくれた食事と薬。

 もし、碧が“影”だったら……と一瞬頭によぎった考えを、ぶんぶんと頭をふって追い出し、口に運ぶ。

 碧は犯人では、“影”ではない。そう信じているのに、心がざわつく。あんな報告を聞いた後だからか、味がしない。心が重くなってしまった。

 味のしない食べ物をただ咀嚼して、体内に取り込む。薬を飲むのも忘れない。

 そのままごろんと横になると、拓真は眠りについた。何も考えたくない、という気持ちが強かったからか、心はざわついているのに、なぜかすぐに眠りにつくことができた。

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