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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十四章
94/163

二、

 暖かい日差し、というよりも肌を突き刺すような熱い光線をあび、体中がじりじりとする季節となった。

 学内は地面がアスファルトの部分は限られているため、テレビでよく移される視界を揺るがすむらむらとした熱気が目に見えることは少ないが、暑いものは暑い。


 そんな夏の日、ほのかは碧の療養室で快適に過ごしていた。

「はい、アイスレモンティー。一休みしよっか」

「やったーーーー!! いただきまっす!」

 出されたガラスのグラスをむんずとつかみ、ほのかはごくごくと飲み干した。

「おかわりあるから、ゆっくり飲んでね? ビール飲んでる男の人みたいだよ?」

「あ……えへへ。はぁい」

 女子力の低さを遠回しに指摘されたみたいで、ほのかは少し恥ずかしくなった。

 療養室の中は、気持ち暑いと感じるくらいの温度が保たれている。もっと涼しくしないのか聞くと、このくらいのほうが身体に負担を与えないらしい。

 熱に敏感なほのかは、初めこそ暑いと感じていたが、最近は療養室の中が快適に感じられるようになっている。その快適な空間で飲む碧特性の飲物は、また格別においしいのだ。


 療養室に来ていると言えども、今日は受診目的ではない。碧の作るお茶や薬に興味がわいて、調合を手伝わせてもらっているのだ。手伝う、といっても、薬草を切ったり摘んだりすりおろしたり、保存したり包装したりと、調合はやらせてもらえないのだが、作業しながら効能や特徴を教えてもらうのは楽しい。ほのかの息抜きとしての大切な時間になっている。そのうえ、作業の手伝いのお礼として、お茶とお菓子をごちそうしてもらえるのだ。

 二杯目のレモンティーを飲みながら、ほのかは碧にたずねた。

「あの棚の端にある大きめの瓶の黒い粉って、マンドラゴラですか?」

「そう。ほのかちゃんと採ったやつだよ。よくわかったね」

「マンドラゴラは採ったときは人参を黒っぽくしたみたいな色だけど、乾燥させて粉末にすると黒くなるって。粉みたいで黒いの、あの瓶だけだったから」

 碧が嬉しそうに笑う。

「興味をもってくれて嬉しい。それならあの課題、終わった?」

 あの課題、というのは、マンドラゴラの花の効果のことだ。

「それは、まだです……」

 課題を出された後は、入学式に学園祭に歓迎会、領分けの儀式など、たくさんの行事が押し寄せてなかなか時間がとれなかった。ほのかも学生として講義はあるし、生徒会の執務と守護神のことで目がまわるくらいに忙しい。やっと時間をとれたと思って図書館に足を運んでも、薬草や魔草に関する本がいつもごっそりなくなっていて、勉強できないのだ。

「マンドラゴラの根があるなら、花もどこかに保存されているんですか?」

「もちろん。どれかは秘密。課題ができればわかるよ」

「むー、意地悪ぅ」

 憎まれ口を叩いてみても、碧はにこにことほのかを見つめるだけで答えを教えてくれそうにない。

 薬の棚には中身が一目でわかるよう、透明の瓶に保存されている。材料名などのラベルは貼られていない。たくさんありすぎて、ほのかにはどれがなんだかさっぱりわからない。ただ、効能ごとに分別されているというのは前に聞いたことがあった。

「そういえば、マンドラゴラの瓶、他のに比べて大きくないですか?」

 棚に並ぶ瓶の中で、比較的大きい瓶に保存されている。なぜだろう。

「うん、これから使うことが多くなると思うから、用意も多めにしてあるの。ほのかちゃんのおかげでたくさん採れたのもあるけどね」

「へぇ~」

 どんなことに使うのかは気になったが、受診者の情報や処方した薬などは守秘義務があるため他人に教えられない。聞いてはいけないと判断する。そこで話題を変えてみる。

「ねえ碧さん、土の領のこと、どう思いますか?」

 前行われた会議で、土の領の警備時間だけ短縮されることになった。もともとの強化体制は続行されているため、今以上の強化はしない。時間を長くするのではなく短くしたのは、“夜”がキーワードだったためだ。

 夏は日が長い。ならば夜といえる時間帯にたとえ警備隊員でも歩かせておくのは危険だと考えたためだ。

「土の領にいる妖精さんたちは種類が多いからなぁ。でもやっぱり、夜に休むのは人間と変わりない子が多いし、今のところは変な様子はないと思う」

 妖精たちは自然と同化している。人間が気付くほどの視線となると、それは妖精たちのものではなく他のなにかであり、自然に混ざらず個体として存在するモノの視線だ。

「注意しておくね」

 とりあえずはいつも事件の前兆にある妖精たちの異変や自然現象の乱れもない。安心していいのかな、と思っていると、碧に声をかけられた。

「よし、休憩終わり! 次は、ほのかちゃんオリジナルのブレンドティーを作ってみない?」

 はきはきとした口調に、考え事が吹きとばされる。ほのかは「はい!」と即答していた。

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