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夕日は瞳の奥に  作者: ぬりえ
第十四章
93/163

一、

「うわあ、意見箱、いっぱいですね!」

「ほんと、びっくりしちゃうくらい」

 学園祭後に設置した意見箱の中身をのぞくと、どっさりと山のようだった。

 異変を感じたり、気になることがあったりしたら気軽に伝えてもらえるように用意した意見箱。記名は任意となっている。

 箱の中身を持つ弦矢は純粋に感心しているが、ほのかは呆れた声だった。

「これが参考になる意見だったらいいんだけど」

 ほのかの一言に、さすがの弦矢も苦笑いする。

 生徒会室に箱を持っていくと、守護神メンバーは顔を揃えていた。

「はい、お持ちしました」

 机に置いた箱を、ほのかがばさあと無造作にぶちまける。

「おいおいほのか、もう少し丁寧に扱えよ」

 言葉ではそう言いつつも、紅葉(くれは)の声に咎める色はない。

「いいじゃない! どうせファンレターなんだから」

 ほのかの返しに反論は出ない。弦矢や碧、拓真はもくもくと中身の確認をし、仕分けをする。意見用紙が分けられていく。


 意見箱を設置して週一回、守護神の会議の日に意見の確認をしている。最初は数も少なく、内容も、寮の閉まる時刻を遅くしてほしい、とか、学園に対する個人的な要望ばかりだった。

 とりあえず意見箱を設置した手前、そのような要望は学園のほうに報告はしている。これらの意見をどう反映させるかは、学長の管轄だ。異変を感じ取った、などの報告がないだけ、平和でいいと思っていた。

 だが、ここ最近、中身が増えだした。今日に至ってはほぼ満杯。そしてそのほとんどが、守護神への応援や個人あてのメッセージ、いわばファンレターなのだ。

 さて、今日の中身は学食を安くしろ、などの学園に対するものが数通、残りはすべてファンレターに分けられた。ほのかが「やっぱり」とでも言いたそうに呆れた顔をしている。

「まあ、異変の報告がないだけいいってことですよね」

 フジがファンレターをさらに個人ずつに仕分けしながら言う。

「たしかにそうだが」

「ありがた迷惑、ですよ」

 言葉を濁した拓真を引き継ぎ、ほのかがばっさりと切り捨てる。

「お前なあ……」

 紅葉はほのかの突き放しぶりに呆れている。

「さらさんへのメッセージも多いようですね」

「そういう一水(かずみ)さんこそ」

 ファンレターはほぼ長四人に集中している。

「うまく関係を隠しているようだな。これだけさらさんにメッセージが届いているんだ。取られないようにがんばれよ」

「余計なお世話です」

 おおっぴらに樹に向かって言ってくる一水。

 樹は噛みついてやりたくなったが、恥じらうようにさらに横目で見られてしまって、そんな言葉が出てこない。

 周囲からはにやぁとした視線と、わざとらしく聞こえていないふりを貫く雰囲気を感じ、どうにか別の話題にしようと部屋を見回すと、仕分けした意見用紙の二つの山の他に一枚、ぺらりと外れるものが目に入った。

「あれ、その一枚はなんだ、弦矢」

「これは少し気になったので、分けておきました」

 全員の意識がその一通に集中する。

「内容は」

 拓真が問う。

「匿名の方から、土の領を夜に歩いていて、どこからか視線を感じた、とあります」

 皆の表情が硬くなる。特に拓真はひときわ難しい顔をしている。

「匿名ですか。詳しく話を聞けないのが残念ですね」

 整った顔立ちを歪めて一水が言う。

「視線か……。この時期だと夜といえば時間はそこそこ遅くなる。具体的な時間がわからないのも残念だ。昼間なら多くの学生がいるが、夜遅くだと減るからな」

 何者かがいるのではないか、と紅葉が暗に言っている。

「その書き方だと、妖精さんではなさそうですね」

 不安そうにさらも口にする。

 皆の視線は、腕を組み目をつむったまま眉間に皺を寄せる拓真に集まる。

 拓真は、ゆっくりと瞼を上げる。

「この報告が“影”に関するものかはまだわからない。だが、何かあった後では遅い。このような報告を受けた以上、土の長として何もしないわけにはいかない。皆、協力してくれるか」

 揺るがない精神が込められた確固たる言葉と頑なな瞳。土の領を護るという意思が伝わってくる。

 次のターゲットは土の領だと、“影”に宣言されている。警戒するに越したことはない。

「対策を練りましょう」

 一水の一声で、対策を考える態勢に入る。

「ありがとう」

 拓真の口元が一瞬緩んだが、すぐに引き締まり、会議が始まった。

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