三、
俺さ、小四のとき、新緑のすげーきれいなところに行ったんだ。ひとりでぶらぶらしてたら、なんか木枯らしってーの? 風がくるくるまわってさ、こっち来いって言われたみたいで、ついていった。
そしたらその先がすんげえきれいな野原が広がってて。妖精が飛びまわってて。きらきら光る世界があったんだ。ほんと、昨日までの四季の森そのものだったよ。まさにあれだ。夢かと思ったけど、そうじゃなかった。
とにかくたくさん遊んで、どうやってかは覚えてないけど、森の外に帰った。そんとき見た夕日は、俺の中でも一番美しい風景だ。今でも鮮明に思い出せる。
夢じゃないと思ったのは、あの妖精たちが飛んでるときに舞い散る光みたいな粉が、あの森の中から帰った後も俺の靴に残ってたからだ。
すんげーいい思い出だって思うだろ? 俺もそう思ってた。
……でも、そうじゃなかったんだ。他の人には。
俺は普通に家に帰ったよ。そのときのこと、家族に話したかったし、とにかく胸がいっぱいでさ。ただいま! って家に帰ったら、両親が目を見開いて固まったかと思ったら、母親は俺を抱きしめながら泣き崩れるし、父親も涙いっぱいの目でほんとに樹なのかって聞いてくるし、なにがなんだかわからなかった。
俺は興奮してたからさ、その日にあったことを一生懸命話したんだよ。風に誘われて妖精たちと遊んで、きれいな夕日を見て帰ってきたんだって。
話してるうちに気づいたら警察が来て、親と話し始めて。なにがあったのかと思った。
たしかにあったんだ。俺に。
俺は、普通に遊んでふつうに帰ってきたんだ。そう思ってた。でもそうじゃなかった。
俺が帰ったのは、俺が森に入った日のちょうど一年後だったんだ。背格好も同じまま、両親にしては一年経って帰ってきたんだ。あの数時間で一年過ぎてたんだ。
それを知って、やっとわかった。両親の反応と警察が来たわけがさ。俺以外の人にとって、俺は一年行方不明だったんだ。まぁ、完璧に理解できたのはずいぶんあとだったけど。
とりあえず帰ったあとも学校には通った。でも、前とは別の学校に転校だった。
ほんとなら一年経ってるから学年もひとつ上がるわけだけど、成長まったくしてなかったし俺は一年経ってる感覚なんてないからさ。親と警察の、なんてーか心配りってーのかな? 学年は上がらずに、まあ、俺にとっては年下と過ごすことになったわけ。
別の学校に行ったし、そもそも知らないうちに一年過ぎてるんだ。俺の中でも整理がつかなくて同級生と打ち解けることなんてできなかった。
いつのまにか口数も減って、親と話すこともなくなっていった。だって、親は俺をどう扱っていいかわかならくて戸惑ってたんだろうけど、腫物に触るみたいに扱ってくるんだ。こっち見る目がすげえ不自然なのは、まだ子どもだった俺にでもわかった。
まわりのやつらにとっちゃ、俺が変わりもんだった。一年行方不明だったことは噂で流れちゃってて知られてたからな。なんともなく戻ってきた俺は変だったんだろうな。
でも、俺にとっては変わったのは周りのやつらだった。
それからだんだん親とはうまくいかなくなって。っていうか、一方的き拒んだんだのは俺だけど。親もそれ以上は介入してこないし。
んで、俺はあの日から、水と火の魔法を使えるようになっちゃったんだよ。もともと素質があったのか、あの森に行ったからなのかは知らないけど。
両親も有能力者だったからおかしくはない。ただ、俺の親は力が弱くて魔法専門の学校とかは行ってない。非能力者として認識されてたんじゃないかな。
複能力者ってだけで一目置かれて、でも俺は他人との関わりを拒絶して、周りからすりゃあ偉そうで生意気なすかしたやつ、って見られた。
群がってきてたやつらもいたけど、そのうちいなくなった。俺につきまとうやつらは皆、俺じゃなくて、俺の能力に興味もってきてた。だから力の訓練に打ち込んで過ごした。独りで。ここにくるまで。
今こんなふうにすごしているのが不思議に思う。やっぱ一水さんのおかげなのかもな。
って、話がそれちまった。それは置いといて。
俺にとってあの日以来一番こたえたのは、両親が俺の話を信じてくれなかったことだ。
懸命に何度も話したし、話そうとした。でも、その話はもうお終いって、聞いてもらえなかった。
辛かった、正直。信じてくれるって思ってた人に信じてもらえなかった。あの歳で、あ、これが絶望か、って実感したよ。独りでいることよりも、自分自身をみてもらえないことよりも、なによりも辛かった。
学生とか学園祭に来た外の人たちの反応見れば、妖精なんていないもんだって思うのが当たり前だったんだ。それに俺は気づかなかったんだ。
まあとにかく、俺が妖精とかと遊んでる間に一年経って、それが原因で諸々うまくいかなくなって苦しんだって話さ。
でも、“あの日”は今も大切な思い出。
親にとってそうじゃなくても。俺にとっては。また行きたいって、思ってる。見たいって思ってる。“あの日”のあの夕日が、今までの俺を支えてくれたのかも。
今は、それを信じてくれたある人と、他にも能力じゃなくて俺自身を見てくれる人がいるから、やっていけてる。
これは、一水さん以外に話したことない。
以上!




